配役は脇役で   作:t、

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望んだ転生、望まない改変

 

 転生とかってマジにあるもんなんだな。

 真っ白な世界で、自称神様に言われたことで感じたのは、死んだことに対する悲しみじゃない。好きな世界に転生してもええぞ、という言葉に対する感動だ。

 

「どうかしたのか?」

 

「あ、すみません……ぼうっとして」

 

 構わん構わん、と優しく笑いかけられながらも、心の昂りが中々収まらない。

 転生……転生。それは、二次創作を好んで読んでいた俺からしたら、願ってやまないものだ。

 ぶっちゃけ、今の人生には何一つとして未練はない。クソみたいな人生だった。生き続けていてもロクなことはなかったはずだ。

 だからこそ、神様のミスで死に、その結果として転生と転生特典を貰えるなんて、ハッキリ言えば幸運でしかない。

 死んで良かったとすら思う……死因とか全然覚えてないんだけど。まあ、覚えてないってことは大したことじゃないんだろう。

 

「それで、どこか転生したい世界は──」

 

「戦姫絶唱シンフォギア」

 

「……即答したな」

 

 神様が言い終わる前に答える。

 どうせ転生するならそこしか考えられないからな。

 

「別にどこでもいいんだが……なぜ、その世界を?」

 

「や、だって響が好きなんで。イチャイチャしたいんですよ」

 

「そ、そうか……」

 

 不純だろうか、とも考えたが、やっぱりそれ以外は考えられそうにない。

 ……Fateの桜とかSAOのリズもワンチャン……いや、ダメだ。響以上の女の子は居ない。

 どうせ貰える転生特典で無双できるんだろうし、敵の強さはどうだっていいんだ。問題は、響とイチャイチャできるどうかの一点のみ。

 

「で、シンフォギアの世界に転生ってできます?」

 

「お前さんがいいなら、な。じゃあ、転生特典は…………なんでそんな嬉しそうな顔をしてるんだ?」

 

「普通ワクワクしません? あんな力やこんな力が手に入るんですよ?」

 

「そ、そうか……」

 

 徐々に呆れたような顔になっているような気もするが、どうでもいいか。

 大事なのは、一体どんな能力を持って転生するかだ。

 世界観に合わせて完全聖遺物とかか……? けど、その辺とかあんま詳しくないんだよなぁ。アニメは広く浅くという考えが災いする。

 だったら、別アニメから引っ張ってきた方が良いよな。

 たとえば……ギルガメッシュの宝具、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)とか。

 宝具の一斉射出、天の鎖、乖離剣エア。正直最強すぎるでしょ。アレに勝てる宝具なんて、そうそう無いだろう。

 

 が、当然問題もある。

 俺自身が、全ての宝具を適切に扱えるかどうか分からないのだ。

 これは……おそらく不可能。手当たり次第に宝具を射出する程度にしか使えないだろう。何せ宝物庫の中身なんて、ほとんど知らないのだから。

 飛行宝具のヴィマーナなんかには乗ってみたいが……やはり却下だな。

 魔力回復の宝具まであるらしいが、しょせん使えなければ意味はない。

 論外論外。は~、つっかえ……ってか、そもそも宝具ってノイズに通じるのか?

 

「なあ神様、貰った転生特典ってシンフォギア世界のノイズにも効くの?」

 

「どんな物でも効果を発動するように調整しておくから、心配はいらんぞ?」

 

「マジで!? うっわ、神様大好き」

 

「お前さん、死ぬ直前まで"この世に神なんていない"とか言ってなかったか?」

 

「気のせいと思われます。ウッドエレメンタルです」

 

 適当に誤魔化して、再び思考に没頭する。

 どんな能力を貰うかは割と重要な問題だ。

 俺が転生してしたいのは響とイチャイチャすること。しかし、敵に邪魔されるのは面倒で仕方ない。ノイズやらF.I.S.やら錬金術師やらと戦う力は必要不可欠だ。

 そのため、ある程度の能力は必須。

 なら──

 

「……エミヤ」

 

「なんだ、決まったのか?」

 

