〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2 作:Easatoshi
……16話投下します!!(白目)
第16話
『MEGA MAC』全焼から3日 MACエンジニアリング上場取り止めに
某月某日 AM7:14:22配信
人工衛星『きんた〇』のレーザー兵器誤射に加え、日本風の総合娯楽施設『MEGA MAC』の全焼が立て続けに起きてから3日目の今日。
管理会社であるMACエンジニアリング(以下MACと省略)の安全面に対する企業倫理への懸念から、NASD(全米証券業協会)は同社の上場申請を却下。
これを受けフェイルズ・ウェーゴをはじめ、大手金融が軒並み融資の取り止めからの資金引き上げに乗り出し、高まる倒産のリスクからIPO(新規公開株)として上場される予定だった分を含む、全ての株式が紙クズと化す可能性が浮上した。
MACの最大株主のヨークシャー・ハイウェイ社によると、総資産中2割にあたる株式を保有している為、このままMACの経営が傾いた場合過去最大規模の特損が生じると試算しており、同社のCEO、バーレーン・ウォフェット氏は「死ね」とコメントしている。
なお、ウォフェット氏の発言を発端に、無関係であるファーストフードチェーン、マックドメルド社の株価が3割近く下落する風評被害も発生した模様。(ジャールストレート・ウォーナル)
アメリカが西海岸に浮かぶ7.63ヘクタールある島の敷地を丸々使った『アブハチトラズ』なる刑務所がある。
古くはアルカトラズ刑務所とも呼ばれ、一時期は一般公開もされていたこの施設だが、今は増加するイレギュラーを収監する為の連邦刑務所として、見た目こそ変わらないが中身は現代風に再設計され、再び本来の目的を果たしていた。
そんな刑務所内の休憩時間中、敷地の中にある広場では人とレプリロイドの入り混じった囚人達が、数少ない休み時間を満喫しようとベースボールを楽しんで体を動かしたり、または壁面にかけられた巨大なテレビモニターでニュースを見ているものもいた。
<この数か月間、半年前に稼働し始めた人工衛星『きんた〇』の開発に関わった科学者達が、次々と誘拐され――あるいは何度もされかける危機に遭遇しています。 これは何かの陰謀なのでしょうか? イレギュラーハンター本部はこの件について捜査を進めており――――>
穏やかでない報道内容を、笑いながらかあるいは冷めた目で見るか……番組を眺める視線は様々であった。
して、各々が自分なりの休憩時間を過ごす中、広場の端にある木陰の下のベンチにて、一人のレプリロイドが寝そべりながらスマートフォンをかけていた。
安全帽を被るずんぐりとした体格からディグレイバー型である事が分かるが、首には反乱鎮圧用の電気ショックが内蔵された首輪をつけられている。
彼は囚人であるのだが、当たり前のように刑務所内の敷地で何やら連絡を取り合っているが――――。
「何ィ!? また相方が捕まっただぁ!?」
怒鳴り声と共に飛び上がる様に身を起こし、早口で電話の向こう側の相手を捲し立て始めた。
「アホッタレ! 何ドジ踏んでやがる!! パクられたの何人目になると思ってんだ!!」
彼の大声に、周りで休憩時間を満喫していたならず者が動きを止めてこちらを見る。 が、そんな野次馬を一睨みするとそそくさと一斉に目線を反らし気に留めないふりをした。
僅かに間が開いたが、気を取り直し電話に戻ると無慈悲にこう告げた。
「これで捕まった奴がクライアントの情報までゲロったら、俺達は裏社会の爪弾きモンだ! 洗いざらい吐かされる前に始末しろ!! 助けられるなんて思うんじゃねぇぞ! いいな!?」
何やら穏やかでない無理難題を吹っ掛けながら、男は電話を一方的に切ると近くにいた適当な連中を呼び止める。
「とっとと持っていけ!」
乱暴にスマートホンを投げつけると、キャッチし損ねそうになった一人の囚人が、端末を手の中で躍らせながら時折こちらを振り返りつつも慌てて去っていく。
それを見た男は悪態をついて再び寝そべった。
「やってられるか……あのクソ忌々しい衛星が出来てからこっちは商売上がったりだぜ」
