「さて皆さん。唐突ではあるがこの者たちを覚えているだろうか」
「そう。話題性抜群のルーキー、有賀草悟と共にルーキーとしてその輝かしき門をくぐったはずの
「某TBS系のアレのモノマネやめなさいって。洒落になっていないから……」
何で赤木君はそんな扱いなの、というツッコミを置いて、冬狐の相棒の日野陽子が突っ込む。
二軍の試合を終えて、ガーディアンズ二軍球場から徒歩10分ほどの隠れ家的居酒屋に三人はいた。
ある人の奢りで。(ただし未成年の康友と弥子はジュース)。
「何かカメラ目線で誰かに説明しているみたいだけど、大丈夫かい?」
その人物、君先正哉が苦笑いを浮かべたまま話しかけてきた。
恐縮しきった様子で弥子は口を開く。
「あ、あの。誘われていてこういうのは変かもしれませんが……君先さんみたいなお方が他のチーム、それも私達みたいな二軍選手に声をかけてもらえるなんて……いまさらなんですけど、どうしてですか?」
「そりゃあ君先さんが器がでかいからでしょ。実績のない若手を下に見るくせに中途半端な選手と君先さんを一緒にしたら失礼だろ」
「いや、深い意味はないよ」
康友の言葉を本人が否定する。
「ちょっと自慢にも聞こえるかもしれないが、俺はずっと一軍にいたからね。ガーディアンズの二軍の選手とはちょっと話しかけづらいところがあってね」
あまり触れられたくないのか、「まあ、それは置いておいて」と顎鬚の投手は言葉をつむぐ。
「えっと、
それに比べて、と君先は自嘲する。
「俺なんて一軍で逆転負けを許しまくって二軍に降格。二軍で何試合か登板させてもらって今日始めて三振を奪ったポンコツ……。今の時点では君の方がプロとしては上だ」
「あ、ありがとうございます!」
顔を綻ばせながら頭を下げる弥子。名前は間違えているが、一軍で活躍している人に認められたのは嬉しかった。
「しかもその三振も逆球のとんでもないクソボールだったけどな」
「うっ!」
それを聞いて康友がうずくまる。その逆球のとんでもないクソボールを三振したのは彼だったからだ。
すまない、悪気はなかったんだと一言添えてから君先は震える右手を見る。
(彼、有賀草悟君に打たれて以降2ストライクを取ってから彼の残像が見えるようになり……結果ボールが甘くなる俺からすれば、最初に奪った三振と同じくらい嬉しかったな)
「あぁ、惜しいな草悟」
康友の声に君先はふと我に返る。
康友の視線をたどると、そこにはファントムズの右翼手、桜木傾子のレーザービームのような送球にアウトになった草悟が映っていた。
「あの草悟をアウトに出来るなんて。やっぱりプロは凄いなぁ」
残念とも感心とも取れる顔で、弥子は思ったことを口にした。
君先もアウトになってベンチに戻っていく草悟を様々な感情が篭った視線で見ていた。
(有賀草悟。一軍という強者がウジャウジャいる環境を生き抜いた俺が生まれて初めてルーキーで恐れを抱いた男。コイツの存在が俺に恐怖を刻み付けた。ガーディアンズで勝利の方程式の一人として数えられた俺が、だ。……本当に野球は怖い)
「でも……」
と、顎鬚の投手は自分にしか聞こえない大きさの声を漏らし、心の中で続ける。
(おかげで自分を見つめなおすきっかけになった。どうやったらお前と言う未知の怪物の幻想から抜け出し、今の俺を越えられるか)
「そしてお前はここで終わる人間じゃないだろう、有賀草悟」
楽しそうに草悟を見る君先を、陽子は一瞬だけ見て、テレビに視線を戻した。
★
ファントムズ監督、山元は考えていた。
試合は4-3。桜木の好プレイで1アウト3塁が2アウトランナーなしに変わった。しかし依然として先発の大塚の投球に一抹の不安を感じずにはいられなかった。
(ファントムズは投手陣が不安。それは先発に限らず中継ぎも……)
