碧陽学園生徒会の生徒会庶務男子と広報女子(凍結中)   作:ラインズベルト

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駄弁る生徒会③

「そういえば、鍵は《優良枠》で入ってきたんだっけ」

 

「……とてもそうは見えないのに」

 

思い出したことを言うと、俺が紅葉先輩がそう呟く。

 

「そうだよなー。コイツ、どう見てもただの色ボケ男だよなー」

 

深夏が同意し、真冬ちゃんは苦笑していた。鍵が反論しようと口を開きかけたとき、会長がバンッと机に手を置く。

 

「散々言ってきたことだけど、やっぱりこの学校の生徒会役員選抜基準はおかしいわよっ!人気投票からしておかしいけど、《優良枠》にしても、成績だけじゃなくメンタル面も評価に加えるべきだわっ!」

 

会長は、既に何度も言っている文句を言った。杉崎は決まっているかのように返す。

 

「俺はこのシステム、最高だと思いますけどね」

 

そりゃ頑張りゃ人気者のやつらの仲間入りだからな。下心が丸見えだぞ、お前。

 

この学校の生徒会役員選抜基準は変わっている。まず、《人気投票》による生徒会メンバーの選抜。一位から順に役職が決まっていく。大抵容姿で決めるので、女子ばかりが入る(一部例外はあるが)。ミスコンに近い。

 

しかし、理にかなっている部分もある。毎年、生徒達の「憧れる人」が上位にいるわけだ。そうなると、選挙活動が無いにせよ、自分達の「憧れる人」が指揮を取る訳で、案外スムーズに進む。容姿で決めるといっても、カリスマ性で補われ、問題は滅多に無い。

 

かくして、生徒会は美少女が多くなる。妥協点は杉崎の《優良枠》だ。各学年の成績優秀者………年度末試験のトップ生徒は、本人が希望すれば、生徒会に入ることができるようになっている。これにより、優秀な人材も取り入れるようにしているわけだ。

 

普通、それほどの優秀者なら、まず生徒会には入らない。勉強の妨げになるからだ。鍵は異常だといっても過言ではないだろう。その《優良枠》で生徒会の一員になったわけだから。

 

「しかし、鍵もよくやるよなぁ。そのパワーは尋常じゃねーぞ」

 

「まったくだ」

 

俺と深夏はあきれた視線を鍵に送る。会長も嘆息し、「本当にね」と呟いた。鍵は胸を張っている。

 

「俺は、《自分以外全員美少女のコミュニティ》に入るためなら、なんだってしますよ。ええ。入学当初殆ど最下位の成績でも、一年でトップに上り詰めるぐらい、朝飯前です」

 

「《自分以外全員美少女のコミュニティ》に、ならなかったな」

 

「そうね。神崎君がいるものね」

 

俺も紅葉先輩も苦笑しつつ、呟く。とんでもない努力だ。それは認めないとな。真冬ちゃんは鍵を眩しそうに見つめている。

 

「成績がいいってだけで入れちゃうのは、やっぱり変だよ!そのせいで、杉崎みたいな問題児が入ってきて……」

 

「生徒会の皆をメロメロにしちゃったのは悪いと思ってますが……」

 

悪いと思ってたのかよ!?てっきり当然とか思っているのかと……。まあ、見てくれは悪くないからなぁ。

 

「誰一人なってないわよ!」

 

「ええっ!」

 

「なにその新鮮な驚き!自信過剰も甚だしいわね!」

 

「まさか……そんな……。……まだ会長だけしかオチてなかったなんて……」

 

「会長はともかく、まだってなんだよ………」

 

「私はともかく!?」

 

会長が何やらうるさいが、スルーしておこう。

 

「ていうか、私もオチてないわよ!」

 

「ええぇっ!」

 

「マスオさん的な驚き方、やめてくれる?」

 

「そんな……会長。じゃあ、あの夜のことは無かったことにするというんですか……」

 

まーた始まったよ。会長もスルーしておけばいいのに。

 

「な、なによそれ」

 

