有賀草悟はプロ野球選手になるようです   作:筆先文十郎

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前回のガーディアンズ戦で溝ができてしまった南部無頼(なんぶぶらい)と有賀草悟(ありがそうご)。
自分のことしか考えていない草悟を理解しようとする無頼、無頼の兄貴分、杉井貴士(すぎいたかし)のプロとは何ぞやと語る所が見所だと思います。


第十話 無頼と草悟

7月中旬

ガーディアンズ戦でスリーベースヒットを放ち鮮烈なデビューを果たした草悟は遊撃手のレギュラーになっていた。

正遊撃手の直木(すぐき)得留(きる)が膝の故障で長期離脱を余儀なくされたからだ。

直木の後を受け継いだ形の草悟は新人とは思えない選球眼とバッティング、久石とのけん制対決から培われた盗塁技術でスイーツの得点力上昇に一役買っていた。

だが性格は相変わらず傍若無人で親しい選手や草悟の態度も笑って許せる選手以外とは衝突を繰り返していた。

「俺はアイツが大嫌いです!」

そう言って缶チューハイの酒を一気に飲み干す大学卒のドラフト1位、南部無頼もその一人だった。

「気持ちはわかるが同期なんだから仲良く出来ないか?」

反対側に座る同い年の先輩選手、杉井がやれやれという顔でたしなめるが酒で口が軽くなっている無頼はマシンガンのように口走る。

「杉井さんだったら解るでしょう!野球は皆でやるスポーツだ。だがあいつは一人で野球をしている!チームのことを考えない奴が野球選手など、子どもが見たらどう思うのです?間違った野球選手像を植えつけるだけだ!そんなの俺は、俺は認めない!」

「……」

普段から思っていることを熱弁する無頼だったが、杉井の反応は薄かった。

「まさか杉井さんは……」

あの男を認めるのですか。と言いそうになるのを言い留める。肯定されるのが怖かったからだ。

杉井貴士は現在スイーツのクリーンナップを務める隠九条憂男と同期入団だ。

高校時代は三塁手として甲子園出場もあり三塁手を切望していたが、上層部は憂男を三塁手に据えた。その間杉井は空きだった二塁手を主に守らされた。

二年目は憂男の不調で三塁手を射止めたがそれもわずかだった。二軍で抜群の成績をたたき出した憂男は三塁手のポジションを杉井から奪い取った。それからスイーツに不可欠な活躍を見せ、三塁手の位置を不動の物にした。

出来レースともいえる配置転換に、杉井は従った。

本人にとっては納得がいくものではなかっただろう、と無頼は思っていた。

無頼は杉井に聞いたことがある。「隠九条さんのことをどう思うのですか?」と。自分のポジションである三塁を奪った相手に恨みや妬みはないのか、という意味を込めて。

杉井はこう答えた。

『隠九条を恨んだ。だが自分より優れた選手がいたならその者にポジションが与えられることは当然のこと。そしてあいつにポジションを奪われたおかげで俺はあいつには出来ないことを考えようと考えた。そして『ピッチャーとキャッチャー以外はどこでも守れるユーリティープレイヤーと最低限のことをしてくれる計算できる選手』という評価を頂くことが出来た。あいつのおかげで今の俺がある。今ではあいつは俺の掛け替えの無い親友だよ』

恨んだ男とは違う形でチームに貢献しようとする姿。恨んでいた男を優遇した球団の方針に従い自分を変えた杉井に無頼は尊敬の念を持たずにはいられなかった。

以降無頼は杉井を兄のように慕っていた。また杉井もそんな無頼を弟のように可愛がった。

「そうだ、無頼。ここはギャンブルでもやってパーッと憂さ晴らしをしよう!」

「は、正気ですか!?無頼さん!!」

野球界は野球賭博で大きく叩かれている。それを杉井が知らないわけがない。

杉井は続ける。

「大丈夫だ。この部屋には俺たちしかいない。隠しカメラがない限りバレることはない」

「そ、それもそうですね。杉井さんがそうおっしゃるなら……」

普段の無頼なら間違いなく止めていただろう。だが酒が入っていることもあり無頼は先輩の誘いに乗ってしまう。

「よし、じゃあ始めるぞ」

杉井は引き出しからトランプを取り出しシャッフルし始めた。

 

★

30分後。

「悪いな、無頼。フォーカードだ」

「くっ……!」

無頼は悔しさに歯をかみ締める。

序盤こそ何連勝していた無頼だが賭けを大きく張った時だけ杉井が勝つのだ。次第に負けが込んできた。

 

 

負けた分を取り返さなければ!

