配役は脇役で 作:t、
「……知らない天井だ」
瞳をゆっくり開き、ぼそりと呟いた。
前後の記憶が定かではないが、この世界最強の大人──風鳴弦十郎にボコボコにされたところまでは覚えている。
が、それ以降の記憶がさっぱりだ。
どうして俺は知らないベッドで眠っているのか。どうして、俺は裸なのか。
幸い、この広い部屋……部屋? 病室? には俺一人しか居ない。それも、すぐ近くの小さなテーブルには俺の着替えと財布、ケータイが載せられている。
「ったく、俺をひんむいて何が楽しいやら」
ぼやきつつ、起き上がって取り敢えず服を着て……とんでもない事に気付いてしまった。
い、今何時だ……?
震える手でケータイをチェックする。現在の時刻は……ご、午前十時。朝帰りどころか昼帰り確定じゃねぇか。
めっちゃ怒られるし高校はサボってしまったし、最悪過ぎだろ。
いや、まだ高校はいい。問題は響と未来の方だ。二人に怒られるなら良い。だが、心配した、と泣き付かれたら……
よし、帰ろう。
絶対俺の名前やら住所やら知られてるわ、とか。ここ、どこ? とか。
色々ヤバい点はあるが、何はともあれ脱出だ。おそらくここは二課の本部だろう。
「なら地下か……めんどくせぇ」
さてどうしたもんか、と思索に暮れていると、唐突に部屋の扉が開いた。
「おっ、起きてたか。すまないが、勝手に連れてきたぞ。
ああ、もちろんご家族や学校の方には連絡を入れてある」
「……さいで」
やって来たのは、何故か笑みを浮かべている風鳴弦十郎。
筋肉はムキムキで、ノイズに触れることさえ出来れば、この世界で最強と言われるほど鍛えられている。
ってかデカイな。2mくらいはあるんじゃないか、これ。
「あの、帰ってもいいですか?」
「それは俺の質問に答えてもらってからだ」
「答え次第では、もしかしたら拘束とかされます?」
「まさか。子供相手にそんな真似をするはずないだろう」
初対面ではあるが、この言葉に割と信用しようと思ってしまう。
この人、普通に良い人なんだよなぁ。ちょっと規格外に強いってこと以外は、大体良心的な考えもってるし。
「その前に名前を名乗っておこう。俺の名前は、風鳴弦十郎。ここ、特異災害対策機動部二課の司令官なんてものをしている」
「俺は……って、もう俺の名前とか個人情報は知られてますよね?
……立花律。何の特徴もない、ただの高校生デス」
「何の特徴もない、か。だとしたら、君がノイズを倒していた力は何なんだ?」
やっぱそれか。
さ~て、どうやって誤魔化そ。
どうせ身体は調べられたんだろうし、俺が特に聖遺物なんかを持っていないのもバレているだろう。
なら、魔術です、の一言で済ませた方が早く帰れそうだ。けど、それ言うのはどうなんだ……?
