深夜、エチェバルリア邸にて。
「ガンダム…ガンダム…」
怪しげな呪文をつぶやきながら、銀色の髪をした少年がひたすら筆を走らせる。彼の周りには、紙が山のように積まれ「連合」「ジオン」と一応分けられていた。
これらの紙に書かれているものはユニコーンの中にあったMSのデータであり、エルはこのデータをもとに幻晶騎士の装備の参考にしていた。そして、彼はこのデータをもとに、この世界にはない、ある物を作ろうとしていた。
翌日。紙束を抱えたエルは学園の工房にて、職人たちを集め何かを説明する。エルの説明を聞き、職人たちは木工に使う道具を持ち作業に入り、一方で騎士達は頭に?を浮かべていた。
「なぁ、エルネスティ…」
エドガ―がエルに声をかけた。今から作ろうとしている物について質問し、エルは「できあがりまでお待ちください」とだけ、言い背後から抱き着くアディをなだめながら彼も作業に入る。
木材 鉄 塗料 いくつかの材料が集まり、外が夕日に染まる頃。
大きなテーブルの上に置かれていたユニコーンを見てエルが目を輝かせた。他にも、緑色のザクや、ジム。数体のガンダムタイプがきちんと色を塗られ完成していた。
「ついに完成しました…ガンプラ。プラスチックではないのが残念ですが、これはこれで素晴らしい…」
エルがつぶやくなか、完成したガンプラ。いや、フィギュアと言うべきか、職人たちが作品を眺め、手に持ってみる。武器を持たせ、ポーズを変えてなど夢中になっていた。
「なぁ、エル。この一つ目の奴ってなんでこんなにあるんだ? どれも同じだろ?」
「そうじゃないんですよキッド!! この緑色のザクは量産型で、赤いのは専用機!! そして、背中に装備がついたのはサイコ・ザクとそれぞれ違うんです!!」
「…どれも、同じにしか見えないんだけど。しかも、可愛くない…」
アディが、ザクの説明に夢中になるエルを見てつぶやく。ザク一つにしても、いくつもの種類があるのだが、そんな事を言い出したらエルの説明は今日一日では終わらない。
「この紅い機体は、グゥエールに似ているが…シナンジュと言うのか」
ディーが、自分の機体に似たMSを手に取り、紅と金で装飾されたのを手に取る。他にも、ヘルヴィ達女性陣は丸いボディをしたアッガイが気に入ったのか手足を動かす。
やがて、鑑賞会が落ち着き、ほとんどの者が量産機よりガンダム系が気に入ったらしく、エルの用意した資料片手に次の制作について話が進んでいた。
「このぜーた? ってやつは、変化するのか? 」
「角とか、細かい部分が折れそうだし、どうにかならないか?」
など、いくつか問題点を洗いだし異世界のガンプラ制作が着実に進む。
そして、数日が経つ頃にはーー
「おい!! 騎士団長が乗ってるやつはもうないのか!?」
「白い奴!! 角のついたのは次いつ出る!?」
「くそ!! また、ガンダムが売りきれかよ!!」
学生が作った謎の人形を求め、あらゆる店で行列ができていた。職人たちが徹夜し、量産した物が予想以上に売れ、エル達が作ったものは今、かなりの流行になっていた。が、そのせいで地獄を味わう者達が裏にいた。
「ユニコーンの在庫がもうないだと!? 昨日まで100体作ったのに、もうないのか!?」
「くぅ!! ユニコーンだけでなく、他のガンダムまで在庫がもう切れただと!!」
「畜生!! ガンダム作るの難しいんだぞ!!」
工房はまさしく地獄そのものだった。確かに大量に売れ、自分達の懐が豊かになった。
だが、生産しても、生産してもガンダムは大量に売れ、在庫がなくなるほどだった(主にユニコーンが)
「いや~~この修羅場の感覚は懐かしいですね…」
前世で、プログラマーと言う戦場を思いだしながら報告書を読むエル。内容は、売れ行きや、利益。さらに、転売行為について書かれており、文章を確認しながらサインをする。
「…さて、こう売れるのはうれしいですが。できれば次も作りたいかと…」
エルが一枚の紙を取り出す。紙には、今作られているサイズより大きめのユニコーンの絵があり、後に職人たちが泣く羽目になるとはこの時、誰も予想できなかったーー