〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2 作:Easatoshi
<貴方達……一体何があったの?>
秘密結社『ヤァヌス』の幹部との集合時間。 予定通り通信を繋いだエイリアが、開口一番に出た言葉には困惑の色が混じっていた。
エックスとゼロの変装は上手くいっている。 エックスは厚手のベージュのトレンチコートに、黒いハットとサングラスと言うオーソドックスな組み合わせ。
ゼロに至っては普段のアーマーとは全く異なる、背丈よりも大きい太刀を背負った黄色を基調としたアーマーに、額に緑色のアクセントがなされたヘルメット、そして瞳の色を鮮血の様な赤に変えられた目つきは鋭く、確実に何人かは殺ってそうな邪悪な人相に見えるよう顔全体に特殊メイクが成されている。 彼の自前の長い金髪もヘルメットの中に隠され、いよいよもって初見では誰か分かりづらいものがあった。
そんな初見で誰か分からない完璧に変装した彼らだが、ゼロは不機嫌そうに目を細めて、一方でエックスは口元を尖らせ漫画の様な野球ボール大のタンコブを側頭部に作っていた。
そして最後の1人アクセルだが……引き攣った笑顔を浮かべていた。 こめかみに青筋を立てながら。
「何でもないよエイリア。 ちょっとトラブルがあって1時間半かけた2人の変装を最初からやり直してたんだ! 時間ギリギリまでね!!」
アクセルの口調は刺々しかった。 明らかに怒りを滲ませる少年の後ろでは、不満げに口を出すエックスとゼロがいた。
「ミニスカサンタの女装がアホな格好だったのは認めるが、何も1からやり直しにさせる事ないだろうが……」
「ビール瓶で殴られたのは流石に痛かったぞアクセル。 スモーチャンプだって立派な変装じゃないか?」
「アホすぎる上にモロバレじゃないの!? 別人に化けろって話なのに!」
むくれた様子で不満を訴える2人に、アクセルが勢いよく後ろを振り向いては、唾を飛ばすように怒鳴り散らしていた。
彼らの話の内容や態度からは、エイリアをして察して余りあるものがあった。
<ああ……そういう話ね>
レプリロイドをして頭痛を覚えるように、エイリアは呆れた表情で頭を押さえていた。
しかし脱力してもいられない。 これから彼ら3人は敵の懐に潜り込み、一連の誘拐事件を含む陰謀を暴かねばならないのだ。
エイリアは気を取り直し、毅然とした態度でエックス達に告げる。
<とにかく変装自体は上手くいっているし、後はどれだけ相手の信用を得られるかにかかってるわ。 さあ、気を取り直して集合場所に向かって!>
「「「……了解!」」」
彼ら3人も気持ちを切り替え、イレギュラーハンターとしての精鋭の顔立ちになった。 アクセルもコピーチップを使い、全く別のレプリロイドに変身する。
エイリアはアクセルの無線機を通して投影していたホログラム映像を切断する。 そして無線の出力を、彼ら3人の視覚及び聴覚センサーにのみ作用するように切り替える。
こうする事で彼ら3人以外からは、無線機を使ってやり取りしているようには見えないだろう。
3人は踵を返し、雑居ビルの部屋の一室を後にした。
ゆっくりと階段を降り、ビルの裏口を出て路地裏を歩いた先は、待ち合わせ場所である一際大きな廃ビル前の広場。 敷地の真ん中に立ち止まると、エックスは手元に古めかしい携帯電話を取り出した。 ハンドサイズではあるが折り畳み式ですらない、液晶のついた一体型の電話である。
これはキンコーソーダーから『ヤァヌス』の連中とやり取りをするために用意された代物であるが、彼から説明された段取りでは集合時間のこの場所にてかかってくる電話を取って、向こうからの指示を受ける事になっている。
広場で立っている3人に対し、そんな相手からの着信をキャッチしたのはエックスだった。
通知を受けたエックスが目配りを仲間達に送ったのに対し、ゼロとアクセルも無言でうなずいた。
「キンコーソーダーからの使いだ」
<……ゆっくりとビルの中を歩け、最上階の会議室で落ち合おう。 非常階段なら5分もあればつくだろうが、寄り道はするなよ>
電話越しの声はボイスチェンジャーが掛けられていた。 感情のない無機質めいた声で一方的に指示を出すと、こちらの返答を待たずして通信を打ち切る。
エックス達は玄関から屋上へと視線を上げ、廃ビルの全体像を眺めた。 階層はおよそ20階程度、高さにして60m程度だろう。 別段高い訳でもなくレプリロイドなら簡単に登れる程度の高さだ。
非常階段を使えと言ったのは、当然ながらこのビルは放棄されて随分経ち、むしろ直ぐに解体されてもおかしくない程だ。 ライフラインはとうの昔に断たれ、当然だがエレベーターなど使えない。
