野球のことは知ってはいるけれど、レベルです。
この話はスプラウト・リーグというセ、パ・リーグとは別の仮想のリーグの話です。
また女性が選手として登場します。
まだ右も左もわからない人間なので温かい目で見ていただけると幸いです。
あと第一話がいっしょになっているのに後になって気づきました。
色々と間違いがあったことをお詫びいたします。
20年前
上昇する野球人気に日本野球機構(NPB)は『セントラル・リーグ』と『パシフィック・リーグ』のほかにもう一つのリーグを新設した。芽という意味を持つ。スプラウト・リーグ。通称ス・リーグ。
新リーグを作ると同時に日本野球機構は女性も参加できるようにした。
こうして女性も男性と同じ土俵でプロ野球選手として活躍できる環境となった。
プロローグ第53回プロ野球ドラフト会議
2017年10月20日
「第6巡目選択希望選手。スイーツエンジェルズ、
有賀草悟。
その名前に会場がざわめく。
意外な選手、もしくはあまり聞き覚えのない選手が呼ばれることはドラフトでは珍しいことではない。
しかし会場にいる人たちは未来のプロ野球選手なる素材に精通している。何かしらの場で活躍していれば誰かは知っているはずなのだ。
公式戦でも練習試合にも出場したことのない、全く知られていない選手が選ばれた。
そんな人たちが集まる場で、指名したスイーツ以外の人間が驚きを隠せないでいた。
★
(まあ、そうだろうな)
担当した
有賀草悟を知ったのは今年の夏。しかも公式試合やグラウンドではなく彼の家だった。
きっかけは御山自身が担当した現スイーツの三塁手、
野球部ではないのになぜ薦めるのか。御山には理解できなかった。しかし憂男が冗談をいう人間ではないことは分かっていた。そんな人間が熱心に薦める。
そこまで言うなら。
そんな気持ちで御山はまだ見ぬ青年がよくいるという裏山に足を運んだ。
音がしたので見るとそこにはボールを投げている青年がいた。
捕手に見立てた壁に全力投球している青年を、ばれないように御山はジッと見ていた。
スピードはあるけれどプロでは通用しないな。
それが御山の最初の評価だった。しかしダッシュの練習に変わるとその評価は変わった。
(これは!?)
脚力もさることながら走ってから最高速度まで到達する短さ、そしてすぐに止まることが出来る頑丈さと柔軟さ。一言で言うなら走り方がかっこいい。
その後バッティングセンターに行ったので後を追うと、再び絶句した。
打席に立つと際どいボールは見逃しストライクゾーンに来たボールは綺麗に打ち返していたのだ。選球眼といじる必要がないバッティング。
なぜこんな子が!?
野球部に所属していない青年がプロで通じるだけの実力を持っていることに驚くと同時にまだ見ぬ金脈を見つけたような高揚感を覚えた。
御山は青年にばれないように隠し撮りをし、無名の青年を取るように上層部を説得。青年の通う母校に青年にプロ志望届を出すようにお願いした。
そして今日。
スイーツの新たな一人として、有賀草悟は弱小球団スイーツに入団することが決まった。
★
『第6巡目選択希望選手。スイーツエンジェルズ、有賀草悟。投手。去華高校』
会場がざわめく中継を、一人の選手が自宅で見ていた。
隠九条憂男。
4年前にスイーツに入団。その後レギュラーに定着するほどに成長した。
無名の青年と初めて会ったのは2年前。シーズンが終わって母校で公演を行った時だった。
公演が終わりに近づく時。『最後の質問は?』という問いに一人の高校生が手を上げた。
『どうしたらプロ野球選手になりますか?』
少々見栄を張りたかった憂男は自分が課している『高校3年の時に一念発起して、朝500本の素振りしていた』以外にこういった。
『腹筋背筋、体幹トレーニングをしてましたね』
公演の一年後。
ピンポーン!