ぶっちゃけ何が正解かは分からんけど……ま、ここは世界最強を信じてみるか。
「えっと、ですね……信じてもらえないと思うんですけど」
「子供の言うことを、大人が信じないはずないだろ。何でも言ってみろ」
なんだこのイケメン。
ベッドに腰掛けた俺の正面。パイプ椅子に座ったおっさんは、腕を組んで俺に笑い掛けてくる。
なら、ちょっとだけ信じてみますか。大人ってやつを。
「実は俺────魔法使いなんです」
「…………」
やべ、スベった。
切嗣さんの言葉は、かなりボケとしてのレベルが高かったらしい。
弦十郎さんが呆けていらっしゃる。
別に嘘言った訳じゃないんだけどなぁ。魔法使いと魔術師の違いなんて、説明しても理解しにくいだろうし。
「ああ、いや、すまない……いきなりだったからな。
つまり君は、魔法を使ってノイズを倒していた、ということなのか?」
「大雑把に言えばそうですね。一応剣とか弓とか作れますよ」
「そう、か……魔法使いか」
大分混乱させてしまったかもしれない。
しかし、割と事実なのだから困りものだ。
魔法ではなく魔術だし、使えるものも一種類しかないが……嘘ではない。
「で、帰ってもいいですか?」
「ああ、その件なんだが……少し待ってくれ」
「はい?」
立ち直り早いな、と思うより早く、弦十郎さんが部屋の入り口へと向かう。
誰か居るのか? と疑問に思った通り、扉を開けるとすぐに二人の少女が部屋に入り込んできた。
おそらく、扉に耳を付けて俺たちの会話を盗み聞きしていたのだろう。
が、今問題なのはそちらではない。盗み聞きをしていたのが、
ぶっちゃけ……めんどくさい。間違いなく絡まれるじゃん。
「お前たち、ここで何をしているんだ」
「いや~、ノイズを一人でやっつけた奴が居るっていうから気になってさ」
「わ、私は奏を止めようとして、それで……」
納得。
翼がズルズルと奏に引っ張られたんだろう。というか、かなり仲が良いな。
もしかして、そろそろ奏さんは……
「で、そいつがノイズをぶっ倒したヤツ?」
「まあ、そうだな」
服着といて良かった、と内心ほっとしながら答えると、近付いてきた奏が俺の顔をジロジロと見つめてくる。
距離が近い。胸がデカイ。なんか良い匂いがする。
そんな邪な考えを抱いてしばらく、どこか納得したのか奏が離れていく。
「へぇ、コイツがねぇ……」
「えっと……私は、風鳴翼です。ノイズを倒してもらったことに、感謝します」
「ああ、これはご丁寧にどうも。俺は立花律です。ノイズの件は……どういたしまして?」
おそらく翼は、"人々を守ってくれてありがとう"とか、そんな感じの意味で言ったんだろう。
だが、俺は自分がエミヤの力を使いこなせるか試していただけなのだ。
ちょっと罪悪感を感じてしまう。と同時に、防人語が弱いな、とも感じてしまった。
まだ奏さんが生きてるからか……?
「弦十郎の旦那、コイツ二課に来るのか?」
「その話をしようとしていたところに、お前たちが学校にも行かずに乱入したんだろうが」
「や、乱入したのは旦那が扉を開けたからで……っ、じゃ、じゃあ失礼します! 律、またな!」
「ま、待って奏! えっと……ま、またね、立花くん」
「お、おう」
弦十郎が睨みを効かせただけで、奏も翼も、怯えたように走り去ってしまった。
律に立花くん、か……慣れねぇ。
「騒々しくてすまないな」
「いえ、楽しそうですね」
「それで、だ。うちに来る気はないか?」
やっぱりそれか。
特異災害対策機動部二課、なんて長ったらしい名前を付けてはいるが、ようするにノイズ対策を専門に行う組織のことだ。
そこに来いってことは、俺にシンフォギア装者同様、ノイズと戦えってことだろう。
それに関しては別にいい。しかし、二課に入ることになれば、原作と関わる機会が増えてしまう。それはお断りしたい。
このまま俺が何もしなかった場合を考えると怖いが……そこは大人たちの力に期待したいものだ。
「俺、メチャクチャ弱いですよ? 昨日だって、あなたにボコボコにされましたし」
「一つ言っておくが、俺は君に戦力になって欲しいから誘っている訳じゃない。
ノイズと戦うつもりなら、一人でする必要はないだろう。少しは俺たち大人の力を頼っても良いんじゃないか?
それと、昨日いきなり殴ってしまったことはすまなかった」
あ~、つまり、アレか。
能力を持った俺を保護したいとか、そんな感じか。
なら、この場面で断るとか無理なのでは……? 拒否したら即監禁! とかは無いと思うが、しばらく家に帰れない状態になってもおかしくない。
つ、詰んでる……!
