「詩乃、まだ釣りする?」
「面白くなって来たとこ」
やはり浮きから目は離さない。
まぁいいや楽しんでるならそれで。
「俺昼の準備あるからさ、終わったら呼びにくるよ」
「ん」
しかし時間は既に昼時、俺はぶつくさ文句の多い親父に変わって火起こしの準備をしないといけない。
詩乃の相変わらず浮きから目を離さぬ返事を背に石を探す。
ウチはキャンプの時はグリルなどは持って来ず金網だけ持って来て、石を組んでかまどを作って料理とかしている。
親父曰く。
「風情があっていいじゃないか」
らしい、わからなくもないからいいけどアンタやらなくなってからは俺がやんないといけねぇんだよ。
思い返せば俺は親父に影響を受け過ぎたんだろう。映画とか独り言でネタ言っちゃうのも丸々親父の趣味だし。
バーベキュー用の場所で集めた手頃な石を組み上げる、比較的角が丸い川の石ではかまどを作り辛いが結構テトリスとか嫌いじゃないし、こういう細かい作業は好きだ。
少しすれば30cm位でそこそこの広さがあるかまどが作られた。我ながら会心の出来。
さぁ火起こしだ、かまどの真ん中に丸めた新聞紙を幾つか置く、その上に細かい炭を積み上げ最後に大きな炭を立てかける。
準備はできた。
しかし火種がない。
流石のローテク一家でさえ着火はマッチを使う、それでもローテクに近いが。
母さんに聞けば親父が使ってたらしく親父からマッチを徴収して来た。
やっとこさ着火出来る、俺はこの瞬間が一番楽しい。
かまどに戻るとそばに置いてある丸太には詩乃が座っていらっしゃった。
「あれ?釣りは?」
「なんでいつの間にかいなくなってるのよ」
「いや言ったんだけど?」
「聞いてないわよ」
理不尽、しかし伝達ミスがあった場合責任は伝達をした方にあるため理論上は俺に責任がある。
「・・・聞いてないわよ」
しかし詩乃の目が泳いでいる事を鑑みるにしっかり覚えてはいるようだ、まぁあんだけ夢中になってたら仕方ないよね、別に可愛げがあるだけマシだよ。
「ほい、下がっといて」
マッチを2本取り出し、纏めて火をつけ新聞紙へ火を近付けるとゆっくりと新聞紙に火が移り炭へと伝わり火が起こる。
そういえばうちの高校では二年の時にキャンプ合宿がある、そこで俺の班では俺が火起こしをしたから困ることはなかったが、他の班は火を点けれず得意な先生に頼んでいた事があった。その先生が張り切ってて、頼まれるたびにニッコニコと新聞紙はこうだ、着火剤はダメだ、薪は細いのから入れてけ、だのうんちくを言いながらやって生徒の皆からモテモテだった。
なんか自然と触れ合い感受性を高めるとか皆で何かをすることで連帯感を作るとか色々言ってたが他先生方は固まって班を組み楽しんでたから結局のところ楽しいからやってる。と言う事なんだろう。
親はテントから出てくる様子はない、時間かかるしいいか。
色々詰め込んできたコンテナボックスを漁りキッチンペーパーと竹串を取り出す。
キャンプに来たらこれを食え。
『鮎の塩焼き』
以下キューピー。
まずは詩乃が持って来た鮎の下処理を済ませ串に刺す、この時身が回らないようにグネグネと曲げて串を通す。
ヒレに塩を多めにつけて遠火にかけて20分。
かまどの周りには七匹もの鮎が並んでいる、まぁ残ったら俺が食うからいいんだけどね。
「はい、終了・・・あ"あ"腰痛え」
しゃがんだまま作業をしていたため急に立つと腰がバキバキと音を鳴らし酷使させられたことの抗議を申す、そんな腰をゴスゴスと叩きつつ詩乃がボーッと俺の作業を眺めている丸太へ腰を下ろす。
「慣れてるね」
「まぁよくやってたことだし、慣れれば簡単なもんだよ」
「へぇ毎年やってたの?」
「こっちに来た年だけやらなくてそれ以外やってた」
「前はどこいたの?」
「福岡、東京来たらビルは高いし人も多いしでクリスタルキングだった」
「あぁ、でもあの歌詞って東京じゃなくて福岡の街のことでしょ?」
「なんで詳しいんだよ」
「どこかで聞いただけ、そんな詳しくないわよ」
野球して歌が歌えなくなるという謎のグループ、そのせいで一発屋みたいに言われてるけど続いてたら声質的に売れてだろうな。
「ねぇねぇ、午後はどうする?」
「適当に川遊びでもやろうか、ほんと適当に」
「そうね、何か教えてよ」
それから少しして焼けた鮎をみんなで食べた。
「うぅん、私には合わないわね」
詩乃は内臓が苦手なようだった。
俺はというと。
「なぁ詩乃、その骨食べないのか? がっつくようで悪いが俺の大好物なんだ、くれないか?」
「え、いいけど?」
食べた後に残る骨はカリカリになるまで焼き頭から食べる。
香ばしくて好きなんだ。
詩乃からは怪訝な目で見られていたのか悲しかった。
午後。
特にやりたいこともない、先ほどまでは水切りをやっていたが詩乃が諦めたことでやめた。
そのため今はやる事なく適当に歩き回ってる。
「たまにはいいかもね、こういうとこ来てのんびりするのも」
「そうだな、流石に一週間とかはダメだけどな」
「やったことあるの?」
「一人で流星群見るついでに行って見たけど2日で帰って来た、やってられん」
「その無謀な考えがどこから出たのか知りたいわよ」
「まぁ若気の至りだよ、帰って家の快適さを知ったとき文明というものが理解できたよ」
「ふうん」
「エアコンとかゲームとかよくやってるよ人類」
「へぇ〜」
詩乃はもう興味が無くなったようで返事も適当になっていた、俺も別にそれ程ペチャクチャ話さなくたっていいからしばらく二人で歩き続ける。
足元は石ではなく草が生えており、川べりから水中を覗くと腰程度の深さの川に魚や水草が漂っている。
夏の熱気で上がった体温には水の冷たさが気持ちいい。
「ねぇ暑くない?」
「ん、まぁちょっとな」
かがんで川に手をつけていると唐突に詩乃が尋ねてくる。
暑さとか今更だが何で今?
「詩乃もどうだ、涼しいぞ?」
と呼びかけた時、背後から衝撃が走る。
「そい」
「テメッ!?」
詩乃が足音で側に寄って来てたことは知っていたが俺のケツを思いっきり川の方へ蹴り飛ばしていたことは意外だった。
ほぉ、そうくるか。
一応遠慮してたんだがお前から来たというならば俺だってやってやろうじゃないか、水遊びでキャッキャウフフとか趣味じゃねぇがやってやろうじゃねぇか。
よろしい、ならば戦争だ。
ケツを蹴られたことで一回転した俺の頭の中はそんな考えだった。
だらけ過ぎかもしれません。