碧陽学園生徒会の生徒会庶務男子と広報女子(凍結中) 作:ラインズベルト
「そういえば、鍵は《優良枠》で入ってきたんだっけ」
「……とてもそうは見えないのに」
思い出したことを言うと、俺が紅葉先輩がそう呟く。
「そうだよなー。コイツ、どう見てもただの色ボケ男だよなー」
深夏が同意し、真冬ちゃんは苦笑していた。鍵が反論しようと口を開きかけたとき、会長がバンッと机に手を置く。
「散々言ってきたことだけど、やっぱりこの学校の生徒会役員選抜基準はおかしいわよっ!人気投票からしておかしいけど、《優良枠》にしても、成績だけじゃなくメンタル面も評価に加えるべきだわっ!」
会長は、既に何度も言っている文句を言った。杉崎は決まっているかのように返す。
「俺はこのシステム、最高だと思いますけどね」
そりゃ頑張りゃ人気者のやつらの仲間入りだからな。下心が丸見えだぞ、お前。
この学校の生徒会役員選抜基準は変わっている。まず、《人気投票》による生徒会メンバーの選抜。一位から順に役職が決まっていく。大抵容姿で決めるので、女子ばかりが入る(一部例外はあるが)。ミスコンに近い。
しかし、理にかなっている部分もある。毎年、生徒達の「憧れる人」が上位にいるわけだ。そうなると、選挙活動が無いにせよ、自分達の「憧れる人」が指揮を取る訳で、案外スムーズに進む。容姿で決めるといっても、カリスマ性で補われ、問題は滅多に無い。
かくして、生徒会は美少女が多くなる。妥協点は杉崎の《優良枠》だ。各学年の成績優秀者………年度末試験のトップ生徒は、本人が希望すれば、生徒会に入ることができるようになっている。これにより、優秀な人材も取り入れるようにしているわけだ。
普通、それほどの優秀者なら、まず生徒会には入らない。勉強の妨げになるからだ。鍵は異常だといっても過言ではないだろう。その《優良枠》で生徒会の一員になったわけだから。
「しかし、鍵もよくやるよなぁ。そのパワーは尋常じゃねーぞ」
「まったくだ」
俺と深夏はあきれた視線を鍵に送る。会長も嘆息し、「本当にね」と呟いた。鍵は胸を張っている。
「俺は、《自分以外全員美少女のコミュニティ》に入るためなら、なんだってしますよ。ええ。入学当初殆ど最下位の成績でも、一年でトップに上り詰めるぐらい、朝飯前です」
「《自分以外全員美少女のコミュニティ》に、ならなかったな」
「そうね。神崎君がいるものね」
俺も紅葉先輩も苦笑しつつ、呟く。とんでもない努力だ。それは認めないとな。真冬ちゃんは鍵を眩しそうに見つめている。
「成績がいいってだけで入れちゃうのは、やっぱり変だよ!そのせいで、杉崎みたいな問題児が入ってきて……」
「生徒会の皆をメロメロにしちゃったのは悪いと思ってますが……」
悪いと思ってたのかよ!?てっきり当然とか思っているのかと……。まあ、見てくれは悪くないからなぁ。
「誰一人なってないわよ!」
「ええっ!」
「なにその新鮮な驚き!自信過剰も甚だしいわね!」
「まさか……そんな……。……まだ会長だけしかオチてなかったなんて……」
「会長はともかく、まだってなんだよ………」
「私はともかく!?」
会長が何やらうるさいが、スルーしておこう。
「ていうか、私もオチてないわよ!」
「ええぇっ!」
「マスオさん的な驚き方、やめてくれる?」
「そんな……会長。じゃあ、あの夜のことは無かったことにするというんですか……」
まーた始まったよ。会長もスルーしておけばいいのに。
「な、なによそれ」
会長は必死に記憶を探っているようだ。皆が見守る中、鍵は言い放った。
「あの夜、会長、夢の中で、何度も激しく俺を求めたじゃないですかっ!」
「ここに犯罪者予備軍がいるわ!ストーカーの卵がいるわっ!」
「酷い!俺の純情を弄ぶなんて!」
「むしろ私が弄ばれているんじゃないかしらっ!」
会長は叫び疲れたようで、ぜぇぜぇと息を切らしながら椅子に座った。会長は小柄なだけに、体力もないのだ。口論になると簡単に押しきれてしまう。
その様子を見かねたのか、紅葉先輩がノートをぱたんと閉じて鍵に話しかけた。
「キー君。私は別に貴方のこと嫌いじゃないけれど、もうちょっと誠実に立ち回った方が利口だと思うわよ?」
「紅葉先輩の言うとおりだ。ハーレムを作るにせよ、誠実さで落としてこそ、王道じゃないか?」
「う、ううむ……。二人の意見も一理ありますけど………。しかし、どう取り繕っても、これが俺ですから!この欲望に満ちた姿が、本当の俺ですからっ!自分、不器用ッスから!そして、性欲に忠実ッスから!………あで!?」
俺は止まらない杉崎の頭にチョップを食らわし、言う。
「よくもまあ、堂々と言えるな、お前」
「それが俺だからな!」
折れないなぁ。大したものだ。
「芯からこってり腐っているなお前」
深夏が冷たい目で鍵を見ていた。対して鍵はにやけている。これからどうなることやら。
「ふふふ………これから次々と、生徒会メンバーは俺の魔の手に落ちていくのさ……」
「自分で魔の手とか言い始めたよコイツ」
「言い始めちゃいましたね……」
「魔の手……」
俺の言葉に同意し、真冬ちゃんは苦笑、葵は両手で体を守るように抱いていた。
「ま、あんまりデレないと、速やかに学園陵辱モノに」早変わりするプランも―――」
「清々しいほど外道だな、てめぇ」
深夏はあきれていた。完全に。鍵はニヤニヤしながら深夏に向かって「ちっちっち」と指を振る。
「大丈夫さ、深夏。はそうなら泣いては考えてある。……実はこういう系統の物語は、全員の好感度を徐々に上げるんじゃなくて、『一人一話』形式で上げていくんだよ」
「なに?」
深夏が食いついた。一人一話形式ねぇ……。ゲームならそうなるのか。あーいうゲームはしたことがないから分からないが。好感度を上げるのではなく、ルートに沿ったキャラクターのエンディングを見る感じだろうか。
それぞれのキャラクターの話を、一挙に見る感じなんだろう。誠実的ではないが、鍵なりの考えがあってのことなら、俺が口を出すのは場違いだ。決めたならその道を進めば良い。
「俺は美少女ハーレムを作る!」
…………いつの間にか鍵は宣言していた。良いとはいったが、こんなんで大丈夫だろうか。今更ながら、親友の頭が心配になってきた。
「美少女を侍らせ、美少女にも飽きたなって所までいってから妥協してやる!」
「………なるほどね。とりあえず行くところまで行ってみようってことね。良いんじゃないかしら。好きよ、そういうの」
紅葉先輩が微笑みながら言う。こういうときには、素直に好感度を上げれるな、鍵は。
深夏も「スタンスは悪くないよな」と笑っている。
真冬ちゃんも「そうですね……今から悩んでいるより、とりあえず上にいってみるのが、いいかもしれませんの」と優しく微笑んだ。
葵もぎこちないながら、笑顔で頷く。
会長はというと……。
「えー、あんまり頑張るのは疲れるよぅ」
なんて言っていた。駄目人間だ………。
上に行く。目標は高くて問題ない。むしろ高い方が、頑張れる。珍しく、鍵の言葉が心に響いた。
つづく?