〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2 作:Easatoshi
2週間後……キンコーソーダーの『ご厚意』により、無事アポイントメントを取る事が出来たエックス達は、待ち合わせ場所にて会合に備えた準備をしていた。
まことしやかに存在が囁かれる謎の組織『ヤァヌス』の幹部と。
イレギュラーハンター達は一連の誘拐事件の背景に『ヤァヌス』が絡んでいる事は早い段階から掴んでいたが、居場所はおろか組織の実態さえつかんでいないと言う実情から、情報規制により秘密結社の存在は公表していない。
しかしネット界隈のアンダーグラウンドを含む裏社会を通し、徐々に彼らの存在を示唆する噂が表社会にも浸透しつつあった。
そんな得体のしれない連中に深夜の今日、ならず者が蔓延るシティ・アーベル東16番地区において、さる解体予定の廃ビル内で落ち合う事になっていた。
「何度確認しても、監視役は特に見当たらないね……」
<こちらも動体反応は確認できないわ。 でも油断しないで、誰かがいなくても待ち合わせ場所に細工がされている可能性もあるし……今度こそ何の成果も得られないのはまずいわ>
「わかってるよ、必ず相手の懐に潜り込んでみせるよ」
待ち合わせ場所近くの別のビルの上階、浮浪者が住処にしていたのであろうゴミや空のビール瓶の散乱した埃塗れの一室から、エイリアと通信のやり取りをしつつ窓の縁に身を隠しながら、集合場所である廃ビルの辺りを監視するのはアクセルだった。
罠や伏兵による不意打ちに備え、2時間前から現場入りした上で先んじて周囲を警戒していたが、この地点からは特に気になる所は見当たらない。
「それはそうと、衛星の開発に関わった科学者ばかり狙う理由って、まあしまいには衛星を奪うのが目的なんだろうけど……だったらどうして衛星の管理局を直接制圧しないんだろ」
<単純に管理局を狙うのはリスクが大きいってのもあるかもしれないけど……だからこそ代わりに科学者を狙って、衛星を掌握する別のやり方を見つけ出そうとしているのかも。 いずれにせよ嫌な予感しかしないわ>
不安げなエイリアの声に、アクセルもかすかながら背筋が凍る思いがする。
衛星『きんた〇』は名前こそふざけているが、ハンターベースを狙ったあのレーザーの破壊力は確かなものだった。
万一に備えてこちらも攻撃された時の対策を着々と進めているが、それ以上に『きんた〇』のアップデートの速度が著しい。 期待を背負った新世代のインフラとあって、注入される労力と国家予算の額が比較にならないからだ。
結局誤作動の原因さえ未だに分かっていないと言うのに……もう1度攻撃態勢に移られれば、今度こそただ事では済まないかもしれない。
<それじゃあ一旦通信を切るわね。 集合時間になったらまた繋いで頂戴>
「OK。 また後で」
アクセルは通信を切った。 指定した時間まで残す所あと30分……後は隣の部屋にいるエックスとゼロを待つのみ。
キンコーソーダーの息のかかった凄腕の実行犯という形で身分を偽り、我らがイレギュラーハンター3人とヤァヌスの幹部との会合を手配してもらった。
しかし秘密結社である彼らは他者との接触については極めて慎重らしく、集合場所の周囲で隠れて監視をしている可能性は否定できない。 ましてや彼らは名の知れたハンター、公に顔が割れている以上迂闊に近づけば、接触さえできず会合をご破綻にしてしまうかもしれない。
ともなれば全くの別人に変装する必要がある訳だが、コピーチップを持つアクセルと違い、エックスとゼロに他人に擬態する能力はないので、2時間前から現場入りした上で付近の別のビル内の一室にて変装に取り組んでいるものの……。
「しっかし遅いなぁ……いくら完璧に変装するって言ったって、これだけ時間かかってまだ終わらないのかな?」
アクセルはため息をつきながら時間を確認する。 ここに来てもう1時間半……エックス達だとばれないように変装するにしても時間をかけ過ぎている。 まさか変装が間に合わないと言われないか少し不安にもなってきた。