「エミヤの能力……無限の剣製って可能ですか?」

 

「ああ、もちろん」

 

「えっと、その場合はエミヤが投影できるもの……つまり、エミヤの使えるものが投影できるってことです?」

 

 その問にも、自称神様は可能であると答えた。

 エミヤの能力なのだから、使えるのは当然なのだろうか? にわか過ぎて分からないが……まあいいか。

 どうせ固有結界はまともに使えないんだろうし、投影さえちゃんと使えればそれでいい。いや、投影+憑依経験か。

 

「じゃ、それでオナシャス」

 

「段々馴れ馴れしくなってきたな……」

 

 ぼそりと呟いた言葉を全て聞く前に、新たな世界へと飛び立った。

 ちょっと格好よく言ったけど、単に視界が真っ白に染まっただけだ。

 大事なのは雰囲気だよ、雰囲気。

 そんなことを思いながら、そっと瞳を閉じた。

 …………あれ? 転生に関する話とか全然してねぇぞ? 大丈夫か、これ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい響、起きろ!」

 

「へ……?」

 

「"へ……?"じゃない! 未来(みく)との待ち合わせに遅れるだろ!」

 

 ベッドの上でぐーすか寝ている立花(たちばな)(ひびき)を叩き起こす。

 寝巻きが捲れ、僅かにヘソがチラリと見えているが今は無視。

 休日とはいえ、今日は友人の小日向(こひなた)未来(みく)と出掛ける用事があるのだ。

 もうそろそろ準備を始めないと間に合わないだろう。

 

「やく、そく……あれ、いま何時?」

 

「もう九時過ぎてるっての」

 

「ええぇぇぇえええっ!? なんで起こしてくれなかったの!?」

 

「俺は何回も起こした。さっさと着替えて降りてこいよ」

 

 手早く言って、響が悲鳴を上げるより早く彼女の部屋を出る。

 まだ寝惚けているから良いが、いつまでも女の子の部屋に居るのは流石にマズイ。

 

「あ、待って!」

 

「なんだ?」

 

「おはよ、お兄ちゃん!」

 

「……ああ、おはよう」

 

 最後の最後に一日のやる気を一気に削ぎ落とされた。

 何が悲しくて響の"兄"になってしまったのか。俺は立花響とイチャイチャしたかっただけなのに……

 

「は~、つっかえ……やっぱ神とか居ないわ」

 

 文句を吐き捨てつつ、立花家のリビングに向かう。

 確かに。確かに最も響の傍に居られるのは確かだ。しかし、だからといって兄妹ってのはどうなんだ……

 別に妹とイチャイチャしても問題はないし、"お兄ちゃん"と呼ばれるのも悪くない。

 けど……いや、もういいや。

 いまさら考えても仕方ない。

 響とよく似た茶髪を弄くりながら、リビングでお茶を飲んでいる母さんに声を掛ける。

 なんか、どれだけ時間が立っても呼ぶのに慣れないな。

 

「響、もう降りてくるってさ」 

 

「そう? 起こしてくれてありがとね、お兄ちゃん」

 

 お兄ちゃんはやめてほしい……トータルの年齢からしたら、あなたと同じくらいの歳なんですけどネ。

 苦笑しつつ響のための朝食を用意してやる。といっても、大したものは無理なので、精々トーストに目玉焼きとベーコンぐらいだ。

 それも、響が降りてくるだろう頃合いを見計らって作り終え、テーブルに載せて俺自身もコーヒーを用意する。

 小学生から生前のクセで飲んでいて、かなり気味悪がられているが、もう直しようもない。

 仕方なく砂糖を入れて席に着くと、響がニコニコ笑って「いただきます!」と口にした。

 やっべ、メチャクチャ可愛いんですけど。

 何この子、天使かよ…………妹だったわ。俺の妹がこんなに可愛い。

 

「そういえば響、今週の宿題は終わってるのか?」

 

「えっと、その……」

 

「ああ、わかった。まだ手付けてないんだろ」

 

「私まだ何も言ってないのに」

 

