配役は脇役で   作:t、

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剣の誓い(偽)Ⅱ

 

 九月十三日は、俺の妹、立花響の誕生日である。

 その日は父さんも仕事から早く帰り、俺と母さんで作った料理を家族全員で食べるのが恒例だ。

 が、とても大きな問題があったりもする。

 響にどんなプレゼントを贈ればいいのか、未だに答えが出ないのだ。

 まさかご飯&ご飯をプレゼントにする訳にもいかないだろう。

 かといって、女の子の喜ぶもの……と言われてもイマイチぴんと来ない。

 だから、

 

「未来、助けてくれ」

 

 響の親友で、俺の身近に居る中で最もまともな価値観を持っている、小日向未来に頼った。

 

「りっくんがプレゼントしたものなら、きっと何でも喜ぶと思うけど?」

 

「その何でもがな……」

 

「毎年悩んでるもんね」

 

「ああ、死ぬほど悩んでる。ただ、あくまで悩んでるだけであって、困ってる訳じゃないってことは分かってほしい」

 

「それは分かってるけど……じゃ、今から色々見に行こっか。私も協力するから」

 

 本当にありがたい。

 毎年毎年頼んでしまって申し訳ない限りだが、こればっかりは未来に助けてもらわないと解決しそうにない。

 そんなわけで、彼女の誘いからちょっと遠出をして、近場のショッピングモールへと向かう。

 その道中、バスに揺られながら未来と色々話をしてみても答えは出ないが。

 

 どんなものでも買えるくらい、二課からお金は貰ってるし構わないんだけどなぁ。学生の軽いアルバイト感覚で受け取ったら、桁が一つおかしかったのは今でもハッキリ覚えている。時給いくらの扱いになるんでしょ。

 

「誕生日プレゼント。何でもいいとは言うけど、でも限度はあるだろ?」

 

「? 限度って?」

 

「何万もするものとか贈ってもいい?」

 

「うん、それはアウトだね」

 

 だよなぁ。

 まさかスパチケットとかワインなんかを贈る訳にもいかないだろうし。というか喜ばないだろうし。

 

「予算は高過ぎるとダメだからね? 学生がするプレゼントの単位で万は普通におかしいよ」

 

「そうか……まあ気を使わせるのもアレだよな。金額見て、ちゃんと使わなきゃとか余計なこと考えられるの嫌だし」

 

「りっくんって、たまに頭が良いのかバカなのか分からなくなるよね」

 

 昔俺と響がプレゼントした、今も髪を結っているリボンを撫でながらの言葉に、ライフポイントがゴリゴリと削られていく。

 結構ぐさりと来るものがある。や、バカなのは事実なんだが。

 

「まあ、その辺は実際に見ながら考えよ。

 ほら、行こりっくん」

 

 珍しく未来に手を引かれ、中々に広いショッピングモールを進む。

 どうしてだろうか。やけに未来が楽しそうにしているのが気になる。ニコニコ笑っている姿は可愛いし、別に構わないんだけど……軽いデート気分なんだろうか。

 

「やっぱり消耗品とかじゃなくて、ずっと使えるものが良いよね」

 

「だな。喜んでほしいし、使ってもらえるならずっと使ってもらいたい」

 

「ふふっ。もう答え出てると思うんだけどな。あ、響に直接選んでもらうのも良いんじゃない?」

 

「直接、か……それも良いかもな。二人で一緒に出掛けながらとか」

 

 返答しつつ、未来に連れられて入った雑貨店を見て回る。

 そりゃ、響と出掛けて……たとえば遊園地とかに行くのも楽しいかもな。下手に金を掛けるよりだったら、より喜んでほしいし。

 そう考えて、未来とまた別の店に入っていく。

 二人一緒だからか、女物の服が置いてある店に男の俺が居ても、奇異の視線は向けられない。大方、カップルがデートでやって来たとでも思われているんだろう。

 実際は違うんだが、その方が自然に見えるならそれでもいいか。

 

