〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

14 / 34
第14話

 扉の隙間に入り込んだエックス達を出迎えるは、重厚な作りの立派なニス塗りの茶色い机と本革の椅子、そして背後のブラインドがかけられた窓があった。

 机の上には電気スタンドとノートパソコンと思わしき小型端末が、椅子の方を向けるように開かれて置かれていた。

 天井にはシャンデリアを模した照明がぶら下がり、右手の壁には『Private』と書かれた扉とその奥にガラス張りの本棚。

 左手には『Reception office(応接室)』と書かれた扉に、茶色い10号鉢に植えられたアレカヤシの観葉植物。

 一通りを取りそろえるこの区画は、絵に描いたような社長室であった。

 

「エックス、あれかな?」

 

 アクセルは机の上のパソコンを指差した。 エックスは無言で机に歩み寄り、回り込んでパソコンの液晶画面に身を乗り出した。

 

「アクセル、怪しいものがないか周囲を探ってみてくれ」

「OK」

 

 アクセルに辺りを探るよう指示すると、エックスはパソコンの隣にある無線マウスをつまみ、端末の操作を始めた。 空いた左手は耳元に当て、長らく通信を切っていた無線のスイッチを入れる。

 

「エイリア、社長室に到着した。 今社長の物と思わしきパソコンにアクセスしている」

<――OK。 それじゃあそのパソコンをこっちが指定した回線に接続して。 遠隔操作してみるわ> 

「了解」

 

 エックスはエイリアの指示通りにてきぱきとマウスカーソルを動かし、キーボード入力を行う。

 その間にもアクセルは部屋中をくまなく探し回るが、ふと何かに気づいたように足を止める。

 

「……何だろこれ?」

 

 アクセルは観葉植物の近くにしゃがみ込むと、壁際と植木鉢の隙間に手を突っ込んで何かを掴む。

 固くて程々の重量があるが、小柄で角に丸みのある長方形の何か。 それを目の前に手繰り寄せる。

 

「どうしたアクセル?」

「分かんない、時計か何かかな?」

 

 アクセルの取り出した長方形の箱。 赤一色で天辺に同色に塗られたスイッチのついたプラスチック製のケースに、正面と思わしき部分には黒字に白で『05:00』と数字が書かれている。

 自身のプログラム上でいつでも時間を確認できる今となっては、このような機械式の時計はいささか古めかしくも感じられたが、恐らくは部屋の主の趣味だろうとアクセルは思った。

 何の気なしにスイッチを押してみると、当たり前だが数字のカウントが始まる。 規則正しい小さな音と共に、数字が『04:59』『04:58』と1秒間隔で数字を減らしていく。

 

「これはストップウォッチみたいだね」

 

 現時刻を指すのでなく、設定した数字が00:00に向かって減っていく。 特に怪しい所はなさそうだ。

 

<エックス、アクセル、専用回線へのログインパスワードを発見したわ! 今から入力するから貴方達も確認して!>

「へ!? もうパスワード割り出せたの!?」

「流石はエイリアだ!」

 

 アクセルはストップウォッチを持ったまま、エックスと2人並んでパソコンのモニターを注視した。

 エイリアの遠隔操作によるものだろう。 独りでにカーソルが動いては、入力欄にパスワードらしき文字がうち込まれていく。 文字は基本『*』表記され、他者に画面を覗かれてもプライバシーを守る様になっているのだが、このPCの設定なのか特に伏せ字になる事はなかった。

 して、そのパスワードだが文字は3文字、2人の目にも『MIA(作戦行動中ゆくえふめい)』と表示されログインは無事承認される。

 

<さて、今からアクセス履歴の詳細を探ってみるわ> 

 

 エックスは息を呑んだ。 少々トラブルもあったがようやく事件の核心に迫る事が出来そうだ。

 社長のノートパソコンを通して更に専用の回線を経由、衛星『きんた〇』の稼働から1週間までのアクセス履歴全てが表示された。

 気象情報、交通情報、防衛衛星としての敵対的行為の感知、そして……謎の攻撃命令。

 

「あった。 今日の夕方……丁度俺達とゼロの3人で話し合っていた時間だ。 これの命令の出所を探ってくれ」

<任せて頂戴。 管理者権限のアカウントならすぐ調べられるわ>

 