 

 

ギャンブル特有の熱に侵された無頼は更に大きな賭けを張ってしまい、負けた。

ついには300万円の負けを背負わされた。

「じゃあ今日はここまでにしよう」

杉井は無頼に『南部無頼は杉井貴士に300万円を払うことをお約束します』という内容が書かれた誓約書に拇印とサインをさせた。

「無頼。今日俺たちがこの部屋でギャンブルというのは誰にも話すなよ」

「……は、はい」

大負けしたショックに無頼は杉井の部屋をトボトボと後にした。

 

★

翌日。一軍監督室。

 

 

『そうだ、無頼。ここはギャンブルでもやってパーッと憂さ晴らしをしよう!』

『は、正気ですか!?無頼さん!!』

『悪いな、無頼。フォーカードだ』

『くっ……!』

『無頼。今日俺たちがこの部屋でギャンブルというのは誰にも話すなよ』

『……は、はい』

 

 

「これはどういうことかしら?」

無頼と杉井はスイーツ一軍監督、美空星蘭(みそらせいらん)に呼び出されていた。

彼女の机には昨日の二人のやり取りが録画された動画がノートパソコンで流され、昨日の杉井の部屋のやりとりと『南部無頼は杉井貴士に300万円を払うことをお約束します』という内容が書かれた誓約書が置かれている。

「え、あ、その……」

何かを言おうとする無頼だがここまで証拠が揃(そろ)っていては言い逃れできない。

「ま、まさか……俺の部屋に隠しカメラがつけられていたなんて(棒読み)」

杉井が頭を抑えて崩れ落ちる。

その姿に無頼は取り返しのつかないことをしてしまった。なぜ俺はあの時止めなかったのだと自分を責める。

「か、監督お願いです!厳罰は俺だけに!南部は俺に誘われてギャンブルに手を出しただけです!だから、なにほど軽い処罰を!(棒読み)」

「す、杉井さん……っ!」

土下座する杉井に無頼は心打たれる。

「そうね。本来ならあるべきところに出すのが筋だけど、ここは私が預かることにするわ」

ほっとする二人に美空は「ただし!」と続ける。

「杉井は一週間休みを返上して裏方スタッフの手伝い。南部には有賀の一週間の観察日記を命じるわ!」

「は、わかりました!」

立ち上がった杉井はピシッと規律ある軍隊のような敬礼を決める。

「……」

だが無頼は即答できなかった。

(なぜ俺があの男を観察しなければならないのだ!?)

しかしギャンブルに手を出した以上、無頼に拒否権などあるわけがない。

無頼はしぶしぶ有賀草悟を見ることにした。

 

★

仕方なく無頼は草悟を観察することにした。

観察と言っても何か出来るわけではない。

無頼はローテーションピッチャーを務めている。先発投手は多くの球数を投げる。それ故に腕に過度な負担をかけがちだ。充分に休めないと肩や腕に支障をきたす。練習もするが休息も優先しなければならない。一方野手は投手より負担がかからない分休みは少ない。よって練習を行わされる。

つまり観察しようにも先発投手の自分と野手の草悟では接点がないのだ。

だからと言ってそれを言い訳に観察をしないわけにはいかなかった。

(俺より杉井さんの方が大変だ。練習はしないといけないし、休み返上で裏方スタッフさんの手伝いをしなければならないのだから)

賭博の主犯とはいえ自分より重い処罰の先輩が奉仕活動に打ち込んでいると思われるのに、後輩の自分が楽をするわけにはいかなかった。

自分に与えられた軽めの練習を終えた無頼は散歩をしながらグラウンドでキャッチボールをする草悟を見る。

元投手だったこともあるのか、キャッチボール相手の憂男のミットからはバシンッ!といい音が鳴る。

ジッと草悟を見る無頼だったが、練習に集中している草悟は全く気づく様子もなくキャッチボールを続けていた。

その後はノック。コンバートされてまだ半年。ボールのバウンドを見誤りボールを弾く場面は多く見受けられたが、取った後の動きはスムーズだ。中でももう少しで外野の守備位置になる内野の最奥で取ったボールをダイレクトで一塁手のミットに収めたのには驚きを隠せなかった。

