〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

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勢いもあって今回は2話連続投稿!


第12話

 時を同じくして……都市のビル群の中においてそこそこの敷地に囲まれ、ネオンとサーチライトに照らされた和風にしては色鮮やかな彩色に加え、申し訳程度の日本語の看板が掛けられているなんちゃってジャパニーズの意匠を汲んだ、一際異彩を放つ不夜城『MEGA MAC』の上空に、イレギュラーハンター所属の輸送機が迫っていた。

 

「これが『MEGA MAC』か。 コマーシャルから名前だけは知っていたが、これほどとは」

 

 飾り気のない武骨な機内の格納庫に備えられたモニターから、エックスは『MEGA MAC』を見て呟いた。 本機はエックス達を運んでいた。

 

「俺達は今からあの中華風な建物の中に潜入する訳だ。 令状無しにな」

「だね。 でもその、日本の何を知ってるって訳じゃないけど……胡散臭いね。 なんとなく」

 

 ゼロとアクセルが、何やら穏やかでない話をする。

 

<貴方達、もう一度確認するわね>

 

 映し出された『MEGA MAC』の画面横に、通信のやり取りをするエイリアの映像がポップアップされた。

 

<衛星へのアクセス履歴から割り出したのは、その施設の『社長室』……最上階から2階ほど下った階層の窓際にあるわ>

 

 映像が『MEGA MAC』の最上階と下2階分までのフロアの見取り図が表示され、衛星へのアクセスがエイリアの言う窓際の『社長室』から発信されたと表示される。

 

<施設自体もオープン間もなくて情報も少ない上に、トラブル発生からおよそ3時間も経っていない。 まともに捜査令状も出せてない状態よ>

「……分かってる、その為に俺達は今回の潜入作戦を行うんだ」

 

 エイリアの心配そうな声に、エックスは目を閉じて返事をする。

 よく見れば彼の着ているアーマーに、いつもの腰のパーツは見当たらない。 黒い下地に鋭角的なデザイン、背中からはレーダーの攪乱効果のある赤いビームマフラーの出る、かつては人工島ギガンティスにおけるミッションで用いられた潜入用アーマーを装備している。

 更に転送装置でなく、回りくどくも航空機を使用しての現地への接近を試みる理由は?

 

「最新鋭の装備の割に、バンジージャンプなんて古めかしい手段使うなんてね」

 

 アクセルは機内に置いてある、頑丈だが伸縮性のある太くて黒い合成繊維のロープに、先端を固定する為のハーネスを掴みながらぼやく。

 

「転送装置は探知されたり履歴を辿られる可能性があるからな。 意外とアナログな手段の方がかえって気づかれにくいもんだ」

 

 アクセルの疑問の答えを、元第0特殊(忍び)部隊隊長たる目線でゼロが答える。

 何を隠そう、彼らは私有地を無許可で捜査する算段を立てていたのだ。 令状を出した上で堂々と捜査する為には、証拠等をもって裁判所に申請しなければならないと言う、やや手間のかかる段取りが必要となる。

 しかしあのタイミングで管理者権限でのアクセスを目撃したエックス達は、それらを証拠隠滅の可能性があるかもしれないと踏み、非公式に潜り込む決意をしたのだ。

 無論不法侵入の後ろめたさと冤罪の可能性もある為、なるだけガサ入れの証拠を残さぬよう配慮した結果が、上空から飛び降りて直接侵入する方法なのだが――。

 

<……ねぇエックス、今ならまだ引き返せるかもしれない。 正直言って私は乗り気じゃないわ>

 

 エイリアは浮かない表情でエックスに帰投を促した。 対してエックスは黙って首を横に振る。

 

「リスクが怖いのは俺も一緒さ。 言ってみればアクセス履歴だけを根拠に忍び込む訳だから」

<そうよ、本当に管理者として確認しただけかもしれない……あまりに不確定要素が多すぎるわ>

 

 彼女が及び腰になるのも無理もない。 今回の作戦はエックス達の今までの戦いで培われたカンだけで出撃した、言ってみれば完全に見切り発車なのだから。

 これでもし何も見つからないばかりか、招かれざる客である自分達が見つかれば間違いなく大問題だ。

 しかしエックスは彼女の不安を打ち払うように、何か決心めいた態度で告げる。

 

「エイリア、帰りの便は用意しなくていい。 何かあれば責任を取るつもりだ」

<エックス……>

「今回の作戦は俺が強行した。 分かってくれエイリア」

<……それが余計心配なのよ>

 

 エックスの決意に、エイリアは聞き取りにくい小さな声で呟いた。 まるで彼の言葉に何か別の解釈があると勘ぐるかのように。

 

