またも同じ手だが割れた窓で通りを伺うとやはりシノンがこちらを見ている、先ほどとは違い少し近づき距離は30mと言ったところか。
このビルドは足はそこまで早くないが遅くもない、この距離を走り抜けて二発撃たれるくらいだろうか、見事に死んでる。
装備を外せば少しは変わるためチェストリグとM14を地面に置いておく、このまま死ねば確定ドロップとして無くなってしまう絶対死ぬわけにはいかない。
装備はUNICAのみだがやる事はほとんどいつもと一緒の事。
はじめに数発盲撃ちで頭を下げさせUNICAをホルスターへと直し消火器を持って急いで研究室から飛び出す。すぐにシノンは頭を出しこちらに狙いをつけるが俺は避けずに消火器をシノンめがけ投げつける。
それをシノンが撃ち抜くと真っ白の消化剤が通路に飛び散り簡易的な煙幕と化す、その中に身を隠せば弾は飛んでこない、煙幕から俺が出た時が勝負。
煙幕を抜けると勿論シノンはこちらを狙っている、距離は10m。確実にやられる距離。
しかし今回は安心してる、シノン(本物)には予測線を隠すためトリガーからは指を離せと口すっぱく言ってきた、たがこのNPCはしっかりと指を掛けてるため予測線がガッツリ見えている。
狙われているのは頭、細かく揺らせばNPCは狙いを定め切れず撃てず仕舞い。
UNICAを数発撃ちノックバックで体をよろめかせケンカキックで壁に蹴りとばせばシノン(偽)の体力は四割を切る、壁に寄りかかったまままたもSRを構えるがこんな距離で使っても只々不利、手を伸ばし銃身を掴み引っ張るとシノンは銃を離しバックサイドホルスターからG18を只々引き抜くが手遅れになっており、俺はその手を掴んで大外刈りで地面に叩きつける。
最後にG18を持つ手を脇で固め首を膝で抑えれば終了。
「手間ぁ取らせやがって」
めんどくせ。
これがこのダンジョンのギミックか? 確かに他の敵弱かったけどさ、なんて陰湿な・・・。
膝下でもがくシノンの頭をUNICAで撃ち抜けばシノン(偽)は光となって消えてゆく。
悪趣味やなぁ友人殺させるとか。
思い返すはBF時代のフレンド。
いつの間にか敵側に入ってて戦闘ヘリで蹂躙してくるフレンド、ロッカーでエアバースト撃ってる奴がいて誰かと思えばまたもフレンド、対空ランチャーされて誰かと思えばフレンド、敵陣奥深くでクソ芋スナやってる奴に頭抜かれて誰かと思えばフレンド。
全くもって悪趣味やな。
そう昔の思い出に浸りながら階段を降りる、だいぶこのダンジョンも降りてきた、そろそろそういう奴が出てくるのでは?
先程置いてきた装備は既に付け直している、やはりこの重さが心地いい。
階段を降りた先には明らかにこれまでと違う風景が広がっていた。
だだっ広い広場、しかし人工物であるという証明に足元にはタイルが貼られてある、そして所々には遮蔽物として使え、と言った配置のコンテナ。
そして何よりも広場の奥ではこれまでのエネミーとは一線を画す巨大さのモンスター、ぱっと見メトロイドフュージョンの最初のボスみたいな印象を受ける。
そいつはこちらに視線を向ける事なく壁に向かって攻撃を続けていた。
攻撃の先を辿ればそこにいたのは水色の髪をした狙撃手。
今度は偽物でないことを祈る。
見た様子シノンの場所は安全地帯、ハメじゃねぇか。
うちのシマじゃノーカンだからと言うつもりはないしむしろ奨励させるがこう見るとなんともまぁ滑稽なことで。
ボスがどれだけ攻撃してもシノンには攻撃が通らず、シノンは一方的に攻撃を続けている、ボスが口からビームを出すがシノンは体を動かすことなく射撃を続けている。
足元には小型のエネミーが湧いておりこれまた壁に向かって進み続けている。
俺がボーッとそんな事を考えていると一気に数件のメッセージが届く。
送り主はシノンだった。
ここはメッセージなどが送れないよう制限されているんだろう、そうしなきゃあの偽物トラップもすぐに気づかれるだろうし。
「ねぇどこ?」
「早く来て」
「助けて」
「やっぱいいや」
「勝てそう」
「ひま」
「みてる?」
「おーい」
「ばーか」
「ヘタレー」
「童貞」
「まじひまー」
「遅いわよ、何やってたの?」
メッセージボックスを開くとそれまでの過程がよくわかる。
ボスと戦い始めて俺に助けを求めたが自分の位置が安置だと気付き気が楽になってゆっくり撃ち始めて飽きて来て俺に暇つぶしがてらメール送ってた。
しかしそれも飽きて少しボスに攻撃して俺が入って来たのを見つけて改めて送り直す、と。
「可愛い女の子と楽しんでた」
そう送信すると足元から銃弾が跳ねる音がした、そしてまたもメッセージが届く。
「何やってたの?」
ふぅ、自分の気にいる答えじゃないと文句を言うとは面倒な子だ。