 ついに解析が始まった。 アクセス履歴のすぐ隣にサブウィンドウが表示され、目にも留まらぬ勢いで通信内容の解析ログが下から上へと流される。

 エイリア達オペレーターの解析能力をもってすればものの数秒で特定できるだろう。 エックスは表示されるであろう内容を固唾をのんで見守った。

 

 時計の動く音だけが部屋に響く。 部屋の主が戻ってくるかもしれないと言う不安に駆られもしたが、不意にエイリアが話を切り出してきた。

 

<そう言えば貴方達、さっきからゼロの声が聞こえないのだけど……>

「うん!? え、ええっと……ゼロはアレだよ、ちょっと別行動をとっているんだよね、エックス」

「あ、ああ……」

 

 エイリアの唐突な質問にアクセルとエックスは言い淀む。

 流石に慎重に動くよう念を押されただけあって、まさか初っ端からトラブルを引き起こしたなどとは、流石に言いにくいものがあった。

 

<そう……屋上に温泉があったから、まさか女湯目掛けて我先にダイブしてないか心配だったのだけど――――>

「ブッ!!」

 

 ご名答。 正確には男子トイレに落っこちたのだが、しかしエックス達の預かり知らない所で『望ましくないもの』をおびき寄せてしまったのは確かだった。

 ……とにかく、ゼロのやらかしをわざわざ言うつもりはエックス達には毛頭なかった。 

 

<……まあいいわ、もうすぐ解析が終わるわよ――――>

 

 エイリアが怪訝な様子でいる間に、無事解析は終了する……しかし。

 

<――――そんな、これは!?>

 

 エイリアの不穏な呟きと共に、エックスは開示された情報を見て目を疑った。

 

 

「「解析不可能!?」」

 

 

 余りに意外な情報に思わずテーブルを両手で叩くエックス。 一緒に見ていたアクセルも含め、その表情は驚愕に目を見開いている。

 

「これは一体!? 管理者権限なのに、どうして何も分からないんだ!?」

<ごめんなさい、色々とアプローチしてみたのだけども……この攻撃命令の詳細については、管理者権限のアカウントでも調べる事は出来なかったわ>

「え、じゃあこの部屋からのアクセス履歴を感知したのは何だったの!?」

<やっぱりただの点検目的よ。 それと別にこのログの前後にも何回かに渡って、管理者権限でのアクセスログも残ってたのだけど、いずれも出所は衛星の管理局によるもので攻撃中止の命令だったわ……全て拒否されてたみたいたけど>

「まさか、誰一人状況を把握しきれていないのか!?」

 

 頭を強く殴られたような衝撃を受けるエックス。 思わず立ち眩みを起こしそうになるが、すんでの所で堪える。

 

<とにかく言えるのは、攻撃命令を出したのはここからじゃないって事ね>

「じゃあ僕達って勘違いで侵入しちゃった訳だよね……これってかなりまずくない?」

<……そうね。 悪い予感の方が当たってしまったみたいだわ>

 

 不安を隠せないアクセルに対し、ため息をつくエイリアの重々しい口調。 エックスは額を抑えて天井を仰ぎ見た。 不法侵入に器物破損、そして怪我を負わせた訳では無いが、警備員を襲うと言うリスクを冒してまで得たものは『何もわからない』と言う、あまりに割の合わない情報だった。

 完全な見当違いにエックス達は打ちひしがれる。 エイリアの言う通り思いとどまる機会はあったのだが、エニグマはっしゃからの衛星へのアクセスに、過敏に反応してしまった自身の判断を後悔した。

 

 

 

 

 

 

「全くもってその通りだ」

 

 動揺を禁じ得ないエックス達に追い打ちをかけるように、男の声と共に社長室の扉が開かれた。

 

「自社が関わった衛星をチェックするのは当然だ。 せめて声明を出すまでは待って欲しかったんだがな」

 

 思わず身構えるエックス達の前に、1人の男が堂々とした口調で部屋に入ってくる。

 全身を紫のアーマーに身を包み、銀色で横一線に細く穴の上に赤いセンサー付きのバイザーを被るレプリロイドが、呆れたような声で後ろ手で扉を閉めた。

 

「マック!?」

 

<えっ!? ちょっと貴方達、まさか見つかったの!?>

 