大人としての世話焼きスキルが、俺を殺しに来ている。
「殴られたことは別にいいですよ。それで、二課に入ったとして、俺は何をすれば良いんですか?」
「別に何も。籍を置いて、たまに顔さえ出してくれれば文句は言わん。
もちろん、本格的に所属するなら大歓迎だがな」
適当だな。そんなんで良いんだろうか。
籍を置け、ってのも、どうせ俺が何かやらかした時のためにだろうし。
…………この条件なら、別に入っても問題はない、よな。基本は関わらないようにして、いざ何かあったら全部ぶん投げ。
そんなスタンスを取ればいい……はず。
「その前に聞きたいんですけど……二課って、ノイズと戦う手段ってあるんですか?」
「機密だ」
「俺、二課に入ります」
「うむ。実は、二課にはシンフォギアという──」
まるで流れるように二課に所属してしまった。
ま、まあ入っただけ。先っぽだけ、先っぽだけだからセーフ。
たぶん、トップが弦十郎さんじゃなかったら、俺は拘束&実験のBAD END直行だったんだろうな。
ありがてえ。シンフォギアやら二課のことについても教えてくれたし、マジで良い人だ。
……あの人の傍にいる人間は信用できないけど。や、人間って呼んでいいんだっけか。
「うーむ、その辺曖昧だ」
「どうかされましたか?」
「ああ、すみません。ただの一人言です」
弦十郎さんとの話し合いが終わり、一先ず帰らせて欲しいと頼むと、意外なほど早く帰る目処を付けてくれた。
車と運転手、忍者のおまけ付きで。
真っ黒な車の後部座席に座っているのは、さっき自己紹介を交わした
たぶん、いや間違いなく俺より強い。なのに、ノイズに触れたら何の抵抗も出来ずに死んでしまう。
こういう人たちにこそ戦える力をあげてほしいわ。
と、ムダに大きな車内に、携帯の小さなバイブ音が響いた。
「すみません、少し失礼しますね」
「あ、どうぞ。お構い無く」
電話に出るくらい、俺に言わなくても良いと思うんだが。
そう思い、視線を逸らそうとした一瞬の間に、緒川さんの表情が変化した。
どこがどうとはハッキリ言えないが、何というか、これまで以上に真剣な顔付きになったのだ。
この時点で、もう嫌な予感しかしない。
「翼さんたちには……ええ、そうですか。分かりました。至急向かいます」
「何か、ありましたか?」
ヤバそうな雰囲気を察しながら問い掛ける。
けど、緒川さんは電話を切った途端、いつもの柔和な笑みを見せた。
「いえ、気にしないでください。ただ少し用事が出来てしまったので、今日はこの辺で失礼します」
「待ってください!」
緒川さんの腕を掴み、車から出られないようにする。
といっても、忍者相手に身体を押さえるなんて無意味のような気もするが、少なくともこれで話くらいは聞いてくれるだろう。
「もしかして、ノイズですか?」
「……はい、そうです。司令からは、律さんに聞かれたときは素直に答えろ、と言われています」
「…………場所、教えてください」
迷った末に、ノイズの出現場所を聞く。
弦十郎さんに聞いたところ、既にノイズと戦える数少ない武器──シンフォギアは使えるレベルまで来ているらしい。
実際、何度か実戦にも出ているようだ。
けれど、それもまだ完全ではない。危ない場面も何度もあっただろう。
俺は、別にこの世界の人間を守りたいとか思っている訳じゃない。ただ……弦十郎さんに奢ってもらったお昼が美味しかったから、その分を返したいと思っただけだ。別に他意はない。
「分かりました。場所は──」
割と近く、か。
なら急がないとマズイな。
このまま車を使っていては遅すぎる。仕方なく、運転手さんに近場で停めてもらう。
「どうされるつもりですか? ここからでは、急いでも……」
「はは、わかってますよ。じゃ、ちょっと行ってきます。
投影、開始」
短く呟いて、他者から視認できなくなる宝具を身に纏い、夕暮れに染まる街を駆け抜ける。
このローブがどれ程の効果なのかは、正直試していないから分からない。
が、堂々と街中を飛び回っているというのに、誰一人として騒いでいない、というのが答えだろう。
「便利だな、これ」
「ええ、そうですね。流石に驚かされましたよ」
「ですよね。俺も……なんで隣に居るんですか?」
さらっと一人言に付き合ってきたからか、一瞬反応が遅れてしまった。
ビルやら道路やらを全力で走っていると、隣には笑みを湛えた緒川さんの姿が。
えぇ、なんか凄い余裕そうなんですけど……
俺が割と本気を出している中、スーツ姿の緒川さんはニコニコ笑っている。しかも、何故か街の人間には誰にも気付かれていない。
どうなってんだ忍者。一応こっちは身体能力上がってんだぞ?
