新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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分岐チャプター1 ヤタガラス 異界 ひとりかくれんぼ 
分岐チャプター1


 

もーいーかーい

 

まーだだよー

 

誰もいない屋敷の中に響く不気味な子供の声。その声に応じるものは無く、静寂の中にその声だけが響き続ける

 

もーいーかーい……?

 

まーだだよー……

 

ずる、ずる、べちゃ……

 

屋敷の中に響く重い何かを引きずる水気の混じった音

 

「やだ、やだ……こっちにこないで……」

 

押入れの中から恐怖に怯えた少女の声が響く。だがその願いは届くことはなく……

 

「みいつけたああああああ!!」

 

押入れの外から突き立てられた巨大な包丁……それを手にしているのは右腕が異様に肥大化し、血走った4つの眼を持つ人形だった……

 

「つぎはーお前が鬼いいいい?……あーいない……まだ僕が鬼いいいい……」

 

何度も振るわれた包丁に隠れていた少女は既に絶命しており、少女が二度と言葉を発する事は無かった。押入れからにじみ出た血液の海に自ら身を沈めた人形はその姿を更に変異させ立ち上がる

 

「もーいーかーい……まーだだよー」

 

巨大な包丁を引きずる異様な姿をした人形は進み続ける……

 

誰もいない屋敷はその周囲を広げ続ける……

 

新たな犠牲者を捜し求めて……

 

 

 

分岐チャプター1 ヤタガラス 異界 ひとりかくれんぼ その1

 

「すいません、久遠教授」

 

黒龍塾を後にし、魅啝から伝えられた危険だとされる地区へと向かう車中で久遠教授に謝罪の言葉を口にした。久遠教授の案であるウロボロスに協力に賛成したのはイザベラさんだけで、雄一郎や桃に美雪先輩は俺の案である魅啝に協力する事に賛成してくれたのだ

 

「いや、構わないよ。気にする事じゃない、捨て駒にされる危険性を考慮すればこの選択は間違いじゃない」

 

ウロボロスの動きを見たが、軍隊のように統率されていた。そんな集団がわざわざ助けを求める……何か裏の目的があるのでは?と疑うのは当然の結果だった。そして桃や雄一郎が賛成してくれたのは、確かに危険はあるだろうが俺にとっては従兄妹になる。身内をむざむざ死なせるわけにはいかないだろうという事ともう1つ。ヤタガラスからのウロボロスの評価を知りたかったというのが大きな理由になる

 

「今のこの状況ですからね。片一方だけからの情報で嫌悪感や不信感を頂くのは確かに危険ですから」

 

「まぁそうなりますわね……冷静に考えれば当然の事ですが」

 

達哉さん達は、今回は道が異なる事になったが、またいずれ協力してくれる事を祈っていると笑って、俺達を見送ってくれただけではなく、食料や装備も分けてくれた。だがそれだけでは信用するのは危険だと言う事になり、予定を変更せず俺達は黒龍塾を後にしたのだ。魅啝は確かに普通の少女ではない。危険だと言うのも承知しているが、それでも俺の意見を支持してくれた桃達には感謝の言葉しかない

 

「ありがとうございます」

 

黒龍塾を出る前にも感謝の言葉を口にしたが、俺はもう1度感謝の言葉を口にせずにはいられないのだった……

 

「……嘘だろ?」

 

黒龍塾を出て車で1時間ほどで目的地としていた屋敷を遠目で確認する事が出来たのだが、その余りに異様な姿に間抜けな言葉が口から飛び出した。元々かなりの広さの屋敷というのは容易に想像が出来ていた、だが目の前に広がる光景は今まで見てきた異常な光景の物の中でも更に異常だと思った

 

「あれ、どうなってるの?」

 

「屋敷が建物を食べている……?」

 

混乱している桃と冷静にその光景を見ていた美雪先輩の信じられないという言葉……だが目の前で起きている光景はその通りとしか言いようが無かった。屋敷が徐々に巨大化し、ビルや一軒家を呑み込んでいるのだ

 

「まさかあの屋敷全体が悪魔とか言わないよな?」

 

雄一郎がそうであってくれと言う感じでそう呟くが、屋敷全体が悪魔である可能性は高く。そして魅啝が危険な状況と言うのも嫌と言うほど理解してしまった。

 

「進むと決めたのは私達全員も同じだ。だから後悔することはない、それに私はあの屋敷が悪魔であるという可能性は低いと判断する」

 

「え?ど、どうしてですか!?」

 

久遠教授の言葉になんでですか!?と尋ねるとイザベラさんが楓は気絶していたので知らないですねと笑いながら

 

「あの悪魔と融合した男がいたフロアはあの男が消えると急激に小さくなったのです。どうも悪魔がいることで周囲を変化させるているのでしょう……悪魔がいることで周囲の地形を作り変える。一応異界現象と呼ぶことにするのですが……どうもあの屋敷にも強力な悪魔がいることは必須。今後移動する事も考慮すればあの屋敷の悪魔を倒すのは間違いではないですわ」

 