「こんなのはどうかな? 響に似合うと思うんだけど」

 

「おっ、結構良いな。……や、でもそれ、どっちかって言うと未来に合ってる気がする」

 

「え、私?」

 

「うんうん。割と落ち着いた感じだし、いつもの未来の雰囲気ピッタリだな、って」

 

「そ、そっかな……」

 

 手にした洋服を小さな手でぎゅっと握り締め、頬をほんのり赤く染める。

 うーむ、このまま試着してもらって、気に入るようだったら買ってあげようかしらん。

 可愛いし、手伝ってくれてるお礼がしたいし。あと可愛い。

 どうしようか悩む未来に、「気になるなら試しに着てみたら?」と続けようとして────唐突に鳴り響いた携帯に邪魔をされた。

 と同時に、周囲から僅かに戸惑ったような……悲鳴に似た声も。

 その原因を薄々察知しつつ、弦十郎さんの通話に出る。

 

「もしも──」

 

『律、ノイズが現れた! 至急現場に向かってくれ!』

 

「ッ……了解!」

 

 思わず舌打ちをして、ノイズの発生地を確認してから通話を切る。

 どうやら、また狙い澄ましたかのように俺の周辺に現れたらしい。

 早く向かわなければ、被害が出てしまう。

 慌てて駆け出そうとした俺の手が、未来に掴まれて止められる。

 

「待って! ノイズ、なんでしょ? りっくんが行かなきゃ、ダメなの……?」

 

「……ああ、俺が行かないとダメなんだ。だから行かせてほしい。

 大丈夫、すぐに戻ってくるから。そうしたら、また二人でデートの続きをしよう」

 

 言って、未来の手を優しく握って振りほどく。

 俺に無理をしないでほしいと思っていることは分かっている。

 でも、未来が巻き込まれるかもしれないのなら、やはり逃げ出すことは出来ない。

 この近くで現れたなら、未来を守るためにも戦わないと。

 響や未来が生きる街を、守らないと。

 

「じゃ、ちょっと行ってくる」

 

「うん────頑張って、無理はしないでね。ずっと、待ってるから」

 

 未来が笑って応えてくれたから、俺も笑ってここを離れることが出来る。

 ショッピングモールでざわめく人達の群れを掻き分け、開かれている屋上に上がった。

 ノイズの数は、これまで戦ってきた数とは比べようもない程に多い。見る限り、おそらく百や二百程度では収まらないだろう。

 このまま俺が黙って見ていたら、たくさんの人が死んでしまう。

 奏と翼も、すぐには来られない。俺しか、戦える人間はいない。

 ……俺だけ、なんだ。

 

 ふぅ、と一つ息を吐いて。

 身体中に力を籠め。

 借り物の能力で剣を描く。

 

「投影開始」

 

 瞬きをした僅かな時間で双剣と外套、いつもの仮面を投影。

 屋上の地を蹴って──駆け出す。

 同時に複数の宝具を作り上げ、街で人々を襲っているノイズに射出する。

 その数、合計二十本の剣がノイズを正確に刺し貫いた。

 続けて同じ数だけ剣を投影し、襲われそうになっていた人を助けるために放つ。

 

 ショッピングモールの屋上から、ノイズの群れが集まっている地点に飛び下りる。

 周囲の敵が、一斉にオレヘ向く。

 人型、カエル型、鳥型、ダチョウ型、タコ型……さらには初めて見るブドウ型まで存在する。

 が、どうしてだろう。少しも負ける気がしない。

 これほど多くの敵が居て、新型のノイズまで現れているというのに、一人でも何とか出来そうな気がしてくる。

 

投影開始(トレース・オン)

 

