新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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分岐チャプター5

 

 

分岐チャプター1 ヤタガラス 異界 ひとりかくれんぼ その5

 

カチャカチャと硬質の音が部屋の中に響く。TVの五月蝿い音も何も気にならない

 

(お義兄様が来てくれた……)

 

自分でも不安に思っていたが、私達とお義兄様の出会いは決していい物ではなかっただろう。神堂に心酔している御剣がお義兄様を脅したのでお義兄様の評価は地に落ちたと思っていた。それにこの屋敷にしてもそうだ、危険だから来てはいけないとあれだけメールしたのに私を心配してきてくれた。それが何よりも嬉しかった

 

「……ん?んー?あーやっぱりか」

 

「……やっぱりとはどういうことですか?」

 

思わずそう尋ねてしまった。ど、どうしましょう……じゃ、邪魔をしてしまったのでは?と思いおろおろしているとお義兄様は笑いながら

 

「これ、そこの少し出っ張っている部分。左に回してみてくれ」

 

「……これをですか?」

 

言われたとおり出っ張っている部分を摘まんで、左に回すとその回転にあわせて宝石の形状が変化する

 

「……これは……」

 

半球体から、菱形に。全く異なる形に変形した事に驚いているとお義兄様は机の上の7つの宝石の欠片を見つめて

 

「そ、見た目は丸い宝石だけど。これ最終的な形は違うと思うな、しかも変形させるギミックも違う。魅啝……悪いんだけど少し手伝ってくれるか?」

 

「……は、はい!私はどうすればいいのですか?」

 

お義兄様からじきじきに手伝って欲しいといわれ、私は自分でも判るくらいの笑みを浮かべ、お義兄様の指示に従って、7つの宝石に隠された仕掛けを探し始めるのだった……

 

 

 

 

宝石のあちこちを触って変形させるギミックを必死に探す。最初の8個を組み合わせようと思ったのだが、どうしても形が噛み合わず色々いじっているうちに見つけたギミック。どうして日本家屋にこんな物があるのかと疑問に思う

 

「……ん?んむむむう……あ、ここを押したら形が変わりました!どうですか!」

 

形の変わった宝石を俺に差し出す魅啝に思わず勢いよく揺れる犬の尻尾を見た気がする。怖いと思っていたが、案外良い子なのかもしれない

 

「ん、ありがとう、これで残りは2つ……か」

 

変形させる宝石は残り2つ。机の上に並んでいる宝石が変形した何かの部品を見つめているとイザベラさんが俺の背後からそれを覗き込んで

 

「何かの家紋みたいですわね?」

 

そう、そうなのだ。6つの宝石同士が組み合わされ、何かの紋章のような形を作っている。俺は暫くそれを見つめてから

 

「御剣さん、貴方達がここに来たのはここに何かあるからですか?」

 

魅啝に聞いたらきっと答えてくれるだろう。だがそれでは意味が無い、俺は出来れば魅啝や御剣さんとはお互いに警戒などせずに話せる相手になりたいと思っている。だから信頼関係を必要とする質問をあえてした。御剣さん達がどう考えているのか?それを知りたかったから

 

「いえ、私達は何も知りません。これに嘘はありません、ただ……」

 

「ただ?」

 

「ヤタガラスの連中が妙に焦っていました」

 

……その目の色に疚しい色は無い。多分事実を口にしている……魅啝達も知らない何かをヤタガラスが知っている。その可能性は高いだろう、なんせ古の時代から日本の防衛をして言う組織だ。何か秘密があって当然だろう。しかし協力を頼んでおいて、その情報を教えないとは……魅啝と御剣さんを都合のいい駒か何かと思っているんじゃないだろうな?と若干いらだちを覚える

 

「判った。じゃあ、この目で確かめるとしよう」

 

最後の宝石を変形させ、何かの紋章を作り上げる。そのプレートを持ち上げ部屋の中を見る

 

「これかな?」

 

丸い壁掛け時計が掛かっているが、柱の影を見れば菱形の何かが掛けられていたのは明らかでプレートも菱形なので時計を外して、そのプレートを掛ける。すると今まで五月蝿かったTVの電源が切れる

 

「これ……TVじゃないのか?」

 

TVだと思っていたそれは真ん中が空洞のTVを模した箱だった。一体どういうことなのだろうか?夢でも見ていたような、そんな感じだ

 

