〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2 作:Easatoshi
「ゲッ!! エ、エックス……」
彼ら2人の声に気づくなり、ゼロ自身も屋根をぶち破って落下した事に思う所があったのか、さながらまずい相手と遭遇したかのように引き気味であった。
一方でエックス達は目の前に突如降って来たゼロの事を、とにかく呆然としたように出迎えていた。
施設が揺れる中、エックス達はしばしの間沈黙を守る。
「お、おいお前ら……何か言ってくれ。 黙り込まれると怖いぞ」
ゼロは兎に角やらかしに対する制裁が飛んでくるのかと身構えていたが、目を丸くして何もしてこないエックス達が逆に恐ろしく感じているようだった。
不安げになるゼロに対し、エックスはただ黙り込みながらもゼロに対して、人指し指を突き出しては下に向ける。
足元を見ろ、そう言いたげに指を何度も下に振ってはジェスチャーを送り、ようやく気付いたゼロが恐る恐る足元に首を向けた。
「ぐ、ぐえぇ……」
そこには変わらず下敷きになってノびたマックが、舌を出しながら苦し気にうめき声を上げていた。
「マック!? 何でお前こんな所で寝そべってんだ!?」
「お、お前が……潰したんだろ……うげぇ……」
辛うじて意識を失わずに済んだマックの上を、気を遣ったのかどうかはさておいて、ゼロが慌てたように飛び退いた。
瓦礫の山に埋もれるマックにとって、レプリロイド一人分の重量が減った所で今更大した違いはないが。
見るからに窮屈で今にも気を失いそうなか細い声で言葉を続けるマック。
「それよりこの揺れは……まさか……お前らの差し金……か……!?」
「……何の事だ? 俺にはさっぱり分からねぇぞ」
「しらばっくれるな……さてはお前ら……万が一見つかった時を考えて……証拠を隠滅するつもりだったのか……俺のラーメンタイマーを目安に……5分と見せかけて――――」
意識が朦朧としているのもあるのだろうが、エックス達にしてみれば全く心当たりのない仮説で疑ってかかるマックだったが、当のゼロは何を言われてるのか分かってない様子で首を傾げるばかり。
そんな中、ゼロが開けた穴の縁から大きな破片が零れ落ち――――
「ぐはっ!! ……ガクリ」
――――ダメ押しと言わんばかりに、ギリギリ下敷きになった瓦礫の隙間から出ていたマックの頭部に見事命中!
ワザとらしい気絶のリアクションを取りながら、今度こそ失神した。
「訳が分からん。 俺はクジャッカー倒して逃げてきただけだぜ? っていうかさっきから何でこの建物揺れてやがる?」
「……クジャッカー?」
困惑するゼロの言葉に、茫然としていたエックスがふと我に返ると、遅れてやって来たエイユウに物を言いたげに粘りつくような視線を送る。
「ゼロ、君が落っこちたあのトイレで何があった?」
「う!? い、いやまああれだ……どういう訳かクジャッカーの奴と出くわして、その……アレだ。 あいつは花を摘みにやって来たそうなんだが――」
「……まさか薔薇が咲くような事してたとか言わないよな? いや、菊か?」
「どっちも咲いとらんわッ!! 俺はノンケだッ!!」
何やら良からぬ想像をするエックスに、ゼロが断固として異議を申し立てる。
<……えっ? ゼロがトイレに落っこちたってどういう事かしら?>
状況について行けず黙りこくっていたエイリアが、合流したゼロに対して疑問の声を上げる。
少なくとも先程のやり取りでは、エイリアの中ではゼロは女湯に率先して落っこちたものだと思っていたようだが。
この状況でこれ以上隠し事をするまでも無いと判断したエックスは、遂に彼女に対して本当の事を打ち明ける決意をした。
「エイリアには黙ってて悪かった。 ゼロはその、先陣切って勇敢に飛びおりて、降りた先に出くわしたサイバー・クジャッカーをごまかす為に、話題にも尻にも花を咲かせてまで注意を反らしてくれたんだ」
「ある事ない事言ってんじゃねぇエックス!!」
誇張表現を多分に含んではいたが。
