新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター7

チャプター7 人魔コボルト

 

特殊科目棟からグラウンドを久遠先輩と監視する。コボルトと言う狼男が来るまで楓と雄一郎君を休ませて上げたいから、私が監視を引き受けたのだ。すると危ないからと久遠先輩も同行してくれたんだけど……

 

(話題が無いよぉ……)

 

私も何回も久遠教授の研究室にお邪魔した事があるが、それは全て楓の付き添いで楓以外と話す事も無かった。だから顔見知りではあるんだけど、話した事も無い人。それが久遠先輩だった……

 

(でも綺麗な人だよね……)

 

楓よりも少し高い身長と切れ長の目。それに凛とした態度で男子生徒から人気と言う事は知っていた、だから私は正直気が気じゃなかった。楓が好きで田舎を後にして神無市に来たのに楓が久遠先輩と付き合ってしまうと思うと怖かった、だから怖い話が苦手なのに私は何度も久遠教授の研究室に行っていたのだ

 

(でも楓にとって私って何なんだろう)

 

楓が私を大事にしてくれているのは判る。私も楓がとても大切だ、悪魔が現れて人が死んでいる状況で何を考えていると怒られるかもしれないけど……どうしてもそんな事を考えてしまう。今はそんな事を考えている場合じゃないと頭を振ると、久遠先輩が

 

「桃子さんは楓君とお付き合いしているのですか?」

 

「うえあ!?」

 

真顔でお付き合いをしているのですか?と尋ねられて思わず奇声が口から飛び出す

 

「えあ、うああ……」

 

「あ、すいません。変な事を聞きましたね」

 

私がうろたえているのを見て変な事を聞きましたと謝ってくる久遠先輩。まさか久遠先輩も私と同じような事を考えていた?と思うが、私にはとてもその事に付いて尋ねる勇気は無かった。もしそうだと言われたらきっと私は久遠先輩の事を嫌いになる、今この状況でお互いの仲が悪くなるような事態はどうしても避けたかった。だけど私が黙り込んだ事で嫌な沈黙が廊下に広がる。この空気をどうしようかと悩んでいるとグラウンドの方角から

 

【ウォオオオオンッ!!!】

 

狼の雄たけびが響き渡る。その遠吠えに窓の方を見ると巨大な狼男が棍棒を引きずって来ているのを見えた

 

「桃子さん!」

 

「はいっ!」

 

久遠先輩の私を呼ぶ声に頷き、私と久遠先輩はレクリエーションルームへと楓と雄一郎君を起す為に走り出すのだった……

 

 

 

桃と美雪先輩に起され、コボルトが向かって来ていると聞いて慌てて飛び起き、頬を叩いて眠気を飛ばし久遠教授の方を向いて、コボルトについての話し合いに参加する

 

「楓君と雄一郎君には悪いが、コボルトと戦うのは2人と私の計3人。そして契約しているカソ・コロポックル・リリムになる」

 

久遠教授も戦うと言う言葉に考え直してくださいと言うと久遠教授は笑いながら、べレッタを2丁取り出し

 

「コボルトはどう見ても近接戦闘に特化している。魔法だってそう何回も使える物じゃない、距離を取って銃撃するだけでも相手の追撃封じ・目くらましと出来る事は色々ある。コボルトの件に関しては私に責任がある、だから私も戦う」

 

強い口調で言われ反論を完全に封じられてしまう。これは何を言っても無駄なのだと判ったから

 

「久遠教授。久遠先輩と桃子はどうするんですか?」

 

「ああ、2人には高校と大学で拾った魔石の運搬係をして貰う。カソ達の体力回復させながらの持久戦に持ち込むには回復担当が必要だ」

 

雄一郎の質問に久遠教授がそう答える。桃と美雪先輩が戦わなくて良かったと思うが、俺達が死ねば桃と美雪先輩が危険だ。なんとしても俺達でコボルトで倒さなければならないと言う事だ

 

「楓、雄一郎君……気をつけてね」

 

「私とピクシーで出来るだけのお手伝いをします、楓君、笹野君。気をつけてください」

 

桃と美雪先輩に見送られ、レクリエーションルームを後にし特殊科目棟の昇降口に向かう

 

「コロポックル。ラクカジャはどれくらいの時間継続するんだ?」

 

向かってくるコボルトを見ながら雄一郎がコロポックルに尋ねる、コロポックルの防御魔法。それが俺達の頼みの綱になっている、コロポックルは髭を撫でながら

 

