雨野景太と天道花憐でニューゲーム   作:さくたろう

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大学に進学した雨野景太と天道花憐のお話。
ゲーマーズSSもっと増えて・・・・・・(懇願)


雨野景太と天道花憐でニューゲーム

 RPGなんかのゲームでもパーティーメンバーが一人から始まるか、それとも強力な味方を携えてスタートかでもゲームの難易度はかなり変わってくると思う。

 

 最近だとソシャゲで自分のほかに強いフレンドがいると序盤の難易度がぬるゲーになったりする的なあれである。

 

 なんでこんな話を唐突にしたのかというと、それは僕が今まさに新たなスタートを切るところだったりするわけで。

 

 

 春。

 

 どこかのラノベ主人公のような、普通なら滅多に味わえない体験をたくさん経験した高校生活も終わり、僕は四月から大学生になる。

 だからそれが新しいスタートと言えばそうなのだけど、僕がさっき言った「新たなスタート」っていうのはまたちょっと別のことなわけで。

 

 じゃあ、それは何なんだよと言われれば、

 

 それはそう――

 

「雨野君? 雨野くーん?」

 

 僕が一人語りに没頭していると、横から心地の良い透き通った声が耳をくすぐる。

 振り向くと、そこには天使――もとい、僕のカノジョである天道花憐さんの姿があった。

 

「て、天道さん、どうかしました?」

「い、いえ、雨野君が一人でぶつぶつと何か言ってたので心配になって声をかけたのですが……」

「あっれー。僕、何か言ってました?」

「ええ……急に天井を見つめ始めたと思ったら、どこかのラノベ主人公のような――」

「はい、ちょっと待ってください。一旦ストップで」

 

 おっと、まずさっきのが声に出ていたのもびっくりだけど、それを天道さんが最初の一文字から完璧に覚えてるのにも驚きでしかない!

 

「天道さん、申し訳ないんですけど、今聞いたことは記憶からまるっと排除してくれると嬉しいんですが……」

「嫌です。私は雨野君の言葉は、一言一句しっかりと覚えておくと決めてるんです! なんなら気に入った言葉はあとで携帯にメモ書きして残してますよ!」

「重い! 僕のカノジョさんの愛が予想以上に重くてびっくりなんですけど!?」

「ひぅっ、そんな……私って重いですか……」

 

 天道さんが僕の言葉に涙を浮かべ、しゅんと落ち込む。可哀想だけど、落ち込んでる天道さんもやっぱり可愛いなぁ……。

 

「あ、いや……今のは別に悪いとかそういう意味ではなくてですね! むしろ天道さんのような素敵な女性に、そこまで好意を寄せていただけるなんて大変喜ばしいことと言いますか!」

 

 そこまで言うと、さっきまで落ち込んでいた彼女の頬はトマトのように真っ赤に染まっていて。ああ、これは照れてくれているんだなぁと僕でもわかってしまう。

 

「そ、それはご馳走さまです……」

「僕食べられちゃうんですか!?」

「それはもう、私はいつでも雨野君を食べちゃいたいと思っていますが?」

「急に真顔で何言っちゃってるんですか!? 嬉しいですけどまだ初日ですよ!?」

 

 そう……大分話は逸れちゃったけど、さっきの「新たなスタート」というのは、僕の目の前にいる彼女、天道花憐さんとの同棲生活の始まりのことで。

 

 去年は天道さんとの時間を減らしてまで勉学に勤しんだ結果、僕は念願叶って大好きなカノジョと同じ大学に進学することができた。

 

 進学先の大学がお互い実家からは距離があるため、当初は一人暮らしする予定だった僕たち。けれど、「どうせ二人とも一人暮らしなら一緒に住んでしまえばいいんだわ!」という天道さんの素敵な提案があり、僕がその提案に賛成した結果、今日に至る。

 

「……長かったですね」

 

 ふと、今日までに至るまでの日々を思い出し、僕はぽそりと呟いた。

 高校二年生の時、天道さんと出会い、それまでの僕には考えられなかったようなことをいろいろと体験して来て。

 楽しかったことや辛かったこともあったけど、今はその一つ一つが僕にとってかけがえのない思い出だ。

 

「そうですね」

 

 どうやら天道さんも似たようなことを思ったらしく、僕の言葉に柔らかな声で頷いてくれる。

 

「その、ふつつかものではございますが、これからも末永く宜しくお願い致します」

「ふふっ。いえいえ、これはご丁寧に。こちらこそ幾久しく」

 