「……幻術だと思います」

 

「では元々この家の住人は幻術を使えるという事ですか?」

 

イザベラさんの質問に魅啝は言葉が足りませんでしたと言ってから

 

「……多分元々カラクリ屋敷だったんだと思います。そして悪魔が召喚され異界となることでそのカラクリが強化された」

 

「なるほど、その可能性はあるな」

 

人間の力なんて悪魔と比べるまでもなく弱い。悪魔の仕業として納得するのは危険だが、その可能性が一番高い。それに今はここがカラクリ屋敷だとか、そんな事は些細な問題だ。今大事なのはこの屋敷から全員無事で揃って脱出する事。俺はTVを模した箱の中のボタンを押す。すると屋敷のあちこちから歯車の回るような音が響き、何処かから大きな時計の音が響いた瞬間。フローリングがひとりでに動き出し、隠し階段が姿を見せる。階段を登って来たはずなんだが……どうしてフローリングに階段が……考えられるのは、屋敷のあちこちにあるカラクリをベースに適当に部屋などを増やしたなどの可能性だが

 

(止めだ。考えても判らん)

 

そんな事に労力を使うのならば、脱出する事に意識を集中するべきだと判断し意識を切り替える

 

「では下の階に行こう」

 

下の階がどうなっているのかはわからないが、今は進むしかない。俺は魅啝達に進もうと声を掛け、カソの燃える身体を明かりにし地価へと続く石段を降りるのだった……

 

 

 

楓が解いたパズルのおかげで先に進む通路が現れた。本当に楓の頭脳が無ければこの屋敷に閉じ込めたれていたかもしれないですねと改めて実感する

 

「なんで階段を下りていたはずなのに、階段を登っているのですか?」

 

「……それは俺が聞きたいです」

 

楓とカソを先頭に私達は階段を下りていた。それは間違いないのですが、気がつけば階段を登っていた。本当にこの屋敷はどうなっているというのだろうか?

 

「空間が異常に湾曲していると言う事でしょうか?」

 

「……異界がおかしいのは当然のこと。それを知ろうと思っても時間の無駄」

 

どうせ考えても判らないという結論を出す魅啝と楓にそれもそうですわねと呟き、目の前に広がる廊下を確認する。今まではどこまでも続く長い廊下だったが、この階層は目で廊下の先の壁が見える。ここまで来るまでは異界と化していたようですが、この階層はまだ完全に異界になっていないと言う所でしょうか?

 

「さて、楓。どうしますか?」

 

「どうするも何も、この異界を作っている悪魔を見つけて、倒す。それだけじゃないですか?」

 

外で待っている久遠教授が心配ですし、出来ればヤタガラスについても久遠様を交えて話をしたいと言う楓にその通りですわねと頷き

 

「ではこの階層に悪魔がいるのか、それともまた謎解きが隠されているのかは判りませんが、とりあえず進むとしましょう」

 

立ち止まっていても何も変わらない、まずは先に進んでそこから考えましょうと提案し、私達は新しい階層の捜索を始めるのだった……

 

「どうかしましたか?楓様」

 

その階層を調べ始めて数分。楓がしゃがみこんで何かを調べているのを見て、御剣がそう尋ねる。私の事を観察……いや、警戒しているような視線は正直気に食わないが、従者としては有能だ。楓や魅啝を護ろうとしているその姿勢は正直評価に値する。これでもう少しその疑う視線を隠せれば十分だろう

 

「いや、ここさ、おかしいと思わないか?」

 

楓が何を見ているのか判らずしゃがみ込んで、楓の指差す所を確認する。よく見るまでもなく、楓が何をおかしいと言っているのかが判った

 

「壁と作りが違いますわね」

 

壁と床の作りが違うと呟くと楓はスマホを私達に向けて

 

「これがキッチンの写真だけど、ここの壁とここの壁を見比べてくれるか?」

 

何時写真を撮ったんですの?と呆れながらもその写真と目の前の壁を比べる。少し時間を必要としたが、楓が何を言いたいのかが判った

 

「これは部屋の中が変わっている?」

 

「確証は無いんだけど……多分そうだと思う」

 

楓はそう呟くと立ち上がり、自分の考えを説明する。それは突拍子も無いが、スマホの写真と目の前の壁を見てほぼ正解だと思える話だった

 

