〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

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第11話

『MEGA MAC』とは、つい最近では新型衛星『きんた〇』の件で名を上げた『MACエンジニアリング』が社運をかけて建造し、運営する総合アミューズメント施設である。

 

 温泉を引いた最上階の露天風呂を中心に、卓球にビリヤードから電子ゲーム、小芝居を行える小さな劇場等の各種遊戯に和洋中全てを網羅する大衆食堂、果てには大人数に対応する宿泊施設の完備など、来客者に様々な快楽でもてなす設備を整えたそれは、日本にある同様の施設に倣って作られた純和風の巨大建築物である。

 

 一方でモチーフこそ、櫓や天守閣を揃えた和風の城ないし屋敷と言った外観であるが、全体を通して鮮やかな赤で所々金に縁どられた中華風の色使い、夜間には七色に光るネオンと闇夜を照らすサーチライトがあしらわれたり、看板にでかでかと「わびさび」とポップなゴシック体で描かれているなど、いささかステレオタイプが否めないのはご愛敬。

 しかしながら、オープンから3日目の今日午後7時過ぎ時点で、来客者数が1万人を超えたなど、施設の規模を鑑みれば大盛況ぶりが窺える。

 

 今日も来客者が和気藹々と楽しむ娯楽施設に勤める、警備員が休憩室の一角にて、勤務時間のシフトを終えた2人の『ディスクボーイ8』が、いつも携える盾と棘付きのフリスビーをロッカーに立てかけ、休憩を取っていた。

 

「ぬわあぁぁぁぁぁぁん疲れたもおぉぉぉぉぉぉん!」

「お前いっつも疲れてんな」

 

 片方はパイプ椅子に腰かけて腕を伸ばし大きなあくびをする。 もう片方は相方に軽く呆れながらも笑いつつ、中の物を取り出そうと冷蔵庫に手を掛けている。

 2人して全く同じタイプのレプリロイドで、見分けるには彼らの視界を通して識別番号を見る以外にないので、便宜上前者をA、後者をBと呼ぶことにしよう。

 

「お、ビールビール!」

 

 Bが冷蔵庫を開けようとするついでに、Aが中にあるであろうビールを要求する。 Bが空返事をしながら冷蔵庫を開けるが、ビールと思わしき缶や瓶は見当たらない。

 

「今日は入ってねぇみたいだ。 ……アイスティーしかないけどいいか?」

「何だ品切れか、しょうがねぇなぁ」

 

 仕事終わりのビールが飲めずにがっかりしそうになるも、すぐに気持ちを切り替えてBが持ってきてくれた細長い300ml缶のアイスティーを受け取るA。

 

「悪いな」

「そんじゃまあ、今日もお仕事お疲れさん」

「あいよ」

 

 プルタブを開けて軽く乾杯し、口に含むと清涼感のある甘くほろ苦い味わいが体に染みわたる。 アルコール程ではないが、カフェインたっぷりの冷えた紅茶も嗜好品としては悪くない。 無論、人間とは違ってレプリロイドの体に摂取した栄養が作用する筈もないが、まあ気分的なものだ。

 

<ただいま情報が入りました>

 

 Aの腰かけるパイプ椅子の並べられた簡易デスクの向こう側、ガラス張りの引き戸のついた金属製の棚の上に置かれた液晶テレビ、チャンネルの中で男女1組のニュースキャスター、男性側が次のニュースを読み上げようとしていた。

 

<つい先程、イレギュラーハンター本部に照準を向けてレーザー兵器を発射した『きんた〇』……失礼しました。 新型衛星の件についてですが――――>

「おっ……アレか」

 

 AとBはニュース画面に注意を払った。 つい2時間ほど前の事だが、ここから数10㎞ほど離れたハンターベースに、先日お披露目したばかりの衛星が突如レーザーを発射した。

 幸い放たれたレーザーはイレギュラーハンター達の尽力あって、すんでの所で用意できたエニグマによって相殺できた。

 

「あんときゃビビったよなぁ」

「だな。 まさか衛星が発射されるだなんてな……一時はどうなるかと思ったぜ」

 

 2人はたった2時間前の出来事を思い浮かべる。

 その瞬間は勤務時間中だった彼らも、空が一瞬明るく光り離れたこの場所でもわずかな揺れとして感じ取り、一時は施設にいる客共々騒然となるも、それから間もなく報道されたニュースをもって防衛に成功した事と、慌てずに普段通りの生活を送ってほしいとハンター側から声明が出ると、騒動が嘘のように落ち着きを取り戻したのは記憶に新しかった。

 

 とはいえ、何故そのような重大なトラブルが発生したのかは、ハンター側は勿論だが衛星の管理者の1つとも言える、我らが警備会社との契約相手たるMACエンジニアリングからも、未だ一切が発表されていない。

 