 僕の言葉であの頃を思い出したのだろう天道さんが、くすくすと笑みを浮かべながら当時と同じように答えてくれる。こんなちょっとしたやりとりだって、天道さんとなら僕にとっては幸福なひとときだ。

 

 そんな感じで他愛もない会話を続けていると、気づけば空が淡い朱色に変わっていた。

 

「っと、もうこんな時間ですね。あちゃー……まだ全然片付けが終わってないや」

「ちょっとお喋りしすぎちゃいましたかね……」

「天道さんとこうしていると、楽しすぎて時間が経つのをすっかり忘れてしまいますね」

「っ!? あ、雨野君はまたそんなことを……ずるいのだから」

「え、僕何かまずいこと言いました?」

「な、なんでもありません! 私、夕飯の買い出しに行ってきますね!」

「え、それなら僕も一緒に――」

「まだ部屋の片づけも少し残っていますし、雨野君はそちらの方をお願いします!」

 

 僕の返事を待たずして、シュタッと外出の準備を始める天道さん。

 玄関に向かった彼女にいってらっしゃいと言おうとすると、扉から天道さんがひょっこりと顔を出して、

 

「雨野君、何か食べたいものはありますか?」

「僕は天道さんの手料理ならなんでも美味しく頂きますよ」

「それでは夕飯は私にします?」

「じゃあそれでって――――はい?」

「ふふっ冗談ですよ」

 

 天道さんは僕の反応に少し意地悪そうな笑みを浮かべると、こちらに近づいてきて――

 ――彼女のぷにっとした柔らかな唇が優しく僕の頬に触れたのだった。

 

 そして、彼女はその場から一歩下がると、僕を見つめ、蕩けるような優しい声で、

 

「それじゃ、いってきますね、あ・な・た」

「――――」

 

 ………………おっと、危ない危ない。今僕、危うく魂が成仏しかけちゃったよ。

 あれ? もしかして僕たち、カップルじゃなくて新婚夫婦だったりするのかな? あまりに今の僕が幸福感で溢れすぎていて、自分の現状がまったくわからないや。

 

 部屋で一人になった僕は、一度頬を軽く抓ってみるけどやっぱり痛くて。

 やっぱり現実なんだなぁなんて、天道さんの唇の感触が微かに残る右頬を触れてみる。

 ……思った以上に僕の頬が熱を帯びていてびっくりした。

 

 

 

 

 天道花憐

 

 

「(きゃぁぁあああああ! 私ったら雰囲気に流されてなんて大胆なことを……あ、あれじゃまるで新婚ホヤホヤの夫婦のようじゃない!?)」

 

 新居であるマンションを出たところで、先ほどの行為を振り返って私は頭を抱える。 

 

「(どうしよう……あ、雨野君にはしたない女の子とか思われたりしてないかしら? うう……同棲初日だからといって、嬉しすぎて舞い上がってしまっていた自分が恥ずかしい……)」

 

 でも……。

 一般的な大学生カップルは、私たちよりもたぶんずっと先を進んでいて。

 そうであれば、さっきのように積極的なアプローチをするのもありなんじゃと考えたりするわけで。

 別に、今のような健全な交際が嫌というわけではないけれど……。雨野君を世界で一番愛している私としては、もうそろそろ本気で「雨野君に押し倒されたいなぁ……」なんて少しばかり、いえ、本音を言うとかなり思っている。

 まぁでも、雨野君は普段は大人しいけど、いざというときは男性の中でもかなり男らしい一面があって。そんな雨野君だからこそ、私は彼に恋していてるわけなんですけどね。

 

 ならば、今の私ができることといえば、私の愛情がたっぷりとこもった手料理で雨野君のハートを鷲掴みにすること。

 そして、そのまま彼と同棲初日である今夜、心も身体も一つに……。

 

「ふふふ……ふふふふふ……」

 

 そんな妄想を抱きながら、私は近所のスーパーへと歩き出した。

 

 

   *   *   *

 

 

「いやぁ、天道さんの手料理、どれも本当に美味しいですね!」

「そ、そうかしら、ありがとう雨野君」

 

 私の作った手料理を屈託のない笑顔で美味しそうにパクパクと頬張る雨野君。

 そんな雨野君がとても愛おしくて……。

 幸せそうにニコニコしている彼を見ていたら、私まで幸福感に包まれていく。

 

 そうなると、さっき立てた私の計画なんてどうでもよくなってくるわけで。

 無理に一般的なカップルみたいにする必要なんてない。私たちは自分たちのペースで、この関係性を一歩一歩進めていけばいいのだから。

 