 手にした双剣を投擲。干将と莫耶が、ビルより高い位置で漂う鳥型へ向かって飛び────爆裂する。

 剣に籠めた魔力が弾け、大気を震わせるほどの轟音を立てながら白い閃光が走ると、刹那の間にその場に居たノイズは全て消え失せた。

 おそらく、今の攻撃で百は数を減らせただろう。だが、まだ十分の一も倒しきれていない。

 

 魔力が相当量持っていかれ、かつ周囲に被害を出さないようにする難点があるものの、壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)は有効らしい。もちろん、使いどころを考える必要はあるが。

 

「……ッ」

 

 ノイズが迫る。

 しかし、たかが数本の剣がオレの引き出せる限界ではない。

 数瞬も隙を作らず、冷厳なる白亜の剣(アルマッス)を投影し、降り下ろす────!

 たとえ何の技量もなく、何の力を持っていない人間が使ったとしても、この剣は使用者に応え、その伝承に相応しい氷の力を振るっただろう。

 足元に突き刺した剣から、幾重もの氷柱が生み出されてノイズを襲う。

 貫き、凍てつく冷気に包まれながら、次々と数を減らしていく敵を見やり、

 

投影開始(トレース・オン)ッ!」

 

 背後から迫り来るノイズへ向け、干将・莫耶より小振りな短剣を投影する。

 名を、阻まれぬ光(クラウ・ソラス)

 この短剣は、燃え盛る炎、輝く光、全てを照らす雷、と様々な伝承を身に宿す高位の宝具。

 実在する遺物を解析、複製した剣を、光を放つ神秘のみを引き寄せて────投擲する。

 あまりにも限定的な投影ではあれど、それですらノイズを討ち滅ぼすには充分すぎる。

 

 まだ俺は、全ての力を引き出せている訳じゃない。

 ノイズを倒すことにだって時間はかかるし、まったく犠牲者を出さないなんてことも出来ない。

 シンフォギア装者である奏や翼と比べれば、ハッキリ言って俺の方が弱すぎる程だ。

 だが、それでも守りたいものはある。

 大切な場所は、それこそ誰にも負けないくらいに。

 

「ふ……ッ!」

 

 周囲のノイズを片付けると、地面を強く蹴ってビルの屋上に飛び上がり、弓と矢を作る。

 目標は、今にも人を襲い、炭化させようとしているノイズ。

 それらへ向け、何も気負うことなく矢を放つ。無論、外れることなどありえない。

 異常なくらいによく視える瞳を使い、見下ろした先で優先順位を付けて弓を射る。

 優先すべきは、人を死なせないこと、街を守ること。

 ────大切な人を、守ること。

 

 近場のノイズを倒し、避難が緩やかながらも進んでいるのを確認しつつ、さらに前を行く。

 これまで倒した数は、およそ五百。一度に現れたノイズの半分ほどだ。

 が、まだ終わらない。

 オレの視界には、連中の姿が相も変わらず映っている。

 

「身体が、軽い……!」

 

 敵を何体倒しても、まったく重いとは感じない。俺の考えた通り、思った通りに身体が動くのだ。

 たった一つだけ、明確に守りたいものを──覚悟を決めてしまえば、こんなにも差が生まれてしまうのか。

 苦笑を漏らしつつ、双剣を投影。

 小型のノイズの群れへ接近して、次々と斬りかかっていく。

 

「はぁああっ!」

 

 ノイズが数体まとめて突っ込んでくるが、それもやはり敵ではない。

 ドリルのように形状を変化させて飛ぶのに合わせ、両の短剣を的確に振るだけで事足りる。

 むしろ、こちらが脚を進ませる必要が無くなり、避難もスムーズに進められるのがありがたい。

 そう考えたそばから、さらにノイズが奇襲気味に複数で飛んでくる。

 だが無駄だ。

 

「はッ!」

 