【時間制限がある訳ではない、じゃが余りに強い衝撃を受けると効力は徐々に失われていく。じゃからあんまり過信されては困るぞ?】

 

時間制限じゃないだけで十分だと返事を返し、コロポックルに頼みラクカジャを使ってもらう。何かに包まれているような気がする。これがラクカジャの効果なのだろうか

 

「良し、では行くぞ。楓君、雄一郎君。ここを切り抜けて、生存者を探して街へ出る。全員で生き残るぞ!」

 

「「はいっ!!」」

 

久遠教授の言葉に力強く頷き、俺達はグラウンドへと駆け出すのだった……

 

【ウォオオンッ!!!】

 

俺と雄一郎を見て雄叫びを上げるコボルトを見て、俺は槍を、雄一郎はハンマーを手にコボルトへと対峙していると、久遠教授が俺と雄一郎に頭を下げろと叫ぶと同時に久遠教授がべレッタの引き金を引く。しゃがんだ俺達の頭の上を通過していく銃弾に肝を冷やしながら振り返ると久遠教授がべレッタをコボルトに向けながら力強く叫ぶ

 

「ダメージが通るとは思わん、だが顔を目掛けて打っていれば、向こうの集中は削がれる筈だッ!!」

 

絶え間なく響く銃声に確かにコボルトが鬱陶しそうに棍棒を振るっている。確かにコボルトの集中は削がれているだろうが、それは久遠教授がコボルトのターゲットにされる危険性が高いと言う事になる。雄一郎に目配せをし久遠教授から注意を逸らすために一歩前に踏み出し、足元のカソとコロポックルに指示を出す

 

「頼むぜ、カソッ!アギッ!」

 

【マカセロ】

 

「行くぜコロポックルッ!ブフッ!」

 

【最初から全力じゃ!】

 

『アギ』

 

『ブフ』

 

カソとコロポックルの放った炎弾と氷塊がコボルトの胴体に命中するがダメージが通ったようには見えない。それ所か、俺と雄一郎には興味もないと言わんばかりに、銃撃をしている久遠教授に突進して行くコボルト。俺と雄一郎の間を駆け抜けていこうとするコボルトの胴体に俺は槍を、雄一郎はハンマーを叩きつけるが鉄でも叩いたような鈍い音が響き、ハンマーと槍が簡単に弾き飛ばされ、俺と雄一郎がその場で体勢を大きく崩す

 

「楓君!雄一郎君!早く!母さんのほうへ!」

 

美雪先輩の悲鳴にも似た声に返事を返すよりも先に、槍を拾い上げ久遠教授の方に走り出しながらカソに指示を出す

 

「カソ!アギ!」

 

『アギ』

 

「コロポックル!ブフ!」

 

『ブフ』

 

少しでもコボルトの勢いを弱める事が出来ないかと願いながら、魔法を放って貰うが後ろからの攻撃だというのにコボルトは楽にカソとコロポックルの魔法を避け久遠教授の方へと走り続ける。久遠教授はコボルトを引き離す為にか銃を乱射するが、毛皮に阻まれてどれも有効打になっていない、もしかしたら銃でコボルトの動きが止まり回りこめるのではないか?と言う淡い希望も消え失せた

 

(駄目だ!間に合わないッ!)

 

コボルトが立ち上がり、咥えていた棍棒を握り締めるのが見えた、久遠教授が殺されてしまう。美雪先輩と桃子の悲鳴がどこか遠くに聞こえる。そんな中コボルトの棍棒がもう目の前に迫っていると言うのに、久遠教授がくすりと笑った

 

「馬鹿が、計画通りだ。リリムッ!」

 

久遠教授の馬鹿にしたような声が響き、久遠教授の背後にリリムが姿を現す。今更悪魔を召喚しても、あの距離じゃ間に合わない……そう思ったのだが、後で思い返せば、久遠教授は自分を囮にしてまで、この距離にコボルトを引き寄せていたのだ

 

「リリム、マリンカリンだ!」

 

【は、はい!】

 

『マリンカリン』

 

久遠教授の言葉に怯えながら返事を返すリリムはそのまま、胸を強調するようなポーズを取り、コボルトに向けてウィンクを飛ばす。離れていてもかなりのセクシーポーズだと言うのは判ったが、そんなのコボルト相手に何の意味も……

 

【ウ?ワオーン!ハッハッハ!!】

 

効いてる!?残像が見えるほどの勢いで尻尾を振り、舌を出して興奮した様子で鳴いているコボルト。マリンカリンってどんな効果の魔法なんだよと思いながらも、完全に棒立ちで隙だらけのこの隙を逃す馬鹿はいない。久遠教授は完全に正気を失っているコボルトの横を走り俺の前に移動しながら指示を飛ばしてくる