 

「ご馳走さまでした! ふぅ……本当に美味しかったです」

「ふふ、お粗末さまでした」

 

 満足げな様子で一通りの料理を食べ終える雨野君。そんな彼を見ると、私も自然と笑みがこぼれる。

 

「あ、そうだ天道さん」

「はい、どうかしました?」

「実はですね、昨日買った新作ゲームがありまして……。片付けが終わったら天道さんとやりたいなと思ってたんですけど、良かったら一緒にやりませんか?」

「いいですね、ゲーム! 私たちゲーマーですものね、やりましょう! 今すぐに!」

 

 

 さっそくゲームを準備して、テレビの前の置いたソファーに二人並んで座り、ゲームを始める私たち。

 あまり大きいソファーではないので、二人座るとお互いの肩が触れ合うくらいには密着してしまう。

 

 横に座る雨野君からは引っ越しで身体を動かしたこともあり、汗の香りがほんのりと鼻孔をくすぐってくる。

 

「(だ、だめよ天道花憐! これくらいのことで理性を失いかけるなんて、さっき自分たちのペースでと決めたばかりじゃない!)」

 

 こんなことでは、今夜にでも雨野君の寝込みを襲ってしまいそうな内なる私を必死に押さえつける。

 

「天道さん?」

「な、なぁに? 雨野君?」

「いえ、なにか辛そうな顔をしていたので……。もしかして疲れてますか? すみません、僕としたことが大切なカノジョである天道さんの体調が優れていないことに気づかないなんて……」

「んぐふぅ……!」

「天道さん!?」

 

 あ、もうだめだ。このままでは本当に私、今夜雨野君の貞操を奪ってしまう。

 

「私……決めました……」

「えっと、何をですか?」

「今日から私、夜は拘束衣を着て過ごすことにします」

「いきなり予想もしなかったワードが飛んできた!?」

 

 私の言葉にギョッとする雨野君。

 

「雨野君がいけないんですよ?」

「しかも僕のせいだった!?」

「そうです……雨野君が魅力的すぎるのがいけないんですっ!」

「何か全然意味がわかりませんが凄い褒められてる!? そ、それなら僕も言いますよ! 天使なんてものが本当に実在するなら、それこそ天道さんのような方だと思えるくらい魅力的な女性だと思いますよ!」

「ぐはぁぁああ!」

 

 これが格闘技であれば、今の雨野君の攻めで私は一ラウンドK.O負けを喫していたことだろう。

 雨野君からの賛辞に、私の頬が急激に熱くなる。きっと、今の私の顔は燃えるように赤く染まっている、はず。

 

「や、やりますね、雨野君……」

「天道さんの方こそ……」

 

 そんな他人から見れば、「何しているんだこいつら?」という光景なのかもしれないけれど……。

 雨野君とこんなふうに一緒に居られること。

 これ自体が私にとって何事にも代えがたいもの。

 大切で、愛おしい時間。

 好きな人と一緒にいられること。それが一番の幸せなんだと改めて実感できる。

 

 

 二人で軽口を言い合いながら、ゲームをしていてどれくらい経っただろう。

 ゲームに没頭していた私の肩にトンとなにかが寄りかかって。

 

「…………」

 

 見ると、引っ越しで疲れていたのか、雨野君がすやすやと気持ち良さそうに眠りについていた。

 その寝顔がまた非常に可愛く、母性を擽られるというか私の理性を吹き飛ばしにきているというか。

 とりあえず、この至近距離に天道花憐特攻が付与した破壊力抜群の雨野君の寝顔があるのはまずい。

 

「あ、あま――」

「……てん、どうさん……」

 

 起こそうと呼び掛けたところで、寝言だと思うけど雨野君に呼ばれてドキっとしてしまう。

 

「(雨野君、一体どんな夢を見てるのかしら……ふふ)」

 

 私は幸せそうに眠っている雨野君を起こさないよう、彼の身体を支えながらゆっくりと彼の頭を自分の膝の上へと誘う。

 今はゆっくりと寝させてあげましょう。どうせなら、膝枕、初めては雨野君が起きているときにしてあげたかったけれど……。

 

「うーん……すぅすぅ……」

「ふふっ……」

 

 愛しい彼の頭を優しく撫でる私。はぁ……本当雨野君のこと好きだな、私。

 

「(起きたら雨野君、一体どんな反応をするのかしら)」

 

 と、ちょっぴりこの後起きたときの雨野君の反応が楽しみで、私はこのまま彼の寝顔をしばらく見守ることにした。

 


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