「一つお尋ねしますが……勝算はあるんですか?」
え? なにそれ、「思い付きを数字で語れるものかよッ!」を誘ってるの?
いや、緒川さんの表情は至って真剣なもの。
おそらく、ここで俺が曖昧な返答をしたら、すぐにでも動きを止められるだろう。
緒川さん相手なら、瞬く間に気絶させられてもおかしくない。
「勝算は……微妙ですね。あまり戦いとか慣れてないんですよ、俺。ただ」
「ただ?」
「負ける気も死ぬつもりも、ありません。妹の誕生日が近いんで、とりあえずそこまでは」
「……そうですか。微力ながら、僕もお手伝いします」
どうやら、緒川さんの満足いく答えは返すことが出来たらしい。
彼の力を借りられるなら負けはないだろう。……ノイズ以外が相手なら。
「では、少しスピードを上げましょうか」
「はい?」
この人何言ってんの? と疑問に思うより早く、俺の腕が先を行く緒川さんに思いっきり引っ張られた。
瞬間、ありえない程の加速が始まる。
未だ体験したこともない速度で街を駆け抜けるが、景色を楽しむ余裕は欠片もない。
油断すれば死ぬ。緒川さんがうっかり手を離しても死ぬ。
悲鳴を上げないだけで精一杯だ。俺は普通の人間だっつーの……!
そう視線で訴えかけると、緒川さんはこちらへ振り向いてニコリと笑った。
全然意味が通じてねぇ。
こんな大人にはなりたくない、と心に決めながら脚を動かし、ノイズ共が暴れている現場へと辿り着いた。
緒川さんに文句を言うのは後回しだ。
ついさっきまで羽織っていたローブを脱ぎ捨て、いつもの赤い外套と双剣を投影。
「ご武運を」
それだけ言って緒川さんの姿は消えた。おそらくその辺に居るんだろうが……生憎さっぱり分からない。
まあ、俺の実力をハッキリ把握していない以上、そうそう傍を離れたりはしないはずだ。
つまり、今日の俺には準最強のバックアップが付いているということ。
ある程度無茶をしても、緒川さんなら何とかしてくれるだろう。
だから今は、目の前のノイズを殲滅することだけを考えればいい。
幸い、ここは人の多く住んでいる住宅街からは離れているようで人は少ない。というか、見える範囲には誰も居なかった。
まるで、人を襲う気を感じないのが引っ掛かる。
けど、それは一旦後回し。
「はぁああっ!」
──ノイズの群れに、突っ込む。
例のごとく、種類は二足歩行の人型、空を自由に飛び回る鳥型。それと……初めて実際に見る、そこそこ大型の芋虫のようなノイズ。
アレを倒すのはかなりキツイだろうな。
が、ブドウのような姿をしたノイズが居ないのは幸運だ。
投影した干将、莫耶で小型のノイズを切断しながら、大型の注意をこちらに引き付ける。
「ふ……!」
物は試しに、と双剣を投擲するも、効果はイマイチ。
意識を向けさせることには成功したが、どうにもダメージは通っていないらしい。
再び投影で短剣を作り出し、小型ノイズを倒していきながら、大型との位置取りを考えて立ち回る。
さて、どうしたものか。
アレを倒す手段も無い訳ではないが……正直面倒だ。
人型ノイズの特攻を回避し、すれ違い様に攻撃しては数を減らしていく。
「はぁっ!」
が、最も厄介な敵は無傷でこちらを睥睨している。
街へ進行させるのも避けたいし、空の敵も多い。
なら。
「
ノイズの集団から大きく距離を取り、構えていた双剣を破棄。すぐさま詠唱を口にして、弓と矢を投影する。
狙いは、俺から遠く離れた鳥型。
弓を射るのは初だが、エミヤの腕前を借りれば必中は確実だ。
「……ッ!」
命中を確認するより先に、他のノイズたちへ弓を連射していく。
すると、面白いくらいに矢が敵に吸い込まれてしまう。狙った位置に正確に当たり、攻撃を躱しながら放った矢でさえ寸分違わず的中する。
まさか、剣より弓の方が強いのか……?
