有賀草悟はプロ野球選手になるようです   作:筆先文十郎

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グリフォンズからスイーツに移籍したベテラン投手、久石が草悟を試します。

「おいおい、この勝負無茶があるだろう!」と思われるかもしれません。
その時は「この対決はこうした方がいいんじゃないの?」などアドバイスをいただけるとと嬉しいです。


第三話 ゴールデンルーキー対ベテラン左腕

第三話 ゴールデンルーキー対ベテラン左腕

 

春期キャンプ前。康友と弥子と打ち解けた草悟は練習時間が終わった後、自分達で色々な状況のシュミレーションをしていた。

「……」

少し離れたところで憂いじめた瞳が特徴的な男がジッと見ていた。

「あ、あの……どうかしましたか」

康友が強豪グリフォンズの中継ぎとして活躍したベテラン左腕、久石譲二に声をかける。

「あ、いや……僕がいないつもりで続けてくれ」

「あ、はい……」

実績あるベテラン投手が自分達を見ているのだ。そう言われて意識しない方が無理だった。康友と弥子は緊張しまくりだった。

だが監督にすら平気で噛み付くこの男には、ベテラン左腕は邪魔でしかなかった。

「見てるだけならどっか行ってくれませんか?邪魔なんで」

ブーーーッ!!×2

自分達にとって雲の上の存在と言える先輩選手に『邪魔』と言い切る草悟に二人は驚いた。

「邪魔、か……」

小刻みに体を震わせる久石を見て康友は「早く謝れ!」と草悟の頭を下げさせようとする。

「いや、確かに邪魔だったね」

笑顔でそう答える。だがそれは一瞬で真剣な表情に変わった。

「つまり見てるだけでなかったらいいわけだね?」

そう言いながらグローブを付けて歩み寄る姿は拒否すら拒む凄みがあった。

その凄みに康友と弥子は固まってしまう。そんな二人を見て久石は微笑む。

「そう緊張されると困るな。僕の練習に付き合ってもらおうと思っているんだから」

「勝手に話進めないでもらえます?俺らは考えがあってやっているんで。久石さんは怪我で歳なんですから縁側でお茶でも飲んでいてくださいよ」

表面上の言葉は丁寧だが、口調からは「怪我持ちの年寄りは邪魔だからどっか行ってろ!」と言っているのは明確だった。

「僕を年寄り扱いするのかい?グリフォンズで最優秀中継ぎ投手にもなったことがある僕を?」

「最優秀中継ぎ投手ですか、それは凄いですね。でもそれって過去のことですよね?じゃなかったらグリフォンズを戦力外されるわけがないですから」

その一言に、さすがの久石もキレた。

「上等だ!バッターボックスに立て!最優秀中継ぎ投手が過去のことなのか、お前の目で確かめてみろ!」

ベテラン左腕の怒声に、康友は歯をカタカタと鳴らし弥子はグローブで顔を隠した。

そんな中、怒らせた張本人はニッとしてやったりと笑みを浮かべる。

 

 

はめられた!

 

 

久石は試そうとしていた新人の挑発に乗ってしまったと気づく。

しかし一度燃えてしまったプライドの火は消えない。

久石は軽く肩を回すとマウンドに立った。

防具をつけた康友が歩み寄る。久石が何を投げるのか、それを確認するためのサインのためだ。

確認が終わると康友はホームベースへと戻る。康友の後ろには審判用の防具をつけた弥子が立つ。

左打席には試そうとしていた青年が自分を見ながら立っている。その顔には「最優秀中継ぎ投手の実力をみせてもらいましょうか」と書かれてあった。

久石は少しだけ口角を上げ、振り上げる。

左手から放たれたボールは外角低めに構えた康友のミットに収まる。草悟は微動だにしなかった。

「……えっと」

ベテラン左腕の顔を立てようとストライクと言おうとする弥子に、久石は言った。

「ボールだ」

その発言に弥子は「ぼ、ボール」と判定する。

(まさかあのボールを見極められるとは)

久石が投げたのは外角低めのストライクゾーンからボール半個分から一個分、ボールになるシュートだった。内野ゴロが欲しい時に久石が多投した変化球の一つ。

草悟の見逃し方から、久石は「草悟はボールが見えている打者」と判断した。

次に投じたのは内角低めのストレート。多少甘く入ったその球を、草悟はフルスイングした。

ダンッ!

打球は光と見間違うほどの速さでファールゾーンのフェンスに直撃した。

(こいつ!)

久石は表情を変えず心の中で(うめ)いた。

今まで多くの強打者と対戦した。さきほどのようなフェンスに弾丸のように直撃したファールも何度も見た。しかしそんな打球を放った打者はほぼ大半が筋肉隆々の選手達だった。

対する草悟は小柄で細くはないが太いわけではない。そんな彼がなぜ強打者達のような弾丸のようなファールが打てたのか。

疑問に覚えた久石の目に草悟のバットが見えた。

(なるほど)

合点がいった。

草悟が使っているバットは一般的な選手が使っているバットよりも少し短い。当然普通のバットよりも軽い。

 

 

一般的な選手以上のスイングスピードで打球を飛ばした。

 

 

久石はそう考えた。しかし久石は弾丸ファールを打たれたのは軽量のバットだけではないことを知る。

次に投じたのは外角低めのやや甘いスローカーブ。緩急で打たせて取る投手の最も自信のある変化球だ。

意とした球と違ったのか、振ろうとしていたバットが一瞬止まった草悟。

空振りになる、普通の打者ならそうなる状況だった。だが。

 

 

カキンッ。

 

 

下半分をこするように当てられたボールは三塁付近のファールゾーンに落ちた。

この時、久石は決して体格が良いわけではない草悟がなぜ弾丸ファールを打てたのかを理解した。

 

 

こいつ、スイングスピードが速いんだ、普通のやつなら振り遅れる球を当てられるほどに!