会長は必死に記憶を探っているようだ。皆が見守る中、鍵は言い放った。

 

「あの夜、会長、夢の中で、何度も激しく俺を求めたじゃないですかっ!」

 

「ここに犯罪者予備軍がいるわ!ストーカーの卵がいるわっ!」

 

「酷い!俺の純情を弄ぶなんて!」

 

「むしろ私が弄ばれているんじゃないかしらっ!」

 

会長は叫び疲れたようで、ぜぇぜぇと息を切らしながら椅子に座った。会長は小柄なだけに、体力もないのだ。口論になると簡単に押しきれてしまう。

 

その様子を見かねたのか、紅葉先輩がノートをぱたんと閉じて鍵に話しかけた。

 

「キー君。私は別に貴方のこと嫌いじゃないけれど、もうちょっと誠実に立ち回った方が利口だと思うわよ?」

 

「紅葉先輩の言うとおりだ。ハーレムを作るにせよ、誠実さで落としてこそ、王道じゃないか?」

 

「う、ううむ……。二人の意見も一理ありますけど………。しかし、どう取り繕っても、これが俺ですから!この欲望に満ちた姿が、本当の俺ですからっ!自分、不器用ッスから!そして、性欲に忠実ッスから!………あで!?」

 

俺は止まらない杉崎の頭にチョップを食らわし、言う。

 

「よくもまあ、堂々と言えるな、お前」

 

「それが俺だからな!」

 

折れないなぁ。大したものだ。

 

「芯からこってり腐っているなお前」

 

深夏が冷たい目で鍵を見ていた。対して鍵はにやけている。これからどうなることやら。

 

「ふふふ………これから次々と、生徒会メンバーは俺の魔の手に落ちていくのさ……」

 

「自分で魔の手とか言い始めたよコイツ」

 

「言い始めちゃいましたね……」

 

「魔の手……」

 

俺の言葉に同意し、真冬ちゃんは苦笑、葵は両手で体を守るように抱いていた。

 

「ま、あんまりデレないと、速やかに学園陵辱モノに」早変わりするプランも―――」

 

「清々しいほど外道だな、てめぇ」

 

深夏はあきれていた。完全に。鍵はニヤニヤしながら深夏に向かって「ちっちっち」と指を振る。

 

「大丈夫さ、深夏。はそうなら泣いては考えてある。……実はこういう系統の物語は、全員の好感度を徐々に上げるんじゃなくて、『一人一話』形式で上げていくんだよ」

 

「なに?」

 

深夏が食いついた。一人一話形式ねぇ……。ゲームならそうなるのか。あーいうゲームはしたことがないから分からないが。好感度を上げるのではなく、ルートに沿ったキャラクターのエンディングを見る感じだろうか。

 

それぞれのキャラクターの話を、一挙に見る感じなんだろう。誠実的ではないが、鍵なりの考えがあってのことなら、俺が口を出すのは場違いだ。決めたならその道を進めば良い。

 

「俺は美少女ハーレムを作る!」

 

…………いつの間にか鍵は宣言していた。良いとはいったが、こんなんで大丈夫だろうか。今更ながら、親友の頭が心配になってきた。

 

「美少女を侍らせ、美少女にも飽きたなって所までいってから妥協してやる!」

 

「………なるほどね。とりあえず行くところまで行ってみようってことね。良いんじゃないかしら。好きよ、そういうの」

 

紅葉先輩が微笑みながら言う。こういうときには、素直に好感度を上げれるな、鍵は。

 

深夏も「スタンスは悪くないよな」と笑っている。

 

真冬ちゃんも「そうですね……今から悩んでいるより、とりあえず上にいってみるのが、いいかもしれませんの」と優しく微笑んだ。

 

葵もぎこちないながら、笑顔で頷く。

 

会長はというと……。

 

「えー、あんまり頑張るのは疲れるよぅ」

 

なんて言っていた。駄目人間だ………。

 

上に行く。目標は高くて問題ない。むしろ高い方が、頑張れる。珍しく、鍵の言葉が心に響いた。

 

つづく?


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