「
「何ですか、自称エースに」
成田はやさぐれていた。
「まったく……」
女性監督はやさぐれた投手に聞こえないため息をついてから続けた。
「開幕戦の準備は出来ているかしら?」
「ふぇ!?」
先ほどまでの投げやりになっていた顔が一変、どんな顔をすればいいのかわからない表情へと変わる。
「『ふぇ!?』じゃないわよ。開幕戦の準備は出来ているのか?って聞いているの。まさか出来ていないとは言わないわよね?」
「い、いえ……出来ていますが」
呆然としながら成田は否定する。
彼が驚いたのには理由がある。
開幕戦はエースが投げる。エースとはチームで一番強い投手。だったら自分は開幕戦で投げられるはずがない。
成田にとってエースとはそういう存在だったからだ。
「じゃあ任せるわ。エースの名に恥じない投球を期待するわ」
美空は成田をエースと呼ぶと成田の前から去ろうとする。
「ま、待ってください。監督!」
成田の声に美空は振り返る。
「何かしら、成田?」
「あ、あの……」
成田はぽつぽつと話を紡ぐ。
「か、監督……俺を、エースと呼んでくれるのは嬉しいのですが、開幕戦は……王臣に」
開幕戦を王臣に譲る。それを言うと言うことは自分が負けているということを認めることになる。その抵抗はあったものの成田は言った。譲られたエースでいることが我慢できなかったからだ。
その意図を
「成田。私がスイーツの投手として活躍していたことは知っているわよね?」
「は、はい」
美空は成田がスイーツに入団する前年に現役を退いたが、美空の現役時代をテレビや球場で見ている年代だ。知らないわけがなかった。
「世間では私をスイーツのエースと呼ぶけど、私は自分をエースと思ったことは現役最後の一年しかないわ。
「長谷部投手と、松野投手が、ですか……」
失礼と思いつつも成田はそう言った。
二人は負け越しが多く、スイーツで成し遂げた勝利数は美空よりも少ない。美空が自分より二人を上という理由が理解できなかったからだ。
そんな反応を何度も見ているのだろう、美空は気にせず続ける。
「あの二人は負けると解っていても誰かが投げなければならない所で投げていた。結果、罵声を浴び、自らの経歴に傷がつくことになっても。全ての責任を背負っていた」
「……」
「エースとは勝つ投手じゃない。エースとは“こいつで負けたのなら仕方が無い”。そう思える投手のことよ」
美空は言い切った。
「チームのため、無茶させてしまったわね」
先発の成田は中継ぎや抑えなど色々やらされた。それでも彼は文句一つ言わずそれに従った。先発として成績を残していない成田だったが、選手のことを考えていないともいえる起用によって負け越しの数を多く積み重ねたからとも言えた。それでも彼は投げ続けた。多くの投手が離脱するチーム事情を理解して。
「色々と……背負わせてしまったわね。ずいぶん……苦労をかけたわね」
美空は視線を落とした。
「か、監督……」
成田が震える。
「成田。貴方がスイーツのエースよ。開幕戦、頼んだわよ」
それだけ告げると、美空は成田の前から姿を消した。
(監督、やはりエースは……勝つことが出来る投手だろ!?)
成田は心の中で訴える。自分の思うエース像が間違っているとは思わない。
そう思う成田だが美空の言うエース像を否定することは出来なかった。
「……」
成田はしばらく呆然と立っていたが、
「うおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!」
とベンチを飛び出し、マウンドに立つと叫び声をあげた。
「俺が!この俺、成田功が……スイーツのエースだッ!!」
叫び声が、グラウンドに響き渡った。