新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター8

 

チャプター8 脱出準備

 

楓が意識を失ってから2時間経ったが、楓は一向に目覚める気配が無い。私に出来る事と言えばハンカチを濡らして楓の額に当てる事くらいだ……本当なら起きるまで何もしないほうが良いんだけど、楓が眠り始めてから1時間ほど経った頃楓の身体に異変が起きた。さっきまで血の気の無かった顔が急に赤くなり、呼吸も荒い。慌てて額に手を置いてみると楓の体温は異常に高く、そこからはずっと楓の身体を冷やしていた。コロポックルがバケツの中に氷を入れてくれるので、よく冷えた水でハンカチを絞り、額に当てているのだが濡らしたハンカチは数分と持たず乾いてしまう。何回も濡らして絞ったせいか、両手が水で冷えて赤くなってきていて息を当てて暖めていると久遠先輩が姿を見せる

 

「桃子さん。水を替えてきました。そろそろ交代しましょうか、桃子さんも随分と手が冷えているようですし」

 

私としては楓が起きるまで様子を見ていたいけど、私の事を心配して変わってくれると言っているのも断るのも悪いと思い

 

「はい、よろしくお願いします。30分したらまた交代しましょうね」

 

数分と言う頻度でしかも、悪魔の作ってくれた氷で冷やした水で何度も何度も濡らして絞っていれば手も冷えて痛くなってくる。だから30分くらいで交代しましょうねと声を掛け、私は脱出に向けて話し合っている久遠教授と雄一郎君の元へ歩き出すのだった……

 

「ふむふむ……なるほど」

 

「何がなるほどなんですか?」

 

机の上に楓や雄一郎君のスマホを並べて何かを調べていた久遠教授にそう尋ねる。てっきり脱出の話をしていたと思っていたんだけど、一体何をしているのだろうか?

 

「悪魔召喚プログラムの確認をしているんだとさ。これから街に出るとなると高校よりも悪魔の数が多くなるから、戦力の確認は大事だからってな。それにほら、コボルトのせいで槍もハンマーも壊れちまったし……」

 

コボルトの身体は異常に硬かったらしく、骨董品の槍とハンマーは破損してしまった。また金属バットに逆戻りだと笑う雄一郎君を見ていると久遠教授がスマホを机の上に戻し

 

「コボルトが浜村睦月の人格を有していたのは悪魔召喚に失敗し喰われたからだ。召喚もしくは契約に失敗すれば悪魔に喰われてその魂は悪魔の糧になるようだ」

 

睦月君が死んだと言うのは楓から聞いていたけど、まさかコボルトに喰われて死んでいたなんて思っていなかった。私が青い顔をしているのに気付いたのか久遠教授はすまない、配慮が足りなかったと謝りながら

 

「だが契約に関しては私達は有利だ、契約悪魔が4体。仮に強力な悪魔が呼び出されたとしても逃げる事くらいは出来るだろう。契約数がネックになるが……私と楓君は契約数が2になっている。状況次第では更に悪魔召喚をして契約、楓君は反対するだろうが桃子も悪魔契約の事を考えていて欲しい」

 

楓の助けが出来るなら私は悪魔が苦手でも契約するつもりですと返事を返す。コボルトの時だって本当は私も契約するつもりだったのだ。ただ楓が頑なに駄目だと言うので諦めただけで

 

「楓君にとって君はとても大切な存在だという事さ」

 

喜べば良いのか、照れればいいのか判らず困惑していると久遠教授は楓のスマホを差し出してくる

 

「そこの画面を見てくれ、MAGと言う文字があるだろう?」

 

雄一郎君と一緒に楓のスマホを覗き込むと、契約可能悪魔2/1の文字の隣にMAGと書かれたゲージが表示されていて、その数値が-148と表記されゲージが赤くなっていた

 

「次に私と雄一郎君のも見てくれ」

 

続いて差し出された久遠教授と雄一郎君のスマホを見ると、久遠教授のは楓と同じく、契約可能悪魔2/1の文字と緑色のゲージが中ほどまで減少していて数値は500/275、雄一郎君のスマホは契約可能悪魔1/1とギリギリまで減少している緑のゲージが表示されていて数値は240/35と表示されている

 