<降下地点到着マデ、10秒>

 

 一抹の不安を抱えながら、輸送機は降下ポイントまで接近したと言うアナウンスが流れた。

 

<……一旦通信を切るわね、無事を祈るわ>

 

 エイリアの通信切断と同時にハッチ開放の警報ランプが赤く点灯する中、3人は座席から立ち上がってそれぞれ体にロープを巻き、もう片方を機内のフックへハーネスを固定する。

 

「いよいよか、降りたら後には引けないな」

「だね。 ……確か僕達は最上階のヘリポートへ着地するんだよね」

「そうだ、気流が思いのほか乱れてるから飛び降りるタイミングが重要だ」

 

 エックスとアクセルが会話をしながらも、機体は降下ポイントに到着、後部ハッチが解放され機内に強い風が吹き込んでくる。

 

「うわっ、これ結構きついね!」

「ビル群だから風の流れが不規則なんだ! 機体を空中静止させてるだけでもきついぞ!」

 

 エックス達の目前に控えるビルの夜景、風で揺さぶられる機体に思わずエックス達は崩しそうになるバランスをこらえて見下ろした。

 聳え立つ『MEGA MAC』の上空に飛んでいるだけあって、揺れる機体から降りるタイミングによっては見当違いな場所に落下してしまいそうだ。

 

「うっひゃぁ! うっかりタイミングしくじったら温泉の方にダイブしそう!」

 

 余りに安定しない機体にぼやくアクセルに、ゼロの肩がわずかに動いた。

 

「温泉……?」

「ヘリポートの反対方向にある日本式の露天風呂だよ? 見取り図にも書いてたじゃん――――」

 

 次の瞬間、我先にゼロがダイブした。

 

「ちょっちょおおおおおおおおおおおおおッ!?」

 

 突然の出来事に思わず身を乗り出して手を差し伸べるアクセル。 それを落下を恐れたエックスが慌てて羽交い絞めにして制止する。

 

「目の前にエロがあるならルパンダイブしてでも行くと言ったッ!! 秘密の花園(女湯)があるなら俺は悩まねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」

 

 乱れる気流に翻弄されながら、なんとゼロは雄叫びを上げながら女湯めがけて真っ逆さまへと落ちていくではないか!!

 

「何してんの!? ロープの長さギリギリなのに、こんなバランス悪い時に飛び降りたら――――」

 

<警告! 機体ノ姿勢ヲ維持デキマセン!! 回避行動ニ移行シマス!!>

 

 アクセルが全てを言い終わる前に、元々気流が安定しない中ハッチまで開けた事で完全に崩れた挙動を前に、輸送機の自動操縦機能が音を上げた!

 機体の姿勢を取り戻す為に、気流の安定しない『MEGA MAC』上空から一時的に退避する。

 

「うわわわわっ!!」

「アクセルッ!?」

 

 突然の旋回にアクセル自身のバランスが崩れ、足が滑ってこけそうになった時に引っ掛けてしまった。

 

 

 そして外れてしまう。 ――――機体の移動で着地する前に伸び切ったゼロのロープのハーネスが。

 

「「ぁ……」」

 

 声を漏らすも時既に遅し。

 外れたロープを躍らせながら自由落下していくゼロを視界にとらえ――――。

 

「ぶじゃああああああああああああッ!!!!」

 

 女湯どころかすぐ近くの屋根をぶち抜いて建物の中へと吸い込まれていった。

 唖然とするエックスとアクセルの前に煙のように埃が舞い上がるが、すぐに晴れた先の落下地点に、大の字でゼロの人型の穴が開いていた。

 

「……あれ程タイミングが重要だって言ったのに」

「ゼロが落ちた所ら辺って、確か……」

 

 バレたらまずいと言った矢先に出足をくじかれ、余りにしょうもないミスを前にエックスは頭を抱え、アクセルは冷や汗をかきながら早くもゼロの落ちた場所を思い返していた。

 これだけ派手な衝撃音と叫び声を上げればすぐに人が駆けつけるだろう。 そしてアクセル達の記憶が正しければ、温泉とヘリポートの間にある屋根の下には……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛てててて……クソッタレ、やらかしちまった」

 

 破片と灰に被れながら、割れたタイルの上に横たわっていたゼロが、体の痛みをこらえながら重々しく身を起こす。 ここはどこだと思いながら周囲を見渡すと、そこには4つほどの扉が並ぶ個室に、入口と思わしき白い扉のすぐ側には鏡のついた洗面台がある。 そして個室と対面する位置の壁に、胴のあたりから下まで伸びたぐらいの長さの清潔で真っ白な小便器。

