一人の少年が、目の前の何かを守ろうとする話ß 作:青猫ハマト
「あの子には悪いけど、記憶は消させてもらおう」
男が本を開く。
何分かしてある項目を見つけた男はその場所を指でさっと一振りする。
しかし、
「...どういう事だ。消えない!」
何度も何度も指を振る。
しかし、彼の軌跡の文献は消される事はなかった。
予想外の事に混乱した男は、一旦冷静になろうと座り込む。
男の目の前が光り出す。
そこに女性が現れた。
まるで、光そのものであるかのような。
まるで、美しさの根源であるかのような。
白く美しい天衣に相対する黒く、しかし美しい髪飾りがこの上なく似合っているように思えてくる。
「なんでこんなところにお前がいる?」
男は、すこし不機嫌そうに女に問いかける。
女は、男を嘲るように笑いながら答えた。
「いえね。最近、特に目立ったこともないじゃない。だから...暇潰しにちょっと遊んでもいいんじゃないかしら?」
男はその言葉で察した。
「お前が、やったのか?」
「そうよ?悪い?」
ふざけるな!心のそこから男はそう思った。
男は暇潰しで義務を潰すような真似をした女に激怒する。
「...どう責任を取るつもりだ」
「責任?そんなの無いわよ?」
バカな。こんなことをして、あの方が黙っている訳がない。
「ああ、そういえば。天命神様...死んだらしいわよ」
「...ッ!んなッ!どういうことだ!」
「どういうことも何も。死んだ。ただそれだけよ」
「違う!変わりは!?誰が変わりを務めるんだと言っている!」
天命神。
万物を創造し、名を授けた神。
時空間を創り、世界を創り、宇宙を創り、星などの生命体を育てる場を創り。
全てを創造してきた神であり、全てを自身の力のみで支えようとした神。
その神が死んだ。
その事実が男に衝撃を与えたのはいわずものがな。
混乱に混乱を重ねた男は、知ることを優先する。
「ああ、替えは居ないわよ」
「...何だと。では、どうやって。誰が支えるんだ。この膨大な世界を」
「世界は消える、でしょうね」
「お前は、お前は何とも思わないのか!あの方が創り出した軌跡を残すことなく消そうと!そういうことか!」
男はついに怒りだす。
「フフッ。替えが居ない理由、分かる?」
「相応の神が居なかった、のか?」
「私が殺したの」
最初、男にはその言葉の意味を読み取ることが出来なかった。
こいつは何を言っているんだ?
冗談なのか?
「冗談じゃないわよ」
彼の心を落ち着かせる隙を与えずに、次々と衝撃の事実を伝える女。
そして、今にも頭がパンクしそうな男。
「理由?ああ、心配しないで、貴方の言うように軌跡を残して上げるから」
まるで、理由を述べておらず、意味を持たない言葉をただただ伝える女。
「じゃあね。貴方で最後だから」
「ま、まま待て、何だ、何なんだ。最後、さ、最後って、のは、何だ。」
「貴方は知らなくて良いわ」
ここになってやっと男は気付いた。
彼女の神力が異常であることに。
彼女の目的は神を殺して神力を奪うことだった。
何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。
男に考える隙を与えないかのように彼女は鎌を振り下ろす。
神界にて、ただ一つの悲鳴が響いた。
最後の悲鳴が。
彼が目を覚ますと、木が見えた。
起きて辺りを見回す。
緑、茶色。
その二色で塗られた眼前の世界は、森林のようだった。
「つまり、これは。...異世界ってことで、いいのかね?」
自分の身体を見回す。
傷は無いし、とくに痛みもない。
無事を確認した彼は、辺りをくまなく見回す。
一先ずは大丈夫そうだ。
さて、どうしよう。
テンプレなら、ここで街か何かを見つけて、ギルドに行ったりなんたりする訳だ。
とはいえ、ここで妙に動き回れば、街に着く前に餓死するのが関の山だろう。
とりあえず、座って考えようとしたその時だった。
ガサッ。と音がする。
嫌な気しかしない。
こういう時は大抵...。などと考えながら後ろをバッ!と見る。
...いない?
目線を定位置に戻す。
目の前には、我らが日本でまあまあ危険な動物として知られる猪なるもの。に似ているもっと狂暴な動物が居た。
「...嘘だろぉ」
後ろに居ないなんてなんて不親切な猪なんだ。
そんなんじゃモテないぞ、早く自分を磨きに行け。
心でそう指示するが、一向に帰る気は無いらしい。
当たり前だ。言葉に出してすら通じないんだから。
...凄く危ない目をしている。
狩人の目だ。いや、人じゃ無いんだけどさ。
なんてバカな事を考えている内にも間合いをつけてくる猪(仮)。
「待て、待つんだ。一旦頭を冷静にして考えろ。僕は痛いのが嫌いなんだ、君もだろ?だったらさ。自分が嫌がることは他人にもするなって言われたことあるだぅぁぁ!」
突進してきた!話の途中で!
「ちょ!まっ!ワ、ワタシイタイノヤダ!オネガイダカラトマットゥイ!」
避けれた!何かモ○○ンの緊急回避みたいなので避けれた!
しかし、無敵時間など無いわけで、猪の方向転換が始まった。
今すぐにでも突進ができる準備を完了した猪と、起き上がろうとして葉っぱで滑って転ぶ僕。
あ、終わった。
誰が見ても反撃不可能なこの状況。
その終止符を打ったのは一人の男性だった。
突如出てきた男性が、弓を射つ。
それは、猪にクリーンヒットする。
猪がよろけた隙に、男性はナイフを投げつける。
見事、目と鼻に当たったナイフ。
視覚と嗅覚をほぼ失った猪を余所に、男性は僕を抱え、逃げ出す。
「おい、アンタ!大丈夫か!」
「は、はいっ!大丈夫です!あ、貴方は?」
「俺は、冒険者のライクだ!お前は?」
「り、リクです!」
「おし、リク!とにかく逃げるぞ!」
「は、はい!」