「恐らくだがこのMAGと言うのが悪魔を召喚するのに必要なエネルギーなんだろうな。私は成人しているからかは判らないが、この中では1番MAGの保養量が大きい。楓君は雄一郎君よりも低いが、美雪よりは高い。そんなMAGでケルベロスとか言う強力な悪魔を召還した事によるMAGの枯渇。MAGとやらが時間で回復するかは判らないが……今日中に脱出すると言うことは多分無理だろう。なら楓君が回復するまでの時間で脱出準備を万全に整えよう。悪魔もいない見たいだしな」

 

ケルベロスと言うライオンが消える瞬間にはなった雄叫び。高校の中に入ると魔石が大量に落ちており、ケルベロスの咆哮に耐え切れず弱い悪魔が全て消滅したらしい、だから死体は見るかもしれないが、安全には移動出来ると久遠教授が予想したのだ。だから脱出するのは楓が回復してからと決まり、私達はそれから順番で楓の看護を行い。楓が目を覚ますのを待つのだった……

 

 

 

ケルベロスの咆哮か……これほどまでの効果があるとはな。コボルトを撃退した日の夜、私は1人で大学棟の研究室を訪れていた。楓君の熱も引いたのでリリムにドルミナーを使わせ全員を眠らせ、私の単独行動を悟られないようにしてからだが

 

【久遠様……えっとそのどうしてこんな事をなさるんですか?】

 

「お前の言いたい事は判る。だが今は黙っていろ」

 

はひっと上擦った声で返事を返すリリム。ドルミナーは睡眠魔法だが、リリムが消えてしまえば効力も消える。だから鬱陶しいがリリムを召喚し続けなければならない、私が何者なのか?と判っているリリムは涙目で口を押さえて静かにしていますとアピールしている

 

「おい、ルイ。人を呼び出しておいて姿を見せないとはどういう了見だ」

 

「いや、悪いね。余りにいい月だからね?」

 

【!?!?!?】

 

浮き出るように現れたルイを見て、声にならない悲鳴を上げるリリムに邪魔だから向こうに行けと指示を出し、隣の研究準備室に向かわせる

 

「ほら、これが必要だと思ってね」

 

差し出された袋の中を確認する。それは紅い菱形の結晶体……「チャクラドロップ」だ。微量ながらMAGが回復するので今の楓君には必要な物だ、数は……12個か。少なくはないが、多くもない。だが楓君に使ったとしても少量残る計算だ。袋の口を閉め直しながらルイに感謝を告げる

 

「ありがたい。楓君がMAG枯渇を引き起こしているからなんとかしたかったんだ」

 

「ああ、彼か。良い子だね、君が目をつけてなければ私が引き抜く所だよ」

 

貴様にはやらんぞと睨みつける。2年前から目をつけていた優秀な人間だ。それをこいつにむざむざ渡すつもりはない

 

「そんなに怖い顔をしなくても良いだろう?大丈夫とりはしないさ……今はね」

 

相変わらず性格の悪い男だ。もめている時間は無い、ここはルイの言葉をスルーして私の用件を手短に告げる

 

「市街はどうなってる?」

 

街を見てきたのだからどうなっているか知っているだろう?と尋ねるとルイはチャクラドロップを口の中に放り込みながら

 

「1部の悪魔が商売を始めてる。マッカをある程度確保しておけばチャクラドロップも購入出来ると思うよ、悪魔の商売人は人間よりも公正さ。マッカさえ出せば品物は売ってくれる」

 

マッカか……ケルベロスの咆哮で消え去った悪魔の後に落ちていたな。脱出の前に拾っておくか

 

「人間のほうは?」

 

「生き残りは頑丈な建物の中で篭城してるかな?悪魔召喚プログラムをばら撒く事も考えたけど、馬鹿が多いから止めたよ」

 

こんな状況なのに権力がある、金があるで好き勝手している人間は醜くてしょうがない。こんな状況だからこそ、死ぬ気で生きようとする人間には悪魔召喚プログラムを渡しても良いと思うけどねと笑ったルイだが、次の瞬間には真剣な表情をして

 

「市街には結構強力な悪魔が陣取ってる。ベルの悪魔が最有力で、時点で天使が動き始めている。1回街を脱出して、別の場所に向かうべきだよ。ベルの悪魔相手だと君の可愛い楓が死んでしまうだろう?」

 

……一々人をからかうむかつく奴だな。だが実際楓君に死なれる訳には行かないので、ルイの忠告は素直に聞いておくか。少なくとも今の楓君達ではどう足掻いてもベルの悪魔には勝てないのだから、見つかる事も避けて逃げ続けることが必要になるか……

 

「人間側の悪魔召喚師は?」

 