「元の屋敷の部屋とかが異界になった事でバラバラになって、そのバラバラになった部屋をベースに悪魔の術で屋敷が再構築された。でも

悪魔だから適当に組み合わせているから、こういう雑な部分が出てくるんだと思う」

 

悪魔だからと言うのを理由にされては面白くないですが、確かにその通りかもしれない。人間の住処と言うものに其処まで興味を持っているわけではないのだから

 

「それは判りましたが、それが何かこの階層を抜け出るのに役立つのですか?」

 

「役立つかって言われると何とも言えない。でも何かの手掛かりになるかもしれないだろ?」

 

情報が少ないんだから情報を集めないとと呟いた楓は手帳に何かを書き込み、足踏みをしながら何かを呟いている。そして考えがまとまったのか私達のほうを振り返り

 

「ここまで移動してきた階層で見てないのが、トイレや風呂場って行った水周りの場所。もし生存者がいるなら、その周辺を見つければ合

流できる。次に、生存者と合流するのはリスクが高いけど、合流する事になるかもしれないって事」

 

最初に生存者と合流するリスクを言っておきながら、合流しないといけないとはどういう事だ?私達が怪訝そうな顔をしていると楓はひとりかくれんぼのルールなんだと呟き

 

「ひとりかくれんぼのスタートは風呂場なんだ」

 

「……でも人形は動き回っていますよ?」

 

楓の言いたい事は判る。スタート位置に人形がいるかもしれない、だが今まで散々動く人形を見ているのだ。まさかそんな場所にいるなんて思えない

 

「ああ、倒しても増える人形は何度も見たな。でも後鬼を後退させた人形はあれから見ていない」

 

「それはそうですが……」

 

「俺はこう考えている。動き回る人形は目晦ましで、本体と言うか、この異界を作っている人形は風呂場にある。確かに強い力を持っているかもしれない、でもそれはあくまで都市伝説の範囲でだ。そして本来のひとりかくれんぼで人形は動かない、と言うか動くはずが無い。だって人形だからな」

 

確かにそれは一理あるかもしれない。それに仮にいないとしても1度確認してみる価値は十分にあるだろう

 

「私は楓の意見は一理あると思います」

 

生存者と合流し、足手纏いが増える可能性はありますが、都市伝説のルールに従ってみると言うのは理にかなっている

 

「……私はお義兄様の提案ならば反対する理由はありません」

 

「……私は楓様と魅啝様の指示に従うまで、私情は挟みません」

 

「では楓、風呂場を探すという方向で行きましょう」

 

結局の所。この面子では楓の意見が通るのは道理。満場一致と言う事で私達はこの階層にあるかもしれない、風呂場を探して移動を再開するのだった……

 

 

 

この階層は他の階層と異なり、極端に広い訳でもなく、人形が出現する訳でもない。だが1つだけおかしいことがあるとすれば

 

「洗面台とトイレはあった。だけど風呂場が無い」

 

風呂場らしい痕跡はあるのだが、扉がまるで切られたように存在していない。しかもその切断面はぎざぎざで、焦って切断したのが容易に想像できる

 

「楓様、どう判断しますか?」

 

「この階層に風呂場があるって確信したよ」

 

あの人形に憑依している悪魔。それは間違いなく、前鬼と後鬼を恐れている。人形などを出現させないのはこの階層には何も無いと思わせるためのカモフラージュだと俺は思っている

 

「……でも風呂場は無いですよ?」

 

「難しく考えることはないよ、魅啝。答えは簡単だし、もう俺はどこに風呂場があるかも予想がついている」

 

この階層には部屋が4つ。そしてそのうちの1つはこの洗面台とトイレのある部屋、では風呂場がどこに行ったか?