待ちぼうけを食らうアクセルの元に、無線連絡がかかってくる。 アクセルは受信し、腕を正面にかざして映像を投影する。
<そろそろ待ち合わせの時間だぜ。 準備は出来たろうな?>
「……キンコーソーダー、アンタか」
投影されたホログラフ映像には、首輪をつけたままのキンコーソーダーがいた。 その背後に見張りのハンター2名が立って彼に目を光らせている。
アクセルは不満げにごちた。 本来なら檻の中にいる筈だったキンコーソーダーだが、裏切りのリスクを負って何もないのは流石に我慢ならなかったのか、せめて少しの間だけ外の空気を吸わせて欲しいと懇願してきた。
無論逃げられる可能性もあってアクセル自身をして良い顔はしなかったが、見張りをつけると言う条件を付けた上でOKを出したのは意外にもエックスであった。
尤も彼曰く「いくら凶悪犯だったからって、流石に何の見返りも無くタダ働きさせるのはかわいそうだから……信じてるよ?」と温情を見せるも、笑顔に対してその目が決して笑っていなかったのは記憶に新しい。
<いいか? 折角俺がリスク犯してまで取り次いだんだ。 しくじったらタダじゃおかねぇぞ>
「それはこっちのセリフだよ。 アンタこそ娑婆の空気だけは吸わせてやったんだから、逃げたり敵に告げ口しようなんて思わない事だね」
<……バカ言え、この状況で裏切れるかよ。 切るぜ>
そう言い残して、キンコーソーダー側から通信を切った。 今のかすかな間が何を意味するかは分からないが、どちらにせよ今は彼を信じるしか道はなさそうだ。
――――今更ながら、あんな恐ろしい光景を見せてまで迫ったエックスが彼の要求を受け入れたのは、ひょっとして裏切りが発覚次第すぐ『けじめをつける』つもりで外に置いたのではないだろうか?
嫌な汗が額を流れるも、流石に勘ぐり過ぎかとアクセルが思った時……不意に背後から扉の開く音が聞こえた。
「待たせたなアクセル。 こっちは準備できたぜ」
そしてその後に聞こえてくるはゼロの声だった。 どうやら2時間近くかかっていた変装がようやく終わったらしい。
「遅いよ? いくら別人に化けるからって――――」
背後を振り返り、時間をかけ過ぎだと問い詰めようとするアクセルの目に飛び込んできたゼロの姿は――――
文字通りの意味で白々しい化粧に真っ赤な口紅、そして丈の短いスカートとセットで胸元に「おめが」と書かれたワッペンのついた女物のサンタ服に身を包む、片足立ちでもう片方の膝を曲げつつ、ウインクに額にピースを決める女口調のゼロがそこにいた。
「ヴォエッ!!」
あまりにおぞましい光景にアクセルは嘔吐した!
気色悪い事この上ない。 申し訳程度にサンタキャップも被ってはいるが、結局はいつものヘルメットに長い金髪の上からなので、全く変装の体を成していなかった。
「おいアクセル、何も吐く事ないだろ。 別人に化けろって言うからわざわざ女装までしたんだぜ?」
「うげぇ……な、なんで……よりにもよって、女の服装なんかするんだよ!! マジ最悪だよ!!」
両手をついて地面に項垂れながら、何とか吐き気交じりに言いたい事を必死で主張するアクセル。
そんな嫌なモノを見せられて滅入っている哀れな少年に対し、ゼロは胸を張って大真面目に答えた。
「ああそうだ! まさか俺が女装なんて最悪な真似するとは思わんだろう! こんなバカの極みが俺だって分かる筈がないぜ!」
「この上なく
あくまで女装にも意味があると言って憚らないゼロに、アクセルはクジャッカーとのひと時を疑わずにいられなかった。
ゼロはそんなアクセルの発言に不機嫌になって反発する。
「まだ言うか!? クジャッカーは関係ねぇって言ってるだろ! 第一胸のワッペンにもちゃんと「おめが」って書いてるんだ! 俺と見抜けるわけがねぇ!」
「名前書いた程度で誤魔化せるわけないでしょ!? 顔もヘルメットも丸出しなのに!! そんなんでしらを切り通そうだなんて100年早いよ!!」