<我々はシャイニング・キンタ〇ニクス……もといホタルニクス博士に状況の説明を求めようと、彼の自宅前にて博士の帰宅を待ってみましたが、家に入ってしばしの後に何やら錯乱した様子で玄関を開け放ち飛び出して行きました。 その時の映像をご覧ください>

 

 ニュースキャスターの呼びかけの後に、先日の失態から失礼極まりないあだ名で呼ばれそうになった、ホタルニクス博士の自宅と思わしき邸宅に場面が切り替わる。 これはつい先ほど取られた映像らしい。

 玄関の扉が開けられると、何やら血走った様子でホタルニクス博士が飛び出してきた。

 

<ホタルニクス博士! 新型衛星の件ですが――――>

<どこじゃ!? あれは一体どこなんじゃ!?>

<帰宅直後にすみません! 突然攻撃した新型衛星について何か分かった事は――――>

<ワシの『デスフラワー』の模型がどこにもないッ!? 何者かが盗み出しよったんじゃああああああああああああッ!!!!>

 

 ――――等と叫びながら、詰め寄る報道陣を掻き分け、ホタルニクス博士は来た道を走り去ってしまった。 ……映像が再びスタジオに戻る。

 

<デスフラワーの、模型……ですか?>

<えー、それについて一応補足ですが>

 

 女性キャスターの呟きに、ニュースを読み上げた男性キャスターが説明する。 背後の画面がホタルニクスの自宅前からデスフラワーの画像に切り替わる。

 

<デスフラワーとは、今回の『きんた〇』……失礼、衛星の前身に当たる攻撃衛星ですが、博士が言うのはスケールダウンしたその模型の事ですね>

<時価総額が50万ゼニー越え、との事ですが>

 

 女性キャスターの質問に、後ろの画面に値段の情報も添付される。 時価総額が最低で『500000』を超えているらしい。

 

<かなりの品薄でプレミアがついたガレージキットで、綺麗に組めている物は発売当時から倍の値段がついている様子です。 なお博士が走り去った後、現場のカメラマンが庭にカメラを向けた所、家のガラスにテープのついた破片がついていたのを見つたようです>

<盗られたと聞こえましたが……しかしその、今は衛星が誤作動……ですか? 突如攻撃した事の方が一大事だと思うんですけどもこれは……>

<ええ、彼には申し訳ないですが、『きんた〇』――――もとい衛星の事より、私物を盗まれた事を優先するのは不謹慎としか思えません。 やはり人前で『きんた〇』を開示するだけあって、我々凡人には理解できない精神構造なのでしょうか? ……それではコマーシャルです>

 

 最早こき下ろしともとれる辛辣な発言と共に、ニュースはアイキャッチを表示し一旦CMに入った。

 

「あらら、まずいとこ映っちまった訳か」

「しかし緊張感ねぇなあ、ショックで人前で露出するぐらい思い入れあった癖にな」

 

 Bの言葉にAは「確かに」と言って頷いた。 1週間前の発表会の日、彼ら2人もホタルニクスのきんた〇開示を見て、その時こそお茶の間もろとも大爆笑の渦に巻き込まれ、文字通り抱腹絶倒したわけだが。

 今にしてみれば中々に可哀想だったとも思える訳だが、それだけに真っ先に衛星の件について何ら行動を起こさないのは腑に落ちない思いであった。

 

 

 

 

 

「全くねぇ。 優先順位も決められずに慌てふためく男はかっこが悪いわよ」

 

 

 

 

 

 物思いにふける2人の背後から、女性口調であるにしては野太い男の声がした。 彼らには聞き覚えがあり、振り返ると休憩室の入口に『彼』が立っていた。

 

「お仕事お疲れ様。 ワタシも今上がった所よ」

 

 

「「クジャッカー主任!」」

 

 

 2人は彼を見て名前を……『サイバー・クジャッカー』の名を呼んだ。

 派手な尾で注意を引く雄の孔雀をモチーフにデザインされ、紫を基調とした色合いのボディを持つ彼は、しかし外見のモデルと裏腹にオネェな性格で、カールを巻いたまつ毛にアイシャドウを強調するようなどぎついマスカラが、内股で入口に立っている彼の内面をより一層際立たせていた。

 そんな彼を主任と言うのは、それはクジャッカーが彼ら警備員達を束ねる上司であるからである。 Aは立ち上がり、2人揃って敬礼した。

 

「ホホホッ……そんなに気を遣わなくてもいいのよ。 業務時間以外なんだから、いっそクジャッカーだけにクーちゃんとでも呼んでくれてもいいのよ?」

「そ、そう言う訳には……それはそうと! きょ、今日はボディに乗り移ってるんですね」

「ええそうよ。 折角作ってもらったカラダなのに、偶には動かさなくちゃ錆ついちゃうわ」

 