「言わなくてもわかる。んじゃ、帰ってきたら俺が見てやるから、二人で宿題な」

 

 きっちり大学まで卒業してきた俺からしたら、小学校のものだろうが中学校のものだろうが、宿題なんてすぐに終わってしまう。

 これでも頭は悪くない方なのだ……たぶん。少なくとも、義務教育レベルなら余裕だろう。

 

 響がとびきりの笑みで頷いたのを見つめつつ、横目で時計を確認する。

 む……結構マズイな。

 あまりグズグズしていたら、幼なじみの未来に怒られてしまう。もちろん俺と響、どちらが原因なのかは分かるだろうが、それでも遅れて機嫌を損ねたくはない。

 

「急げよ、響」

 

 俺もコーヒーを飲み終えると、簡単に身支度を済ませて響を待つ。

 急かしても良いことはない、というのはもう経験則で分かっている。

 気長に妹を待ちつつ、目一杯のおしゃれをしてやった来た響と共に、未来との待ち合わせ場所へ行く。

 

「いってらっしゃい」

 

「「行ってきます!」」

 

 母親に返答し、家を出た。

 自分の守りたいものが増えてしまっている。そんなこと、もうとっくに気付いている。

 

「よし、急ぐか。未来を待たせたくないだろ?」

 

「うん!」

 

 可愛いな、と微笑みながら、響と手を繋いで歩き出す。

 指と指が触れた瞬間、響の頬が赤く染まった。可愛い。

 歩いている途中、子猫が道を横切って響が嬉しそうに「にゃー、にゃ?」と鳴いた。可愛い。

 時間的に余裕が無くなって、二人で走り出すと響がより強く俺の手を握った。可愛い。

 

 そんな道中あったことを、待ち合わせ場所で待っていた未来に教えてやると、すぐに彼女から問い掛けが帰ってきた。

 といっても、いつものやつだが。

 

「りっくん、シスコン?」

 

「バッカ、妹のことが嫌いな兄なんて居ない。つまり、世の中の兄は全員シスコンということになる。よって、俺はおかしくない。証明、終了」

 

 未来に答えると、まるで呆れたような表情をぶつけられた。

 何がおかしいのかさっぱり分からん。

 

「まあいいけど。今日は珍しく遅刻しなかったし」

 

「えへへ。お兄ちゃんが起こしてくれたもんね」

 

「得意気に言うことじゃないだろ。これからは自分で起きような」

 

「えぇー」

 

「もう、響……いつまでもりっくんに頼ってちゃダメだよ?」

 

 俺と未来でやんわりと注意するが、まあ言われてすぐに改善できたりはしないだろう。

 それに、寝顔を眺められなくなるのは……寂しい。本音を言えば、もう少し寝惚けていて欲しいものだ。

 

「わかってますよーだ。じゃ、もう行こ」

 

「絶対分かってないよな」

 

「まあ響だから」

 

「だな、響だもんな」

 

「それどういう意味!?」

 

 自分で考えてみな、と投げやりに返し、三人で遊びに行く。

 なんというか、ここまで無駄に長かったな。三人で集まると、どうにも長々と話し込んでしまう。

 だが、映画もゲームセンターも逃げたりはしない。

 今は……今だけは、穏やかな日常を送ってもバチは当たらないだろう。当たらないと良いなぁ。

 

 マイナス思考に陥りそうになりながらも、隣で笑っている二人の少女に視線をやる。

 もう響とも未来とも付き合いは長い。だから、だろう。響はともかく、未来のことも守りたいと思う対象に入ってしまっている。

 原作、俺たちに関わらないでくんねぇかなぁ……

 

「どうかしたの?」

 

「や、今日も二人とも可愛いな、って」

 

 瞬時に赤くなった二人の顔を見つめ、フラグを立てたことを後悔した。

 絶対巻き込まれそう。なんか嫌な予感がする。

 

 ────それが、ただの予感でないと知るのは、まだ少し先のことだ。

 ……ごめん、やっぱ今の無しで。流石に冗談で済まないような気がしてきた。マジで何も無いことを祈るわ。

 