しかし今の山元には大塚はもう無理と見えた。野球は流れが大きく左右するスポーツである。ここで逆転されれば流れがスイーツにいく。
そしてこの試合は首位ポセイドンの結果次第ではファントムズが首位に立つことが出来る。仮にポセイドンが勝ったとしてもポセイドンに「負けたら首位陥落」というプレッシャーをかけ続けられる。
一度手に入れた流れを相手に渡すわけにはいかない。
そう考えた山元は投手コーチに声をかけた。
「
★
『選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー大塚に代わりまして、冠木田。背番号40』。
選手交代のアナウンスに球場がざわつく。
先発以上に整備されていないファントムズの中継ぎ投手で唯一期待が出来る右のワンポイント投手である。一度使ってしまえば二度と使えない切り札的なものなので、試合終盤のここぞと言う場面で登板することが多い。5回でかつ1点リード。ファントムズ打撃陣の攻撃力を考えれば逆転されても再度逆転する可能性もある場面で切り札を使う。そのことに誰もが驚きを隠せなかった。
★
(冠木田か……)
打席に立つ巨乳の強打者はかつてのチームメイトだった中継ぎ投手の特徴を思いだす。
(冠木田啓次郎。ファントムズで唯一と言えるほど期待が出来る中継ぎ投手。ただし左には滅法弱いから右のワンポイントリリーフ限定。ストレートは私の知る限り最高速度148km。遅くはないが150kmを超える投手が現れる現在では決して速いとはいえない。変化球はスライダーのみ。ただスライダーは縦・横・斜めに変化するからやっかい。しかもストレートとスライダーは同じ腕の振りだから狙い球が絞りづらい……どれに狙いを絞るか、だ)
相手投手が変わったことで初回の敬遠から考えを切り替えることに成功した中宮寺はバットを短く持った。
(…おのれ、監督)
短くバットを持つ元同僚の姿に直衛は怒りを覚えた。
直衛が初回に敬遠させた理由。それは中宮寺が打つからではなく、自分に対抗意識を持っている戦友に冷静さを奪うためだった。だからこそ初回の隠し球に気づかずアウトになり、二打席目もムキになって完全なボールを打ってフライになった。
そして投手が、実力がありながらゴマすりで監督やコーチに取り入った、実力でレギュラーを獲得してきた中宮寺がファントムズから嫌っていた冠木田に交代したことで、中宮寺が自分に抱いていた疑心暗鬼からの怒りが『冠木田を倒す』という試合に集中する怒りに塗り変えられた。
コンパクトに振ってもホームランにするだけの力を持っていることを直衛は知っている。
(…ここは監督の采配に苛立つよりも、中宮寺を抑えることを考えろ、直衛景勝!)
目の前の勝負に集中するべく直衛はストライクゾーンにミットを構える。かつての戦友が考えているのは出塁すること。ボールならば確実に見逃すと考えたからだ。
冠木田はボールを直衛のミットめがけて投げ込む。
147㎞のストレート。だが構えた外角低めとは大きく外れるほぼど真ん中の真ん中低め。
球自体は悪くないが甘くなったその球を中宮寺は打った。
弾丸のような打球は二塁手の影沼の正面。
この回ファントムズは2点を取られて1点差に詰め寄られるものの4―3と逆転を許さなかった。
「…ん」
ふとなお絵はかつての戦友を見る。
わずかだが顔をしかめ、左手をさりげなく押さえている。
「…中宮寺、くっ」
異変に気づいた直衛は何かを言おうとしたが、その気持ちを抑えて自分のベンチに戻った。
★
6回表。
「クッ……」
守備位置につく中宮寺は顔をしかめる。中指に激痛が走る。
しかし中宮寺は無理やり笑みを浮かべる。ここで痛みを見せれば交代させられると思ったからだ。
(このまま交代するわけにはいかない。このまま交代すれば直衛の思い通りになってしまう)
とボールが来る。簡単なイージーフライ。グラブを構える。
(よし……ッ!?)