 

 

軽量のバットを使っているからではない。憂男が“高校時代にやっていた”ということをやり通したことによって出来た体のバネ。鍛え上げられた体のバネが弾丸ファールを生み出したのだ。

 

 

何がプロじゃ通じない、だ。

 

 

三軍監督の大吾にそう評価した自分を(ののし)った。

投手としては失格だったが打者としてはすでに一軍クラスと身にしみて感じていた。

際どい球を見逃すことが出来る選球眼。強打者が放ったのと見間違えかつ振り遅れそうになるボールを当てられるスイングスピード。一流選手と言われる選手が持っている能力を高校卒の新人が持っている。

フルスイングしているのにも関わらずほとんど音もなく打球を振りぬくことも恐ろしさに拍車をかけた。

 

 

すげぇ新人が来たものだ。

 

 

打者なら一流選手と見間違えるほどの能力を持っている。そう評価を改めた。しかし、投手王国と呼ばれるグリフォンズで頭角を現し、最優秀中継ぎ投手に選ばれた男はこの黄金ルーキーを討ち取れると確信した。

次に投じたのはボールゾーンになる外角低めのストレート。当然草悟は見極める。

(これで終わりだ)

久石はボールを投げた。投げたのは外角低めでストライクゾーンギリギリのスローカーブ。

「!?」

思わず振ったバットの後にボールが康友のミットに収まる。先ほどの外角低めのストレートが残像として残り体が我慢できず早く振ってしまったのだ。また普通の選手なら辛うじて当ててファールやボテボテのゴロになるのが、草悟のスイングが速すぎるために空を切ったのだ。

「ば、バッターアウト!」

 

「どうだい?最優秀中継ぎ投手は伊達じゃなかっただろ?」

「……」

三振に打ち取られたのがよほど悔しかったのだろう。歯を食いしばって耐えている。

そんな草悟に久石は提案する。

「そんなに悔しいならもう一勝負しようじゃないか、というかそれが僕の練習したかったことだし」

 

数分後。久石は再びマウンドに立った。

先ほどと違うのはファーストに弥子。一塁ベースに草悟が立っているというところだ。

「ルールは簡単。草悟が盗塁に成功したら勝ち。アウトになったら負け。簡単だろ?」

「……あの、久石さん」

「どうした康友」

「セカンド、誰もいないんですけど……」

「それが?」

「い、いや!久石さんがアウトにするにはけん制でアウトにするしか方法がないじゃないですか!」

「そうだけど?」

「いや、『そうだけど』じゃないでしょ!?」

「康友!」

草悟の怒声が響く。

「本人がそれで良いと言っているんだ。ガタガタ言うな!」

そう言うと久石の方へ視線を向け、言い放つ。

「だからって自分で作った不利な条件を負けた言い訳しないで下さいね」

「しないよ、負けたら焼肉でも何でもおごってやるよ」

 

(焼肉、焼肉♪)

リードを取った草悟はもうすでに何を食べようかを考えていた。

二塁には誰もいないのだ。キャッチャーからの送球でアウトになることはない。走れば100%盗塁成功する状況だ。

走ろうと右足に重心を移した時だった。

バシュ

「あ、タッチ」

弥子のグローブが肩に触れた。

「い、今のはノーカンだ!」

「草悟。勝負の世界にノーカンはないよ」

弥子のツッコミにムムムと押し黙る。

「そんなに言うならもう一回勝負しようか?」

「もちろんだ!」

 

(今度は慎重にいこう。走ることさえ出来れば盗塁できるんだから)

草悟は少しずつベースから離れ、走るタイミングを窺う。

(よし!)

投げる動作を確認して動いた瞬間。

久石と一瞬だけ、目が合った。氷のように冷たい目に草悟は動きを止めてしまう。

ボールは康友のミットに収まる。走れば盗塁できた。しかし視線でけん制され、走ることが出来なかった。

(今度こそは!)

再びベースから離れ、走るタイミングを(うかが)う。

「……」

「……」

久石は長くボールを持つ。視線はキャッチャーの康友の方を見ているのに見られているようで走れない。

「……」

「……」

(えぇい!ままよ!)

痺れを切らした草悟が右足に重心を移した。次の瞬間。

その時を待っていたかのように久石が動いた。ボールはすぐに弥子のグローブに転送される。

(しまった!)

頭から戻るが無情にも草悟の手はベースではなくボールが収まったグローブだった。

その後もう一度やったが盗塁できずアウトになった。

もう一度しようといったが野球は3アウトということで草悟の泣きの一回は却下された。

 

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