玄関を開けるとそこには一人の青年が立っていた。
公演の時に会ったことはあったが憂男は覚えていなかった。
『公演の時に質問させてもらった高校生です』
静かにそういった青年に憂男は思い出す。
その後、青年が言った言葉が憂男を仰天させた。
『あの時言われたことを実践しました。プロ野球選手にして下さい!』
驚きを隠せなかった。『どうしたらプロ野球選手になれますか?』の問いに答えただけで“したらプロ野球選手にしてあげる”とは言っていない。
何かを言おうとする前に青年は両手を見せた。
ボロボロの手。自分が高校の時に見た、本当に上手くなれるのかという疑問を振り払うようにバッドを振り続けたのと同じ手だった。
そして改めて青年の体を見る。小柄な体格。筋肉隆々というわけではない。しかし姿勢から自分が言った嘘を青年がやったことを悟った。
自分が言った嘘も含めて青年が実直に行っていた。
この青年がプロで活躍する場面が見てみたい。
たった一度しか会っていない他人が自分をプロにしてくれという無礼。もし自分のチームに入団したら自分のポジションを奪うかもしれないという不安。そんなことを考えさせないほどの想いが憂男の心を支配した。
青年に『僕の力では君をプロにさせることは出来ないけど出来るだけのことはするよ』と伝えて帰らせると、すぐに自分を担当してくれたスカウトに連絡を入れた。
『御山さん。ちょっと見てもらいたい子がいるんですけど――』
★
会場からショートヘアの黒髪女性が球団関係者と共に出てきた。
「美空監督。今回のドラフトの手ごたえはいかがな物でしょうか?」
「かなりいいドラフトでした。ほぼ考えていた結果となりました……」
美空はドラフト上位たちの感想を述べていく。そして話題はある人物につながる。
「それでは美空監督。ドラフト6位の有賀君に関して一言お願いします」
「……」
少し間を置いて、6代目女性監督は口を開いた。
「有賀君は高校生なので下でみっちり鍛えてもらい、将来スイーツを代表する選手になって欲しいですね」
★
分刻みのスケジュールを終わらせ、美空はとある飲食店に来ていた。
『居酒屋らんちゃん』
量は多く値段も安いが味と店主がアレのため客があまり来ないことで有名な店である。
「監督、お待ちしておりました。お忙しいのにこうして時間を作って頂いて」
自分を見つけるとすぐに立ち上がり頭を下げる選手、隠九条憂男に「そんなに
「まずはフルシーズン出場、打率3割おめでとう」
ビールが入ったコップを交わす二人。
監督にねぎらわれた青年は照れくさそうに頭をかく。
隠九条憂男。
4年前に高校通算本塁打75という長打力を買われドラフト1位でスイーツに入団した内野手である。
ただ初年度は緊張と変化球に
2年目にはオープン戦で結果が出せず初めての二軍落ちを経験したが、そこで吹っ切れたのか開幕戦から5月下旬までに、39試合の出場で打率.363、14本塁打、38打点(いずれもリーグ1位)をマーク。
憂男が二軍落ちしている間に三塁手を守っていた選手が足の故障で長期離脱したため再度昇格。
打率こそ.255と乗らなかったものの得点圏打率は.351と勝負強さを見せた。
3年目には背中の張りで一度登録抹消になったもののその期間以外にはサードでフル出場。打率.292、打点59を記録した。
そして4年目。前年を大きく上回る打点84。自身初めてとなるフルシーズン出場、打率.312。本塁打15を記録した。
「来年も期待しているわよ」
「は、はい!」
感激のあまり体が震える。憂男はビールがこぼれない様に必死だった。
その後二人は料理と酒を口に運びながら様々な話をする。
話し合いも終盤になるに従って、美空は「聞きたいことがあるのだけど」と切り込む。
その真剣な表情に、憂男は少し身を硬くする。
「……」
「……」
聞きたいことがあるといったクセに、美空は暫く言葉を出さない。
コップのビールを飲み干した後、美空は重々しく口を開く。
「有賀草悟。彼をどう思う?」
「『どう思う?』とは……」
「言葉通りの意味よ。御山スカウトに彼を推薦したのでしょう。野球部に所属していない彼を」
「……」
(もしかして俺は責められているのか?)
