ピピピッ!
ピピピッ!
ピピピッ!
ガンッ!!
「痛っ......!」
あのファミレスの件から2日経ち、今日は日曜日。本来ならゆったりと11時ごろまで寝たいところだが、自己主張が強い目覚まし時計に邪魔され、6時に起こされる。そんな時計に恨みを込めて音を止めるも、かえりうちにあい、痛みで目が覚める。
「朝ご飯、作らないと......」
丸山家の食事は当番制である。朝が早く夜遅くに帰ってくる両親のために、俺と姉さんが始めたのだ。昨日は姉さんが作ったため、今日は俺の番である。
俺たち姉弟の部屋は2階にあるため、1階の台所へ向かうのだが、その前にやることがあるのだ。
「姉さん、入るよー」
返事を待たずに、姉の...“丸山 彩”の部屋に入る。よくあるラノベみたいに着替え中にバッタリ、なんてことは無い。なぜなら姉さんが自力で起きれるわけが無いからである。
掛け布団にくるまり、幸せそうな顔で寝ている姉さんを見ると、起こすのが躊躇われるのだが、そんなことを言ってる場合ではない。今日パスパレは午前中にレッスンがあるらしく、遅らせるわけにはいかないのだ。
「姉さん起きて」
取り敢えず姉さんの肩を軽く揺さぶってみる。こんなことで起きはしないが、一応起こすときのルーチンになっている。
「むにゃむにゃ......」
まあ起きないわな。今度は強く揺さぶってみる。
「分かったよ日菜ちゃん~。1日だけだよ~。むにゃ……」
日菜さんが夢に出てきてるのか。あの水色の悪魔にとりつかれてちゃ夢見も悪いだろう。早急に起こす必要がある。
ん? まだ続きを言いそうだな。ちょっと聞いてみるか。
「1日だけなら、優斗を好きにしていいよ......むにゃ...」
ゾクッ!!!
「起きろっ!!」
「はふっ!」
突如聞こえてきた謎の言葉に悪寒を感じ、つい布団越しに姉さんのお腹を叩いてしまった。姉さんの口から空気が抜けたような声が聞こえたが、そんな場合ではない。こちらは身の危険を感じたのだ。しょうがないだろう。
「うぅ...もうちょっと優しく起こしてよ......」
「ごめん、姉さんがうなされてたから焦っちゃったよ」
「そうなの? う~ん、結構楽しい夢を見てた気がするんだけど......」
「とにかく、支度しなよ。午前中はレッスンがあるんでしょ?」
「そうだった!」
「朝ご飯が出来るまでには来てよ?」
その後、支度を終えた姉さんと一緒に朝食を済ませ、事務所へと向かった。
「じゃあ姉さん、俺こっちだから。レッスン頑張って」
「ありがとう。優斗も頑張って」
姉さんと別れた後、ELEMENTの集合場所となっている部屋を目指す。道中で千聖さんと麻弥さんに会い、いつもの軽い言い合いが始まり、麻弥さんがお互いを宥めるといったやり取りをしていた。
「おはようございまーす」
『おはよー』
俺を除いた4人は既に集まって……あれ? 海人がいない…。
海人とは、俺と同じ高1の“四谷 海人”。性格は結構明るく、語尾を伸ばしながら喋るのが特徴だ。
あいつが遅れるのは......珍しくはないな。
「相川さん、海人はどうしたんですか?」
「さっき連絡が入ってね。寝坊したらしいよ」
どうやら割と普通な理由だった。なんだつまらん。でも遅刻はマズイよな…。最近は遅刻しないようにあれこれ手を尽くしてたけど、やはり休日の午前中は厳しいものがあるか。あいつ一人暮らしだもんな。
そんなことを思いながら海人を待っていると、不意に扉が開き、一人の女性が缶コーヒーを片手に入ってきた。
「全くあんた達は、何でこう遅刻が多いのよ......」
「真由さん...」
この女性は“橘 真由”。俺たちELEMENTのマネージャーだ。年は22歳で、18歳のときにこの事務所に就職。その後実力を認められ、若くしてその地位に付いている。年がそこまで離れていないということもあり、だいぶ親しみやすいのだが......。
「あんた達、あたしが若いからって甘く見てるんだよね?」
『......っ!』ブンブンッ!