再び顔をしかめる。グラブにボールを収めた瞬間中指に激痛が走ったからだ。激痛で収めたはずのボールがグラブから零れ落ちる。
が、右手で間一髪拾いなおす。
この回は三者凡退で終わった。
★
「中宮寺」
ベンチに戻った四番を任された女性に、美空が声をかけてくる。
(もしかして、怪我に気づいて……交代を?)
身構える中宮寺に美空は口を開く。
「もしつまらないミスをしたら、すぐに変えるわよ」
「え?……あ、はい!」
そう言うと女性監督は自分の定位置に戻っていった。
左手を負傷した四番は悟る。美空が左手の故障に気づいている。その上で変わりたくない自分の気持ちを察してあえて厳しい言葉を投げかけたということを。
★
試合は両軍ともに塁に走者を出しながらも後一本が出ず8回裏まで進む。そして試合が進む。8回表に成田の後を継いだ岡本悦に変わり代打
一番に戻って草悟がピッチャー強襲の内野安打でノーアウト2塁1塁の形を作る。しかし二番杉井、三番隠九条は三振に終わり2アウト2塁1塁になってしまう。
打席には四番中宮寺。顔は冷静を保っているが、呼吸は痛みに耐えるため乱れ、わずかに脂汗が流れているのをファントムズの正捕手は見逃さない。
タイムを取って投手の元へ行くと、他の内野陣も集まった。
「…いいか。中宮寺にはコースは考えず、全力のストレートを投げろ」
その言葉に投手はもちろん他の内野手も驚愕を顕わにする。
「危危。あ、あの、直衛さん。お言葉ながら。小日向はストレートは速いですが絶対というほど速くは。それに相手はファントムズのクリーンナップを打っていた優奈子先輩。とてもじゃありませんが小日向のストレートは――」
「…奴は怪我をしている。今のあいつでは痛みで小日向の球威に勝てない」
二塁手の影沼の言葉を直衛は遮り、言った。
かつて仲間だった人間が怪我を負っているのを知りながら、その怪我をつく。その非情さに直衛以外の全員が固まる。
その気持ちがわかる正捕手は続ける。
「…俺達はプロだ。プロは勝たなければならない。相手が誰であろうと、どんな状態であろうと……勝つためなら相手の弱いところをつく。俺の言っていることは間違っているか?」
「「「「「……」」」」」
投手も内野手も言えなかった。自分達が目指すのは優勝。この一戦は首位ポセイドン次第では首位に立つことも出来る大事な一戦。落とすわけにはいかなかった。
「…小日向。心を鬼にしろ」
大柄な身体と厳つい顔に似合わず、敵にも同情してしまう優しい投手にそういい残し、直衛は定位置に戻った。
「……!」
心を鬼にしろ。その言葉に従って心優しき投手はストライクゾーンにボールを投げ込む。バシンッ!
ボールは真後ろのネットにぶつかり、地面に落ちていく。
審判から新しいボールを渡され、小日向はボールを投げる。
バシンッ!
今度はサード方面のファールゾーンに転がる。
その後も小日向はストライクゾーンにボールを投げ続けた。そのたびに中宮寺はボールをカットしていく。そして九球目、ついに異変が起こる。
カランッ
九回目のファールを打った直後、中宮寺がバットを落としたのだ。すぐに拾ってバットを構える中宮寺だが、その顔は青ざめ、ポタッと脂汗がテレビからもわかるほど浮き出ていた。
(…小日向。トドメはここだ)
直衛は内角高めのボールゾーンにミットを構える。球種はストレート。だが小日向は首を横に振った。
(…小日向!)
理由は見当ついた。かつての仲間であり尊敬する先輩だった中宮寺に、これ以上苦しめる投球を心優しい投手は出来なくなったのだ。
顔面蒼白の尊敬する先輩選手が打席に立つ姿に耐えられなくなっていた。
直衛がここに投げ込めとジェスチャーを送るが、投手は首を縦に振ろうとはしない。
小日向が泣けられないことを悟った直衛はミットを外角低めに構える。球種はカーブ。
これまで投げた球は全てストレート。今度もストレートだと読んでいると思っての采配だった。
首を縦に振った小日向はボールを放つ。しかしざわついた心では制球が定まらなかったのか、緩く大きく曲がるカーブは真ん中やや高めに来た。
★
(チャンス……ッ!?)