日本には古来から悪魔を召喚し、悪魔を戦って来た者達が居る。恐らく動いていると思うが、それはどうなっている?と尋ねるとルイはうーんっと腕を組んで首を傾げながら

 

「今の所は動きはないね。まぁ今の人間の力量じゃあ、悪魔を使役するのも難しい、実践レベルの悪魔召喚師がいないんじゃないかな?」

 

そうは言うが楽観視は出来ないな、それに楓君達ももし他の悪魔召喚師に出会えば、行動を共にしたいと言うかも知れない。出来れば発見される前に1度神無市を後にしたい所だな

 

「時期を見て悪魔召喚プログラムは更新させて貰うよ。君が何を考えて行動しているのか楽しみに見させて貰う。じゃあね、私と同じくLの名を冠する者よ」

 

そう笑って消えて行くルイ。本来なら私に情報もチャクラドロップも渡す必要が無かったのに態々用意して、情報収集してくれた事に感謝し、隣の部屋で口を押さえているリリムを呼び寄せ私は保健室へと引き返していくのだった……

 

 

 

桃に聞いたが、俺は1日昏睡状態だったらしい……妙な身体のだるさに加えて筋肉痛が酷い、今はベッドに腰掛け体温計で熱を測りながら、久遠教授に差し出された飴を舐めていた。この飴……血の味がして決して美味い物じゃないし……

 

【稀少なチャクラドロップじゃ、MAGが回復するからの。不味くてもがまんせい、ま!ワシらには美味い物じゃがな!】

 

かっかっかと笑うコロポックルにやっぱり人間と悪魔じゃ味覚が違うのか……我慢して舐めきるようにと言われているので顔を歪めながらチャクラドロップを舐める。やっぱり不味いな、これ……ダイレクトに血の味って言うのが辛すぎる

 

「楓、その飴を舐めきったら朝ご飯にするからね!」

 

血の味のする飴の後じゃ、味も良く判らないだろうなと苦笑しながら判ったと返事を返し、早くこの飴溶けきってくれないかなあと心の底から思うのだった……

 

「なんだかなあ」

 

そしてその直後に響いた体温計の電子音に力が抜けて、俺は思わず溜息を吐いてしまうのだった……

 

「ライフラインがまだ生きてるのは本当にありがたいですね」

 

美雪先輩の言葉に頷く、俺はてっきり購買から持って来たカップラーメンとかで朝食を済ませると思っていたのだが、俺が飴を舐め終わると同時に保健室を後にし、家庭科室で料理を作っている桃。ライフラインが生きているからガスも水も使えると言うのは正直かなりありがたい

 

「鮭おにぎりがもうカチカチだから、だし汁を作ってお茶漬け風にするからね♪」

 

「暖かい物を食べれば活力が出るからな。出来れば卵とかで卵焼きとかも作りたいんだが、材料が無いからな。さてさてどうするかな」

 

生き生きとした表情で鍋にだしの素を加え、塩で味を調えている桃と、その隣で家庭科室の備品を見ながら、何を作るかなと呟いている久遠教授を見ていて、俺はふと気になったことを口にしてしまった

 

「美雪先輩は料理しないんですか?」

 

「……私はその今勉強中でして……」

 

その余りに落ち込んだ声に俺は地雷を踏み抜いてしまったのだと悟り。俺も雄一郎も美雪先輩も、桃と久遠教授の料理が完成するまで3人とも無言になってしまい、料理が完成した所で桃と久遠教授が不思議そうに首を傾げたのは言うまでも無いだろう

 

「汁物がダブってしまったが、材料が少ないから我慢してくれ」

 

朝食のメニューは硬くなった鮭おにぎりに刻んだネギとゴマをふりかけ、そこから熱々のだし汁をかけただし茶漬けと、そうめんを味噌汁に入れたにゅうめん。確かに両方とも汁物だが、空腹だしそれに暖かい汁物だ、身体も心も温まりそうなので文句なんて言えない

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

全員で手を合わせてから俺は鮭茶漬けのお椀に手を伸ばす。和風だしのいい香りとネギとゴマの香りで食欲が出て来た。

 

「味噌汁か、当たり前だと思っていたが、こういう状況で味噌汁ってなんか凄く安心するな」

 

「そうですね。当たり前だと思っていましたから」

 

普通に食事をして、勉強をして、遊んで、TVを見て。そんな当たり前が今となってはとてもありがたい物なんだなと今更ながらに実感した。俺は熱いだし汁に息を吹きかけて冷ましながら、ゆっくりとそれを口にするのだった……