だから自分で決めたことを後悔してはいけないというイザベラさん。どうも俺を励ましてくれていたようだ

 

「時間を掛けると魅啝やヤタガラスと合流するのが難しくなる。出たとこ勝負になるが突撃するぞ、全員車に乗り込め」

 

久遠教授の言うとおりだ。時間を掛ければ掛けるほどあの屋敷の危険度は爆発的に増加する、早急な攻略が必要不可欠だ。俺達は久遠教授の言葉に頷き、車に乗り込み魅啝とヤタガラスがいるであろう屋敷に向かうのだった……

 

 

 

 

カチカチ……手にした懐中時計の蓋を閉じて服の中に戻す。私がこの異界に足を踏み入れて6時間……残っている魔石やチャクラドロップと言った道具の数を確認した所で小さく呟く

 

「……油断ですね」

 

私とした事が完全に油断していた。お義兄様がこちらに来るかもしれない、その事ばかりを考えていてなんとしても止めないと思い。その事に関するメールばかりを送っていたので、肝心の装備や準備が不足してしまった……だがお義兄様に向かうかもしれない脅威を止めることが出来たと考えれば、その程度の問題簡単に巻き返すことが出来る……とりあえず今考えるべきなのはどこかで身体を休める事が出来る場所を見つける事か、別の階層に移動する階段を見つける事だ。だがどこまでも続く一本道、先ほどハンカチを置いて歩いてみたが、同じ場所に戻ってきたので、どうも延々と空間がループしているようだ。幻術なのか、それとも悪魔の技なのかは判らないが厄介な事だ。

 

「御剣ともはぐれましたし……ここはどうなっているのですか……」

 

通路はループしているが、置物は変わっている。それがこの回廊を抜け出るヒントだろうか?と考えながら状況を整理する。屋敷に突入して6時間、御剣とは逸れ、現在はMAGの温存の為に悪魔を召喚していない、恐らく悪魔の罠である無限回廊の脱出のヒントを見つけることが最優先課題と言ったところですか……

 

「悪魔が少ないのは不幸中の幸いと言う所ですね」

 

普段は無口だが、状況が状況なので意図せず言葉が口から紡がれる。屋敷の中の悪魔は少ないので無駄にゼンキ・コウキの召喚を続けていてはMAG尽きてしまう。だから今は悪魔を召喚せず、お札と刀。それとニューナンブを手に薄暗い屋敷の中を進み続ける。この屋敷を見つけたのが昨日で周囲の悪魔のレベルも考え、突入したのは私と御剣だけで残りは周辺で待機するように命じたが……恐らく既に撤退しているだろう。4時間を過ぎて戻らなければ戻るように指示を出していたから……とは言え、それは間違いではなかった

 

(この悪魔は危険すぎる)

 

道具については私と御剣にも油断があった。だが私は御剣は戦いにおいて慢心も油断もしない、そんな私と御剣が分断されたのはこの悪魔のテリトリーであるこの屋敷の特性とあの悪魔の伝承にあると私は考えている

 

「もーいーかーい?」

 

「……来ましたか」

 

聞こえてきた声に小さく舌打ちをする。その声の聞こえてきた距離と大きさから計算し、あえて声が聞こえてきた方向に走る

 

(ひとりかくれんぼ……)

 

くだらない都市伝説、ぬいぐるみに霊を憑依させると言う良くある都市伝説なのだが、人に知られているということはそれだけ知名度があり、人の畏れや恐怖を集める。それは悪魔と呼ぶには弱い存在であるひとりかくれんぼの力を驚異的に強化している……そしてその強化されたひとりかくれんぼと比例し屋敷もその構造を常に変えている。相手のテリトリーに入っている事は知っていたが、まさかここまで厄介な相手だったとは……倒しても蘇り、暫くすればまた暗がりから襲ってくる。その前に声を掛けてくるので反応する事が出来ているが、厄介な上に面倒くさい相手過ぎる……特定の条件下で強い能力を発揮するタイプの悪魔は多いが、ひとりかくれんぼはどうもその条件に当てはまるタイプの悪魔のようだ……

 

(なんとか打開策を見つけ出さなければ……)

 

残念な事に名前は知っているが、詳しい解決方法を知らない。だから私だけでは倒す事が出来ない、それに物理的に倒した所でまた復活する相手にMAGを消費する訳には行かない。なんとしても本体を見つけなければ……廊下の曲がり角や、柱時計の陰に隠れながら通路を進んでいるとMAGが動くのが判る。その動きで私はもしかして?と思っていた事の確証を得る事が出来た

 

「やはり」

 

MAGが流れ込んだ行き止まりには、今まで存在していなかった突如現れたのだ。これで延々と同じ場所を歩き続ける回廊を抜け出る事が出来ましたか……

 

「……どういう条件で変化するのかがわかれば……」

 

落とし穴に突然現れる階段、そして御剣と分断された回転する壁……これらが現れる条件を知ることが出来ればあの悪魔の本体を見つけることが出来るかもしれない……私はそんな事を考えながら背後に迫ってきた声にやはり複数体が同時に存在しているのだと確信し、新しく現れた階段を駆け下り、次の階層へと足を進めるのだった……