中宮寺は甘く入った緩いカーブに照準を合わせ狙い打とうとする。しかし左手に激痛が走る。バットを握る手が緩み、目の前が歪みボールが見えなくなる。
(まずい、意識が……)
激痛に意識が飛びそうになる。
倒れてしまいたい。
全てを投げ出したい気持ちになった、その時だった。
『…そう思う限りお前はその程度の選手だ!一生お前は俺には勝てん!』
『もしつまらないミスをしたら、すぐに変えるわよ』
FAでファントムズを離れるきっかけとなった直衛の言葉、自分の負傷を知りながらグラウンドに送り出した美空の言葉が頭をよぎる。
そして思い出す。自分がなぜファントムズからスイーツにユニフォームを変え、ここに立っているのかを。
(私は、直江景勝を超えるためにファントムズを出たんだ。そして勝負を預かる立場でありながら美空監督は私の心中を察してグラウンドに送り出してくれた。……なのに私がここで倒れたら、私は直衛に勝てない!美空監督、そして私を受けいれてくれたスイーツを裏切ることになるッ!!)
それだけは許されない。痛みを気力でねじ伏せ、力が入らない左手に無理やり力を入れて
カキィィィンンンッッッ!!
全力で振りぬいた。
打球はみるみるうちに上昇。大きな弧を描き、バックスクリーンに飛び込んだ。
逆転のスリーラン。
新城、草悟が本塁を踏んで打った中宮寺が最後の気力を振り絞り最後に踏む。
4-6。
直衛を見返すために痛みに耐えた女の意地の一打。
本塁を踏み、ベンチに戻ろうとする中宮寺に、直衛は呟いた。
「…見事だ。中宮寺」
「……ありがとう」
顔を隠すように帽子を被りなおすと、逆転打を放った女性選手はベンチに戻った。
「よくやったわ、中宮寺」
監督が自分を出迎える姿を見た瞬間、激痛に耐えた殊勲の四番打者は監督に身体を預ける形で気を失った。
★
『スイーツ、選手の交代、及び守備の変更をお知らせいたします。代走に入りました新城がレフトに入り、四番中宮寺に代わりまして、ピッチャー響』
9回表。
四番に抑えの響梅太郎が入り、九番のところに代走で出た新城が中宮寺のポジションだった左翼手に入った。
ファントムズの攻撃は八番で投手から。山元は代打を送り込むがファーストフライで1アウト。次の打者はス・リーグ最低打率の桜木。普通ならここでも代打を送るはずだが山元はそのまま桜木を立たせた。
その期待に応えるように魅惑の女性はショートへの内野安打で出塁し打者は一番豊繫。普段なら考えなしにうちにいく一番打者は、自分も生きようとしつつ、かつバントのように当てに行くゴロを放つ。二塁に向かう桜木はアウトに出来ないと判断した隠九条は一塁に送球、判定はアウト。
9回表4-6。2アウト2塁。
二点を追うファントムズだが最後になるかもしれない二番、影沼の目には諦念の色はなかった。後ろの不枝木に、そして直衛さんに回せば。そんなことが見て取れる目をしていた。
そして初球。球威があるとはいえ、多少甘くなった155kmのストレートを影沼は引っ張った。
打球は飛びついた三塁隠九条の脇を通り抜け、レフトに向かおうとするところを草悟が飛びつき、一塁に投げた。
(よし!)
二塁ベースよりの2,3塁線上にいた桜木は駆け出し三塁ベースを回った。草悟の体制ではいくら肩が強いといっても足の速い影沼腐深を刺せることが出来ず、自分の脚なら一塁から本塁に投げられてもぎりぎりセーフになると踏んだからだ。
(え?)