 

「それで久遠教授。コボルトはどうやって撃退したんですか?」

 

朝食を終えた所でそう尋ねる。俺自身の記憶としてはコボルトに殴り飛ばされた時までしかなく、どうなったかなんて当然ながら判らない

 

「楓君の悪魔召喚プログラムが暴走して、強力な悪魔がコボルトを倒した。楓君が倒れていたのはその悪魔を使役するだけのMAG不足によるものだ」

 

コロポックルやカソを呼び出すのに使うエネルギーが、悪魔召喚プログラムにMAGと表示されていたのでMAGと呼ぶ事になったと聞いてから、コボルトを倒した方法を聞いたが、俺はそんな事は全く覚えていない

 

「ケルベロスって言うでっかいライオンだったぞ」

 

「恐ろしすぎて私気絶してしまいたいと思いました」

 

雄一郎と美雪先輩の言葉に驚く。ケルベロスと言えばギリシャ神話でも出てくる有名な獣……そんなのが召喚出来たと言うのなら実際にこの目で見てみたかった……

 

「やっぱりケルベロスって三つ首?」

 

「ううん。白い普通のライオンだったよ?」

 

……三つ首じゃないのか……ケルベロスの伝承ってどこで変わってしまったんだろうなと考え込んでいると、久遠教授が軽く咳き払いをして

 

「ケルベロスの事は後でいい。とりあえず今は脱出に向けての話し合いを優先しようか?」

 

その若干怒っているような久遠教授の声に、俺はすみませんと頭を下げ脱出への話し合いに参加するのだった……

 

 

 

朝食の後。脱出に向けての話もまとまり、俺と楓は大学と高校の購買部の倉庫で食料品の確保を行っていた。久遠先輩や桃子にも着いて行くべきだと思ったのだが、今高校と大学には悪魔がおらず安全であり、久遠教授がカソ達よりも遥かに強いリリムと契約していると言う事もあり、力仕事を素早く済ます為に2人で行動する事になった

 

「倉庫の中には結構あるな、食料」

 

「カップラーメンばっかりだけどな」

 

日持ちしない食料は前に購買に来た時に全て回収していた。倉庫の確認をする前に大学の購買部も見てきたが、売り場には何も残されておらず、恐らく大学棟から駐車場に向かい。そこで脱出したのだろうと俺と楓は考えていた、運動部とかのマイクロバスがないのだから、間違いなく脱出しているとそう思いたいという気持ちもあったしな

 

「ダンボールで3つとケースが8つ……まずまずか?」

 

「運ぶのが大変そうだけどな」

 

久遠教授の車が4WDと言う事もあり、荷物は大量に積めるが他の荷物の兼ね合いも考えて数はある程度絞る必要があるだろうか?

 

(バイクは洒落にならんが……)

 

車の確認の時に駐輪場を見てきたが、俺のバイクは悪魔に破壊されたのか、鉄くず同然だった。バイトをして買った物だったので本気で泣きそうだったが、命があっただけ良かったと思うべきだよな……それにこんな状況じゃ乗る事もできないだろうし、仕方ないと諦めるしかないか……そんな事を考えながら楓の後を付いて購買部の倉庫を確認していると楓が振り返り

 

「ラーメンのほうは雄一郎に任せる。俺はマッチとか、蝋燭とかを探してみる。地震に備えて備蓄してあるはずだからそれを探す」

 

楓の言葉に判ったと返事を返し、2人で見つけたラーメンの確認する。するとケース8つの内5つが塩……明らかに売れ残りだな。ダンボールの中っと……蓋を開けるとラーメンのケースが5つ。それで味もバラバラだった事に安堵の溜息を吐く。これで全部同じ味だったら絶望的だもんなと苦笑しながら、ダンボールの横の納品書を確認する

 

「お、これは入庫したばっかだな」

 

俺達が守護霊様をやった日に納品したカップラーメンだ。味はっと……醤油・味噌・シーフードか……

 

「シーフードはあんまり人気で無いかもしれんか?」

 

俺自身はあんまりシーフードは好きではないが、もしかすると好きな人も居るかもしれないな。とりあえずダンボールのラーメンは全部持っていくことにして、ケースのは醤油とカレーを持っていくか。塩は絶対不評だからなと考えていると

 

「けほっこほ!あーくそ、埃まみれかよ」

 