男は青々とした空を見上げながら、その遥か先にある衛星を憎々しげに呟いた。
そう、稼働から今日で半年を迎える『きんた〇』を。
さる事件でこの刑務所に投獄されてから1年……娑婆にいた頃から多数の舎弟や人脈を抱えていた男は、檻の中に入ってからごくわずかな期間で、他の囚人や一部の看守の人心までも掌握し君臨していた。
今となっては彼はここのルールそのものであり、看守の黙認の元で入手した連絡手段を用いて、外にいる残りの部下とこの刑務所内を操っては、いずれ迎える出所と同時に裏社会に返り咲く為の準備を着々と進めていた。
しかし逮捕の日から半年後、彼のプランを遅らせる思わぬ誤算が生じる。 人工衛星『きんた〇』の稼働である。
変な名前を付けられて発狂した開発者が公の場で露出し、1週間後にはレーザー兵器を誤射するなど滑り出しは最悪であったが、それから更に半年の今に至るまでは目立ったエラーもなく、むしろ着々とアップデートを繰り返してはその多大なる恩恵を社会にもたらしていた。
特に喜ばれたのはイレギュラーの監視による治安の向上。 同時に複数の犯罪者を便所に隠れても補足し続ける、その鋭い観察能力はイレギュラーハンター達の業務を大いに助け、一方で我らが犯罪者共にとっては目の上のタンコブとなっていた。
現に今回も、懇意にしている『さる組織』から下請けした科学者の誘拐をまんまと見抜かれ、グループは一部を残して逮捕され、当のターゲットを奪還されるという情けない結果を残してしまった。
こうも次から次へと部下を押さえられていたのでは、娑婆に戻る頃には彼の人脈は空中分解必須だ。
「チッ……ナニみてぇな形と変な名前しやがって、タンコブってかタマだな!」
刑務所内のテレビで見た衛星の形を思い返しながら、我が道を阻む憎たらしい衛星への皮肉をごちる。
とは言え日陰者の自分に、空の向こう側にいる相手に対して天に唾吐く事もできやしない。 ひとまずは気を落ち着けようと横に寝そべろうとした。
そんな時、向こうの囚人達の間からどよめく声が上がる。 何事かと思って首をそちらに向けてみれば、囚人達が道を開けるようにそそくさと身を引き、出来た間を複数の看守レプリロイド達が警棒をもってこちらに歩いてきた。
やってきた看守のグループは『こちら側』の息がかかっていない相手だった。 反抗される可能性を考慮しての対策なのかいずれも銃火器を手にしており、面倒くさい奴らだとぼやきたくなるが、逆らっても余計にややこしくなるので従順に話を聞くフリをした。
看守の1人が目の前に立ち止まると、男を見下ろすような形で告げる。
「369番、尋問だ。 ついてこい」
呼ばれた番号は自分の囚人番号だ。
「分かったよ」
言う事を聞くもわざとらしく嫌そうに立ち上がるが、意に介していないのか看守達は淡々とした様子で男の前後を挟み、広場を抜けて面会場のある建物に歩かされる。
所有する隠し口座からのワイロでここの大半の連中には美味しい思いをさせているが、今取り囲んでいる連中みたく誘いに乗らないグループも確かに存在し、自分の息のかかった手合いをけしかけても脅しには屈する様子はない。
融通の利かない真面目君達を鬱陶しく感じながら男は思った。
「(俺にはキンコーソーダーって名前があるんだよ! クソッタレが!)」
番号でしか呼ばれない扱いに、裏社会でのし上がる事を夢見るディグレイバーの男……キンコーソーダーはひどく不満げだった。
して、看守につれられるままに狭い通路を歩かされ、やっとたどり着いた取調室の扉を守っていた守衛が開くと、促されながら中に入った。
そしてキンコーソーダーは内心驚きの声を上げる。
「やあ、キンコーソーダー……さんだっけ? 1年ぶりだね」
左の壁には電通によって透過率を変えられる強化ガラス……今は向こう側が見えない、部屋の中央に設置された簡素なテーブルと対面に設置されたパイプ椅子。 テーブルの上にはA4サイズの封筒が置かれている。
向こう側に座るは、黒いアーマーに後頭部から出るオレンジの癖っ毛、眉間を中心に×文字の傷を持つ少年型レプリロイド。