 慌てふためくAに対し、欠伸をしながら首や肩を回すクジャッカーの仕草は、やはり根が男性である為かオネェにしては些か野性的にさえ感じる。

 Aの言う『乗り移る』と言うのは、元々クジャッカーは実体のない警備システム全域を統括するプログラムなのだが、後におあつらえされた電脳世界と同一のサイズ比やデザインに設計されたボディに乗り移っては、偶にこうして外を出歩く事もあるのだ。

 Bは直属の上司と言うだけに丁寧な応対をしつつも、紅茶の缶を握ったまま特に目立った様子はないが、一方でAは委縮している……と言うよりは恐れているかのように顔色を窺っている。 何故なら、彼が外界に出歩く時と言えば限って……。 

 

「運動不足のこういう時には……もうアレをするに限るわねぇ」

「ッ!?」

「……アレ?」

 

 主語の見えないクジャッカーの言葉に首を傾げるBとは対照的に、Aは総毛だったかのように肩を強張らせる。

 

「やぁねぇ……花を摘みに行くのよ、お・は・な」

「レプリロイドが、花を? ……どういう意味ですかそれ?」

「ブッ!!」

 

 クジャッカーの意図を組みかねるB。 無論花を摘むという言葉は『比喩的なもの』であると理解はしているが……それがレプリロイドである彼が何故?

 孔雀に対してオウム返しで尋ねる相方に、Aが思わず噴き出した。 クジャッカーはため息をつく。

 

「わざわざ何度も聞くのは野暮と言うものよ……そうねぇ」

 

 クジャッカーは口元に指をあてて目線を上に泳がせながら思考を巡らせ、そして閃いた。

 

「何なら、貴方がワタシと一緒に花を摘みに行ってもいいのよ?」

「え……あ……?」

 

 身をくねらせて上目遣いに、猫撫で声でクジャッカーがBにすり寄ろうとした。 思わず言葉を失いかけるBだったが――――。

 

「あッ! しまった、そういえば忘れてた!!」

 

 何かを咄嗟に思いついたように、Aが手を叩いては2人の間に割って入った。 圧倒されるBの肩を掴んで押すようにして、クジャッカーから距離を置く。 

 

「すいません! ちょっとこいつに手伝ってもらいたい書類仕事あるんで一緒に行けないんですよ! 大変申し訳ない!」

「あらそう……つれないわねぇ」

 

 Bの肩を寄らしながら慌てて引きはがしにかかるAに、クジャッカーは残念そうに呟いた。

 

「しょうがない、お花は1人で摘みに行くわ……それじゃねぇ♪」

 

 クジャッカーは踵を返し、スキップしながら部屋から出て行った。 去り際にもう一度ドア枠から身を乗り出し、手をひらつかせて。

 物足りなさそうに、しかし期待に胸躍らせる様に去っていったクジャッカーの気配が完全に消えたのを確認すると、Aは額を拭った。

 その傍らで力強く押されたBは不満げにAの手をどかす。

 

「何なんだ? 書類仕事なんて聞いてねぇぞ?」

「バカ、あれは嘘だよ!」

 

 状況が呑み込めないBに、Aが口元に指を立てて余り声を荒げないようジェスチャーする。

 

「あの人の『花を摘む』ってのは色々まずいんだよ! 前の派遣先でも噂になってたし、ついてったらえらい目に合わされるぞ!?」

「何って、トイレに行くって事だろ? レプリロイドが出るもん出るのかは知らねぇけど」

 

 慌てて制止するAに、Bはあくまで常識の範囲内で『花を摘む』と言う言葉を解釈する。

 しかしAは彼のリアクションを見て何かを察したように呟いた。

 

「……そうか、お前が主任とまともに一緒の時間帯にシフト組んだ事あんまり無かったんだっけな」

 

 AとBの付き合いは長い。 警備会社に勤める2人はこれまでに、様々な会社の警備や防犯車両の警護に共に派遣されてきた。

 しかし、主任であるクジャッカーとまともに一緒のシフトを組んだことのあるAに対し、Bはほんの数回程度、彼の人となりを詳しく知らないのは浅い付き合い故に致し方ない事だった。

 

「じゃあ一つだけヒントをやる」

 

 そんなある意味で無垢なBに、Aはヒントと言う名の決定的な答えをカミングアウトした。

 

 

 

 

 

 

「あの人男が好きなんだ……意味は分かるな?」

 

 

 

 

 

 

<先程の放送で『きんた〇』と不適切な言葉を用いてしまいました。 公共の場で『きんた〇』と発言した事を訂正すると共に、深くお詫び申し上げます。 軽率な『きんた〇』発言、大変失礼致しました>

 

 相方の絶句で静まり返る休憩室に、テレビからの男性キャスターの度重なる不謹慎な発言だけが垂れ流しになっていた――――。

 

 




 大切な事なので3回言うニュースキャスターの鑑。
 そして個人的パワーワード第2弾『あの人男が好き』、ロクなもんがねぇやw
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