倉庫の中から咳き込みながら出て来た楓に大丈夫か?と尋ねながら荷物を受け取る。長期保存水のケースが2つと乾パンのダンボールが1つ。それと水を濾過するキットに、マッチや蝋燭……サバイバルに必要な物ばかりが揃っていた、やっぱり楓に任せて正解だった。俺だったらここまで見つける事が出来なかっただろうかな

 

「中々いいのが備蓄されてたな」

 

「おう、これだけあれば暫くは安全だろ?それと運ぶのに手押し台車を見つけた。これに乗っけて保健室に戻ろうぜ」

 

担いで運ぶ事も考えたが、台車があるならそれに越した事はないな。俺は持ち出すことに決めた物資を楓が見つけた台車の上に乗せ保健室へと引き返すのだった

 

「久遠教授?何を数えているんですか?」

 

俺と楓が戻ると久遠教授達は既に保健室に戻って来ていて、机の上で何かを数えていた。楓がそれに尋ねると桃子が振り返っておかえりと笑ってから説明してくれた

 

「マッカだって、なんか悪魔のお金で、悪魔の中にも商人見たいのが居るんだよね?ピクシー」

 

【うん、結構そう言う悪魔はいるよ?お金さえ払えば人間にも道具を売ってくれるからね】

 

悪魔から物を買うのか……それはそれで怖いが、これから生き残っていく事を考えるのならば悪魔とか人間とか言っている場合じゃないよな……

 

「母さん、全部で5200枚ですね」

 

5000枚!?見た所金貨っぽいから相当な額になるのでは?と思うのと同時にそんなに数えていたのか!?と思わず楓と共に驚くがコロポックルは

 

【5000枚程度ではそんなに物は買えんの。悪魔を倒せばマッカは手に入る、地獄の沙汰も金次第と言うしの。出来る限りマッカは集めておくと良いぞ?おお、そうじゃそうじゃ、ワシも少し持っておる。足しになればいいんじゃが】

 

コロポックルがそう笑いながらマッカを机の上に乗せる。だがマッカと言うのは相当安い通貨のようだな

 

「ケルベロスの咆哮で大体の悪魔は消滅している。今日は廊下や教室に落ちていると思うマッカを集めよう、脱出準備は時間を掛けても構わない、安全性を最優先するべきだからな」

 

確かにその通りだ、焦って脱出して準備が出来てなければ全滅するリスクが付いて回る。悪魔が居ないのなら、時間を掛けて脱出の準備をする余裕があると言うことだ。

 

「とりあえず高校の1階と2階はある程度調べたので今度は大学棟に向かおうと思います。楓君なら判ると思いますが、母さんの研究準備室にはフィールドワークの際にキャンプする事も考慮して、寝袋やテントなどのキャンプ用品が保管されていますから」

 

キャンプ用品か、そういえば見たな。でもその時はまだ脱出できる段階ではなかったので持ち出すのは保留にしたが、脱出するなら回収しておいた方が良いな。これからどうなるのか判らないのだから供えは多すぎる位で丁度良い筈だ

 

「では大学棟に向かい、脱出の為の道具を集める。もし廊下でマッカや魔石を見つけたら拾う事……それと遺体を発見した場合だが……」

 

悪魔は居なくなった。だが悪魔に殺された同じ高校や大学の生徒の遺体はあちこちに転がっている……ゾンビになる可能性も有るし、何よりも苦しそうな顔で息絶えている同年代を見るのは辛い。久遠教授は俺達のそんな表情を見ながら言葉を続けた

 

「リリムによって1箇所に集めさせた後。カソの炎で火葬を行う、お経などは唱える事は出来ないが……死んでしまった者が天国へ行ける様に皆で祈ろう」

 

久遠教授の悲しそうな声にはいっと返事を返し、俺達は脱出の為の準備を整える為に保健室を後にした……

 

悪魔の犠牲者を発見しただけだが、火葬行った翌日

 

「では街へ出る。最大の目的は生存者の発見および、現在の日本がどうなっているのかの情報収集。最悪の場合戻ってくる可能性も考えておいてくれ」

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

俺達は高校を後にし、街へと向かった。だがそこで俺達を待っていたのは、想像を絶する光景と俺達の希望を打ち砕く絶望の姿だった……

 

 

 




第2章 人に想像されし鬼 チャプター9 崩壊した日常へ続く

次回からは第二章で街での話になります。生存者の話や、悪魔も高校よりも多く強力な者を出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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