 全てを即座に叩き落とし、その場に固まっていた連中を倒しきると、また跳躍を繰り返して別の敵の元へ向かう。

 小型ばかりが大勢という状況は、大型が一体居るだけよりも対処しやすいのだが、こう数が多いと面倒にもなる。

 ゆえに、比較的慣れている宝具を投影し、その剣に宿っている神秘を最大限に利用させてもらう。

 炎が走ってノイズを焼き付くし、雷が一直線に駆け抜けて、眩い光が降り注ぐ。

 しかし、中々に厄介な敵も居るようで。

 

「チッ、ブドウ型か……!」

 

 近接戦に切り換え、目の前のノイズだけに集中していると、回避しなければならない脅威が襲ってきた。

 視界に広がる、ノイズが放った爆弾の山。

 一つ一つが人間を殺すには充分な威力だというのに、飛んでくる数は七。

 あまりにもオーバーキルすぎる。

 もっともそれは、オレが普通の人間だったらの話だ。

 

 敵の攻撃を確認してすぐ、その場から跳躍して爆発と爆風から逃れる。

 小さな破片も同時に飛んでくるが、大袈裟に避けるまでもない。大きく距離を取ってしまえば、爆弾の効力など簡単に薄れてしまうのだから。

 だが、爆発が何度も繰り返されると、オレより先に街への被害が気にかかってしまう。

 幸い、現れたノイズはあらかた片付けてある。残っているのは、爆弾を今現在も生成中のブドウ型と、その周囲に居る小型ノイズが数十体ほど。

 なら、装者二人を待つまでもない。

 このまま決める。

 

「ッ!」

 

 射出された爆弾に向け、誘爆を目的とした粗悪品をぶつけて回避。

 爆風から逃れつつ地を蹴って弓を投影。空中でノイズ共を見下ろしながら、慣れた手付きで矢を放つ。

 狙いは正確そのもの。ただの一射たりとも外れることはなく、追加で迫る爆弾すらも容易に起爆させ、複数の攻撃をただの一発で防いでみせる。

 確かにあのブドウ型は脅威だ。俺なんて一撃で……いや、それこそ爆風ですら殺せてしまえるだろう。

 しかし、それは攻撃が当たったら、という仮定の話に過ぎない。

 

「はああッッ!」

 

 続けて矢を放ち、群れをなしているノイズを着実に倒しながら、けれど街に被害を出さないよう誘導しつつ戦闘を行う。 

 爆弾は厄介極まりないが、位置取りを注意して処理してしまえば問題はない。

 だから、もう終わりだ。

 再生した爆弾を弓矢で即座に爆発させ、

 

投影開始(トレース・オン)

 

 決して折れないという逸話を持つ、絶世の名剣(デュランダル)を投影する。

 その名の通り、接近してきた小型ノイズは、まったく労することなく倒れていく。

 双剣を使っているときよりも手応えを薄く感じるが、これがデュランダルの特徴なのだろう。

 あまりにも易々と剣が通るのに内心で笑みを浮かべつつ、最後のノイズ──ブドウ型に接近。

 

 だが、敵もそう簡単にやられてはくれないらしい。

 一メートル弱程度に膨らませた爆弾を、俺へ目掛けて放とうとする。

 その数、六。大した脅威ではない。

 一度踏み込んで、跳躍。空中へ飛び上がりながら迫り来る爆弾を回避して──

 ──そこで初めて、ブドウ型に付いている、最後(七つ目)の爆弾が視界に入った。

 おそらく、最初の六つでこちらの動きを誘導し、残った一発で仕留めるつもりなのだろう。

 最後の爆弾が……人間一人を簡単に殺せる爆弾が、射出される。

 剣をぶつけて誘爆させれば、爆風が届きかねないためアウト。盾で防ぐやり方も巻き添えを食らう。

 ────ならば、避けてしまえばいい。

 

「投影、完了」

 