 

「楓君!合わせろ!リリム!ジオンガッ!」

 

「は、はい!カソ!アギ!!」

 

『ジオンガ』

 

『アギ』

 

【グッギャアアアアアアアアアアッ!!!】

 

リリムの放った電撃とカソの放った火炎が交じり合い、隙だらけのコボルトの背中を打ち抜く。毛皮が燃える嫌な匂いとその痛みと熱で正気に戻ったコボルトの苦悶の悲鳴が響く中、久遠教授は反撃の隙は与えないと言わんばかりにリリムに次の指示を出す。俺も遅れないように、カソに指示を出す。

 

「このまま一気に攻めるぞ!リリム!マハ・ジオッ!」

 

『マハ・ジオ』

 

「カソ!マハ・ラギッ!!!」

 

『マハ・ラギ』

 

「コロポックル!ブフーラッ!!」

 

【全力で行くぞッ!!!】

 

カソの放った火炎の帯とリリムの放った電撃の檻がコボルトとその周辺を覆い尽くし、コボルトの逃げ道を狭め、続けてコロポックルの放った巨大な氷柱がコボルトの足元から突き出す

 

【グルアア!!】

 

「ちっ!避けたかッ!?」

 

完全に直撃のタイミングだと思っていたが、コボルトは咄嗟に飛びのき足元から心臓を狙った氷柱の切っ先を回避する。だがその方向にはカソの火炎の帯とリリムの電撃の檻が待ち構えていた

 

【ギ、グガアアアアアアアア!?】

 

苦悶の叫びを上げながらも、カソとリリムの魔法を通り抜け、俺目掛けて走ってくるコボルト。それを見て久遠教授が気をつけろと叫ぶ

 

「楓君!そっちに行ったぞ!!」

 

棍棒を口にくわえ、4つ這いで突進してくるコボルト。二足歩行でも十分早かったのだが、今はそれよりも更に早い。カソに指示を出そうにも、連続して魔法を放った事で消耗しているのかぐったりしているのを見て、これ以上指示を出す事が出来ないと悟る

 

「リリム!マハジオ!」

 

【判ってます!えーい!!】

 

『マハ・ジオ』

 

「ピクシー!羽ばたき!」

 

【いっくよー♪】

 

『羽ばたき!』

 

リリムが翼を広げて、グラウンド全体に電撃を放ち、それに続くようにピクシーが背中の翼を羽ばたかせると、その小さな翼からは信じられないほどの強風が発生する。だが信じられない事にコボルトは電撃の嵐とかまいたちを走りながら回避し俺に向かってくる

 

「くそ!来るなら来いッ!!!」

 

槍の切っ先をコボルトに向け全力で突き出す、あの勢いで突っ込んでくるなら突き出すだけでコボルトに大ダメージを与える事が出来ると思ったのだが

 

【ガアッ!】

 

「嘘だろッ!?」

 

右手をグラウンドに叩きつけ、身体を跳ね上げるようにして俺の攻撃を交わしたコボルトはその勢いで俺の後ろに回りこむ

 

「コロポックル!ブフッ!!」

 

【行くぞッ!!】

 

コボルトが俺の後ろに回りこんだと同時に雄一郎がコロポックルに指示を出す。氷の弾丸がコボルトに向かい、俺からコボルトを引き離そうとするがコボルトは棍棒を振り回し氷の弾丸を弾き飛ばしながら突進してくる。足元のカソに向かって指示を出そうとした瞬間。コボルトが棍棒を振りかざしながら

 

【カエデええええええッ!!!】

 

「えっ!?」

 

俺の名前を呼んだコボルトに動きが止まってしまう。振り下ろされた棍棒を手にした槍で受け止める

 

【カエデ!オマエガいなければ!ミユキ先輩はおれをオオオオ!!!】

 

「お前まさか睦月か!?がっはあ!?」

 

コボルトが俺の名前を呼び、完全に硬直した瞬間に棍棒に殴り飛ばされ、そのままの勢いで高校棟の校舎に背中から叩き付けられるのだった……

 

 

 

校舎に叩きつけられた楓君を見て舌打ちする。計画が狂った……あの勢いで叩きつけられれば、ラクカジャ程度の防御力では耐える事が出来ないだろう

 

(イレギュラーめッ!)