「ん? どうしたの、お兄ちゃん」

 

「いや、なんでもないぞ」

 

 三人でバスに乗っている中、俺がふと視線を逸らしてぼうっとしていることに気付いたのだろう。

 本当によく俺のことを見ている。

 まあ、いくらなんでも、こんなタイミングでノイズが現れたりはしないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前言撤回。

 やっぱこの世界ってフラグとかあるわ……今度から絶対に「やったか……?」とか言ったらダメだわ。煙が晴れたら敵がピンピンしてるパターンやん。

 

「はぁ、っ、ぁ……はぁ、ぁ……っ!」

 

 響と未来をそれぞれの手で抱えながら、シェルターを目指して走り続ける。

 背後には異形の怪物──ノイズの集団。

 何故俺たちを襲ってくるのかは分からない。が、そもそも理由なんてないのかもしれない。

 やっぱり、バスに乗ってわざわざ遠出したのがマズかったか……シェルターの位置なんてよく知らないし、周囲にはもう誰も居ないし、響と未来は不安そうにしているし。

 控え目に言って最悪な状況だ。

 

「ああ、もう……!」

 

 ドリルのように回転して突っ込んできた敵を回避。

 軽く飛び上がっただけだが、単調なノイズの攻撃を躱すにはそれで充分だ。

 が。二人も抱えて動き続けるには少々骨が折れる。人間やめてんじゃね? ってレベルの動きを続けながらも、当然のように体力は常に削られていくのだ。

 

「……お、お兄ちゃん……わ、わたし」

 

「バカ! 誰が下ろすか! 未来もだ、絶対に守ってやるから!」

 

 二人に何も言わせず、無茶な回避を繰り返す。

 本当に無理そうなら、二人の目の前で堂々と戦うしかない訳だが……そんな真似をしたら、面倒な大人たちにバレてしまう。

 それはお断りだ。今はまだ何とかしていられる。

 シェルターを見付けるか、あるいは……誰かに助けてもらうか。

 

「……ッ!」

 

 誰かなんて居ない。

 ノイズを倒せる人間は限られている。しかも、現状でまともな対策を取れるシンフォギアは…………あれ? もう完成してるんだっけ?

 ならさっさと来て助けて欲しいもんだが、期待はできないな。

 ガングニールとか天羽々斬を頼るよりだったら、自衛隊やら連中の自壊に期待する方がまだマシだ。

 ……チッ、仕方ないか。二人に見られないようにすればセーフだろう。

 

 

「────投影、開始」

 

 

 二人に聞こえないくらいの小さな声で呟く。

 だが、その一つの言葉だけで、俺の世界は変わる。

 ここまで走り続けてこられたのも、投影したものからの憑依経験によってだ。

 服の下に気付かれないよう投影した、かつてエミヤが使っていた小さな防具。それによって、俺はある程度の身体能力を得ることが出来ていた。

 しかし、逃げ続けるのももう終わり。これでは埒があかない。

 故に、背後のノイズたちを片付ける。それも、響や未来を完璧に守りながら、投影なんて魔術を知られないように。

 

「────投影、完了」

 

 イメージは最初からできている。魔術の鍛練なら、これまでにも散々繰り返してきたのだ。

 だからこそ、名もない宝具と呼ぶのもおこがましい長剣程度なら、簡単に作り出せる。

 走りながらその剣を、背後のノイズへ向けて──射出。

 見なくても分かる。俺の放った剣は、まるで吸い込まれるようにノイズへ命中し、胸元へ穴を開けて消え失せた。

 

 あのノイズを。

 ただの人間程度なら、何の苦労もなく殺せるノイズを、ただの人間が殺してみせた。

 もちろん、全ては転生特典によるものだ。

 だが、この力さえあれば、二人を守ってやれる。

 

「投影、開始」

 