疑問に思いつつ、デタラメに敵を選ばず矢を放っていく。
ふーむ、いざ投影してみると案外使いやすいもんだな。今度は槍でも使ってみるか。
というか、割と何でも出来そうだから困る。
赤い外套を纏った少年の戦いは、二課本部に居る風鳴弦十郎にも、モニター越しではあるが全て届いていた。
(なるほど……住民には被害を出さないように戦闘をしているのか)
弦十郎視点、少年──立花律の戦い方は、お世辞にも上手いとは言えなかった。
ムダな動きは多い上、一撃一撃の振りも大きい。一歩踏み込めば追撃可能な場面で後退を選択し、みすみす敵を取り逃がしてもいる。
だが、誰かを守ろうという意思の強さはハッキリと感じられた。
(おそらく、街へノイズを進行させないために、わざと剣と弓を使い分けているんだろう。
おまけに、攻撃を全て自身に向けさせている)
弦十郎は、そう解釈した。
魔法も中々やるじゃないか。小さく呟いて、戦闘が始まってからの時間を確認する。
律がノイズと戦い初めてから、ここまで十分弱が経過していた。
なら、もうそろそろだ。
「司令! 風鳴翼、天羽奏の両名が現場に到着しました!」
部下からの報告を聞き、勝利を確信した。
もうノイズの数も律のおかげで大分少ない。これなら、奏を使っても極めて少ない時間で対処できる。
弦十郎は律に、シンフォギアは完成しているが、まだ未完成でもある、と言った。特に奏の方は強い制限がある、とも。
そして、風鳴翼と天羽奏の二人は、これまでに多くのノイズを撃退してきたのだ。
もちろん、律がまともにダメージを与えられない大型ノイズですら例外ではない。
「ここまで読んでいた、か」
自分に注意を引き付け、やれる範囲で小型を減らす。
倒せない大型も出来るだけ意識を向けさせ、ノイズを倒すスペシャリストである、シンフォギア装者がやって来るまでの時間を稼ぐ。
なるほど。戦闘の腕前はまだまだのようだが、観察眼はあるらしい。
「立花律、やるじゃないか」
弦十郎の中で、勝手に評価がぐんぐん上がっていることを、律はまだ知らない。
「はぁっ!」
七~八割程度のノイズを倒し、改めて投影し直した双剣を構えると、唐突に歌が聴こえてきた。
は? 歌? しかも、この曲……まさか奏の?