 

「他の部屋の押入れを調べよう。その中に風呂場に続く道はある」

 

俺は確信を持ってそう告げ、更にこの洗面台から一番遠い部屋にあると確信し、一番遠い部屋に向かって走り出すのだった……

 

「うっぷ……これはひどい」

 

予想通り。一番遠くの部屋の押入れに風呂場に続く道があったのだが、その道は鮮血に染まっていた。胸に込み上げる嘔吐感と、鼻を突く鉄のような臭いに顔を歪める

 

「知性はそれほどでも無いようですわね」

 

この悲惨な状況でも顔色を変えないイザベラさん達が凄いなと思いながら、鮮血に満たされた通路に足を踏み出そうとした瞬間

 

「お待ちください、この先に悪魔がいるのは判っています。私が先陣を切りましょう」

 

御剣さんが俺の肩を掴み後に下がるように言って悪魔を召喚しながら前に出る

 

「ゾウチョウテン。マハラクカジャ・マハスクカジャ・マハタルカジャを」

 

【承知】

 

それは仏像の様な姿をした悪魔だった。手に持った槍から戦闘特化と思いきや、ナジャよりも強力な補助魔法を連続で行使する

 

「では参りましょう。楓様達も悪魔の召喚を」

 

そう言って歩き始める御剣さん。俺はカソかスパルトイか悩み、魔法攻撃はカハクがいると言う事でスパルトイを召喚する

 

「何か感じるか?」

 

【……アクマノけはいをかんじる】

 

どうもこの先にいるで間違いないな。俺はイザベラさんに目配せをしてから御剣さんの後を追って、鮮血に染まった廊下を歩き出すのだった……先に進めば進むほど、血の臭いは濃くなり、更に言えばぶつぶつともういいかいっと言う声が響く

 

(生存者はいないか)

 

もし生存者がいれば戦闘に支障が出ると思っていたが、生存者と合流しなかった事に安堵し、そしてそんな事を考えている自分にほんの少しだけ嫌気がさした、もしこの悪魔を倒す事が出来ればこの屋敷のどこかにいる生存者を探そうと心に決めた瞬間。首筋に静電気が走ったような感覚がした、そしてそこからはほぼ無意識に腰に下げた鉈を勢いよく振り上げていた

 

【見つけたアアアアアアアア!?!?】

 

高い金属音の後ノイズ交じりの甲高い声が響く、それがこの異界の主との戦いが始まった瞬間なのだった……

 

 

 

ゾウチョウテンと前鬼の手にしている槍と大剣と人形が手にしている包丁がぶつかる金属音が何度も何度も廊下に響き渡る

 

【お前がああああ!今度は鬼イイイイイイイイッ!!!!】

 

聞くに堪えない声に眉を顰めながら後退し、腰帯からデザートイーグルを引き抜き構えると同時に、3発連続で発射するが、命中する前に霧散する

 

(特殊な防御……いや、これは違う……)

 

弱体化しているのだ。ゾウチョウテンも前鬼も相手の領域だという事は確かに理解していたが、ここまで弱体化するなんて想定外だ。しかも消費MAGも桁違いに上昇している

 

「スパルトイ!突撃だ!そのまま人形を押さえ込め!」

 

【ショウチ!!おおおおおおおおッ!!!】

 

雄叫びと同時にスパルトイが突進し、人形を弾き飛ばす。そしてそのまま盾で押さえ込みに掛かるが

 

【見つけたアアアア!!!!】

 

【ぬ、ぬう!】

 

両手・両足をめちゃくちゃに動かし、スパルトイの拘束から逃れようとする。私はそれを見て前鬼に

 

「……前鬼。ブフーラから突撃」

 

【!!!!】

 

最高レベルの魔法と物理。それを所持していた前鬼のスキル……魔法は1ランク、物理は見る影も無いほどに弱体化している

 

「ゾウチョウテン。アサルトダイブ!」

 

【心得た!スパルトイ!離れろッ!!!】

 

前鬼の突撃に合わせて、ゾウチョウテンが飛び上がり天上を蹴って弾丸のような勢いで人形に向かって降下する

 

【お前が鬼イイイイイイ!!!】

 

人形の身体は大きく揺らぐのだが、その様子からダメージを受けているようには見えない

 

「楓。なぜ塩水を使わないのですか?」

 

「……様子を見たい。もしあれもフェイクで水を使い切ったら反撃できない」

 

流石お義兄様。冷静な判断です、最悪の状況を考えている。前鬼もゾウチョウテンも弱体化しているが、本来ならここまで簡単に足なわれるような悪魔ではない。何かカラクリがある、お義兄様はそう考えているのでしょう

 

「ですからイザベラさんはまだカハクを召喚しないでください」

 

「……判っていますわ」

 