<ああ、そういう話だったのね。 ごめんなさい、聞くべきじゃなかったわ>
「だから違うっつってんだろ!! いい加減にしろッ!!」
事実無根の内容だが、勝手に納得するエイリアにも噛みつくゼロ。
早速いぢられ役にハマる彼の姿を、アクセルは生暖かい目で見ながら呟いた。
「やっぱりこうなるんだよなぁ……」
未だ揺れが収まらない緊迫した状態と裏腹に、赤いハンターが戻って来ただけで何とも緊張感のないこの体たらく。
ある意味で安心感のあるやり取りに、アクセルは乾いた笑いを浮かべていた。
そんな時であった。 辛うじて机の上から滑り落ちずにいる内線の受話器から突然着信音が鳴り出した。
3人は我に返った様に机を振り返ると、エックスが受話器をとりスピーカーホンのスイッチを押した。
<社長、最上階を見回っているKB11です!! 緊急事態ですッ!! 早くこの建物から脱出してください!!>
声の主は警備員だったが、なにやら切羽詰まった声で必死に呼びかけているようだった。
<クジャッカー主任が見回りに行った男子トイレから出火して、隣のボイラー室に火の手が回ってたんですッ!! 主任も黒焦げで発見されました!! 火災報知機もスプリンクラーも、トイレの天井に穴が開いてたせいで――――うわあああああああッ!!!!>
悲鳴の背後で爆発音のようなものが聞こえ、そこで一切の通話が聞こえなくなってしまった。
「トイレの火事がボイラー室に? ひょっとしてこの揺れって……!!」
アクセルが不安げにエックスを見る。 意識をしだしたからか、あるいは既にこの階まで火の手が回って来たからなのか、部屋の中に熱気を感じ始める一方でエックスは至って冷静にゼロに問いかける。
「ゼロ。 クジャッカーを倒したって言ってたけど、どうやって倒したんだ?」
「ああ、普通に『弱点をついて倒した』んだが――――」
そこまで言いかけて3人は真顔になった。 直前までトイレにいたゼロのみならず、エックスとアクセルも何か重大な事実に気付いた様に、一斉に沈黙する。
<ねぇ貴方達……とりあえずだけど>
再度黙り込む3人に対し、エイリアが間を割る様に話を切り出した。
<話は後にして今は脱出しないかしら?>
彼女の提案に、ハンター達は無言で首を縦に振った。
「はぁ……はぁ……ひ、ひとまずは大丈夫か」
「本当にヤバかったよ……」
「もう少しでまた黒ゼロになっちまう所だったぜ」
エイリアの誘導もあって、エックス達は間一髪炎に包まれる『MEGA MAC』から駐車場へと脱出できた。
大勢の避難者と共に無残に崩落する廊下を掻い潜り、エレベーターは使えず必死で階層を駆け下りたのは流石に堪えたか、燈色の逆光を背に膝をついて呼吸を整えている。
<ひどい目にあったみたいだけど……とりあえず無事みたいね>
「ああ、なんとか」
「まさかトイレの隣がボイラー室だったとはな」
「とにかく僕達避難は出来たけど――――」
エイリアからの無線に答えながら、額の汗をぬぐい背後を振り返るアクセル。
不夜城『MEGA MAC』はこれまでにない明るさと存在感、そして熱気を放っていた。
あれだけ異彩を放っていた建物の色彩と七色のネオンは、建物を焼き尽くす紅蓮の炎の光に霞み、全てが赤々とした光と立ち上る煙に包まれていた。
トイレ横のボイラーへの引火、そして通風口を逆流する爆熱によって一気に施設のほとんどを駆け巡り、和風の城を彷彿とさせる建物は瞬く間に焼け落ちていく。
それはさながら日本にある諸行無常の言葉通り、マックの会社を盤石なものにする筈であった稼ぎ頭を、いとも簡単に無慈悲に夜の闇へと葬り去っていった。
やがて通報を聞きつけた消防隊が、悲観に暮れる避難者たちを介抱しつつも掻き分けて、懸命に消火活動に取り組もうとするも、文字通り骨組みまで全焼しかかっている今となっては全てが遅かった。
<マック社長には気の毒な事をしてしまったわ……>
「だね……社運を賭けたスパ施設を全焼させるなんて、僕達もマックとか言う人も明日からどうすれ……ば……?」