して、意を決したエックス達は電話の主に導かれるままに、開きっぱなしで朽ち果てている玄関をくぐる。
ここら一帯が放棄された街並みと言うべきか、スラム街の一部と化しているだけあってどこもかしこも埃を被っており、ガラス窓もひびが入ったり割れたりしている物ばかり。
落ちているスナック菓子の袋などを漁っては、足元を横切る鼠の姿もあり、いよいよもってまともな衛生状態でない事が窺える。
生気を感じられない薄暗さと余りの不潔さにエックス達は顔をしかめるが、しかし我慢して玄関の突き当りの右側にある、無機質で埃を被っていたが元は白塗りであっただろう古ぼけた廊下を通り、割れた蛍光灯とランプすらついていない消火栓を流し見ながら、さらに奥にある非常階段の扉を開け上階を目指していた。
「そう言えばさゼロ、その恰好だけど」
3人そろって黙々と道なりに進む中、アクセルが口を開く。
「確かシャドウって奴の恰好だったよね? ギガンティスで戦った事のある」
「ああ、今はあいつ更生したとかで島の復興に努めてるんだったっけな?」
ゼロは昔を懐かしむように、目を閉じてしんみりと語った。
今彼が変装している姿のモチーフである『シャドウ』なる男は、かつてギガンティスなる人工島で共闘するものっけから裏切り、撃破した事のある元イレギュラーハンターであった。
現在ではすっかり元通り修理され、力に溺れた畜生ぶりが嘘のように目元を輝かせ、ボランティア活動に勤しんでいるらしいが……。
「エックスの仕立て直し手伝ってて気が回らなかったけど、生きてる奴の服装フツーにパクッてバレたりしないかな?」
「フン、問題ない。 どうせあいつの事だしまた裏切ったって言い張ったら何とかなるだろ」
「……根に持ってるんだね」
鼻息をつき、1度裏切った奴は2度裏切ると言わんばかりの容赦のないゼロの物言いに、アクセルは思わず苦笑いする。
――それにしても本当にソックリだ。 先のミニスカサンタもそうだが、この変装もディテールに関してはいやに細かくできている。 歩きながら全身をくまなく見てみるが特殊メイクもバッチリで、初見でゼロと見分けがつく奴はそうそう居るまい。
アクセルは気になって尋ねてみた。
「それにしても凄く細かい作りだね。 さっきのも悪ふざけが過ぎてたけど完成度高かったし、ゼロって細かい作業得意だったりする?」
「一応サンタ姿も大真面目だったんだが……まあ、細工に自信あるのは確かだ。 日頃ガレージキットとか作ってるからな」
「意外な趣味だね? でも変装の手際までいいのはちょっと凄いかも」
着替えまで早いのはさておき、変装の作り込みの良さも頷ける確かな理由はあった。 仲間の趣味が高じた事にアクセルは素直に感心していた。
「フッ、全部じゃないが完成度の高いアダルトフィギュア組み立てようと思ったら、いつの間にか上手くなってたからな!」
アクセルの賛辞に得意げになったゼロの一言に、ついずっこけそうになった。
「結局エロ目的じゃないの! ……感心して損したかも」
「ほっとけ! って言うか全てがエロ目的じゃねぇって言ってるだろ!」
「2人共、今は作戦中だぞ」
<貴方達、その辺にしておきなさい>
言い合いになりそうだったが、先を歩くエックスと無線越しのエイリアから窘められる。 ゼロとアクセルは2人して「はいはい」と言わんばかりに空返事をして会話を打ち切る。
やがて目的である最上階にたどり着き、窓から月明かりが差し込む廊下がエックス達の目前に現れる。 清潔で意匠を凝らした建物なら幻想的な雰囲気に映っただろうが、ここは放棄され今にも朽ちそうな廃ビル、むしろロケーション的には何かが出そうな雰囲気さえあった。
だが慄いてもいられない、この廊下の真ん中あたりに目的地である会議室の扉があるのだ。 辺りを警戒しながらもエックス達は廊下をゆっくりと歩き……あっさりと目的地の扉の前にたどり着いた。
両開きでベージュに着色され、縁のゴムが劣化して風化を重ね足元に散らばる扉。 頭上の辺りには辛うじて会議室であろうと読み取れるプレートが、枠が錆び今にも外れて落下しそうになっていた。
ここでエックスの持っていた電話が再び着信音を出す。 エックスは再び電話を取り出して応対した。
<入ってこい、この部屋で待っていろ>
再び一方的に通信を打ち切った。
<気を付けてね、待ち伏せの可能性もあり得るわ>
「……分かっている」
エイリアからの忠告にエックス達は顔を見合わせて互いに頷くと、ドアノブを捻って扉をゆっくりと押し込み中に入っていった。
中の会議室は広い、しかし机や椅子はおろかホワイトボードさえ撤去されたその部屋は、殺風景と言う他無かった。
万が一を考えて自分達の入ってきた扉は開けっ放しのまま、3人は辺りを見渡しながら部屋の真ん中へと歩いていく。
――――その時であった。