 通信の向こう側で驚愕するエイリアをよそに、エックスは目の前に現れたレプリロイドの名前を叫ぶ。 エックスにとってその男は顔見知りだったようだ。

 

「ふん、ゲートも壊れて警備員もいない。 衛星誤射の件でイレギュラーハンターの差し金かと思って社長室に来てみれば、案の定お前達だった訳だ」

 

 色々と準備が足りなかったのは確かだが、現場を見られずさっさと逃げる算段だっただけに、こちらの狙いを読まれてさっさと社長室に誰かが戻ってくるのは計算外だった。

 驚きを隠せずにいるエックスに、マックと呼ばれた彼は見るからに不機嫌そうに鼻息を荒げた。

 

「知り合いなのエックス?」

「かつてドッペルタウンに派遣されていた元ハンターだ。 ……戦った事もある」 

 

 マックから視線を移す事無くアクセルの質問に答える。 2人は顔見知りだった。

 エックスの言う通り彼もまたイレギュラーハンターだったが、かつてドップラー博士がケツアゴイレギュラーに操られて騒乱を起こした際、ドップラーぐんだんのいちいんとして寝返った事があった。

 尤も実際に戦ったのはゼロで、おまけに出合い頭で瞬殺されてしまったのだが。

 

「それよりも、何故君がここに?」

 

 当たり前のように生きているマックにエックスは尋ねてみた。 むしろそのセリフは、不法侵入者であるエックスにこそ言われるべき台詞なのだが、つい聞かずにはいられなかった。

 狼狽えるエックスに対し、マックは胸を張り余裕の笑みを浮かべて言った。

 

「いた所でおかしくはないだろう。 俺はMACエンジニアリングの社長なんだからな」

「ブッ!!」

「何だ知らなかったのか? 自慢じゃないが、この施設(MEGA MAC)とマック社長の名は有名になったと思ってたんだがな」

 

 自嘲気味に呟くマック。 しかし『MAC(マック)エンジニアリング』――――自社に自分の名前を冠するのはよくある話だが、まさか由来が彼の名前だったとは。

 会社経営と言う意外な才能があったと言う事実に、別に面白可笑しく感じた訳ではないが、不意にエックスは吹き出してしまった。

 

 

「さて……ゲートを壊して警備員を気絶させ、不法侵入の上に人のパソコンを勝手に覗き見た訳だが――」

「ッ!!」

 

 ついでに言えば、ゼロによりトイレの屋根を破壊した件もあるが。

 マックは腕を組み、指で二の腕を叩きながら重々しい声でこちらを責める様に語り掛ける。 当然の話ではあるが。

 バイザーの下の目つきを窺い知る術はない、が……明らかにこちらを睨みつけるような表情のマックにエックスは総毛立つ。 考えるまでも無く状況は非常にまずい。

 

 それだけに、彼の口から飛び出した言葉にエックス達は驚き呆れる事になる。

 

「何だったら、見逃してやる事もやぶさかじゃないが?」

「「へっ?」」

 

 温情と言うよりか、余りにこちらにとって大甘な提案にエックス達は耳を疑った。 令状もロクに取れていない強制捜査など、それだけで大問題だと言うのに何故?

 

「ビッグプロジェクトとして参加した衛星が不具合を起こした件で、強制捜査の上に社運をかけて作り上げた『MEGA MAC』のセキュリティまで突破されたと知れたら、うちの信用に傷がつきかけないもんでね。 NASDAQ(ナスダック)への上場目前って時にケチがつくと困る。 俺としても今回の件については無かった事にしてもらいたいが、どうだ?」

「……どうするのエックス?」

 

 一応、マック側にもそれなりの理由はあっての事のようだ。 相手側からの提案にアクセルはエックスに視線をやる。

 エックスの考えを聞かれてはいるが、とは言え既に詰んでいるこの状況では選択の余地はない。

 

<言いにくいけど、ここはもう素直に従うしかないわ……現場を見られた以上言い訳のしようがないもの>

 

 元々乗り気でなかったと言うだけあって、先程から沈黙を守っていたエイリアも重々しく口を開く。

 必然的にエックスは苦渋の決断を迫られる羽目になった。

  

「……分かった、そうさせてもらう」

「話が早くて助かる。 2度と我々を疑わないでくれ」

 