そのシーンを見届けると、無頼はスケジュールの関係もあってグラウンドを後にした。

 

★

2日目。

練習前に球場にいると聞いた無頼はまさかと思いつつ、球場に足を向ける。

誰もいないグラウンドに草悟が一人球場のフェンスを時計回りに沿うようにぐるりと走っていた。額から流れる汗が地面に落ちる。

草悟がベンチにいる無頼に気づき、「げっ!」と嫌そうな顔をする。それは無頼も同じだった。

草悟はベンチにいる無頼に向かっていき、

「チッス……」

と挨拶をした。

「……おはよう」

最低限の挨拶を済ますと草悟は無頼に目もくれず、走り込みを再開させる。

(……速いな)

どれくらい前から走っているのか無頼には検討つかなかったが相当長く走っているのだろう。

(体力があるんだな)

その後も無頼は草悟を見ていたが別のことをするわけでもなさそうで、かつ無頼の朝食がまだだったこともあり、その場を後にした。

 

★

「はぁ、はぁ……」

登板と登板の谷間の日にある長時間の練習。その朝の練習に無頼は疲労困憊になっていた。

先発ローテーションに加わってすでに3ヶ月以上たつが未だに慣れずにいる。

一年通して投げ続けるという経験をしていないのだ。疲労が溜まるのはしょうがないと言えた。

「ん?」

視線にバットを振る姿が見える。

そこには普段使っている短めのバットではなく、長く太いバットをひたすら振る草悟の姿があった。

今日はナイトゲームが行われる。

調整程度に軽く汗を流す練習のはずだ。

にも関わらず滝のような汗を流し歯を食いしばりながらバットを振っている。

さすがに周りの先輩選手が止めるが、草悟は手だけで合図して再び素振りを開始する。

(先輩たちを無視してまでやるか、普通?)

馬鹿馬鹿しいという表情で、無頼は草悟を見る。

そんな無頼を、杉井は離れたところで見ていた。

 

★

ナイトゲーム。対コスモスターズ戦。

スイーツは7回時点で、10-2で勝っていた。

無頼は先発投手だが、今日は1塁側ベンチでチームの試合を観戦する。

プロ野球の一軍登録枠は28人。

そしてその日の試合に出場選手登録された選手、通称「ベンチ入り」の選手枠は25人。

先発投手が全員休んでは、ベンチに欠員がでる。

そのため、「登板しないがベンチ入り登録される先発投手」が少し出る。

その少し出る選手が今日の無頼だった。

「……」

チームの優勢に明るい雰囲気の1塁側ベンチに反して無頼はどこか不機嫌だった。

遊撃手として出場している草悟が4打数2安打1四球と活躍しているからだ。

後続のヒットでホームに帰り、他の選手が温かく出迎えてもどこか嬉しそうではない。それどころかベンチに戻るなり、試合を見ずグローブをはめている姿が無頼は気に食わなかった。他の選手などどうでもいい。自分の仕事さえすればいい。そう言っているようで。

相手の攻撃が終わり、ベンチに戻ると草悟はグローブをジッと見る。

例外があるといえば打順が近づいた時だけ。その時はさすがにネクストサークルでバットを持って立っているが、それ以外では誰とも話そうとせず、試合を見ようともせずグローブをはめてはジッと見ていた。