ただイザベラという女を庇うように立ち振る舞っているのは正直面白いものではないですが、お義兄様の味方なのですから……敵対するわけには行かないのでそれを必死に我慢する

 

「御剣さん!ゾウチョウテンに腕を狙うように指示してください!魅啝は前鬼で人形の腕を掴むんだ」

 

お義兄様の指示に従い、前鬼に指示を出す。前鬼がその巨体を使って人形の腕を掴むが

 

【ハナセええええええ!!!】

 

【!!!!】

 

私の指示に従おうとする前鬼だが、人形の動きを封じるのに手一杯と言う様子だ。しかしここまで弱体化しているとなると、持久戦は不利、しかもMAGの消耗が普段よりも激しい、なんとしてもあの悪魔のカラクリを見破り短期決戦に持ち込まなければ……だがそう思えば思うほどに戦況は悪いほうへと傾いていく

 

「スパルトイ!前鬼の援護だ!あの腕をなんとしても押さえ込め!魅啝は後鬼を召喚してくれ!俺達を護るんだ!」

 

「……わ、判りました!」

 

直接戦闘に向かない後鬼だが、その防御能力は最強の一言だ。直接戦うのは無理だが、護衛ならば!

 

「……きなさい、後鬼。私達を守るのです」

 

【!!!!!!】

 

咆哮で返事を返した後鬼はその手にした盾を生かし、人形の素手による打撃を受け止め始める。だがやはり弱体化は響いているのか、一撃ごとにその巨体が大きく揺らぐ

 

(一体どうなっているのですか)

 

私の前鬼と後鬼は最高ランクの力を持つ鬼だ。それなのにどうしてこれほどまでに弱体化しているのかが理解出来ない。確かに相手の領域だが、それでもここまで弱体化するなんて説明がつかない

 

「ゾウチョウテン!もう1度アサルトダイブ!!!腕の関節を狙え!」

 

【オオオオオオオオッ!!!】

 

咆哮と共に飛び上がったゾウチョウテンの槍が人形の腕関節に突き刺さる、ゾウチョウテンは着地と同時に槍を振り上げその腕を切り飛ばす。そしてその瞬間、人形ではなく、足元の血の池が風もないのに大きくざわめいた

 

「イザベラさん!アギラオをあの波立っている所に!」

 

「了解しましたわ。カハク、アギラオ!」

 

【はーいっ!いっけえええ!!!】

 

両手を突き出したカハクが放った火炎が血の池に命中する。生臭い臭いとそれに遅れて苦悶の声が響き渡る

 

【……】

 

今まで暴れに暴れていた人形の動きが一気に脱力する。それを見逃すわけが無い、それに弱体化していた前鬼の力が一気に膨れ上がるのを感じる

 

「……前鬼!ゴッドハンド」

 

【オオオオオオオオッ!!!】

 

前鬼の力強い雄叫び共に繰り出された豪腕が人形を殴り飛ばす。それと同時に血が異様に盛り上がっている部分がごぽんっと言う大きな音を立てる

 

【オマエラアアアアアア!!!】

 

血が悪魔の形を作り上げる……人形を操っている悪魔の正体が今私達の目の前に現れたのだった……

 

 

 

人形が身体から流している血と踝辺りまである血の池。それに何か深い関係性があると俺は考えていた。それに御剣さん達が動揺するほどに弱体化している悪魔……俺が考えたのはこの血の池自身が悪魔の本体なのでは?と言うことだった。直接悪魔に触れているから弱体化も本来の効果以上に効果を発揮しているのでは?と言うことだ。そしてこうして悪魔が形を持った瞬間。廊下に満ちていた血液は目に見えて少なくなっていた、これならば御剣さんと魅啝の悪魔も最大の力を発揮できるかもしれない

 

「スパルトイもどれ!行け!カソ!!」

 

スパルトイを帰還させ、即座にカソを呼び出す。液状の相手に物理が効果を発揮する訳が無い

 

「ゾウチョウテン戻りなさい、コウモクテン!出番だ!」

 

御剣さんも悪魔を切り替える。槍を持つ悪魔から筆と巻物を手にした悪魔コウモクテンへと指示を出す

 

「コウモクテン!ブフダイン!」

 

【承知。下がれ、巻き込まれるぞ】

 