 エックス達は観念すると、マックは満足したかのように不敵に笑いながら腕をかざして無線を繋ぐ。 無かった事にするとは言っているが、一代でのし上がったしたたかな男が、他人のやらかしをおいそれと見逃すとは考えられない。

 

「私だ。 客人が社長室からお帰りだ、丁重に出口までお送りしろ」

<……よろしいんですか?>

「構わん。 彼らとは今後とも長い付き合いになるかもしれないしな」

 

 エックスの考えを見透かしたように、こちらに目線を送るマック。

 

「……しまったな。 完全に勇み足だったか」

「あっちゃー……もうこの会社に対しては強く出られないよね」

<やっぱり、動くのは出方を待ってからでも良かったわね……>

 

 弱みを握られた、とエックス達も悟ったのか……げんなりとした様子で、ただ成り行きに身を任せるしかできなかった。 2人は沈黙し、アクセルのもつ時計の小さな音だけが無情に鳴り響く。

 

「む? お前の持ってるそれは俺のラーメンタイマーじゃないか」

 

 そんな中、アクセルの持つ時計に気が付いたマックが、それは自分の持ち物だと言い出した。

 

「机の上に置いていた物だ。 さっきのエニグマはっしゃで落っことしたと思ったんだが、返してもらおう」

「あ、う……うん」

 

 マックの差し出した手に、アクセルは顔色を窺うように時計を返そうとする。

 彼がラーメンタイマーと呼んだストップウォッチのカウントは未だに続いており、本来の持ち主の手に渡ろうとした時、時計の表示は丁度『02:00』を指し示した。

 

 

 

 そして更なる事件が起こる。

 

 

 

 アクセルが返そうとした時計がマックの手に渡る事は無かった。 何故なら――――。

 

「「「ッ!!」」」

 

 突如社長室を襲った謎の大揺れにより、3人は姿勢を乱してアクセルは時計を落としてしまったからだ。

 

「今度は何だ!? 監視室、どうなっている!?」

 

 揺れは収まらない中、マックまでもが狼狽えた様に監視室に指示を飛ばした。  部屋にあった本棚や観葉植物が倒れ込み、部屋の外からは客と思わしき悲鳴がドア越しに聞こえてくる。

 彼らをしてバランスを保っていられないこの揺れは、施設全体を揺らすレベルだ。

 

「監視室!? 聞こえているのか!? 返事をしろッ!!」

 

 声を荒げながら何度も監視室に連絡を取ろうとするマック。 しかし施設が振動に晒される中、相手からの通信は繋がらない。

 

<ちょっ、エックス!? 今何が起きてるの!?>

「俺にもわからない!! 急に建物全体が揺れ始めて――」

 

 現場に居ながらでも状況を把握しかねているのに対し、通信越しではなおの事。 エックスとアクセル、そして無線機の向こうのエイリアも慌てふためくその時であった。

 

 

 マックの頭上の天井が壊れ、重々しい大量の瓦礫が彼に降り注いだのは。

 

「ぐはぁッ!!」

 

「うわッ!!」

 

 悲鳴を上げ、天井のパネルにシャンデリアの照明と鉄筋コンクリートの瓦礫の下敷きになるマック。 これには思わずエックスとアクセルも仰け反り顔を腕で庇う。

 部屋中に埃が舞い上がり視界が遮られる中、エックスは腕の隙間から辛うじて見える土埃の中を伺った。

 

「はぁ……はぁ……危ねぇ所だった、もう少しでクジャッカーの奴にやられる寸前だったぜ」

 

 するとどうだろうか。 懐かしいシルエットと共に聞き覚えのある男の声が、マックの居たあたりから聞こえてくる。 鋭角的な輪郭に長い髪、腕と思わしき辺りに見えるは長細い緑の光。

 埃が地面に落ち、ゆっくりと視界が元通り見えるようになると、その男の姿が明らかになった。

 

 いや、姿がはっきりと見えずともエックス達にとってはそれが誰かはわかり切っていた。

 

 

 

「「ゼロッ!!」」

 

 

 

 




 正直我ながら強引な展開が続いたけど、ようやくゼロと合流……やっぱ話を盛り上げる為の起爆剤と言うか、今回のエピソードの主人公は間違いなくゼロだなと思ったw
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。