とばっちりから全てを失った余りに可哀想なマックに思いを馳せた時、ふとアクセルは周囲を見渡した。 自分達が招いた出来事を考えたら、まず連れ出さなければならない例の人物が見当たらない。
「あれ? エックス……マックは……?」
「あっ。 ゼロ、マックは連れてきたか?」
「いや、てっきりお前が連れてきたとばかり思ってたが?」
灼熱の火災現場を目の当たりしながらも、3人の表情は一斉に凍り付いた。 言葉を失って固まる中エイリアが問いかける。
<まさか貴方達、あの『MEGA MAC』の中に置き去りに……?>
彼女の言葉にエックス達は思い出す。 彼らの記憶にあるマックの最後の姿は、ゼロの崩した天井の下敷きになった姿だ。 脱出する際必死だった為我先に逃げ出し、誰もマックを引っ張り出した者はいない。
3人ともぎこちない動きで社長室のあった階層辺りに目線をやる。
――ほぼ同時だった。 燃え盛る炎に支柱を焼かれ、屋上から中層辺りまでが火の粉を散らして一気に崩落したのは。
あの辺りは社長室があったフロアだ。 炎にまかれただけでも危ういのに、更に降り注いだであろう焼け落ちる建材のフルコース。 最早彼の命運は尽きたとみて間違いないだろう。 皆が言葉を失う中、ゼロが咳払いをする。
「ゴホンッ。 つまりアレだ……」
歯切れが悪いが、ゼロは目線を泳がせながら次の言葉をひねり出す。
「火遊びも限度を弁えなければ火傷をすると言う事だな! まあマックも運がなかった」
「何他人事みたいに言ってんの!? 火傷どころか火葬しちゃったじゃない!!」
まるでマックの落ち度だと言わんばかりの物言いに、アクセルが食って掛かった。
怒りを露にするアクセルの背後から、エックスが彼の肩にそっと手を置いた。
「落ち着いてくれアクセル。 ゼロの言う通りこれは不運な事故だ」
「ファッ!?」
窘めるのかと思いきや、エックスの口から出たのはゼロの言い分を肯定する余りに意外な言葉だった。
驚愕し一瞬硬直するも、しどろもどろになりながらもエックスに聞き返すアクセル。
「ゼロが落ちたトイレで暴れて出火して、全部丸焼けになったんだよ……? もう状況考えたら言い逃れできないんじゃ」
「ああ、全て焼けたよ……俺達が侵入した痕跡も」
そこまでエックスが言って、アクセルは彼らの真意に気が付いてしまった。 唖然とするアクセルをよそにエックスとゼロは続ける。
「マッチポンプだと思うなよアクセル! なんたって文字通り火消しには参加していないからな!」
「火災に気づいたのは火の手が回って手遅れになってから……つまり、俺達は巻き込まれた側だ! 何も知らない!」
「100点満点な詭弁はいいからッ!! ……ねぇ!! エイリアも何か言ってよ!! エックス達完璧にすっとぼけるつもりだよ!?」
<え!? えー……えっと……>
崩れ行く『MEGA MAC』を前に、懸命な消火活動であがき続ける消防士達を背景に、ゼロとエックスは腹立たしいぐらい胸を張って白を切っていた。
無論納得のいかないアクセルはエイリアに助力を求めるが、しかしエイリアもまた歯切れの悪い言葉を返していた。
言い淀むような彼女の声に、無線越しにもエイリアが返事に困っている様子がはっきりと伝わってくる。
――が、しばしの沈黙の後にエイリアは口を開き、アクセルに告げた。
彼女もまた、妥協を知る『大人』であったと。 ありがたいエイリアの説教を聞くと、エックスとゼロは互いに顔を見合わせた。
「行こうゼロ、落ち込んだ人達を励まさないと!」
「ああ! こういう時は下ネタでも振って元気づけてやろうぜ!」
エックス達は実に使命感に満ち溢れた凛とした表情で、焼け出されて悲観に暮れる避難者たちの元へ走っていった。
はっきりと事故で片づけた彼ら3人に対し、1人残され唇を震わせるアクセルは焼け落ちる『MEGA MAC』を見据えると、煙立ち昇る夜空を見上げ腹の底から叫んだ。
慟哭の様なアクセルの叫びは、赤に染まる闇夜さえも切り裂き……やがて溶けて消えていった。
余談だが、クジャッカーの弱点は炎を纏ったセイバーで斬り上げる『