新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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分岐チャプター3

分岐チャプター1 ヤタガラス 異界 ひとりかくれんぼ その3

 

御剣と言う初老のヤタガラスの悪魔使いと合流したが、結局の所情報はあまり持っておらず、しかも足を負傷しているのでむしろ足手纏いが増えたという感じだが、こうしていても相当なMAGを有している。移動や捜索では役に立たないだろうが、戦闘となれば役立つかと思い、考えを切り替える事にする

 

「駄目だな。本当に落とし穴があったんですか?」

 

「ええ、間違いないです。ここです、私が落ちてきたのは」

 

血痕を辿って長い廊下を歩いてきましたが……天井を見上げるが落とし穴らしいものは無い

 

「異界となっているいい証拠ですわね。ただ、ここから上の階に行くのは無理そうですが……」

 

どこまでも長い廊下と時折ある部屋。それしかないこの通路から脱出できる手段を見つけたと思ったんですがね……

 

「うーん……上の階があるとして……階段らしいものはないし、落とし穴の痕跡も無い……上に行く方法があるはずなんだけどな」

 

どこまでも続く長い廊下と点在する部屋。目的としているキッチンの姿も無い、どうにかして別のフロアに移動する手段を見つけなければ……

 

「御剣さん、最初来た時はこの通路を通ったんですか?」

 

「いえ、通っていません。私達が屋敷に足を踏み入れた時はこれほど長い廊下もありませんでしたし、階段などもありませんでした」

 

階段も無いのに落とし穴に落ちたですか……そして来た時は普通の屋敷だった……すさまじい勢いで異界が肥大化している証拠だ。久遠様達は大丈夫だろうか?と言う不安を感じるが、久遠様がいるのだから心配することは無い、自分達の事に集中しようと意識を切り替え、手にしている日傘で長い廊下と壁を叩いてみるが、隠し部屋らしい手応えも無い

 

「楓、どうしますか?」

 

「うーん……何処かに隠し部屋とか階段があるんだろうか……」

 

この日本家屋と言うものに対しては私に知識が無い。だから楓の考えに口を挟む事が出来ない、大体なんで人間の家と言うのはこんなに複雑なんでしょうか……

 

(もう吹き飛ばしてしまいましょうか?)

 

幻術か何かの可能性もあるので魔法で攻撃したほうが早いのでは?と言う物騒な考えが脳裏を過ぎった時。

 

「もーいーかーい?」

 

今まで遠くから聞こえていた声がやけにはっきりと聞こえる。

 

「楓!御剣!」

 

「判ってる!御剣さん、走れますか?」

 

「な、なんとか……!!」

 

この通路の謎を解いていない上に、無限に復活する悪魔となんて戦っている余裕は無い。私達は長い廊下を走り、遠くに見える襖の開いた部屋の中に駆け込む

 

「これは日本の着物?」

 

あちこちからのびている着物とか言う日本の服に一瞬面食らう物の、隠れ場が多いことに安堵する

 

「楓様。私はこちらに隠れます、いざとなれば囮になりますゆえ、決して動きませぬように!」

 

御剣はそう言うと入り口に近い箪笥の中に隠れる。止めようとしている楓の腕を掴み

 

「従者としての勤めを果たそうとしているのです。余計な口出しは無用ですわ、私達も隠れますわよ!」

 

「ちょっ!?イザベラさん!?」

 

楓の腕を引き、大きな衣装棚に2人で隠れるのだった……

 

 

 

イザベラさんが隠れる事を選んだ衣装棚は2人で隠れるには少し小さく、そして狭かった

 

(ち、近い……)

 

物凄く近くにイザベラさんの顔がある。切れ長の眼の強い意思を感じさせる瞳が目の前にあり、更にドレス姿と言うこともあり、肩や胸元が露出していて、こんな状況だというのに心拍数が上がるのを感じる

 

(静かに……来ましたわ)

 

イザベラさんは俺のことを全く意識していないのに、俺がイザベラさんを意識している事に気付き恥ずかしい気持ちになりながら、息を殺して衣装棚の隙間から入ってきた人形を確認する

 

「もーいーかーい?もーいーかーい?」

 

廊下から聞こえてきていたノイズ交じりの声は変わらない。だが屋敷に突入した時に見た人形のシルエットとは全然違う

 

(やっぱり複数の人形が動いているのか……)

 

俺達が最初に見た人形は1Mを超えている巨大な人形だったが、今包丁を手に歩いている人形は50Cm程の一般的な人形の大きさだ。人形はもういいかい?と繰り返し呟きながら、部屋の中を歩き回り暫くするとこの部屋から出て行った