一斉に首を横に振る俺たち。いつもは気前が良く優しい真由さんだが、怒らせるとかなり怖い。その証拠に、先程まで寝ていた海瀬さんがしっかり起きているほどだ。
「はあ......海人は後でシメとくとして、先に連絡事項があるわ。再来週放送予定の音楽番組あるでしょ? それに前座として呼ばれたわ。簡単に言うとオープニングの盛り上げ役ね。最近のあんた達の活動を見て上が掛け合ってくれたらしいわよ」
「ほんとですか!?」
「よっしゃ! 久しぶりのテレビだ!!」
「また...注目...される......」
「姉さんからの無言の圧力にさらされる日々が......!」
喜ぶものが2名、怯えるものが2名。
そんな状態だが、別にテレビに出るのを心から嫌がっているわけではない。ただ俺の場合は、本番前に精神が持つかどうか......。
「そんなわけで、この事ちゃんと頭に入れといてね。それと、もし今度レッスンや打ち合わせに遅れるようなら......」
真由美さんはそう言うと、飲み干したらしい缶コーヒーを右手に持ち、目の高さまで上げると.........。
グシャッ!!!
『......っ!!』
「分かった?」
『......!』コクコクッ!
真由さんの笑顔と犠牲になった缶コーヒーの前には、全員が頷くしかなかった。
だってさ、あの缶コーヒー......スチール缶だよ? 何あのバカぢから。
そんな中、またもや突然ドアが開く。入ってきたのは......。
「いや~、遅れました~。あれ? まだ始まてない感じですか?良かった~、起きた時はどうしようかと思いましたよ~」
『.........。』
場の空気が一瞬で凍り付き、その後、遅れてきた海人がどうなったかは言うまでもない。
「普通あそこまで怒るかな~」
「お前が寝坊したんだから自業自得だろ?」
打ち合わせが終わった後解散した俺たちだが、俺と海人はカフェによることにした。どうやらこのカフェ、海人の行きつけだと言う。店の雰囲気は落ち着いた感じで、中々ゆったりできるいい場所だ。
「なあ優斗。何を頼むんだ?」
「無難に紅茶とシフォンケーキのセットかな」
「じゃあ俺は~......ショートケーキとロールケーキとガトーショコラと~...」
「待て待て待て、頼み過ぎだ! お前一人暮らしだろ!?」
一体何個頼むつもりなのだろう。いつもは俺らと普通の量を頼むのに...。もしかして下宿先では食べまくっているのだろうか。それよりも、そんな金はどこから出てくるのか。
「注文お願いしま~す!」
そんな俺の心配などお構いなしに、店員を呼ぶ海人。ほんとにあの量を頼む気なのだろうか。
「お待たせしました!......って、海人君!?」
注文を取りに来てくれたのは、俺らと同じくらいの年だと思われる女の子だった。茶髪で、髪の長さは肩に届かないぐらい。声の感じからして、穏やかな性格だろう。しかもどうやらこの子は、海人と知り合いのようだ。くそっ! 海瀬さんといい海人といい、何でこいつらの知り合いの女子はこうも......。やめとこう。なんか悲しくなってきた。
「久しぶりつぐみ~。来たよ~」
「海人君、昨日も来たばっかだよね?」
「お前......まさか前も結構な量食べたんじゃ......」
「ん~...。ケーキ5つしか食べてないけどな~」
こいつには一度、健康管理の講習会でも受けさせるべきだろう。この事を千聖さんが知ったら......。
「海人君って、ほんとモカちゃんに似てるよね......」
モカ? またもや海人の知り合いだろうか...。
「モカってのは誰なんだ?」
「そう言えば優斗には話したこと無いんだっけ~。じゃあ紹介するよ。この子がつぐみちゃんで~、“After grow”っていうガールズバンドのキーボードやってて、んでもってモカちゃんって言うのは、同じバンドの子でギターやってるんだ。因みにメンバー全員高校1年生~」
「初めまして。“羽沢 つぐみ”です! 海人君が言ってたように、After growでキーボードをやってます。よろしくお願いします!」
「俺は丸山 優斗。海人と同じELEMENTのメンバーで、高校1年。こちらこそよろしくね、羽沢さん」
今度、Aftergrowのライブ見に行ってこようかな。
この後、海人と羽沢さんと俺を含めた3人で軽い雑談をし、気付いたら日が暮れていた。
こうして、俺たちは久しぶりのゆったりとした時間を満喫したのだった。
前言撤回熱いです。
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