 続けて全く同じ剣を作製、射出する。それをひたすら繰り返していく。

 まだ慣れていないからか、やたらと集中力を持っていかれてしまう。

 正直、この程度の粗悪品は、エミヤと比べるのも恥ずかしいレベルだ。

 だが、それでもノイズを倒せている。

 チラリと背後を確認すれば、敵の数は確実に減っている。これまでに投影し、射出した本数はもう二十本近いのだから当然か。

 

「はぁ、ぁ……っ、はぁ……っ、こん、の……!」

 

 再び飛び上がり、突っ込んできたノイズを避ける。

 が、それも二度三度と続けば回避するのに精一杯になってしまう。

 でも、それでも──

 

「投影、開始ッ」

 

 今度は同時に複数の剣を作り上げる。

 もちろん、精度も速度も一切落とさずに。

 響と未来が前だけを向いていてくれて助かった。少しでも背後を振り向いていたら、最初の頃より敵の数が減っていることに気付いてしまっただろう。

 そして、最後の一体を長剣で刺し貫いた瞬間も。

 

「ふ……ッ!」

 

 角を数度曲がり、そのまま二人を抱えて走り抜ける。

 これで終わりのはずだ。敵の姿は完全に見えなくなっている。

 

「も、もう大丈夫なの……?」

 

「ああ、みたいだな……自壊が始まったっぽい」

 

 適当言いつつ二人を下ろし、ビルの壁に背中を付ける。

 疲れた……響と未来を抱えながら、慣れない投影を繰り返すのはこりごりだ。

 

「……お兄ちゃん……私たち、お兄ちゃんが居なかったら……」

 

「バッカ、んなこと考えなくていいっての。

 未来もだからな? 俺は自分のしたいことをしただけだ」

 

「じゃあ……ありがとう、りっくん」

 

「ありがと、お兄ちゃん!」

 

「おう、それでいい」

 

 まだ呼吸は整わず、額には汗が滲んでいるが、二人の笑顔をまた見られたなら充分だ。

 問題なのは、一介の高校生ができる動きじゃないってことと、もし投影を誰かに目撃されていたらマズイってことか。

 前者は……まあ火事場の馬鹿力でどうにか。後者は…………見られてないことを祈ろう。

 

「じゃ、そろそろ買い物にでも……って、全員避難してるだろうから無理か」

 

「りっくん、何言ってるの? そんなことより、ケガとかしてない? どこも痛くない?」

 

「大げさだな、未来。俺は平気だよ」

 

「で、でも……」

 

「大丈夫だよ! お兄ちゃん丈夫だから!」

 

「もう、そういう問題じゃ……ほんとに大丈夫なの?」

 

「ああ、もちろん」

 

 そう言って微笑んでやると、ようやく安心してくれたらしい。

 実際、ケガはしていない。

 というか、連中に何の対策もせず触れたら炭素化するのが目に見えている。炭素化=死だ。関わりたくねぇ……ケガする前に死ぬとかほんと無理。

 

「じゃあ今日はもう帰ろっか」

 

「いいのか?」

 

「うん。響とりっくんと、三人で映画を観れて楽しかったから」

 

「そうか……じゃあ買い物はまた今度だな。

 なら、そうだな……未来、良かったら響の宿題片付けるの手伝ってくれないか?」

 

「えっ!? まだ終わってなかったの!?」

 

「えへへ、今日終わらせるつもりでして……」

 

「で、な~んにも手を付けていない、と」

 

 響が「あはは」と笑って誤魔化そうとするがムダだ。

 未来にジト目で見つめられ、観念した響と三人で立花の家に帰る。

 もちろん二人と手を繋いで。

 

 あ。どこがとは言わないけど、未来より響の方が発育は良かったです、はい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町が夜の闇に包まれた頃、そっと立花家を抜け出す。

 Fate/stay nightでエミヤがやっていたように屋根の上に登ると、今度は周囲を観察する。

 が、いくら元々の目が良かったとしても、あまり遠くまでは視界に入らないようだ。

 

「ま、そんなもんか」

 

 小さく溜め息を漏らしながら、夜の散歩を開始する。

 といっても、ただの散歩じゃない。エミヤが身に付けていた赤い外套と、顔を隠すための仮面を投影し、家の屋根やらビルの壁やら屋上やらを飛んで移動していく。

 もっとも、この跳躍自体に意味なんて無いが。いや、無ければ良いという願望か。

 