 再び爆弾が放たれた瞬間、空中に剣を複製して足場を作りあげ、即座に投影品を蹴って回避。

 勝利を確信していたブドウ型に接近して、絶世の名剣(デュランダル)を振り下ろした。

 同時に、背後で爆裂が起きる。

 これで終わりだな……

 脱力して投影品を消しながら、周囲に視線をやる。 

 もうどこからもノイズの姿は見えず、人々の悲鳴は聞こえない。

 もちろん、街への被害も極力抑えることが出来た。今までの俺では考えられない戦果だな。

 

 ふぅ、と一つ溜め息を吐いて、認識阻害の宝具を投影し、その場からさっさと離脱する。

 念のため、弦十郎さんにノイズの存在を確認するも、返答は予想通りのものだった。

 じゃあ、これで戦いも本当におしまい、と。

 お疲れ様でしたー、とやる気のない返答をして通信を切り、俺のことを待っている少女の元へ向かう。

 約束を守れたこと、ちゃんと伝えてデートの続きをしないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……すごい、な……」

 

 モニターを見つめながら、弦十郎は思わず感嘆の声を漏らした。

 眼前に映っているのは、自称魔法使いを名乗った立花律の戦闘の様子。それも、ただの戦いではない。

 街に残された多くの一般人を守りながら、ノイズを瞬く間に倒して見せた映像だ。

 もちろん、犠牲者がまったくの0ということではない。ノイズの発生を予測出来ない以上、対応が遅れてしまうのは仕方のないことだろう。

 それは今回も変わらない。ノイズが現れてから律に連絡が届き、それからしばし遅れて戦闘が始まったのだ。

 だというのに、被害を最低限に収め、戦闘による余波での破壊も微小。殲滅に掛かった時間も、ノイズの数が千を越えていたことを考えれば破格の一言に尽きる。

 

「まさしく魔法。でしたね、司令」

 

「ああ。まったく……随分派手にやってくれたもんだ」

 

 これから忙しくなるだろう。

 ……いや、もう既に二課の職員は今回の件で動き始め、情報規制に乗り出していた。

 律の戦う姿は何人もの人間に見られている。

 だから完璧に抑えることは難しいが、それでも何とかするのが大人の役目で、子供に後を任された者の務めだ。

 正体がバレてしまったとき、立花律の生活がガラリと変わってしまう。そう弦十郎が危惧しているからでもあった。

 律自身は、顔見せはNGなんですよ、と冗談めかして口にしていたが、誰も好き好んで正体をバラしたくはないだろう。その点は仮面やローブを多用していることからも窺える。

 

「金やら政治やら。そんなものにアイツらを巻き込む訳にはいかないからな」

 

「ですね……ところで司令、律さんがネット上で何と呼ばれているか知っていますか?」

 

「ふっ、騎士に剣士にアーチャー……本人(魔法使い)が聞いたら嫌がりそうだな」

 

 ネットに上げられた幾つかの画像──そのほとんどが既に処理されてしまっているが──には、幸いなことに律の素顔を映すようなものはなかった。

 だが人々を守るために双剣を振るい、街への被害を抑えながら弓を放つ姿は、少々ぼけながらもしっかりと残されていたのだ。 

 だから、だろう。律を敵だと思う者、不気味だと感じる者よりも、好意的に捉える人間の方が多いらしい。

 もっとも、そのどちらも一部の人間の反応でしかなく、あくまでも今現在の話でしかないが。

 

「そういえば、律さんからの連絡ではなんと?」

 

「"デートの約束があるので失礼します。お疲れ様でしたー"だとよ」

 

「それは……なんというか」

 

「変なところで子供みたいな奴だ。

 しかし、まさか魔法があそこまでとはな。それに、あの剣と弓の技量は……」

 

 初めて律と拳を交えたときと、先程の戦闘時では、あきらかに武器の扱いが上達しているのだ。もちろん、ただ向上しているだけなら何も問題はない。

 けれど弦十郎から見れば、異常に思えるほどハッキリと上手くなっているのが分かってしまった。

 弓に関しては、使っている姿をそこまで見ていないため、まだいい。

 が。

 

「あれほどの上達速度は普通では考えられないが……」

 

「──そりゃ、アイツはまだまだ本気を出してないからだろ」

 

 と。ついさっきまでノイズとの戦闘に向け、いつでも出撃できるよう待機していた奏が指令室に現れた。

 

「翼と初めて模擬戦したときも、アイツは途中まで全然本気出してなかったろ?