三塁を回ったところで桜木は異変に気づく。一塁手岡本のグラブにボールが収まっていなかったからだ。
(もしや……)
魅惑の女性は後ろを振り返る。そこには鬼気迫る顔で白球を持った草悟がすぐそこまで迫っていた。
白球を握った手は魅惑の女性の谷間に当てられた。
追いつこうと焦った自分の愚かさと、守備が苦手だと思っていたルーキーに一塁に投げたという演技にだまされてしまった力量の差に、サキュバスと称される女性は悔しさに顔を覆い、その場に崩れ落ちた。
「よっしゃあっ!」
勝利の咆哮を挙げる草悟。しかし彼は知らなかった。アウトにした女性が多くの男性ファンの心をわしづかみする人気選手であることを。
そしてその選手が泣いている理由が自分が胸にタッチしたことであると球場にいる人間に思われていたことを。
「有賀、お前何しとんじゃ!」「このうらやま、じゃなくてこのドスケベ野郎!」、「傾子様に何セクハラしてんだよ!」
ホームであるはずの球場から草悟に向けてゴミが投げつけられる。
それだけでは終わらなかった。
「貴様、よくも桜木さんを泣かせたな!!」、「俺達の女神を怪我しやがって!!」、「打ち殺してやるロボッ!!」、「仲間である俺ですらしていないことをしやがって!!」
ファントムズの選手が草悟に向かって襲い掛かってきたのだ。
そして。
「桜木さんのおっぱいに触りやがって!てめぇ、何美味しいところ持っていってるんだよ!死ねや!(草悟を守れ!)」
「愛人にしたいプロ野球選手一位の桜木さんのおっぱいに触りやがって!貴様だけは八つ裂きにさらに八つ裂きにしてくれるわ!(草悟には指一本触れさせんぞ!)
「本音と建前が逆だ、このむっつりスケベども!」
「「ギャアアアアアアァァァァァァッッッ!!」」
殺意をむき出しに襲い掛かろうとした隠九条と杉井を、どこから取り出したのか入江がスタンガンを押し当て気絶させた。
こうして乱闘未遂事件はあったものの、最後の三連戦の初戦はスイーツがものにした。
★
「くく、ふ、ふははははははっ!」
嫉妬に燃える両軍の選手から逃げ惑う草悟を見ながら君先は大笑いした。ちなみに康友は嫉妬からテレビを壊そうとしたので弥子と日野に殴られ気絶させられた。
「さすがは有賀君だ」
「さすが?何がですか?」
キョトンした顔で弥子が尋ねる。
「いやね。昔、白石勝巳っていうカープの選手が有賀君のようなことをしたのをあったことを思い出してね」
君先が言う昔は君先が生まれるよりも前の1952年の広島カープ対読売ジャイアンツの試合だった。
場所は北海道夕張市。
カープが7-4でリードするも最終回にジャイアンツが粘り1点差に。
2アウト2塁1塁のピンチに迎えるのは打撃の神様と呼ばれ、後にプロ野球史上唯一の9年連続セ・リーグ優勝に導いた川上哲治。
三遊間を抜ける川上のヒット性の当たりを、白石は三遊間の深い所で掴む。
この時タイミング的に間に合わないと思った白石は一塁へ偽投というフェイントをしかけた。それに騙され本塁へ向かった三塁走者を自ら三塁に駆け込みタッチプレーで仕留めゲームセットとなった。
当時のラジオの実況は「川上打った! ヒット! ヒット! ああ広島勝ちました!」と絶叫。聴衆は何が起こったか分からなかったという。
「まさか、文献でしか見たことがなかった伝説のプレイの再来を見れるとはね」
(ま、そんなこと大昔に起こったプレイなど知らないと思うが。それをとっさに思いつけるなんて、有賀草悟……底が見えない男だ!)
自分にトラウマを植え付けた少年の伝説級のプレイに心を躍らせつつも、その少年の打倒に心を燃やす君先。
「へぇ、そんなことを草悟が」
「……」
感心する弥子。嬉しそうに語る君先を日野陽子は静かに見ていた。
第22回戦対ファントムズ戦
勝利投手:岡本悦
敗戦投手:小日向
本塁打:不枝木七八(5回満塁打)、中宮寺(8回逆転打)