そんな草悟に試合に集中したらどうなんだ、と言いたくなったが他の先輩選手が草悟の態度を指摘していないのだ。草悟を除けば一番若い無頼がいえるはずがなかった。

試合はスイーツ優位のまま進み、12-2でスイーツが勝利した。

先制打の入江舞名と2本塁打7打点の中宮寺優奈子のヒーローインタビューが終わり、選手たちが片付けを始める。

「ん?」

ベンチを去ろうとする無頼はふと草悟が良く座っているベンチに目がいった。そこには折りたたまれた紙が落ちていた。

無頼は紙を広げる。

そこにはあらゆる状況で遊撃手がどう動くべきかが事細かに書かれてあった。

「あっ!俺の!」

声のした方へ無頼が振り向く。

そこには驚いた表情の草悟が無頼を見ていた。

「す、すまん」

無頼は持っていた紙を草悟に返す。

「中身、見たか?」

疑心暗鬼な瞳を無頼に向ける。

「い、いや。中身までは見ていない。手がかりがあるかと思って開いたが」

無頼はとっさに嘘をついた。

「……。悪かったな」

ジッと無頼を見た草悟だったがそれ以上言わず無頼に背を向けた。

「な、なぁ……有賀、君」

なんだよ、と顔で草悟は振り返る。

「これから何をするんだ?」

メモの内容を知ってしまった無頼は気になったことを口にした。

「何でお前に教えないといけないといけないんだ?」

「守備の練習か?」

無頼がカマをかけると、草悟は顔を真っ赤にする。

「ば、馬鹿じゃないの、お前!?し、試合が終わって、つ、疲れてるんだぞ!そ、そんなことするわけないだろう!?」

「……そうか」

自分が言い終わる前に立ち去る草悟を、無頼は微笑みながら見送った。

時間を見つけては草悟を見る。そんな日が5日続いた。

 

★

美空に草悟を観察するようにと言われてから一週間後。

朝早くからグラウンドでストレッチを始める草悟の横に、無頼が立っていた。

「何のつもりだ」

「俺も走る」

ぶっきらぼうに言う草悟に、無頼もぶっきらぼうに言う。

「お前、俺のこと嫌いじゃなかったか?」

近づこうともしなかった人間が自分に歩み寄ったのだ。草悟が警戒するのも無理も無かった。無頼は答える。

「嫌いだよ」

だが、と無頼は続ける。

「俺は頑張っている人間は嫌いじゃない」

「え?」

困惑しながら自分の顔を見る草悟に、無頼は真剣な表情で草悟を見る。

「お前は凄く頑張っている。お前の野球に対する姿勢は好きにはなれないが、野球に真摯(しんし)に頑張る人間を。俺は嫌いになれない」

「……」

草悟は固まることしか出来ない。

「ほら、行くぞ。身体が冷える」

そう言って無頼は走り出す。

「……意味不明なやつ」

どこか嬉しそうな顔で、草悟は無頼を追いかけた。

ランニングを終え、二人はシャワーを浴びる。

口を交わすことはなかったが、無頼の初勝利の日からの嫌悪感はなくなっていた。

 

★

「無頼」

シャワー室を出た無頼が振り返ると、そこには何故かメイド服姿の杉井が立っていた。手には洗濯カゴがあった。

元々中性的な顔立ちのため、あまり違和感がない。むしろ似合っている節もあった。

「観察はどうだ?」

「……勉強になりました」

何という格好をしているんですか、と言いそうな言葉を呑みこむと、無頼はすがすがしい表情で答えた。

その答えに笑顔を浮かべると杉井は尋ねる。

「今のお前にとって有賀草悟はどんな人間だ」

「嫌な奴です」

「でも嫌いではないだろう?」

杉井の指摘に無頼は苦笑する。

杉井は続ける。

「あいつの態度は悪い。だが仕事はちゃんとしている。仕事をちゃんとしていれば態度が悪くても別段問題ないのが社会というものだ。もちろんプロ野球(この世界)もな」

「……」

「腑(ふ)に落ちない、という顔をしているな」

「俺があいつを好きになれない理由。それはあいつが一人で野球をしている。そう思える節があるからです」

「しているだろうな」

杉井は肯定する。

「『自分が活躍すればチームが勝ってもどうでもいい』と考えているなら俺も否定する。しかしあいつにはそれはない。チームのことを考えているかどうかは判断できないが、少なくともあいつの目指す勝利はチームの勝利につながっている。仕事を果たしているなら、俺は否定しない」

その言葉に無頼は頷くことは出来なかった。

メイド服を着た選手は、顔を引き締めて言い放つ。

「無頼。チームに貢献しようとする気持ちは素晴らしいが、結果が伴わない貢献は自己満足に過ぎないぞ」

無頼の目頭が熱くなる。

今シーズンの自分を否定されたと思ったからだ。

「打率が2割5分前後と決して打っていない俺がレギュラーにいる理由。それは俺がバントや進塁打を確実に行い、ピッチャーとキャッチャー以外の穴を埋められる守備力を身につけたからだ。本職と見劣りしないレベルで。俺がバントや進塁打を確実に打てずただ守れる(・・・・・)レベルなら二軍か控えだろうな」