ふと歌が聴こえてきた方向──真上を見上げれば、視界に入るのは旋回を続ける一機のヘリ。そして、そこから飛び降りてくる少女たちの姿。
「Croitzal ronzell gungnir zizzl」
「Imyuteus amenohabakiri tron」
二人の少女──天羽奏と風鳴翼が、シンフォギアを起動させるための"聖詠"を口にしたと同時に、眩い光に包まれる。けれど、それも刹那の出来事。
瞬きを終えた次の瞬間には、それぞれ刀と槍を携えた、戦士の姿へと変化した。
メインカラーが青で、刀を手にしているのが翼のシンフォギア──天羽々斬。
オレンジを基調として、槍を己の武器としている奏のシンフォギアが──ガングニール。
……いや、呆けている場合じゃないな。
空から
なら、俺がノイズ共の近くに居たら邪魔になってしまう。
すぐさまステップを踏んで敵から距離を取ると、上空から聴こえる歌が力強さを増した。
そして──
【STARDUST∞FOTON】
構え、投擲した槍が大量に分裂し、彼女の視界に入っている全てのノイズを貫いていく。
その効果は絶大だ。俺が倒しきれなかった小型ノイズが一瞬の内に消失し、最後に大型ノイズだけが残る。
が、それも天羽々斬の敵ではない。
【蒼ノ一閃】
翼の手にしている剣が巨大化する。歌によって引き出したエネルギーが、全長三メートルは越えているだろう剣を作り上げた。
おそらく、エミヤが投影できる剣の中にも、アレほど大きなものは数本とないだろう。
そんな翼の剣が軽々と振るわれ、刀身から輝かしい光の斬撃が放たれる。
その威力は、人間のサイズを遥かに越えた大型ノイズをあっさりと呑み込み、消し飛ばしてしまう程のものだ。
シンフォギア、強っ……これで未完成とか冗談だろ。
もちろん、翼はともかく奏にはキツイ時間制限があるのだが……にしても強過ぎる。
まあ、俺もまだまだ出せる手はあるし、そう悲観することもないか。二人に勝つことが目的な訳でもないのだし。
「よっ、お疲れさん」
「あっ、えっと……お疲れ様です」
ガングニールのシンフォギアを纏ったまま、奏が話し掛けてきた。
なんデスか? まさか、さっきの戦闘のダメ出しとかをされるデスか?
そう若干警戒していると、奏が苛立ちからか頭をガシガシとかきむしった。
「お前、敬語禁止。なんかむず痒くなるんだよ。
正直、お前の力に思うところが少しも無い訳じゃないけど……ま、そこはいいや」
「あっさりして……るんだな、意外と。俺は奏が良いって言うなら敬語は無しにさせてもらうわ。結構疲れるし」
ぶっちゃけ敬語を使うのも面倒だと思っていたところだ。彼女の方からの提案は有り難い。
が、それが本音という訳ではないだろう。何かしら、聞きたいことがあって話し掛けて来たのだろうから。
「んで、一つ聞きたいんだけどさ……あたしらのこと──シンフォギアのことって、旦那にでも聞いてたのか?」
「……いや、まあ、少しくらいはな。って言っても、俺はまだ正式に二課に所属した訳じゃないし、ほとんど何も知らないよ」
意外な問に驚かされてしまった。俺はてっきり、ノイズとどうやって戦っていたのか。あの双剣や弓は何なのか。その辺りを聞いてくると思ったのだが……なぜシンフォギア?