 たぶん、あのときは翼のレベルに合わせてて、今回はあたしらの到着が遅れてたからなんじゃねぇの?」

 

「そう、か……?」

 

 奏の言葉に頷きつつ、立花律の過去の戦闘を思い返す。

 ありえない程早い上達と、必要に差し迫られたときだけ全力を出しているという仮定。どちらも確信に至るだけの材料はなく、また魔法という不確定要素まで入れれば判別は付かなかった。

 本人に聞かないでほしい、と頼まれた以上は、弦十郎の方から魔法に関して聞くつもりもない。

 

 なら、ここで話は終わりだ。

 成長が早いだけならそれで良し。以前までは派手に動いて素性を知られることを嫌い、今回は住民のために全力だった、というのもまた構わない。

 ただ一点。もし自身の限界を越えて、無理矢理にでも力を得ようとすれば、きっとそのツケは遅れてやって来るだろう。

 万が一そんな未来が訪れたなら、そのときは必ず守り抜いてやる。そう心に決めた大人が居るなら、きっと問題はないだろう。

 

「しっかし、アイツもよくやるねぇ。あたしの仕事ぜ~んぶ奪っていきやがった。

 しかも、そのままデートって……はは、ほんと忙しいやつだな」

 

「ふむ。……奏、突然の召集ですまなかったとは思うが……宿題は終わっているのか?」

 

「げっ……それはアレだよ、アレ……つ、翼んとこ行ってくるわ!」

 

 楽しそうに笑って呆れ、弦十郎に問い掛けられて慌てたように指令室を出る奏。

 ころころと表情を変えながら逃げ出し、くそ真面目に待機を続けている翼の元へ向かう。

 天羽奏。夏休み終了間近にも拘わらず、未だに宿題終わらず。

 というか、ほぼ手を付けていないレベルだった。妙に頭の良い律を頼るまで秒読みの段階である。

 

(翼は頼れないし、やっぱ律しかいないよなぁ)

 

 付き合いは短くても、奏はそれなりに律を信頼し、困ったらアイツに頼もうと思うくらいには好感を抱いていた。

 それは相性が良いという以上に、律から純粋な好意を向けられているからでもある。

 歌を褒められ、好きだと言われたから、なんて理由もあるかもしれない。

 天羽奏は、少なからず立花律のことが好きなのだ。

 それこそ、彼が困っていたら助けてやりたい、守ってやりたいと思うくらいには。

 

 "殺したい"から"守りたい"へ変わったのは、彼女の周囲の大人や翼のおかげなのだろう。

 復讐を忘れた訳でもないが、少なくとも今はちゃんと笑えていた。

 翼をからかおうと考えて、律に面倒な宿題の範囲をぶん投げようとして、大人たちにそれを注意されて。

 そんな未来を、無意識に望んでいた。意識するまでもなく、きっとそうなるだろうと思っているから。

 

 

 ツヴァイウィングが正式に結成されるまで、まだ少し。

 運命の分岐点が、少しずつ確かに近付いていた。

 

 




 
この作品でバッドエンドとかも書くなら、後書きでタイガー道場的なのも書きたいですねぇ。
死んでしまった原因を「愛ですよ」としか語らないウェル師範代。
とりあえず叫ぶ弟子一号の風鳴弦十郎(ブルマ装備)。
「やっぱり魔力が足りなかったのよん。魔力供給は計画的にねん」と煽る了子さん(34才独身)に、生首だけの登場キャラ、やさぐれ緒川とか。

……まあ書かないんですけど。
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