冷や汗を流す青年に年上の女性監督は「ごめんなさい」と言葉を置く。
「そんな難しい顔をしなくていいわ。ビデオを見て彼の素質は優れたものだと私は認めている。優れた選手を薦めるという貴方の行動は褒められること。……ただ私は知りたいの」
「何を?」
思わず呟いてしまった口を慌てて塞ぐ憂男。そんな憂男に優しく微笑んだ後、美空は静かに言った。
「彼が本当にスイーツの将来を託すに相応しいか。彼を最初に見つけた貴方に」
全ての運命を託すかのようにたずねる美空に、憂男は同じような覚悟で言った。
「彼には間違いなくスイーツ、いや球界を変えるだけの力を持っています。でもその力はどこか脆くすぐに消えてしまう存在とも思えました。正直、プロでやれるか否かと言えば……何ともいえません」
「……」
美空は何も言わず真剣な眼差しで言う選手の言葉を一言も漏らさず聞く。
「そして。もし彼が――」
★
「……」
ドラフトが終わった一週間後。挨拶や手続きなどがひと段落着き、球界で一際注目されることになった青年、有賀草悟はベッドに座りボールを握っていた。
「ついに。あの男を倒せる一歩を踏み出したということか」
静かに、そして並々ならぬ憎しみを込めて脳裏に浮かぶ男の名を呟く。
「
広田義信。1年目からローテーションピッチャーとして一度の離脱もなく活躍し、3年連続二桁勝利という偉業を達成した先発投手である。
平均148km、最高速度154㎞のストレートを武器にスプリット、カーブ、スライダーなどを精度の高い変化球。そして3年間で与えた与四球98。与死球14というコントロールのよさ。
通算打率.275.本塁打も3年連続二桁を記録している。
彼と出合ったのは中学一年の時だった。
草悟は広田がいる中学に入学した。憧れではなく家から近かったという理由だ。
入部して早々、彼は非凡な才能を発揮した。当時エースだった広田からホームランを打ったのだ。
余談だが広田が年下にホームランを打たれたのはこれが始めてだった。
その後彼は黙々と秘めた能力を研ぎ澄ましていき一年目からレギュラーを目前にした。ある事件が起こらなければ。
草悟が野球部に入部して2ヶ月後の日曜日。監督がロッカーに入れていた子どもの入院費数十万円が盗まれたのだ。翌日、その大金は見つかった。草悟が使っていたロッカーから。
きっかけは草悟が自主練習をするためまだ誰も来ていない部室に来た時だ。着替えるためロッカーを開けた瞬間、封筒が落ちたのだ。
(何だ?この封筒は?)
草悟が封筒を拾った瞬間だった。
やっぱりお前だったのか、息子の入院費を盗んだのは!!
振り返るとそこには顔を真っ赤にした監督の姿があった。
弁解するよりも先に監督の拳が草悟の頬を捉えた。
壁にぶつかった拍子に封筒の中身が床に散らばる。それは大量の万札だった。
そして狙ったかのように部員が現れた。
草悟が握っていた封筒。床に散らばる万札。その光景を見て「有賀、お前だったのか……」、「嘘だろ……」という声が飛び交う。
監督のお金を盗んだのは有賀草悟。
そう思われてしまったのだ。
その瞬間、草悟は野球部としての自分の立場がなくなったことを知った。
そして草悟は信じられないという顔をする部員の中で一人邪悪な微笑を浮かべる広田と監督のセリフで気づいた。
広田が監督のお金を盗み、草悟のロッカーに入れた後に『有賀が監督のお金をロッカーに入れてました』と告げ口をしたことに。
監督のお金を盗んだ犯人に仕立てられた草悟が野球部に在籍できるわけなく退部。その後彼が野球部に戻ることはなかった。
高校は家の事情でかつて中学の事件を知る者がいるものばかりのため野球部に入るわけにはいかず今に至る。
「広田義信。お前は、絶対に許さねぇ!」
草悟はボールを握り締めた。
第一話 投手失格
スイーツに入団した草悟は三軍にいた。
スイーツには一軍、二軍の他に三軍がある。ただしスイーツの三軍は故障選手がリハビリを行う、基礎を学ばせるための場所である。
草悟は黙々と練習をこなしていた。
ある日のこと。草野球チームと試合することになった。
一軍二軍と違い対外試合をすることはない。人数も少ないため紅白試合もない。試合をすることが異例のことだった。
★
試合は一方的だった。
初回。スイーツ三軍選手は相手投手の球を
打者一巡の猛攻に先発投手は1アウトも取れず交代した。
リハビリ中だったりまだプロで活躍していない三軍選手とはいえプロ野球に携わる人間に認められた人間達なのだ。草野球チームの選手とは実力は桁違いだった。
打てばほぼ打者一巡になる猛攻で相手投手の精神を削り、投げれば外野に飛ばさないパーフェクトピッチングで相手打撃陣を意気消沈させる。
そして9回裏。30-0という状況で草悟はマウンドに立った。
★
「……」
草悟はキャッチャーのミットをじっと見たまま振りかぶる。
150km近いスピードのストレートがキャッチャーのミットに収まる。
ズドンッ!という重い音とその光景に敵味方にざわめきが起こる。
「……」
初球同様、キャッチャーのミットめがけて渾身のストレートを投げた。
再びズドンッ!という音と共にミットに収まる。誰もがそう思った。
カキンッ!!