「大体、一週間くらいの感じなんだよなぁ……たぶん」

 

 俺の個人的な感覚では、おそらくノイズ共は一週間程度の日を開けて現れている……気がする。当然例外はあるものの、最近は一定の周期があるのだ。

 だから何があっても良いよう、こうして夜は周囲を警戒しながら、投影と憑依に慣れるために夜の街を走っている。

 ちなみにノイズとの遭遇率は1%未満。当てもなく、ただ何となく走り回っているのだから当然だろう。

 

 と、そんなことを考えてしまったからか、一キロほど先の開けた場所に、何体かのノイズの姿を視認した。

 数は多くない。大型のものや、特別厄介なタイプもいない。

 なら安心……って訳でもないが、響の近くで暴れるなんて論外だ。

 さっさと倒させてもらおう。

 フラグってやっぱりあるわ、と苦笑しながら、黒の短剣(干将)と白の短剣(莫耶)を投影して飛び降りる。

 

「さて、全霊でお相手しよう」

 

 やっべ、超エミヤっぽい。

 干将・莫耶を両手に構え、赤い外套を身に纏っていることで、割とマジで気分が高揚していた。

 身体能力もある程度引き上げられているし、二つの短剣からエミヤの動きも何となく把握している。これで雑魚ノイズに負ける訳がないな。

 

「……ッ!」

 

 こちらに意識を向けたノイズたちへ、一直線に突っ込んでいく。

 その動きはオレが言うのも何だが、敵と戦うのにはあまりにも速すぎる。

 

 まず狙うのは、もっとも近くにいる二足歩行の人型ノイズ。

 右手の莫耶を振るい、その身体を両断する。

 連中と戦うのは初めてではない。だから意外とあっさり一体目を倒せたことに驚きはない。

 唯一の問題は、数の暴力で圧されること。

 が、それすらもエミヤとしての上手い立ち回りを続ければ、回避も難しくない。もちろん、圧倒することもだ。

 

「はぁあああ!」

 

 カエル型、人型を続けて切り落とす。

 さらに空に浮かぶ鳥型へ向けて干将を投げ、別の鳥型へ今度は莫耶を投擲する。

 無手になったオレに数を減らしたノイズたちが接近してくるが、オレの武器は今投げた二本だけではない。

 再び干将、莫耶を投影。眼前に迫る敵へ斬撃を与える。

 

 おおよそ通常の攻撃手段では、ノイズの位相差障壁に阻まれてすり抜けてしまう。

 だが、オレの投影した武具越しであれば普通に攻撃は通じる。

 ま、生身で触れたら死ぬんですけど。

 

「……っと、常在戦場、常在戦場」

 

 某防人さんの言葉を借りて集中し、改めてノイズ共へ短剣を見舞う。

 敵を豆腐でも切るように倒せてしまうから勘違いしそうになるが、連中は人間には倒せない程の難敵なのだ。

 油断は禁物だろう。

 とはいえ、もう残った敵の数は僅か。

 

「ッッ!」

 

 剣を振り下ろす。

 ただの単調な一撃だけで、敵はみるみる消し飛んでいく。

 変形し、オレ目掛けて突っ込んでくるノイズを切り伏せ、軽い跳躍を重ねて攻撃も回避する。

 真後ろに降り立った敵に、背後を振り向くことなく莫耶で切り捨て、残った人型二体を同時に真っ二つにした。

 

「ふぅ……ようやく終わりか……ったく、数だけは────ッ!?」

 

 双剣を下ろし、軽く息を整えていると、異常なまでの殺気を感じて飛び退いた。

 全ては感覚の話だ。何か確信があった訳ではない。

 だというのに、目の前の地面が一瞬の内に陥没し、"男"が俺に向かって飛び掛かってきた。

 

「ぐ……っ!」

 