目を細めて不敵に笑う彼とキンコーソーダー、互いに面識のある相手だった。 それもその筈である、自分を拘束・逮捕されるきっかけを作ったイレギュラーハンターの1人なのだから。
「……お前は」
「あの時名乗ってなくてごめんね? 僕はアクセルって言うんだ。 ま、積もる話は後にして……そこに座んなよ」
忌々しげにキンコーソーダーが言いかける前に少年……アクセルは名を名乗る。
こちらが何を考えていようとも知った事でない、そんな飄々とした様子であり、アクセルはキンコーソーダーに着席を求めた。
記憶の中で見たアクセルと言えば、キンコーソーダーにとって絶対に忘れられない光景を焼き付けたあの『青い人』の姿も隣にあったはずだが、座ろうとする前につい見える筈のない窓の向こうに目をやってしまう。
「何そんなにビビってるか知らないけど、別にあんたを始末しに来た訳じゃないよ。 そんな事よりこっちは聞きたい事があるんだから……早くして」
目先の子供でない『アイツ』の存在につい挙動不審になる自身に対し、机に肘をついては頬に手を当てるアクセルの、心底つまらなさそうなものを見るような冷めた目線。
何に対してかまで悟られてはいないが、しかしこちらの不安だけは見透かした視線が嫌らしく感じた。
「(生意気なガキだ)」
キンコーソーダーは内心毒づいた。 こんな子供の言う事を素直に聞くのも、札付きで通っていた身としては脅しに屈したようで癪だが、彼もまた実力あるイレギュラーハンターだと分かっている以上、下手に抵抗もできない。
彼にできる事と言えば精いっぱい虚勢を張り、さもふてぶてしそうな態度を装って椅子に腰かける事ぐらいだった。
「……じゃ、単刀直入に聞くよ」
涙ぐましいキンコーソーダーの努力には目もくれず、アクセルは全く動じる事無くさっさと話を切り出した。
「アンタ、最近『ヤァヌス』って連中の下請けやってるんだってね」
「なっ……!?」
アクセルが口にした単語を聞いて、キンコーソーダーは激しく動揺した。
「(あのクソッタレ共!! やっぱり喋ってやがったのか!!)」
肩を震わせ、全身が沸騰するような怒りを覚えるキンコーソーダー。
アクセルの口にした『ヤァヌス』と言うのは、確かに彼の言う通り連中……要は組織だった何者かの名前だった。
ここ数か月で突如頭角を現してきたグループのようで、キンコーソーダー自身彼らの身の上の事はよく知らずにいた。
何せ組織の構成員から規模まで全て不明、連絡手段もその辺の使い走りを動かす時もあれば、特定困難なインターネット回線を用いたりなど手段は事欠かず。
徹底した秘密主義を貫き、分かっている事と言えば限って忌々しい『きんた〇』の開発に関わった科学者達の誘拐を依頼してくる事ぐらいのものである。
件の衛星には仕事の恨みがあったのと、何より彼らは金払いは良く約束は守るので、優良なクライアントとして持ちつ持たれつで行こうと、正体にはあえて触れず口外もしないよう部下達にも徹底させていたのだが――――。
「ああ、言っとくけど以前にアンタがけしかけた部下だけじゃないよ? 中にはアンタとは関係のないグループの連中もいて、洗いざらい吐かせたら皆してその単語を口にするんだよ……何かの犯罪組織だよね? こぞって科学者の誘拐ばっかりやってるみたいじゃない」
そう言いながら、アクセルはテーブルの封筒を手に取って開き、中に入っていた書類を写真共々並べていく。
写真に写る人物の姿には見覚えがあった。 もちろん彼が『ヤァヌス』の依頼の元で部下に誘拐させた、あるいはさせようとした科学者ばかりであった。
表向きには最近ワイドショーを騒がせている謎の連続誘拐事件の被害者達なのだが、この場でそういった写真を出してきたと言う事は、記憶にない他の人物もよそのグループにやらせたと言うだけで、依頼者の線で遡っていけばほぼ同じ組織にたどり着くのだろう。
無論『ほぼ』と言うのは、事態に便乗した模倣犯も紛れ込んでいるだろうと言う話なのだが。
「依頼を承ったのアンタだから分かるでしょ? それとこの人……」
広げた科学者達の写真の数々の中から、一人の髭の生えた蛍型レプリロイドの写真を取り出して見せつけてきた。
「シャイニング・ホタルニクス……あの衛星の開発主任。 このじいさんも誘拐されているんだよ」