 

コボルトに食われた浜村睦月がコボルトの中でまだ意識を保っているとは……びくびくと私の顔色を伺っているリリムに

 

「何をしている!早く楓君の治療に向かえ!」

 

【は、はい!判りましたぁ!】

 

慌てて楓君の元へ向かうリリムを睨み付けながらグロッグの弾を交換する。私のスマホの契約悪魔数は2……今この場で悪魔を追加で召喚するか……それとも……右手首のブレスレットを見つめていると特殊科目棟から桃子と美雪が飛び出してくる

 

【ミユキ先輩!】

 

「そ、その声……浜村君!?」

 

コボルト/睦月が美雪に襲い掛かる。美雪に対する強い執念……それでコボルトの意識を乗っ取ったか……!

 

(ちいっ……浜村の執念を甘く見ていた)

 

浜村睦月。守護霊様の実験の時に呼ぶ筈の無かった生徒。イレギュラーはある物だと思っていたが、ここまで来ると正直怒りを覚える

 

「浜村ぁ!良くも楓を!」

 

【邪魔だぁ!】

 

「ぐふうっ!?」

 

「雄一郎君!!」

 

雄一郎君がコボルト/睦月を止めようとハンマーで立ち向かったが、コボルトの蹴りで雄一郎君が吹き飛ばされる。リリムにジオンガの指示を出しながら、楓君の気配を伺うが動く気配が無い……やはりあの一撃で死んでしまったのか……計画があんな馬鹿の所為で狂わされた事に激しい殺意を感じる

 

「久遠教授!楓と雄一郎君の手当てを手伝ってください!」

 

「判ってるが少し待て!美雪が危ない!リリム!ジオンガッ!」

 

【はい!】

 

『ジオンガ』

 

楓君と雄一郎君の事も心配だが、コボルトの目の前に居る美雪も事もあるので少し待てと怒鳴る

 

【ミユキ先輩、俺……オレ貴女がスキナンデス、カエデは殺しました。だから……だからオレをミテクレマスヨね?】

 

「誰が貴方なんかを見ますか!!私は貴方が嫌いだったんです!馴れ馴れしくて!母さんの講義の邪魔をして!!そして今楓君を殺した!!!私は貴方なんか大嫌いです!」

 

美雪がそう怒鳴るとコボルト/睦月の反応が変わる、今まで穏やかだった目の色が再び、真紅に染まる

 

【違う!貴女の意思はカンケイナイ!オレが!オレが貴女がスキナンダ!だからオマエハ!オレの物なんだアア!】

 

「誰が貴方の物になる物ですか!」

 

楓君が死んだと思っている美雪が自暴自棄になっている。ピクシーが護ろうとジオで攻撃しているが、コボルト/睦月は全くダメージを受けていない

 

(これまでだな……)

 

実験は失敗だ。楓君が死んだ以上、私の計画はここまで……無念だが仕方あるまい。ブレスレットを外そうとした時

 

「ふざけんじゃねええええ!睦月ぃッ!!!!」

 

楓君が雄叫びと共に立ち上がり、手にした槍を投げる。それはコボルトの目を貫く、コボルトが激痛に悶えているのを見た楓君はスマホを片手に走り出しながら美雪に向かって叫ぶ、スマホから溢れる魔力から悪魔召喚を行おうとしているのが一目で判る

 

「美雪先輩!逃げて!ここは俺が!!」

 

楓君が起き上がった事に驚いた表情をしている美雪。死んだと思っていた楓君が生きていて混乱しているのは判るが、今はそんな場合ではない。あのままでは美雪が悪魔召喚に巻き込まれる

 

「こっちへ来い!美雪!巻き込まれるぞ!!」

 

「は、はい!判りました!」

 

私の怒声に我に帰ったのか、こっちに美雪が駆け寄ってくる。美雪と入れ違いに、スマホの中で増幅された魔力が開放され、悪魔召喚プログラムが起動した

 

【悪魔召喚プログラム起動 召喚開始……】

 

「何でもいい!俺に従えッ!!!」

 

楓君が掲げたスマホが勝手に悪魔召喚プログラムが起動させる……そして楓君の目の前から現れた悪魔を見て、思わず笑みを浮かべた。それは本来なら呼び出せることのない悪魔だったから……

 

【我が名は魔獣ケルベロス!この時のみ汝の牙となろう!!】

 

カソよりも遥かに霊格の高いケルベロスを呼び出した。やはり楓君を選んだのは間違いではなかったのだ……ブレスレットに伸ばしかけた手を戻し、私は駆け寄ってきた美雪と共に気絶している雄一郎君の治療の為に走り出した。どう足掻こうか、コボルトでは、ケルベロスには勝てない。コボルトの死は既に決まっているのだから、態々見るまでもないのだ……