 

 

 

 

周囲を警戒しながら屋敷に近づいたのだが、予想に反して屋敷の周囲に人間も悪魔も姿も無かった。既に撤退した後なのだろうか?と俺が考えていると久遠教授と楓は足元や、周辺の観察をしてから

 

「楓君。どう見る?」

 

「多分ですけど……時間で撤退するように指示を出していたんじゃないでしょうか?」

 

車両やバイクの走行の跡が多いですと呟いた楓の言葉で足元を見ると、確かに走り去った車の痕跡などが見えた

 

「それでどうするつもりですか?ヤタガラスの人間に情報を聞くと言うのは難しそうですが……」

 

「そうですわね、少しは残っていると思っていたのですが……薄情と言うべきか、統率されていると言うべきかは悩む所ですわね」

 

恐らく俺達がここに来る前には何人か待機していたのだろう。しかし撤退しろと言われた時間だから全員撤退したと言う所か

 

「楓どうする?魅啝がいるか判らないぞ?」

 

もしかすると魅啝も一緒に撤退しているかもしれないぞ?と楓に言うが、楓はいや、いる。と強い口調で断言し屋敷を見つめて

 

「魅啝は屋敷の中にいる。俺には判るんだ……」

 

上手く説明は出来ないけど、絶対屋敷の中にいると断言する楓。もしかすると肉親同士だけが判る何かを感じ取っているのだろうか

 

「楓のお父さんも良くそんな事を言ってたよね?」

 

出雲にいた時の楓を知る桃子がそう呟く、と言うことはもしかするとやはり楓には何か特別な力があるのかもしれない

 

「判った。なら突入する方向で行こう……とは言え、全員で突入する訳にはいかない」

 

全員で突入して迷ってしまえば魅啝達の二の舞だからなと言った久遠教授は俺達を見て

 

「突入するのは楓君とイザベラの2人だ。私達はここで楓君とイザベラが戻るのを待つ」

 

「ま、待ってください!久遠教授。ふ、2人だけなんて危険すぎると思います!」

 

桃子が手を上げて危険だと詰め寄るが久遠教授は大丈夫だと断言する

 

「楓君は魅啝を見つけたいから決まりなのは当然だ。そしてイザベラを選んだ理由だが、悪魔の契約可能枠が2つある。屋敷の中の悪魔と契約して道を知る事が出来るからだ」

 

俺や桃子達は悪魔の契約数が増えていない、だがイザベラさんはカハクのみと契約しており、それでもまだ悪魔の契約の枠が2つある。契約可能数3、それは俺達の中でもっとも契約数が多いという事だ。屋敷の中の悪魔と契約出来、更に戦力を強化する為に更に契約も出来る。それは俺達には無い利点だ

 

「ですが、突入が2人と言うのはいささか危険だと思います。もう1人、私か、桃子さんを同伴させるべきではないでしょうか?」

 

「人数を増やして逸れなどのリスクを高める訳には行かない。2人で行動するのが一番安全だと判断した」

 

だから数を増やす事はないと断言した久遠教授。多分この意見が変わる事は無いだろう

 

「楓君達は屋敷の中でヤタガラスの悪魔使いと合流出来ればその安全度は上昇する。私達のほうが危険度は高いのだぞ?まずは2人を見送ってから場所を移動し安全な拠点を見つける。そしてそこで楓君達が戻ってくるのを待つ。これは決定事項だ」

 

楓君とイザベラも良いな?と念を押す。楓とイザベラさんに不満は無いようで判りましたと頷き、車の荷台から荷物を取り出して身に着けていく。数分で準備を整えた2人が屋敷の入り口に向かう

 

「通信用のトランシーバーだ。スマホの電波が届かない時に使うんだ、最悪の場合連絡しろ、その電波を頼りに悪魔を応援に向かわせる。気をつけてな」

 

「楓、イザベラさん。無理はしないでね?危ないと思ったら直ぐに引き返してきてね?」

 

「楓君。イザベラさん……無事に戻ってきてくださいね」

 

「楓、イザベラさん気をつけてな」

 

「ありがとう、行って来る」

 

「では行って参りますわ、行きましょう。楓」

 

屋敷の扉を開けて2人が中に入っていく、その瞬間に2人の姿が見えなくなった。外から少しは見えると思っていたので正直かなり面喰らった

 

「では私達は2人が戻ってくる場所を護るぞ。屋敷の巨大化の事もある、まずは安全な拠点を見つけるぞ」

 

久遠教授の言葉に判りました!と返事を返し、俺達は1度屋敷の前から離れ、安全な拠点を見つける為にその場を後にするのだった……

 

 

 

分岐チャプター1 ヤタガラス 異界 ひとりかくれんぼ その2へ続く

 

 




倍書く事になりますがルート分岐を頑張って書いて行こうと思います!今回は導入会なので短めですが次回からは普段通りの長さで頑張っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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