GM(ゲームマスター)は異世界に行ってもGMのようです。 作:桐生 勇太
「せっかく設定があるのに出さないのもったいなくない?」と思い立ち、最終回のその後の物語を舞台にした「未公開話」の場を借りて登場していただきます。基本的にバトル描写は絶無の予定ですのでそこだけご容赦ください。
まさしく日常パートその物。
※現在は未公開話を不定期で書き続けますが、現在書いている三部作が終わったら、この作品「GM(ゲームマスター)は異世界に行ってもGMのようです」の『真の最終章』を書かせていただきます。その時までお楽しみに。
「じゃあ、また後で会おう。先に広間に入っていてくれ。私は少し野暮用があるから」
そう言われ、私は一人で広間に立っている。
針の筵とまではいかないけれど、誰もが私を遠巻きにしてひそひそと話をしている。しかも、こちらを見て少し話し、馬鹿にしたように笑う人さえいた。
「お嬢様!」
再び真っ暗な気分になっている私を呼ぶ声がした。
「え…シャナ!?あなた、どうしてここに?」
声をかけてきたのは、私付きのメイドのシャナだ。本来であればこういう社交の場では使用人は来るべきではない。飽くまで貴族たちのための場なのだ。
「話を聞いて、ずっと探しておりました……何方にいたのですか!?」
少し鼻声になりながら、うるんだ瞳のシャナが私を抱きしめた。
「お辛かったでしょう………今夜は飲みましょう!いつか開けようと思っていたワインがあるんです!」
「ああ………そう………まだあなたがいたわね。ありがとう。シャナ」
まだ私には私を必要としてくれる人がいた。暗くなっていた心がまた少し軽くなった。
「お嬢様、これからどうするおつもりですか?」
「取りあえず、噂の勇者王様を待ちましょう。その間にさっき会った方も来ると思うわ」
「さっき会った方?」
「ええ、優しい人だったの………」
それからしばらく黎斗様の事を話していたが、黎斗様は現れなかった。
そうこうしているうちに、先に勇者王の登場の儀式を知らせるために国王様が玉座から立ち上がった。
(お嬢様、勇者王とは、いったいどんな方なのでしょう?)
(邪竜と正面から殴り合ったという逸話もあるし、きっと背丈は巨人ほどあるに違いないわ)
(噂によれば、いろいろな国の子供を攫って自分の国を作ったとも聞いています)
(力ばかりで、知能は高くないのかしら)
失礼なことをささやき合い、二人でクスと笑う。ドキドキして待っていると、国王様の後ろのカーテンから黎斗様が出てきた。
「え?何であんなところに………?」
そして、黎斗様は驚くべきことを話した。
「国王様に直々にご紹介していただき、感激しております。皆様、私、ただいまご紹介を受けました、勇者王ゲンム改め、檀 黎斗と申します」
「えぇ!!?」
優しい笑顔。柔らかい物腰、よく通る声。洗練された動き。シュッとしているけど、しっかりと筋肉のついた体。そして、黒髪ではあるものの、端正な顔。間違いなく黎斗様だ。
「お、お嬢様………?」
ふと我に返ると、シャナが私を驚いた顔で見ていた。
あ………しまった。こんなに人がいる中で大声をあげてしまうなんて………穴があったら入りたい。
驚いている間に黎斗様は簡単な挨拶を済ませたようで、広間で他の貴族のご婦人たちに挨拶をしている。
「時に王、今日の子の社交は確か、婚約者同士もしくは結婚相手と踊るのでしたかな?」
妙にもったいぶった言い回しで黎斗様が国王様に聞き、国王様もそれに頷いた。
「左様。それ以外の者と踊るということは、婚約破棄、離婚、浮気を表す」
何故そんなことをわざわざ聞くのでしょう?その程度なら、たとへ知らなくても事前にそういった知識の確認があるはず。私はただ「?」と思うだけだった。
「そうですか。どうも。ああ王、心配せずとも大丈夫です。元々は挨拶を済ませたらすぐ帰るつもりでしたが、気が変わりました」
そう言うと、黎斗様は私を真っ直ぐ見て、少し悪戯っぽく笑いながらこっちへ歩いてきた。
私は思い出す。「君は、もし私が結婚を申し込んだら、受けてくれるかい?」あの言葉を。
黎斗様が私目の前に立ち、膝をついた。
この例には二つの意味がある。一つは、王族への挨拶。つまり最上級の礼。二つ目は、見初めた女性への礼。「この場であなたが一番美しい」と言う意味。
「アルテお嬢さま、どうか私と婚約してくださらないでしょうか?もしも私を受け入れてくださるのなら、この手をどうか………」
頭を下げ、恭しく右手が私の方へ延びる。
周りから驚きや嫉妬、黄色い声が上がった。
私は………
「う………あ………えっと………」
男性にこんなふうに声をかけられたことが無いため、恥ずかしさと緊張で硬直してしまった。
「お嬢様。自分の心のままにすればいいのです」
シャナに励まされ、私は決めた。
伸ばされたままの手を握った。
「わ、私も、嬉しゅうございましゅ!」
………噛んだ。盛大に。
見ると、黎斗様の肩が微妙に震えている。
………ひ、酷い。人生の勇気をすべて使ったのに………
「すまない。ものの見事に噛んだから………フフ」
優しく微笑まれ、胸が早鐘をつく。
「もう………これから、宜しくお願いします。黎斗様」
「ああ、一応言うが、私は妻が六人いる。だが、一人残らず愛しきる自信がある。それでもいいかい?」
答えは決まっている。一番にはなれないけど、同率一位だ。
「はい!あなたの傍にいさせてください」
「よし、踊ろうか!」
黎斗様が私の手を握り返し、引っ張った。私もそのまま踊ろうとするけど………
「認めないぞ!」
急に大声が響いた。
見ると、鬼のような顔になったかつての婚約者、第一王子のレオがこちらに足早に歩いてきていた。
お読みいただきありがとうございました。
同時に二つの小説書くの大変………