 

「男子トイレじゃねぇか、ふざけやがって……」

 

 片膝をついて起き上がりながらゼロは悪態をついた。 秘密の花園(女湯)に飛び込む筈が、男が用を足すようなむさ苦しい場所に、しかも屋根を突き破って落下してしまうとは一生の不覚だった。

 便器に突っ込んでシンクロナイズを決めずに済んだだけ不幸中の幸いと言えるが、本懐を果たせないばかりかいたずらに騒ぎの原因を作りかねない失態だ。

 とにかく早くこの場を離れよう。 ゼロは個室の扉に鍵がかかっているか目を配ったが、幸い隙間に見えるゲージは緑色……鍵はかかっていない、つまりは人がいる気配はなさそうだ。

 とは言えこれからトイレにやってくる可能性が非常に高い、身体の埃を払い窓のついた出入り口の扉に足を進めた。

 

 

 

 

 

 その時であった、覗き窓に人影が現れると同時に扉が開け放たれた。 これにはゼロも咄嗟の判断で身を翻そうとするが、ダメージが残っているのもあって反応も遅れ、隠れる間もなく入ってきた誰かと鉢合わせになった。

 

「物音がしたと思って急いでやってきたら……貴方はゼロ」

 

 ゼロは目を見開いて驚いた。 紫を基調とした細長い体に9本の派手な装飾があしらわれた尻尾、そして鳥頭の目蓋にはマスカラにカールの巻いたまつ毛が……。

 

「ク、クジャッカー……ッ!!」

 

 何とお互いにかつて対峙した事のある相手……『サイバー・クジャッカー』が目の前に立っていた。

 まずい現場を見られたと言うよりもゼロの記憶上、実体を持たない相手がどうして今目の前に? ゼロは動揺を隠せずにいた。

 

「何でお前がここに……!?」

「私はこの『MEGA MAC』の警備主任だし、カラダはおあつらえで作ってもらったのよ。 っていうかそれはこっちのセリフだわ」

 

 埃をかぶった己の全身を、舐め回すように見つめるクジャッカーの視線にゼロは不快感を催した。 彼がどう言う趣味の持ち主かは知っているだけに、ゼロは堪え切れずに一歩退いた。

 そんなクジャッカーの視線がゼロ本人でなく、後ろの地震が空けた天井の穴と割れたタイルの床を見て、彼は合点がいったようである。

 

「なるほどねぇ、天井を突き破ったから汚れてるのね? どうしてそんな所からここに来たのかは……ま、どうでもいいわ」

 

 理由はさておき、こちらを見透かすもあまり関心を見せないクジャッカーにゼロは困惑する。 するとクジャッカーは右腕を曲げてもう片手の方で弄り出すと、こう言った。

 

「こちらクジャッカー、屋上の男子トイレは異常無し……だから『来ちゃダメよ』?」

 

 一言言って、通信を切った。 自分で言うのもアレだが、目の前に不法侵入の不埒な輩がいるのに何も無いと言って、かと思えば『来るな』?

 警備担当がわざわざ侵入者を庇い立てをする理由もないし、さりとて応援を呼ばない意味も理解できない。 ちぐはぐなクジャッカーの行動にゼロは訝しげに彼を見る。

 が、疑問の答えはクジャッカー自身ががすぐに答えてくれた。

 

「ただの人払いよ。 折角のお熱い時間を今更邪魔されるのも嫌だからねぇ」

「……は?」

 

 思わずゼロの口から間抜けな声が漏れる。 今何て言った?

 ホットな時間等の言い回しは自分もアレをする時によく使う。 が、それは相手が女性だった時の場合だ。

 何だか嫌な予感がゼロの脳裏をよぎるが、クジャッカーは構わずに続けた。

 

「……この最上階のトイレはねぇ、オープンと同時に早くもワタシ達のような人種の『憩いの場』になってて、普通の男性は寄り付かないのよ……それなのにわざわざここにいるって事は、貴方……」

 

 ……正直、クジャッカーの性格や態度からある程度の察しがついていた。 もといついてしまっていたが、どうやら彼にとってゼロがこのタイミングでここにいる事を、OKサインだと受け取ったと言う訳だ。

 つまりアレだ、早い話クジャッカーはゼロとの関係を、敵同士から兄弟にハッテンさせようと考えているらしい。

 日頃おバカを自負する節さえあるゼロでも、この手の話には敏感だった。 明らかに嫌な汗をかくゼロ本人にとって望む所である筈もないが。

 