 

 

 

全身に走る痛みに眉を顰めながら身体を起こす、楓を助けないと1人じゃコボルトを抑え切れない……そう思って身体を起こした俺が見たのは信じられない光景だった

 

【失せろ!】

 

【ギャアア!?イダイ!イダイイイイイ!?!?】

 

巨大な白いライオンの姿。それがコボルトの腕を簡単に食いちぎる……なんだあの悪魔は……圧倒的な存在感と、どうしても勝てないと言う事が判り、あのライオンが俺達を襲ってこないかと恐怖する。なんだあの悪魔は……

 

「楓が呼び出したみたいで……どうしてあんなのが出て来たんだろう……」

 

桃子が怯えた様子で呟く、カソが消えてしまっているのでコロポックルにあの悪魔が何なのか?と尋ねると、コロポックル達は震えながら、その悪魔の名前を口にした

 

【ま、魔獣ケルベロスじゃ……お、恐ろしい。なんであんな悪魔が……】

 

【皆死んじゃうよ……け、ケルベロスは凄く凶暴だから……】

 

【あれが魔獣の長、最強の魔獣ケルベロス……なんで召喚出来たんだろう……そんなことありえないのに】

 

ケルベロス!?名前だけは知っている。地獄の番犬と恐れられる獣……なんで楓があんな悪魔を呼び出すことが出来たのかと疑問を感じながらも助けないとと思い立ち上がろうとするとリリムに制される

 

【駄目だよ。今あの子は意識がない、下手に動くとケルベロスを差し向けられるよ】

 

リリムの言葉に目を見開く、楓は気絶した状態で悪魔を呼び出しているというのか!?なおの事楓を助ける必要が

 

「心配する事は無い、もう終わる」

 

久遠教授の言葉に驚きながらケルベロスの居る方向を向いて、見るとその光景に思わず絶句した

 

【い、嫌だ……シニタクナイ……シニタクナイ】

 

右腕、左足を食いちぎられたコボルトが身体を引きずって逃げようとしている。ケルベロスはそんなコボルトを見ることも無く、悪魔の面汚しがと吐き捨てる

 

【ここまでだ。地獄の炎に飲まれて消えろッ!】

 

『アギダイン』

 

ケルベロスの一喝と共に赤黒い炎がコボルトを飲み込み一瞬で消し炭にする。信じられない火力だ……骨さえ残さず焼き尽くした。その火力に驚愕する、コボルトが消えた事で今度は俺達が襲われるかもしれないと怯えていたのだが、ケルベロスは楓を見つめ

 

【今度は正式に呼び出してくれ、我はその時を楽しみに待っている。今は未熟な契約者よ……さらばだ】

 

ケルベロスはその外見からは想像出来ない様な穏やかな声で楓へ呼びかけると、一声大きな雄叫びを上げてから弾ける様に消えた。その事に安堵の溜息を吐いていると、桃子の悲鳴が響く。驚いて振り返ると、桃子が楓に駆け寄って名前を呼びながら楓の身体を揺すっていた

 

「楓!楓ぇ!!!」

 

「……」

 

立ったまま気絶しているのか、必死に呼ぶ桃子の言葉にも反応せずゆっくりと背中から倒れていく楓を見て、慌てて立ち上がり、久遠先輩と久遠教授と共に楓の元へ走る

 

「ゆ、雄一郎君……久遠先輩……楓がぁ……楓が起きないのぉ……」

 

へたり込んで涙している桃子に最悪の予想が頭を過ぎり、楓を起そうと肩を揺すろうとするが、それは久遠教授によって止められた

 

「殴り飛ばされた事で頭を打っているかもしれない。揺すったりするのは危険だ、保健室で様子を見よう。雄一郎君、楓君を背負ってくれるか?」

 

「は、はい!」

 

言われた通り、楓の頭を揺らさないように気をつけながら楓を背負い

 

「コロポックル、ピクシー、リリム!悪魔が出て来たら頼む!桃子!久遠先輩!急ごう!」

 

コロポックル達に悪魔が出て来たら頼むと叫び、俺は楓の頭を揺らさないように気をつけ保健室へと向かって歩き出すのだった……

 

チャプター8 脱出準備 へ続く

 

 




次回で高校は脱出となり。市街編となります、前半はコボルト退治の話とケルベロスを呼び出すことが出来た理由などを考えて、脱出のための準備をすると言う感じの話になります。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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