25年前
台湾でとある男の子が誕生した。
彼の祖先は中国のとある王朝の
その王の仕打ちを恨んだ子孫は代々長子に『王を超える臣下』という意味で王臣をつけるのが習わしになった。
これは先祖代々続く『王臣』の名前を引き継いだ男の話である。
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王臣少年は運動神経が並はずれていた。
小学生の時に中学生と対等に渡り合える身体能力を持ち、中学生の時には高校生と渡り合える身体能力を持っていた。高校生の時に王臣少年の運命を大きく変えるものに出会う。
クラスメイトから野球に人が足りないから助っ人で来てほしいと言われた。
ここで彼は野球の虜になった。
野球は打席に立てば個人競技だが、守れば味方と協力しなければ点を守れない団体競技。個人競技と団体競技。その相反するものを矛盾することなく成立させていることに。
サッカーやバスケットボールなどの他の運動部でも活躍した王臣だが、野球は元々才能があったのか、めきめきと実力をつけてきた。
投げれば完全試合やノーヒットノーランを、息をするように成し遂げた。
チームが弱かったため大きな注目を浴びることはなかったが、そんな彼の活躍を聞きつけたメジャーのスカウトが接触するようになっていた。
そんなある日。台湾に自分の敵はいないと思った王臣はどこに入団するべきか考え、参考にしようと日本の野球を調べた。
彼はYouTubeである動画を見つける。それは
試合は完全にスイーツの敵だらけという試合だった。
対コスモスターズ戦。補足説明を見るとこの試合はこの試合勝てばコスモスターズが三連覇を成し遂げる試合と書かれてあった。
スイーツの投手、美空星蘭は毎回ランナーを背負うピッチングだったが要所を締めて9回まで無失点で切り抜けていた。
『俺達はコスモスターズの優勝が見たいんだよ!』、『さっさと諦めろや、この最下位エース!』、『この試合頑張ってもお前らはもう最下位なんだよ!』
日本語が分からない王臣でも、観客の言葉が彼女に向けてのブーイングだと理解出来た。
後ろを守る選手は諦めを漂わせている。
それでも彼女はキャッチャーミットめがけてボールを放つ。敵は打たれるのを期待し、味方は勝利を諦める中、彼女は独り投げ続けた。
9回裏。ついにその時は訪れる。
0‐0で迎えた9回裏。美空は2アウトながらヒット、四球、味方のエラーで満塁の危機を背負っていた。
打者は本塁打王競争で1位タイの四番打者。フルカウントの7球目。孤軍奮闘を続けていた彼女が、力尽きた。
投げたボールは真ん中付近の緩い変化球。打って下さいと言わんばかりの失投を四番打者は看板直撃のホームランを放った。
割れんばかりの喝采に包まれるドーム球場。
美空は崩れそうになる身体を堪え、三塁ベンチに引き揚げる。
そして。三塁ベンチから胴上げする相手球団を燃え尽きた身体で見ていた。
★
動画を一時停止して、王臣はコメント欄を見る。
コメントにはコスモスターズの勝利に歓喜するコメントで埋め尽くされていたが、王臣だけは違った。
美空星蘭、美しい。
それが動画を見た王臣の全てだった。
周りが全て敵になり、味方も勝利を捨てた中でも諦めず、独りで勝利につながる投球をした彼女の姿に。
そして自分に問う。自分は彼女のように投げるのは出来るのか、と。
「出来ない」
王臣は自らの問いに小さく苦虫を潰したような顔で答えた。
彼にはいつも味方がいた。
今の彼には多くの人間が集まるが、彼の超人的ともいえる実力が無くなったら。おそらく味方はクモの子を散らしたようにいなくなるだろう。
動画の彼女と今の自分。どちらが投手としての技量は上かと言えば王臣は自分が上だと心から言える。しかし野球選手としてどちらが上かと問われれば、美空と答える自分がいた。
王臣は決心する。
「行こう、我が主。美空星蘭の元へ!」
こうして王臣はメジャーからの誘いを全て断ると、彼女の下で働くに相応しい人間になるために自分を磨こうと何故かエベレストに向かっていった。
王臣22歳の時だった。
三年後。彼がスイーツの海外スカウト、ウィソ・ロッテンハイマーに勧誘され監督となった美空の元で投手となるが、それはまた別の話。