有賀草悟はプロ野球選手になるようです   作:筆先文十郎

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投手失格といわれ遊撃手にコンバートされても心が折れなかった草悟がプロ中のプロの業を見せつけられて挫折。そこからどう立ち直るか、というお話です。


第七話 同年の好敵手(なかま)

試合後。有賀草悟(ありがそうご)は二軍降格を宣告された。

帰りのバス。疲れて寝る者。勝利に喜び騒ぐ者。そして草悟のように結果を出せず意気消沈する者と様々だ。

「草悟」

隣に座る久石譲二(ひさいしじょうじ)が話しかける。

「どうだ。草悟。これがプロの世界ってやつだ」

「……」

草悟がポツリポツリと言葉をつむぐ。

「プロとは、何なんでしょうか……」

「結果を出せる人間のことだ」

普段から考えているのだろう。久石は即答した。それとこれは俺の持論だが、と続ける。

「試合は戦場と同じだ。弱い者、運がない者、準備不足の者、油断した者……そういう奴から消えていく」

「……」

試合を戦場と言い切る久石に草悟は違和感を覚える。試合では人は死ぬことはない。だが久石の言葉にはそんなことが言えない説得力があった。

「草悟。強くなれ」

「……はい」

そう返事をする草悟は宿舎に着くまで頭を下げたままだった。

 

強くなれ。

そう久石に言われたものの、草悟は悩んでいた。

 

 

だがどうすればいい?

 

 

久石に聞いたが「それは自分で考えることだ」と教えてくれなかった。

二軍落ちを通達された草悟はタクシーで二軍の宿舎に足を運ぶ。だがその足取りは重い。

誰とも会いたくない。一人になって泣きたかった。

だが神様はいじわるだった。あと少しで自分にあてがわれた部屋に着く。その直前だった。

「あ、草悟!」

「おお、草悟じゃないか!」

青津(あおつ)弥子(やこ)赤木(あかぎ)康友(やすとも)だった。二人は草悟を見るなり足早に歩み寄る。

「ねえ、オープン戦はどうだったの?」

「おい、教えろよ!」

二人はまだ結果を知らない。悪気の無い二人の興味津々な言葉は草悟にとって酷だった。

「……や、やっぱりプロは厳しいなぁ。はは、ははは……」

今にも泣きそうな気持ちを抑え付け、草悟は小さく苦笑した。

「う~ん、やっぱり厳しいな」

そんな草悟を尻目に弥子は考え込んだ。その理由が草悟にはわからなかった。

「厳しい?どういう意味だ?」

疑問に思う草悟に「だってさ」と唇を尖らせる。

「草悟に私の球は通用しないでしょう?でもそんな草悟が打てなかったってことは、草悟に通用するレベルは最低限必要ということでしょ。プロで戦うには。そういう意味だよ」

あっさり言う弥子に康友が草悟の心をえぐる一言を放つ。

「凡退でもしたか?」

「……」

その一言に草悟の顔が崩壊する。

「あぁそうだよ。自慢のバッティングで凡退、しかもノーアウト2塁1塁というチャンスを潰すトリプルプレイだよ!」

「そうか、それは俺にとってきついな」

弥子同様、草悟を心配するわけでもなく康友も考え込む。

「なんで康友がきついんだよ!」

「だってお前のバッティングって俺たちの中でダントツだろう?そんなお前にヒットを許さない投手がウジャウジャいるなら、俺なんかが一軍に上がっても活躍できるわけがないだろう。そういう意味できついって言ったんだよ」

「……」

二人の言うことは草悟にとって意外とも思える言葉だった。

「なあ」

「教えてくれないか?」

二人の言葉か重なる。

「「どういう流れで打ち取られたか」」

二人の言葉は興味本位ではなかった。草悟を傷つける意味合いでもない。草悟の話を元にどうすれば自分が一軍で通用するかの糸口にしたい、そのような思いが込められた言葉だった。

「……」

草悟は首を落とし、身体を小刻みに震わせる。親しき間でも一軍に上がるためには敵でしかない。そう考えている草悟にとって普通に慰められるよりも嬉しかった。

「ど、どうした草悟!」

「何てひどいことを言うんだよ康友。謝りなよ!」

「いや、弥子。お前も同じこと言っただろうか!」

自分たちの言葉が草悟を傷つけたと思った二人は言い合いを始める。

「……ふふっ、ふはははははっ!」

「ど、どうした草悟!」

「康友の顔が面白くて笑ったんだよ康友。謝りなよ!」

「弥子。俺に対して失礼すぎるだろ!」

「いや、ごめんごめん」

草悟は自分が悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなった。

自分の会心の当たりを相手に阻まれた。たった一度の失敗で絶望していた自分に。

 

 

たった一度壁にぶつかっただけでウジウジと悩んでいたら目の前の二人に抜かれる。

 

 

そう考えた草悟に先ほどの後ろめたさはすでに無かった。

「教えてもいいけど、ここでは何だから」

そう言って三人は草悟の部屋で話し合った。

「やはり初球にバントだろ!1アウト3塁2塁になるだけでなく上手くいけば草悟も生きてノーアウト満塁になる!」

「何を言っているんだよ、康友。草悟はバントの練習なんてほとんどしていないし当て損なって下手したらゲッツーになる可能性がある。やっぱりここは打つのが正解だったよ!」

再び言い合いをする二人を見ながら草悟は思った。

(こうやってすぐに次につながる行動をすることこそが強くなる方法なんだろうな)

「ありがとう、二人とも」

そのことに気がつかせてくれた二人に草悟は礼を言った。

「ん?」

二人の顔色がどんどん悪くなっていく。

「草悟が、お礼……だと!?」

「草悟!今すぐ医務室に行こう!」

「え?」

「弥子。お前は足を持て!俺は上半身を持つから!」

「うん、わかった!」

「お前らなぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

草悟の怒声が部屋中に響き渡った。

 

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