 すぐにその場から離れ、突如として現れた男から逃げようとするが、化け物染みた動きで迫ってくるため逃げられない。

 そして、筋肉の鎧に身を包んだ男が、鍛え上げられた拳を放った。

 腹部を狙われた一撃は、油断をしていたら良くて気絶、運が悪ければ死んでいたかもしれない。

 だが、まだ避けられないレベルではない。

 ギリギリで跳んで躱し、改めて体勢を整えようとして──悟った。

 俺では絶対に勝てない、と。

 

「はぁああああぁぁあああ!」

 

 男の叫びと同時に、今度はさっきのモノよりも数段激しい拳が届く。

 それを両手の干将、莫耶を重ねて受けた次の瞬間、二振りの短剣が音を立てて壊れてしまった。

 嘘だろ、いくらなんでも反則過ぎる……!

 心中で罵倒しながら、再び投影を開始。今まで以上に強度を上げ、目の前の人類最強から逃げようと模索して──

 

「うおおおおおっ!」

 

 ──防御が、間に合わない!?

 ロクに魔力を込められないまま適当に作り上げた双剣を、敵の拳と俺の身体に割り込ませるのが限界だった。

 男────風鳴(かざなり)弦十郎(げんじゅうろう)の正拳が俺の腹部を貫く。

 あまりの一撃に意識が落ちそうになるが、直前で重心をずらしたおかげか、ギリギリ持ちこたえる。

 しかし、それも何とか一発耐えただけの話。仰向けに倒れ込み、上手く呼吸が出来ず、投影すら満足にこなせない状況では、もう勝ち目はない。

 

「はぁ、ぁ……つよすぎ、かよ……ぁ、っ……」

 

「ほう。今のを喰らって耐えたか。これまで何度もノイズを倒してきただけの事はあるみたいだな」

 

 バレてーら。

 しかも、多分このおっさん、これでも全然力を出してねぇな。

 俺を試すために殴ってきたな、こりゃ。いや、あるいは拘束するためか。もしかしたら、俺の今後を考えてかもしれない。

 流石大人、とは思うが、面倒なことになりそうな予感がすごい。

 

「立てるか?」

 

「はぁ、ぁ……っ、た、てる……っ、ように、みえる、か……?」

 

「ハハッ、男は気合いだ。立てない程強く殴った覚えはないぞ?」

 

 無茶苦茶だ。

 普通なら死んでるっての。

 ああ、やべ。マジに意識が飛びそうになってきた。

 筋力と技術の合わさった拳は、死ぬほど痛かった。

 ちくせう……原作と関わりたくねぇ……

 

「気絶した、か……すまないが、仮面は取らせてもら──やはり、子供か」

 

 気絶した少年の仮面を取ると、すぐにその仮面は消失した。

 それに僅かに驚きつつ、周囲を見渡してノイズが一体も残ってないことを確認し、少年の身体を肩に担ぎ上げる。

 それと同時に赤い外套まで消え、ズボンのポケットから彼のサイフが落ちた。

 

「サイフに、学生証か。名前は……立花(たちばな)(りつ)

 

 少年、立花律を豪快に運んでいく弦十郎は、彼をどうするかを考える。

 果たして、少年は敵なのか味方なのか。

 

(考えても仕方のないことだ。もし彼が悪の道に居るのなら、こちら側へ引っ張り上げてやればいい)

 

 迎えにやって来たヘリを見上げながら、風鳴弦十郎は考える。

 この少年に無茶をさせず、また誰の影響も与えさせはしない、と。

 ノイズと戦える力など、不用意に知られてしまえばどうなるか。分からないようでは、"特異災害対策機動部二課"の司令官など務まらないだろう。

 それに、何より。

 

(子供を守ってやるのは大人の役目だ)

 

 立花律が望む望まないに関わらず、話は進んでいく。

 もう既に原作との乖離は始まりつつあった。

 これから連れていかれる先には、関わりたくなかったシンフォギア装者(そうしゃ)が居る。

 おまけに一期のラスボスまで居る。

 

 やっぱ神様とか居ねぇわ。

 もし律が起きていたら、そんなことを口にしていただろう。

 

 

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