「馬鹿言うな!! 俺はたまたまその、迷い込んだんだ! アレだ、風呂場で石鹸で滑って……」

「うっかり転んだ弾みに屋根まですっ飛んだって言いたい訳? 見苦しい言い訳ね」

 

 なまじクジャッカーの考えを理解してしまっただけに焦りを隠せず、別に聞かれてもいない天井の穴の言い訳を始めてしまうゼロ。 当然軽くあしらわれる。

 これは非常にまずい、何とかして尤もらしい言い訳をするか、最悪倒してでも強引にこのトイレと言う名の発展場から脱出するか……後者ならまだクジャッカー自身が誰も寄せ付けぬよう、便宜を図ったのもあって可能性はありそうに思えた。

 苦し紛れの考えだが、相手の視線におぞましい熱がこもっていくのを感じる中、ゼロには選択の余地はなかった。

 背中のセイバーに手を伸ばそうとした時。

 

「あら嬉しいわ? まさか金色に輝くほどおっ勃てるなんて、身体は随分正直者なのね」

 

 不意にクジャッカーが口元に手を当てて驚嘆している。 視線はやや下に注がれていた。 セイバーに手を伸ばしかけた姿勢のまま下を振り向くと、何やら見慣れた白いテントが床のタイルを遮っていた。

 

 

 ――――ゼロの自前のキマシタワーだった。

 

 

 なんてことだ。 自分の意志に関係なくともビンビンになる元気な分身が、よもやこんなシチュエーションで存在感をアピールするとは。

 願うはずもない自身の『不具合』に、ゼロは慌てて弁明に入る。

 

「い、いや違う!! これは――――」

 

 が、同時にゼロの全身が硬直した。 まるで関節に至る全身を石膏で塗り固められたかのように動かなくなり、そして彼の視界に体の異常を検知する警告ウィンドウが表示される。

 そこにはゼロの股間にあるアレが誤作動を招き、首から下の機能が一時的に麻痺した為再起動に入ったとの事……どうやら原因は股間の大人のおもちゃらしかった。

 お気に召した自慢の一品が、まさか墓穴を掘る為のシャベルに早変わりするとは。 冗談じゃねぇと思わず言葉に出そうになった瞬間。

 

「でもねぇ、たかが大砲じゃ……ワタシの持ってる『エイミングレーザー』の百発百中の精度には及ばなさそうねぇ」

 

 クジャッカーの9本の尻尾も、目の色も変わった。 この目は獲物を狙う野獣の眼光――――。

 指先一本動かせずにいるゼロがその事に気づいた時、既にクジャッカーは動き出していた……!!

 

 ゼロが股間を黄金色に光らせる様に、クジャッカーもまた『自前のレーザー兵器』の照準を向ける、ゼロの尻にッ!!

 

 

 

「ワタシに勝とうなんて10年は早いわ! イクわよ♂♂」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い"え"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!!!」

 

 建物の揺れと衝撃音の後に聞こえてきた、見知らぬ誰かの叫び声が施設中にこだまする。 一度は務めを果たそうと現場に向かう素振りをするも、クジャッカーによって止められ休憩室にいたままの2人のディスクボーイ8、AとBが戦慄を隠せずにいる。

 

「な、なんて激しいんだ……噂は本当だったのか」

「言ったろ! クジャッカー主任は自分が決めた場所にいた相手を構わずに食っちまうんだ!!」

 

 必死で疑おうとしていたが、叫び声を聞いて否応なく納得させられたBに対し、それ見た事かと言わんばかりにAが捲し立てる。

 

「……俺達警備員だよな、止めに行かなくてもいいのか?」

「やめとけ!! あの人一度おっぱじめたら邪魔する奴を執拗に追いかけるんだ! 最悪俺達まで巻き込まれるぞ!!」

「じゃ、じゃあ……このままほっとけって?」

 

 Aは黙って首を縦に振った。

 

「主任が対応するから来るなと言われた。 俺達は命令を果たしてるんだ……しょうがないさ」

 

 どこか気落ちしたような口調で、Aは言い残すようにしながら休憩室の扉を開け、部屋を出て行った。 これから寮に向かうのだろう、その足取りは重く背中は心なしか頼りなくも見えた。

 我々ではどうする事も出来ない。 暗にそう言われているようで、部屋に1人残されたBもまた、諦めたような素振りでに部屋を出ていく事にした。

 

 クジャッカーに狙われた、哀れな誰か(ゼロ)に黙祷をささげながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、ゼロが落下して1分足らずで気流は安定し、エックスとアクセルは何食わぬ顔で侵入に成功した模様。

 

 




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