「……」

「俺たちはプロだ。結果を残していない人間の言葉など空(むな)しいだけだ。理解できるな?」

無頼は頷く。頷くしか出来なかった。

自分が一番尊敬し、チームのために自分を曲げて、結果チームに貢献した杉井の言葉だから。

「……でも、俺は」

(あいつにこういうやり方もあるんじゃないのか、と言いたい。でも俺には。それを言う資格はない……)

無頼の心を、察した杉井が口を開く。

「だったら。お前が結果を出して、草悟にお前を認めさせてやればいい」

「俺が……?」

キョトンとした顔で無頼が聞き返す。

「お前が結果を出して草悟にお前の思う正しい野球を教えてやればいい。もう嫌ってはいないのだろう?」

優しさと力強さが兼ね備えられた瞳は、お前ならできるという期待が込められていた。

「そうですね。俺が、俺が草悟に教えてやりますよ!」

有賀君から草悟に呼び方が変わった無頼が猛(たけ)る。

「お前は同期ではあるが年上だ。悪い方に行かないように、導いてやれ」

そういい残し、メイド姿の野球選手は洗濯カゴを持ってどこかに歩みだした。

 

★

翌日。無頼登板の日。

試合開始前のミーティング。ミーティングが終わろうかとした時だった。

突然杉井が

「皆さんに謝罪しなければならないことがあります」

と言ってホワイトボードの前に立つ。

「俺は、ギャンブルをしてしまいました!(棒読み)」

机に頭をこすり付けて杉井は告白した。

「「「な、なんだって!?(棒読み)」」」

突然の告白に詳細を知る美空と興味がない草悟以外の人間が驚きの声を上げる。

「ギャンブルだと!?どういうことだ杉井!!(棒読み)」

スイーツの四番で男顔負けに体格に巨乳の女性、中宮寺優奈子(ちゅうぐうじゆなこ)が杉井の胸倉を掴む。

「ま、待ってください。中宮寺さん!」

二人の間に無頼が入る。

「杉井さんを責めないで下さい。俺も同罪です!」

「南部、お前もか!(棒読み)」

無頼に食って掛かろうとする優奈子に今度は杉井が間に入る。

「待ってください。全て俺が、俺が悪いんです!俺がギャンブルをしようと言い出したんです!だから責めるなら俺だけにして下さい!(棒読み)」

「だったらこの責任、どう取るのだ!?(棒読み)」

優奈子の問いに杉井が叫ぶように答える。

「この試合、俺は全打席出塁します!それでいかかでしょうか!」

その答えに優奈子が笑うように答える。

「よし、ならば四番・中宮寺優奈子。隠九条(いんくじょう)ごとお前を返してやろう!」

その答えに

「え、ということは三番の俺も全打席塁に出ないといけないんですか?ま、いいですけど」

憂男がニヤリと笑う。

「では五番・入江(いりえ)舞名(まな)が中宮寺さんを返せばいいんですね?」

と続く。

「じゃあその入江を」、「だったら俺は全打席ホームランだ」

と周りが色々なことを言いながら騒ぐ。

その光景に無頼は驚いた。そして感動に胸が突き上げる。

出来ないことは初めから言わない杉井が全出塁すると言い切ったこと。そして周りが同調する姿に。

その時、視界に輪に入ろうとしない男が写った。

目が合ったその男、草悟は少しだけ笑う。

「俺も塁に出るように努力するけど、それ以上打ち込まれないでくれよ」

「ああ、気をつけるよ」

無頼は笑った。

 

★

試合は圧勝だった。

宣言どおり杉井が出塁すると後続選手が塁上の杉井を返した。

この日の無頼は今までのどこか悲壮だった姿は無かった。

 

 

正しいのは俺だ。

 

 

そう誰かに自己主張するように投げた。

この日。無頼は無四球11奪三振完封勝利で2勝目をあげた。

★

ベンチ裏

「杉井。貴方の献身的な働きは評価するけど、あまり自分から汚れ役を買うのは感心できないわよ」

そう言って苦笑すると美空はギャンブルの証拠である誓約書に火をつけた。

 

 

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