負けじと繰り出されるアクセルの正論。 これにはさすがにゼロも言葉に詰まり、苦虫を噛み潰した表情のまま言い負かされてしまった。
「ぐっ、だめか……ならせめてワッペンの名前、最後の部分だけ伏字にして「おめ○」にしておくか……」
「死んじゃえよもうッ!!」
わざとかあるいは本気で理解できないのか、あくまで根本的に変装の方向性が間違っていると認めないゼロにアクセルが匙を投げた。
……これ以上は言っても聞く耳を持たなさそうなので、今からでもゼロの分の服を調達しようと気持ちを切り替えようとする。
「遅れて済まない! 変装に手間取った!」
開いたままの扉から今度はエックスの声が聞こえてきた。 その声にアクセルはふと我に返る。
容赦のない面ばかり立て続けに見せられたが、なんだかんだ言ってもエックスは基本真面目な性格だ。
「あっ! いい所に来た!! ちょっとゼロの女装に何か言ってよ!」
扉が開いたままの入り口から駆け足でやって来たエックスに、場合によっては拳で語るのも踏まえ、まともな変装と共に赤いおバカに言って聞かせてやって欲しいと期待した。
「お待たせアクセル! 準備万端ドスコイ!!」
「――は?」
――――そして、淡い期待は意味不明なエックスの語尾と共に裏切られる。
「え……? えっ?」
我が目を疑うあまり腕で何度も目元を擦るアクセル。 今の彼に目の前に現れたエックスの姿を受け入れる事は出来なかった。
いつもの青いアーマーには違いはない。 しかしヘルメットの縦の凸部分を黒く塗り、後ろ頭の部分には何らかの方法でちょんまげと後ろ髪をくっつけていた。
そして腰には「よこずな」とポップ体で書かれた化粧まわしを巻いていた。 正しくは「よこづな」だが、正直そんな間違いは些細な問題だった。
ロボット
四股と思わしき腰を落とした姿勢だが、右手を突き出して寄り目のまま首を大きく回すその仕草は、さながら見得を切る歌舞伎役者のように思えた。
気合もたっぷりのエックスに、感心するように首を縦に振るゼロとは対照的に、アクセルは愕然とした様子でエックスのいで立ちを眺めていた。
「ちょんまげの糊付けがうまく乾かなくて時間が掛かったし、まわしも巻いた事が無くて苦労した……でも変装は完璧だ」
「ああ! これなら誰も俺達がイレギュラーハンターだって分からねぇぜ!」
こんな変人の極みの様な格好をされれば、確かにイレギュラーハンターには見えまい。 しかし頭も尻も隠していない今の姿を見れば、外見と言うよりは彼らの考えの方が分からないと誰もが口を揃えるだろう。
「しかしゼロ、変装だからって女の恰好するのは……流石に気持ち悪いぞ?」
「俺だってこんな格好には抵抗あるぜ。 だが気持ち悪いなりにはよく出来ているだろう?」
「うっ……まあ造詣に関しては嫌にこだわって――――「エックス」
互いの変装を批評しあう中、アクセルが話に割り込んだ。
余裕をもって会合に臨みたいとわざわざ2時間前に現地入りを果たして、かなりの時間をかけて用意した変装が……こんなコスプレにも劣るけったいな格好とは。
「色々と言いたい事あるんだけどさ……これだけは聞かせて? わざわざスモトリをチョイスしたその心は?」
こみ上げる感情を抑えきれず、唇が微かに震えているアクセル。 見るからに何かが爆発しそうだと伝わってくる。
するとエックスは、この状況で女装をチョイスしたゼロを彷彿とさせるような、自信満々な態度ではっきりと答えた。
「変装に国辱は基本ドスコイ!!」
「何しに行くか分かってんのかクソアホイレギュラー共があああああああああああッ!!!! 今すぐ着替えろッ!!!!」
あまりに意味不明な理由に激高し、アクセルはその辺に落ちていたビール瓶を拾っては振りかぶりながら、猛然とエックスに襲い掛かる!
結局、時間ギリギリまでドタバタする事になりました。(白目)
それはそうと『スモーで殺す』なんて最初にこのセリフ考えた人に是非伝えたい。
天才かと。