部屋の真ん中で指示通り待機していると、背後から何かが勢いよく閉まる音がした。 思わず振り返る3人。
――開けておいた筈の出入り口が閉まっていた。
閉じ込められた!? アクセルは焦った表情で、エックスとゼロの制止を振り切り扉に駆け寄り手にかける。 強く扉を引いてみるが開かない。
「何なのこれッ!? コンクリートで塗り固めたみたいにビクともしないッ!!」
両手でノブを捻り、ドア枠に足をかけて踏ん張ってみるが微動だにしない。 下手をすればドアノブが外れてしまいそうな程に力をかけるが、レプリロイドの膂力をもってしても扉には何の影響も無かった。
余りに開かない出入り口に、痺れを切らしたアクセルはつい武器を取り出してドアを壊そうとするが、流石にそれはエックスに止められた。
「落ち着けアクセル! いいから戻ってくるんだ!」
エックスの呼びかけにアクセルは振り向くも、扉に銃を突きつけたまま未練がましく数回目線をやりながら、渋々3人の元へ戻る。
「何だってこんな事に……やっぱり僕達ハメられた……?」
<あるいは私達の反応を試そうとしているか……今はエックスの言……り落……いて……ザザ……>
「ッ! どうしたエイリア!?」
不安を覚える中、突如エイリアとの通信にノイズが入り始めた。 慌てて声をかけるエックスだが、砂嵐に飲まれていくエイリアの方も状況を把握しきれていないようだ。
<ザザ……無線……子が悪……!!…………ャミン……?…………信を妨害――――ザーーーーーー……>
「エイリア! エイリア応答するんだ!」
エックスは小声だが、雑音に飲まれたエイリアに何度も声掛けをする。 しかし呼び掛けている内に通信は完全にシャットアウトされ、電波状況も軒並みオフラインと表示される。
……どうやら通信に障害を発生させるよう、ジャミングを掛けられてしまったようだ。
エックス達が焦る中、不意に自分達の入って来た方でない、奥の方にあった片開きの扉が開く。
「無駄だ。 そのジャミングは非常に強力だ。 何せ自分の発明品ながら我々の持つ通信機でもやり取りが出来なくなる程だからな」
続けて開いた扉から、自分達でない何者かの男の声が部屋中に反響する。
何者だ!? 3人が身構え扉を睨みつけると、扉を開けたまま人影がこちらにゆっくりと歩いてくる。 響き渡る足音一つ一つが近づく度、エックス達にえも知らぬ緊張感が走る。
「半年ぶりだなエックス……下手な変装で誤魔化せたつもりだと思ったら大間違いだ、何せ俺はお前達が来る事を知っていたのだからな」
「……!!」
3人は戦慄する。 キンコーソーダーにも念を押し、正体を悟られぬよう慎重に手回しをしていた筈。 変装だって少々のトラブルはあれど完璧にこなしたにも拘らず、男の声はそれを看破していた。
……それに何よりもこの声、どこかで聞いた事がある。 半年ぶりだと言っていたが……。
エックスが必死で思考を巡らしている中、歩み寄る声の主らしき男の姿が遂にはっきりと見える位置にやって来た。
――――その正体を目の当たりにした彼ら3人は驚愕し、エックスはついサングラスを取って叫んだ。
同時に、男……ゆくえふめいだったマックからエックス達3人に目掛けバスターが発射される!
見覚えのある、しかし死んでいたと思われていた男からの不意打ちに3人をして反応しきれず、つい攻撃を受けてしまった!
バスターが命中すると、強い電撃が彼ら3人の動きを封じ、そのまま地面に膝をついて動けなくなってしまう。
「フッフッフッ、エックス、おまえは あまいな」
バスターを構えたままのマックが、エックス達を見下ろしながら不敵に笑う。
「オレは もう MACエンジニアリングのしゃちょうではなく ヤァヌスの とうりょうだ。」
その表情は以前の様な強かさではなく、邪悪な意志のようなものを感じる笑みだった。
秘密結社『ヤァヌス』の頭領と言った彼にエックスはショックを覚え、電撃のダメージで機能不全に陥る身体を必死でこらえながら、マックへ手を伸ばそうとする。
「わるいが おまえを ほかくする。」
マックはバスターを収納すると元の手に戻した右の指を鳴らし、開けたままの奥の扉からドローンを呼び出した。
皆して動けずにいる中、ドローンが頭上にやってくると何かを自分達の体に放ち、手足を胴体に縛り付けていく。 黒く締め付ける力の強い太いワイヤーだった。
身体が衝撃で機能を失っていく中、全身を強く縛られた事で遂にエックスは力尽き、意識を失ってしまう。
ブラックアウトの最中エックスが見たマックの表情は、どこまでもこちらを見下した嘲笑を浮かべていた――――。
今年最後の投稿がよりにもよってほかくエンドとは……w
とにかく皆さん、来年度もよろしくお願いします! それではよいお年を!