赤いボディにご立派な髭を持つ老人……もとい老蛍の科学者。 衛星の完成披露会にて露出した『きんた〇』の開発主任者だ。
しかしこの男の誘拐については自分の与り知らない範疇だ。 今しがたアクセルの言ったように、他の手合いに外注した仕事による被害者だろうとあたりをつける。
「……俺は何も知らねぇよ。 このじじいの事も『ヤァヌス』とか言う組織の事もな」
キンコーソーダーは素直に答えた。 黙秘すると言う訳でもなく本当に何も知らないのだ……そもそもが答えられる筈もない。
だがアクセルも、キンコーソーダーの発言を特に気にした様子もなく話を続けた。
「だろうね。 他の連中も知らないって言ってたし、万が一に備えて秘密主義を貫いてるのは大体わかるよ……でもアンタは相手の正体を知らなくても、向こうからはそれなりに信用されてるみたいだね。 少々の失敗があっても仕事のやり取りできるぐらいには」
向こうの正体についての情報よりも、今でも少なからずやり取りがあるかと言う事を尋ねてくる。 つまり、アクセルは自分に情報を吐かせると言うよりは……。
「何が望みだ?」
要は司法取引だ、キンコーソーダーは相手の要求は別の所にあると踏んだ。 アクセルはそれを聞いてさも満足そうに笑う。
「流石だね、話が早いや……あんたのコネを使って、僕達イレギュラーハンターと『ヤァヌス』とかいう連中と会う切っ掛けを作って欲しいんだ」
「……敵対する相手同士を引き合わせろってのか? 下手すりゃ重大な裏切りだぞ、分かってんだろうな?」
図々しいとも感じるアクセルの要求に苛立つキンコーソーダー。 こちらにしてみれば上客に対し、宜しくない相手を紹介するように働きかけろと言われているのだから当然だ。
苛立ちを隠せずにいるこちらに対し、アクセルの方はと言うと特に気にする様子はない。 まずますもって癇に障る相手だとキンコーソーダーは感じた。
「見返りの話? 勿論タダとは言わないよ――――うん?」
そこまで言いかけた辺りで、アクセルが何かに気づいたように話を止め、側頭部に手を当ててここにいない誰かと会話し始めた。 無線のやり取りでもしているのだろうか。
キンコーソーダーがアクセルの仕草を読み取ろうとしている時、不意にアクセルが何かに驚愕したように目を見開いた。
何度かこちらに目線をやると、数回うなずいた後に途中で止めた話の続きをする。 たどたどしい口調で。
「……えっとそうだね、とりあえず大人しく満期まで刑に服せば命だけは助かるってのはどう?」
「おいガキ! 大人を舐めてんじゃねぇぞ!」
懇意にしている組織への裏切りにも繋がりかねない引き合わせを求めてくる割に、リターンと言えば『命だけは助ける』と言う上から目線。
要するにタダ働きをしろと言うアクセルの言い分に、流石にキンコーソーダーも激高する。
怒り肩で立ち上がると同時にテーブルを横にひっくり返し、持ってきた資料を盛大にぶちまける。
そして一気に詰め寄ってはアクセルの喉をつかみ上げ脅し文句を言う。
「てめぇは取引ってもんを知らねぇのか!? それじゃこっちになんのメリットもねぇだろ!! ぶっ殺すぞ!?」
最早相手がハンターである事も構わず恐喝するキンコーソーダー。
だがアクセルはこちらを冷静に見据えながら、黙って右腕をキンコーソーダーから見て左側にある強化ガラスへと差し出した。
するとどうだろうか、無機質なコンクリートの壁と同じ模様を写していたガラスは、フェードするように何かの画面に切り替わっていく。
電気信号によって透過率の変動や、マジックミラーの様な一方向からのみ見えるようにする事もできるが、どうやら液晶さながらに映像を表示する事もできるらしい。
壁の面積の大半を占めるガラスの面一杯に映し出された光景だが……振り向いて見たその内容は、部屋の中の2人を凍り付かせるような代物だった。
「あ……あ……?」
特にキンコーソーダーにとっては怒髪天から一転、表情を恐怖に染め上げる程に強烈な印象を与えたようだ。
膝の笑いは全身に伝播し、アクセルの首を掴んでいた手から自然と力が抜け落ち、後ずさりする。
「アクセル、キンコーソーダーから話を――――聞き出せてはなさそうだね」