 

(廊下で隠れているかもしれないので少し様子を見ましょう)

 

イザベラさんの言葉に頷き、衣装棚の中を少し見てみる。着物だらけでどことなく出雲の実家を連想させこんな状況だが懐かしい気持ちになる。隠れ続けて15分、もう人形の声も聞こえないと言う事で衣装棚から出る

 

「やれやれですわね。埃っぽくてかないませんわ」

 

「そうですね」

 

この部屋は着物などが置かれていたが、今の日本で着物を着る機会は少ない事もあり埃っぽい。悪魔に襲われるかもしれないという緊張感から逃れることが出来たからか余計にそう思う

 

「無事にやり過ごす事が出来ましたね」

 

押入れから出てきた御剣さんにそうですねと返事を返す。小柄な人形だったからか、もし組み付かれては逃げる術が無くそのまま包丁で切り殺されていたかもしれないという事を考えると本当に見つからなくて良かったと思うのと同時に急がなければと言う気持ちが強くなった

 

「早く魅啝を見つけないと大変な事になるかもしれない」

 

今の人形は明らかに綺麗だった。人形は壊されるたびに別の人形に乗り移って追いかけて来る筈だから、早く合流しないと敵ばかりが増えることになる

 

「その為にはまずこの通路の謎を解かないと」

 

「判ってます。多分ヒントは……押入れにある」

 

私の隠れていた押入れに?と呟く御剣さんにそうですと頷き、懐中電灯を手に押入れを開け、上下共に確認する

 

「やっぱり、また合った……」

 

押入れの奥に置かれている水の入ったコップと魔法陣の描かれた紙。俺はスマホを取り出して先ほど撮った写真を開く

 

「これを見てください、どう思いますか?」

 

俺のスマホを覗き込んだイザベラさんと御剣さんの顔色が変わる。3枚の写真全てに同じコップに入った塩水と魔法陣の描かれた紙がが写されていたのだ

 

「これはまさか……同じ部屋が何個も存在しているという事でしょうか?」

 

「多分……同じ部屋じゃなくて、押入れだけが存在しているって事だと思います」

 

ひとりかくれんぼは隠れ場所を用意する。そしてその隠れ場所には人形に憑いた霊を除霊する為の塩水が必須になる、そして本来はTVをつけてそれを霊の通り道にするのだが、この屋敷と言うかこの階層にはTVが無い。だから紙に書いた魔法陣をTVの代わりにしていて、その魔法陣から無尽蔵に悪霊が召喚されている可能性が浮上した。俺は押入れの中の魔法陣が描かれた紙を引っ張り出し、それを破りながら

 

「この魔法陣の描かれた紙、その全てをとりあえず破いてみましょう。今はこれしか手掛かりがないですから」

 

この無限に続く廊下と、時折存在している部屋。本来ならばあるはずのトイレやキッチンなどが無い、それももしかするとこの異界を攻略するためのヒントになるかもしれない。だがそれはまだ状況証拠としか言えない、押入れに隠されている魔法陣。それらを全て破棄して、そしてそれで何が起きるか?それを知る必要がある

 

「確かに今の段階では何も手掛かりが無いですからね。とりあえず、その魔法陣の描かれた紙を捜して破くか燃やす。それを目的としますか……御剣は異論は無いですね?」

 

「異論などありませんよ、急ぎましょう。魅啝様が危ない」

 

俺は御剣さんの言葉に頷く、こんな異様な状況の建物に長時間いるのは危険だ。しかも無限に復活する悪魔と戦い続ける、最初はいいだろうが、MAGや手持ちの道具が尽きたらそれは死を意味する。早く魅啝と合流し、この屋敷を脱出する。その方向に間違いはない

 

(だから今は我慢するしかない)

 

正直俺は御剣さんが好きではない、むしろ嫌いだ。最初の出会いが最悪だった事もあるし、俺じゃなくて父さんを見ているようなその視線も嫌いだ。だが、俺とイザベラさんだけではどうしようもないのだから、利用できる者は全て利用する。信用できない相手にだって協力を求める、それくらいの腹芸が出来なければこれから生き残る事なんてできないのだから……

 

 

 

 

刀についている綿ぼこりを振り払い、残弾の尽きたカートリッジを廊下に放置して移動を再開する

 

(これで5体目……ですか)

 

襲ってくる人形はさほど脅威ではなく、遭遇する度に撃退してきましたが、これだけの数を倒してもまだ現れるという事は無限に復活すると考えて良いでしょう

 

「……移動してきたのはいいですが……ここは今どこなんでしょうか……?」

 

階段を下りて来てから私が見つけた部屋は2つ。1つは台所、そしてもう1つは消せないTVの置かれた居間……後は私の移動してきた階層となんら変わりの無いどこまでも続く廊下と人形が襲ってくるという代わり映えの無い通路が続いている

 

(……ここでも何かをすれば新しい通路が現れるのでしょうか?もしそうだとしたら出現条件は……?)