「お前のドッペルゲンガーと戦ってました」
チューン。
「マジだって」
「後で話聞くからちゃんと教えてね」
そんなやりとりをしつつ、シノンはボスの攻撃に動じる事なく攻撃を続けている。
俺は攻撃する事がないためコンテナに寝転び待機だ、下手に撃ってヘイトこっちに向けたらシノンの邪魔になるだろうしめんどくさいし、俺としてはシノン(偽)に勝った段階で今回のクエストは終わったようなもんだ、それまでもトラップや敵の襲撃に気を払いながら進んでた事で精神的な疲労がある。
コンテナの上で寝転ぶと一気に疲労が来た事で初めて自分が疲れていることに気付く。
ボスの体力は既にあと一割程度、残弾が幾らあるかわからないが元からG18しか使ってないためほぼマックスの状態のままだろう、あんだけあればどんなボスでも倒せるだろう、SRの弱点特攻と元の威力じゃ理論的に倒せんやついないだろうし。
コンテナの上でダラダラとスケジュール帳やTwitterとか見ているとガラスの割れる音が響きボスが倒されたと気付く、ボスを見れば頭からじわじわと粒子になって消えていっているのが見える。
「終わった?」
「終わった」
メッセージを送れば淡白な返事が返ってくる。
「じゃあ帰ろう、もう疲れたし現実で色々予定あるしよ」
「急ぎですか?」
「早急って訳じゃないけど」
スケジュール帳を見てキャンプ前に言った秋田行きもいつ行くかとか決まってないことを思い出した、それの予定立てが一切進んでない。
早めに予定立てとかんと安心出来ない。
しかしシノンからは意外な返事が返ってくる。
「ちょっと遊びませんか?」
はて、遊びとな?
「何の遊び?」
「スナ勝負」
ここまでメール
「勝てるか!!」
メールを見た瞬間シノンに向け叫ぶ、こんなフェアじゃない勝負ビックリだよ、ビルドもそれ用の物じゃねぇよ。
ここからもメール
「いいじゃない、ここからはワープするだけだしドロップも勝ったほうが拾ってくれればいいし」
「骨は拾ってくれよ・・・」
「じゃあスタートで」
おい、と思った瞬間俺の頭に予測線が通り、俺はコンテナの上でダラダラと寝転んでた体を転がしコンテナの下に隠れる。
「不意打ちダメだろ」
「その気になってくれたでしょ?」
「殺す」
「どうぞ?」
俺は手を振ってメニューを消す、あの娘の気まぐれに付き合って来たが今日はとびっきりの奴だ、虫の居所が悪いのか?
飛びつかれてたしな・・・つまらん。
今回は様子を見れるような物は落ちていないがシノンがどこにいるかはわかっているから問題はない。
そうは言っても様子が伺えないのは何とも不安な物だ。
屈んだまま隣にあるコンクリートの壁に駆け抜ける、まだ射撃はない。
シノンも戦闘後で弾は少ないだろう、撃つ時は殺されるとき。
チラリと頭を出して高台の様子を見る・・・。
その瞬間高台から光が瞬く、マズルフラッシュと気付いた俺は反射的に柱へと身を隠すと同時に柱へ衝撃が走る、その衝撃はいつものFR-F2のような軽い衝撃ではなく、柱の一角が砕け散るほどの威力があった。
は?あいつ何持ってるの?
一瞬では理解が及ばず柱の破片を呆然と眺めていた、しかし元々のクエスト内容を思い出して合点がいく。
あいつ一発ドロップさせやがった。
何だこのゲームは、顔に応じてドロップ率とか変えてるのか?
俺としちゃめんどくさかったからちょっといじった程度のモブ顔だからドロップもモブ程度ってか?
このクソ運営が!
再度柱へ衝撃が走る、着弾ど同時に爆発したかのような音と衝撃が走る、多分どこ当たっても一撃死の威力を持っているんだろう、そら対物だから仕方ねぇか。
いつまで持つかわからない柱から元のコンテナへ滑り込む。
新しい銃の為、弾数も把握出来ない。
俺は細かくコンテナを移動して行く、そして三個目のコンテナに付いてすぐに反転しACOGサイトを覗きシノンを探すとすぐに見つかる。
持っている銃は、ヘカート!?
驚きつつも数発射撃を加える、今更だがこのゲームの面倒なところが予測線の存在と着弾がランダムなところ、数値化されてもおらず射撃時のブレというわけでなくただ狙いをつけてもブレているところ。
これの解析が進んでおらず何が原因でブレるのか、弾道予測線は銃口の向きに影響されるのかなど全てが謎、呼吸をゆっくり行えばブレも軽減されるらしいが0にはならない。
そのため現状は全てランダムという結論に行き着いてる。
そしてその影響は如実に現れた。
俺が撃った初弾は弾道予測線通りシノンの肩に当たる、そしてその後も予測線が通りシノンから外れシノンは一発で俺を仕留める。
俺も色々検証とかやってみようかな。
システム外スキル(バグ技)
格ゲーマーとヌケボープレイヤーなら色々見つけれそう。