「「エ……エックス……!!」」
アクセルとキンコーソーダーは同時に震え声を出す。
画面の中央にはにこやかな顔のエックスがいた。 腰から上の半身が映る彼の左腕の中には、デフォルメのなされた可愛らしいライオンのぬいぐるみが抱えられ、先程までキンコーソーダーのいた刑務所内の広場の中央に立っていた。
背後にあたる画面の右側には恐怖に引き攣って青ざめる囚人達が所狭しと立っていた。
「どうして広場に? 待合室で待ってたんじゃ?」
「ああ、捕まった筈のキンコーソーダーの指示で犯行に及んだイレギュラーが多かったから、ひょっとしたら内通者がいるんじゃないかって探ってみたら案の定だったんだ」
エックスが右手で立てた親指を背後に向けると、画面が左側にスクロールする。
すると左端から右へと倒れた看守達が次々と現れる。 ――――いずれも首があり得ない方向に曲がった状態で。
「犯罪の片棒を担ぐような事してたし、俺の事をブルマ呼ばわりしたし、何より俺の事ブルマってバカにしたから……これは
「ヒェッ……」
朗らかな口調と裏腹に、笑っていない目線を向けるエックスに声を漏らすアクセル。 例によって彼の禁句を口にしてしまったが故に、不正に対して『断固とした対応』をされたようだが、わざわざ2度も強調する辺りエックスは相当腸が煮えくり返っているように見えた。
一方で首をへし折られたであろう看守達の有様を見て、キンコーソーダーのトラウマが蘇りつつあった。
そう、自分がこのアブハチトラズ刑務所に収監されるきっかけとなった、凄惨な死に様を見せた相方の最後の瞬間が。
「それよりもアクセル、ダメじゃないか相手を怒らせたりして……取引はもっと上手くやらなきゃ」
エックスは抱えていたぬいぐるみをゆっくりと画面の前に突き出すと、空いた右手をぬいぐるみの頭の上に優しく乗せる。
次の瞬間――――エックスは右手で人形の首をひねり上げた。
ただでさえ冷たくなっていた部屋の空気に加え、エックスの容赦のない手つきに完全に言葉を失う2人。
ライオンをモチーフにした人形を選ぶなど、キンコーソーダーの古傷を抉る仕草に、この時彼は頭の中が真っ白になっていた。
彼ははっきりと思い出す。 エックスに暴言を吐き……挙句の果てには2回も首を捩じられ確実な死を与えられた相方、かつてライギャンβと呼ばれていた鬣の立派なイレギュラーの姿がフラッシュバックする。
硬直するキンコーソーダーへ、エックスは今度は彼に視線を向けた。
「キンコーソーダー。 君は我こそがここのルールだって振舞ってるけど、何なら
変わらず笑顔を向けるエックスだが、協力しなければ実力行使と言わんばかりの威圧感を漂わせていた。
頭に焼き付いて離れないあの光景を繰り返され、思考停止するキンコーソーダーだったが、今ここでエックスと対立すればどうなるかだけは本能的に察知していた。
そんな彼の決断は早い。 アクセルに向き合いはっきりとした足取りで一歩後ずさる。 誰かにそうしろと教えられた訳ではない、しかし何をすべきかは手に取るようにわかる。
膝の埃を払い、右膝から左膝と順番に屈め……正座をすると今度は前のめりになって右腕と左腕の順番に大きく振りかぶり、指先を地面につけた。
そして、深々と頭を下げてからの――――
一連の動作を伴った見事なまでの礼式は『ゴッド☆土下座』と呼ばれ、かつては悪の天才科学者と呼ばれる男さえ用いた事のある最高位の礼節である。
呆気なく心変わりをするキンコーソーダーにアクセルは目をひん剥いて大きく口を開け、エックスは親指を立てた。 画面からでも伝わってきた威圧感が消えた辺り、どうやらエックスの怒りを鎮める事は出来たようだ。
「ありがとう! 協力に感謝するよ!」
エックスは感謝の念を述べると、ガラスに表示されていた画面が先程の壁面の模様に戻る。
……裏社会への君臨を夢見るキンコーソーダーが、頭を下げる行為を決して根性なしと思うなかれ。 だって命あっての物種だから。
「……エックス怖いからね、しょうがないね」
言ってみれば懇意にしていた秘密結社への裏切りが確定した訳だが、そんなキンコーソーダーの行動をアクセルの小声だけが肯定していた。