 

この屋敷は罠だ。無限に続く廊下や復活し続ける悪魔……明らかにこちらの体力とMAGを奪う事を目的としている迷宮だ。となれば容易に脱出など出来る訳がない……

 

(1度安全な場所を見つけるべきか……な)

 

移動と戦闘を繰り返している事で精神的にも肉体的にも少し疲労が見えてきた。どこかで隠れてもまた悪魔に襲われる……MAGを消費する事を覚悟して前鬼か後鬼を召喚して身体を休めるかと考えていると何者かの気配が近づいてくるのを感じた

 

(悪魔……じゃない、この異界を作り出した人間か……?)

 

こんな状況でひとりかくれんぼを始めた馬鹿が生存していた?もしそうならば情報を得るべきだと思い。廊下の影に身を潜め、その何者かの気配が近づいてきた所で

 

「っうわ!?」

 

その服を掴んで廊下に引き摺り倒し足で踏みつけようとした瞬間に気付いた

 

「……お義兄様!?」

 

見間違えるわけが無い、楓お義兄様だ……でもなんで!?どうして!?ここには来ないであれだけメールしたのに!?ありえない人物との再会に思わずパニックになる。悪魔の攻撃と言う考えまで脳裏に過ぎったが

 

「魅啝様!ご無事で良かったです!」

 

「貴女!せっかく助けに来たのに何をするのですか!」

 

御剣と見覚えの無い外人の少女の姿にこれが幻ではないと悟る。わ、私はと、とんでもない事を!?

 

「あいたたた……びっくりした……」

 

「……ご、ごめんなさい!お義兄様!ごめんなさい!き、嫌いにならないで!!!」

 

助けに来てくれた相手。しかもお義兄様にとんでもない事をしてしまった、その事に気付き思わずパニックになるが

 

「魅啝……良かった。無事だったんだ……」

 

怒るでもなく、私の無事を喜んでくれるお義兄様。私の警告を聞いてくれなかったのか、どうしてここにいるのか?色々と聞きたいことがあったのだが、良かったと笑うお義兄様の顔に私の言いたい事は全部言えなくなってしまい、代わりに私は自分でも判るくらい顔を紅く染めながら、あ、ありがとうございますと小さな声で呟くのがやっとなのだった……

 

「神堂魅啝です……お義兄様とは従兄妹になります」

 

「イザベラですわ、よろしく」

 

お義兄様と一緒に助けに来てくれたイザベラと言う少女と軽く自己紹介をする。今まで1人だったので身体を休める事は出来なかったが、お義兄様と御剣と合流出来た事でやっと一息付く事が出来た

 

「それで楓様。魅啝様と合流できましたが、どうするおつもりですか?」

 

「目的は変わらない。キッチンを見つけて塩を確保する、次にこの屋敷から脱出する術を見つける。これ以外に目的は無い」

 

お義兄様と御剣の話を聞いていて、私はイザベラから渡された水を飲みながら

 

「……台所なら先ほど見ました、それと電源が消せないTVのある部屋も……何か手掛かりになりますか?」

 

お義兄様に私の見つけた部屋の事を話すとお義兄様は最高の手掛かりだと笑い

 

「塩水を作らないとあの人形は倒せない、早く塩水を確保したいんだ。案内してくれるか?」

 

「……はい!こっちです」

 

少し休んだだけだが、お義兄様が見てくれているのに無様な真似は出来ない。私は直ぐに立ち上がり、台所へとお義兄様を案内するのだった……

 

 

 

人形に襲われてから3つ部屋を探して、その押入れの中の紙を破り捨てると階段が現れ、それを登ってきた所で魅啝と合流できたのは明らかに幸運だった。まぁいきなり引き摺り倒されたのは驚いたが、悪魔と契約した事で身体能力が上がっているのでさほどダメージにならなかったのも幸運と言えるだろう

 

「……ここです」

 

「割と綺麗だな」

 

日本家屋なので古い台所を想像していたが、システムキッチンにIHともしかすると水回りはリフォームしていたのかもしれないな

 

「イザベラさん。水が出るか確認してくれますか?御剣さんは冷蔵庫の確認。魅啝は俺と一緒に塩を探してくれるか?」

 