「じゃあ……あたしらの戦い方とかは?」
どう答えれば良いのか僅かに考え、すぐに思考を打ち切った。ありのままを答えるべきだろう。
原作知識としては知っていても、弦十郎さんに直接聞いた訳ではないのだ。ここは知らない、とすべきだ。
「それも全然。
シンフォギアに関してのおおまかな説明とか、あと未完成な上、時間制限まであるゾ、ってくらいかね」
「そう、か……知らないのに、か」
何事か考え始めてしまい、ぶつぶつと一人言を呟き出してしまった。
話はもう終わりらしい。残念だ。天羽奏……バーローさんは割と好きなタイプの人だったんだが。もう少しくらい話していたかった。
と。
「あっ、えっと……お疲れ様、です」
「ああ、お疲れ」
次に話し掛けてきたのは、青い髪の少女──風鳴翼だった。
ってか、防人語が無いと偽物みたいだな。普通の可愛い女の子みたいだ。
「二課に所属するって本当ですか? えっと……立花さん」
「あ~、律でいいよ。俺も翼、って呼び捨てにするから」
「でも……」
「いいっていいって。実際俺、妹の友達にあだ名で呼ばれてるくらいだし」
「……うん、わかった。じゃあ改めて。律、二課には所属するつもりなの?」
「考え中、かな。本格的に決めたら弦十郎さんに連絡するよ。
──っと、また今度な、翼!」
嘘まみれの返答をして、赤い外套を破棄。そして、干将・莫耶よりも魔力を食う認識阻害のローブを羽織り、その場から走り去る。
数歩駆け出して背後をチラリと振り返ると、ヤバそうな黒服のおっさん達が山ほど現れていた。
残念ながら面倒はごめんだ。さっさと家に帰って、響とゆ~っくり過ごさせてもらおう。
あやふやな土地勘を頼りにしながら、暗くなりつつある街の中を駆け抜ける。
どうせ名前とか住所とかは知られてるんだろうが、こっちから動かなければ、もう積極的に関わってきたりはしないだろう。
一応で置いてしまった籍は気になるけど……ま、気にしたら負けだな。
どうしてか昨日より速く走れることに驚きつつ、あの大型ノイズを倒すために投影しようとした、
おそらく、作るだけなら簡単だろう。問題なのは、俺に"真名解放"まで持っていけるかどうか。
……慣れ、だよな、やっぱり。
少なくとも、干将・莫耶と赤い外套は、段々と魔力の消費も抑えられ、精度を上げることにも成功している。
なら、いずれ────いや、ちょいシリアスやり過ぎたな。
俺はモブで良いんだよ、モブで。主人公役は弦十郎さんか奏、翼にでも任せるよ。
しっかし疲れた……帰って響に癒してもらおう。
なお、その後帰りが遅かったせいで、ちゃんとした理由があったんだと言っても、響の機嫌はしばらく直らなかった。
弦十郎さん、もうちょっと頑張って、朝から晩まで家に帰らなかった正当な
拗ねた響も可愛かったですけどネ。
二人のシンフォギア装者を乗せたヘリが動き出した中、奏がすぐ隣の翼に問い掛けた。
「気付いてたか? 翼」
「気付いてた……って、何に?」
「律の動きだよ。アイツ、あたしが槍を投げるより先に動き出してやがった」
「それって……まさか、奏のほんの少しの予備動作から、どんな攻撃をするか見切ったってこと?」
「ああ、だろうな。
旦那があたしらのことを軽々しく喋るはずがない。なら──そういうことだ」
おそらく律は、ガングニールと天羽々斬の特性を読んだ上で行動していたのだろう。
奏の姿を見た瞬間、大きく敵から距離を取っていたのも、奏と翼のやろうとしていたことを把握したからに違いない。
「ほんとに面白いな、アイツ。あの変な力もそうだけど、たぶん全力で戦ってた訳じゃないみたいだし。
……一回本気でやり合ってみたいぐらいだ」
「もう、奏? いきなり無茶はダメだからね?」
「わーってるって」
適当に言って、翼から視線を逸らす。
試しに一度、本気で戦ってみたい。そう思いつつ、自身が戦ったことで守れた街を見下ろす。
そこには、普段通りの人々の営みがあった。誰も、裏で奏や翼、律がノイズと戦っていることなんて知らない。
けれど、それでも構わなかった。
きっと少し前までなら、こんなことは思いもしなかっただろう。
変わったのか、それとも変えられたのか。
奏はふっと表情を緩め、自分たちにやって来た、"アーティストにならないか"という誘いへの返答を決めた。
×余裕ぶって全力を出さない
○経験値が足りなくて全力が出せない