巨大な氷柱が液状の悪魔に襲い掛かる、やはり血の海が干上がった事で、弱体化が解除されたようだ。これでいっきにこっちが有利になったのだがそれで終わりではない

 

「……前鬼。ザンダイン」

 

【!!!!】

 

咆哮と共に放たれた巨大な風の刃が氷柱ごと悪魔を切り裂く。その圧倒的な魔法の威力に驚くが、魔法の威力だけでは勝てない。これはあくまでひとりかくれんぼ。正しいひとりかくれんぼの終わらせ方をやらなければいつまで経っても終わりは訪れないのだから

 

「イザベラさん」

 

「これは?」

 

イザベラさんに塩水のペットボトルを投げ渡し。動かない人形を指差して

 

「その塩水を振り掛けて、私の勝ちって3回宣言してからカハクの炎で燃やしてください」

 

それがひとりかくれんぼの終わり方。ただ人形だけでは駄目だし、あの液状の悪魔だけでも終わらない。両方を同時に倒す、それが今一番確実性が高い。俺はそう考えていた

 

「判りましたわ、あっちは任せます。カハク、行きますよ」

 

【はい!頑張ります!!】

 

カハクを連れて、人形へと走るイザベラさん。それを確認してから俺も塩水を手に血の悪魔へと走る、氷結と疾風で連続で攻撃されたその身体はボロボロだが、それでもまだ血で刃を作る悪魔の攻撃は俺とカソを近づけまいとその激しさを増させていく

 

【サセナイ!】

 

カソが俺の前を走り、その前足と炎で俺へと伸ばされた血の刃を砕き燃やす。

 

【オノレええええええ!!!】

 

俺とカソが通り抜けた瞬間。背後から何かが動く気配がする、そのまま進めば悪魔の攻撃で刺し貫かれるのは判っていた。だがそれでも立ち止まらずに走り続ける。俺とカソだけではない、俺達に注意を奪われ周囲の警戒が厳かになった。魅啝がその隙を見逃すわけが無い

 

「……前鬼。ブフダイン!」

 

【!!!!】

 

剣を叩きつける音と共に周囲の温度が急激に低下し、目の前が一瞬で白銀に染まる。その気圧の変化に睫毛が凍り、喉が激しく痛むがこの異界を作り出している悪魔へ向かって走る速度は緩めない

 

【お、オゴオアアアアア!?!?】

 

身体の半分を凍結されているので動けない悪魔の口に塩水のペットボトルを突っ込む

 

【げぼあ!?げぼっ!ごぼおおおおお!?!?】

 

塩水が相当苦しいのか暴れる悪魔だが、自由になっているのが顔だけなのでその抵抗はほとんど意味を成していなかった。塩水が完全に空になったところで大きく息を吸い込み

 

「「私の勝ち!私の勝ち!私の勝ち!!」」

 

廊下に俺とイザベラさんの3回の勝利宣言が響いたと瞬間。悪魔は大きく身じろぎすると風船が割れるような音と共に弾け飛び、踝まで埋め尽くしていた血の池は一瞬で干上がり。そしていつの間にか洗面台とトイレ。そして風呂場のドア……異界と化していた日本家屋が元の姿へと戻っていた

 

「悪魔退治……完了ですね」

 

「……お疲れ様でした」

 

それは異界が元の世界に戻ったという証拠で思わず安堵の溜息を吐いて、その場に座り込み

 

「お疲れ様でした。少し休んでからこの屋敷を捜索しましょう」

 

まずは休憩。そしてこの屋敷にある何かを探すのに、久遠教授達も呼びましょうと提案し、異界が消えた影響かやけに重い、それに伴う疲労感も感じ、俺はそのまま壁に背中を預け

 

「少し寝るよ、もし久遠教授達が来たら起こしてくれ」

 

「……判りました。おやすみなさい、お義兄様」

 

異界が消えた事に気づき久遠教授達が来るかもしれない。だが起きているだけの気力が無く、久遠教授達が来たら起こしてくれと魅啝に頼み俺は目を閉じるのだった……

 

分岐チャプター1 ヤタガラス 異界 ひとりかくれんぼ その6へ続く

 

 




次回で分岐チャプター1は終了となります。話数が増えてしまいますが、メガテンといえばルート分岐なので頑張って書いてみました。面白いかどうかは別ですけどね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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