悪魔が襲ってくるかもしれないんので捜索に時間を掛けている余裕は無い。もし休憩するとしてもまずは塩の発見と水が出るかどうかと言う確認に、悪魔がいないかなどの確認をしてからやっとここを拠点とすることが出来る。その為には作業を分担して、素早く、効率的に捜索を終えよう。このキッチンは屋敷と違い異界化してなかったので割りと直ぐに塩を見つけることが出来た、しかも新品なので無くなるという不安も無くなったし、喫茶店などで見かけた悪魔の姿も無い。準備が出来たら、ここで休憩して戦いに備えた方が良いな

 

「……お義兄様。塩水でどうするのですか?」

 

「ひとりかくれんぼは終わらせる時にコップに塩水を用意して、それを口に含む、そしてコップの中の塩水を掛けて、口に含んだ塩水を吹きかけてから、私の勝ちと3回宣言する。これが終わらせる手順だけど」

 

けど?と尋ねてくる魅啝。俺の不安としてあるのがこれが始めた人間での終わり方と言う事だ

 

「多分これだけじゃ終わらない可能性もある」

 

戦って、弱らせて、そしてその上で塩水を掛けて霊を除霊する必要があると言うことだ

 

「……ではコップに用意するのではなく?」

 

「ああ、ペットボトルで大量に用意する」

 

人形の数も多いのに、コップでいちいち用意していたのでは埒が明かない。荷物となる事は判っているが、倒す手段として確立されているのだから荷物となる事が判っていても大量に準備するべきだ

 

「楓、水は大丈夫ですわ。それとペットボトルも」

 

「こちらは食料などはありませんでした」

 

食料が無いのは残念だが、水を確保できた。それで十分だ、これでやっと反撃する為の武器を手に入れる事が出来たのだから……

 

「じゃあ急いで塩水を入れたペットボトルを用意しよう。それから電源の切れないTVのある部屋に向かう」

 

その途中で人形と遭遇したら塩水の効果を試そうと提案する。ひとりかくれんぼの終わらせ方としてはこれで正しいのだが、始めた本人ではない。それがどんな作用を起こすか判らない、塩水を手にした所で撃退できない可能性もある。それならばまずは実験して効果の程を知るべきだと提案する

 

「全滅するかもしれないリスクを少しでも軽減する為と言う事ですね?」

 

「そういうこと。効果が無いものを効果があると思うほうが危険だ」

 

なんせここは悪魔のテリトリー。何が起きるか判らないのだから、常に全滅の危険性を頭の中に入れて、そしてその上で行動するべきだ

 

「……私は異論はありません。都市伝説に関しては知識が無いのでお義兄様の意見を聞きたいと思います」

 

「私もです。妖怪などの知識はありますが、都市伝説などは一切知りません。楓様の指示に従いたいと思います」

 

戦いのエキスパートだから俺の意見を却下されると思っていたが、魅啝と御剣さんが俺の指示に従うと言ってくれた事に安堵する

 

「皆。ここで1度休憩とこれからのことを話し合うと言う事で良いですね?」

 

最後に確認の為に異論は無いですね?と尋ねる。全員がそれで大丈夫と返事を返してくれたので、予定通り。ここで1度休憩する事にする

 

「カップラーメンとカロリーメイトしかないですけど、これで食事にしましょう」

 

「……では私は後鬼と前鬼を台所の入り口に召喚します、これで休んでいる間襲われる心配は無いですよ」

 

一番消耗している魅啝が悪魔を召喚するという。俺はそれに駄目だと返事を返した

 

「この中で一番強いのは間違いなく魅啝だ」

 

あの2体の鬼の強さは今もしっかりと覚えている。もしも俺達の悪魔で対処できないほど強力な悪魔に遭遇する事を考えれば、魅啝の体力とMAGは出来るだけ温存する必要がある

 

「俺がスパルトイを召喚する、少しでも体力をMAGを回復させて欲しい。俺からの頼みだが良いか?」

 

「……お、お義兄様がそう仰られるのならば……」

 

納得してない様子だが、俺の言う事ならばと言う魅啝。ここで休憩している間に、どうしてここまで慕ってくれるのか?それも聞いたほうが良いかも知れないと思った。ヤタガラスの事などで聞かないといけないことはこれでもかとある、休憩の間にそれも聞いてみようと思いながら鞄からカップラーメンとカロリーメイトを取り出し、休憩の準備を始めるのだった……

 

分岐チャプター1 ヤタガラス 異界 ひとりかくれんぼ その4へ続く

 

 




次回からは戦闘シーンを書いて行こうと思います。ここからが本番ですね、戦闘と謎解きと考えている事はあるのですが、文にするのが難しいですが頑張っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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