打球はセンター後ろのフェンスに吸い込まれた。
スイーツ三軍が始めて与えた安打と得点だった。
キャッチャーが「出会い頭だ。気にするな」と草悟に言って戻る。しかし心の中では「こいつの球は速いんだけど、打たれるな。悪くないのだが……」と思っていた。
その予感は的中した。
カキンッ!!カキンッ!!カキンッ!!
打球は今まで飛ばなかった外野に次々と飛んでいく。
草悟が投げる球は決して悪くはない。
だが打たれるのだ。コースはほぼキャッチャーのミット。手を抜いているわけでもなく失投もない。
再びキャッチャーがマウンドに行く。
草悟の目は泳いでいた。自分の全力投球が打たれる。何を投げていいのかわからない、自分が信じられなくなっている目だった。
もうこいつはダメだ。
キャッチャーは監督を見る。目が合った監督はゆっくりと頷いた。
投手交代が告げられ呆然としながら草悟はマウンドを降りた。結果はキャッチャーフライのアウト一つとったのみで自責点5、防御率135という成績だった。
その後ベテラン投手、
勝って当たり前だと冷静のベテラン。草野球チームが相手とはいえ勝利に喜ぶ新人。その中で草悟は一人悔しさを抑えていた。
★
試合後。草悟は監督室に呼ばれた。
「有賀、解ったか?」
「何が、ですか?」
監督の真剣な言葉に草悟は聞き返す。
「お前の球が、プロ……いや草野球のチームにすら通用しないことが、だ」
「……」
何も言わない草悟に監督は続ける。
「お前の球は悪くない。速さがある。コントロールもある。だが駆け引きを知らない、ボール球を使わない、変化球もさほど変化しない、クセがない正直な球。気持ちよく打ってもらうバッティングピッチャーのような投球だ。到底プロではやっていけん。それは最初から解っていた」
「……だったら、何でスイーツは俺を取ったんですか?」
無表情で尋ねる青年に監督はまっすぐな目で答える。
「お前は良い肩を持っている。投手にとって忘れがちなしっかりとした下半身を持っている。土台自体は良いものを持っている。プロの技術はないものの今の時点でプロに通じるための必要な基礎能力をもっている。その将来性をスイーツは買ったのだ」
「じゃあどうすれば通じる投手になるんです?」
「いや」
一つ間を置いて、監督は言い放った。
「お前には投手を諦めてもらう!」
その言葉に草悟はブーーーッと驚きを
「有賀。お前にはショートをやってもらう」
「ショート、ですか?」
「そうだ。お前は肩が強いが打ちやすい球しか投げることしか出来ない。それを矯正できたとしても時間がかかりすぎる。それならもう別のポジションで再起を図った方がいい」
「……」
「ショートは守備範囲が広く一塁に素早く送球したり中継などを行わないとため高い俊敏性と肩の強さを求められる。そして今のスイーツはFAでファントムズの強打者、
「……」
うつむく草悟に監督は続ける。
「……今までの自分を捨てろと言われて素直に受け入れるのは難しいだろう。きついことを言っているという自覚もある。だが今日の試合でお前の今のお前ではプロでは通用しないということは解ったはずだ」
「……」
「悲しむのも解る、辛いのも解る。だが、その気持ちを捨て、明日に向かって羽ばたこうではないか!」
「何を勘違いしているんだ?」
「へ?」
意外な一言に、監督は目を点にする。
「俺は怒っているんだ!」
「へ?」
「最初からプロで通じないってわかっていたなら何でその時に言わない!?その間に打撃練習とか守備練習とかに時間を費やせたじゃねえか!?」
「そ、そうだな」
「俺は無駄に時間を過ごしたわけじゃねえか!もしかしたらめちゃくちゃ上手くなって美空監督とかの目に留まって一軍に昇格していたかもしれねぇじゃねえか!この無駄になった時間、どうしてくれんだよ!」
「そ、そうだな」
「hsどふぃさらえrjふぉじtwrqf;gjっぎお;t;りあが;お!(日本語で表記できないほどの罵声を監督に浴びせています)」
「そ、そうだな」
監督からすれば、18歳の新人を傷つけないための配慮だった。しかし兎に角、一分一秒でも早く野球が上手くなりたい、勝ちたい。そう思っている当人からすれば大きなお世話以外の何者ではなかった。
怒り狂う草悟の罵声に耐えながら監督は思った。
こいつはプロ野球選手になれる、と。