〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

19 / 34
 明けましておめでとうございます! 早速ですが第19話投稿です!


第19話

 

 

「ぐ……うう……」

 

 うめき声を上げながら、電撃のショックから辛くも意識を取り戻すエックス達3人は、頑丈なワイヤーで体を拘束され埃塗れのコンクリート床にまとめて転がされていた。

 エックス達を拘束したドローンは、現在は薄暗い部屋の隅で滞空しているようだ。 ドローンの浮遊する音が耳に障る。

 

「無様だなエックス。 身動きが取れずに地面に這いつくばる気分はどうだ?」

 

 そんな覚醒したばかりの3人への、今の彼らを嘲笑うようなマックからの言葉。 目を開いてほんの3メートルほど先に立っている、腕を組んでこちらを見下ろすマックの隣には、何やら彼の背丈の半分程の大きさで、ビニールに包まれた黄色い四角の積み荷が置かれていた。

 縛られ這いつくばりながらもエックス達は気丈にマックを睨みつける。

 

「マック、よりによって貴様が『ヤァヌス』の頭領だったとはな」

 

 人攫いをするような組織のトップになっていた事を咎める様に、ゼロが眉をひそめ問いかける。 そんな彼の言葉に対しマックは真顔になって話し始めた。

 

「……あの『MEGA MAC』炎上から半年、俺は随分と辛酸を舐めさせられたよ」

 

 過去を思い返しながら、マックは朽ちそうな天井を見上げ語る。

 

「社員一丸となって一生懸命育ててきた会社の社運を賭け、ようやく築き上げた俺の城がものの3日で灰になった……。 全身を炎にまかれそうになり、すんでの所で脱出した俺に待っていたのは、身に覚えのない防災への不手際に対する非難の声と、必死で説得した筈の大手ファンドからの融資の取りやめだ!! どうしてこうなったと思うッ!?」

 

 言葉を続ける度に語気が強くなり、遂には叫んだマックに対してゼロは目を閉じ、しばしの沈黙を挟んで告げる。

 

「まあ、トイレの横にボイラー室なんてあったらそら全焼もするがな」

「ッしゃああああああああああああッ!!」

 

 建物の作りがそもそも悪いと言いたげなゼロの物言いに、マックの怒りの一撃とも言えるキックがゼロのガラスの顎を蹴り上げる!

 

「おだわッ!!」

 

 蹴った勢いが中々に強かったのか、頭を縦に揺さぶられ、よくわからない奇妙な叫び声をあげるゼロ。 これにはエックスは蹴られた相方の名を叫び、アクセルは彼のやらかしを見て乾いた笑いを浮かべていた。

 

「どの口でほざきやがるッ!! お前の放火が全ての原因だろうがッ!!」

「グ、グエェェェェェェェ」

 

 そしてマックは立て続けにゼロの喉笛を掴み、あらんばかりの憎悪を込めて握り潰す。

 白目を剥いて壊れたビールサーバーのごとく、口からドバーッと泡を吹くゼロ。 激高するマックに対し、エックスは身動きを取れないながらも制止を試みた。

 

「やめろマック! ゼロを離せ!」 

「誰が離すかッ!! 俺の夢をつまらん火災で灰にしてくれたツケだ! 何ならお前を代わりに痛めつけてやってもいいんだがな!」

「ごめんゼロ、運が無かったと思って諦めてくれ」

「「エックスこの野郎ッ!!」」

 

 あっさりと言葉を翻した青いイレギュラーに、ゼロは首を絞められながら掠れた声で、アクセルも一緒のタイミングで突っ込んだ。 文字通り唾をも飛ばす勢いで。

 するとマックはゼロの喉元から手を放し、むせかえるゼロの横で怒りを通り越し引きつった笑いを浮かべていた。

 手首に電動モーターでも仕組んでいるかの如く、エックスの模範的な手の平返しが腹に据えかねたのだろうか。 心なしかヘルメットの上から浮き出た血管が切れ、血しぶきを上げているようにも見えた。

 

「成程な、お前はそんな風に他人のフリをして事件を黙殺したんだな? ……そう言えば、わずかに残った証拠でなんとかイレギュラーハンターを提訴しようとしたが、法曹界の連中が軒並みビビってたせいで訴える機会さえなかったんだよなぁ……さてはお前連中を脅したな?」

「ギクッ!!」

 

 あからさまに焦ったように身を震わせるエックス。 どうやら思いっきり心当たりがありそうだが、しかし目線を少しばかり泳がせては何とか誤魔化そうと言葉を続けようとする。

 

「……マック、確かにあの事件については気の毒に思う。 だけど元を正せばクジャッカーがゼロの花を摘み取ろうとしたせいで火事になってしまったんだ、あれは不可抗力だ!」

「クジャッカーの性癖なんか関係あるかッ!! ボヤの段階で消火できなかったのだって、お前らが天井に穴を開けてくれたからだろ!!」

「ああそうだ、スプリンクラーの故障から延焼し」

「隣の部屋になぜか設置されていたボイラーに引火……構造上の欠陥が浮き彫りになったと」

 

「「なんだ、やっぱり不幸な事故だったんだ」」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおいッ!!!!」

 

 顔を見合わせてにこやかに自己完結するエックスとゼロ。

 スプリンクラーを壊したのも放火したのも全てはゼロの仕業だが、意地でも非を省みず全力でマックを煽るエックス達に、マックよりもアクセルがつい悲痛な叫び声をあげてしまう。 どんな判断だ!? と言いたげに。

 弁明と言うよりは言い逃れをする彼らの話を聞かされていたマックは、当然の如く肩を震わせていた。 アクセルを除いて一向に悪びれないエックス達の物言いが、マックの神経を逆撫でするには十分過ぎたようだ。 

 

「勘弁してよ2人共! 何でさっきから煽り入れたりなんか――――」

「クッ……ククククク……どうやらこれ以上は何を言っても無駄なようだな。 お前達の考えはよく分かった」

「あ、これダメなやつだ」

 

 アクセルが止めに入るも時既に遅し、度重なるエックス達の無神経さについにマックの怒りは頂点に達する事になる。

 

「エックス、俺は金の為に客の安全を蔑ろにしたと後ろ指をさされ、苦楽を共にした社員もろとも表社会の信用を完全に失った。 だが資産が全て燃え尽き焦げ付こうとも、お前らへの憎悪の炎だけは消えなかった……故に俺は秘密結社『ヤァヌス』を立ち上げ、貴様らイレギュラーハンターへの復讐を誓った!! ――――これが分かるか!?」

 

 マックは左の親指を、後ろにあるビニールに包まれた黄色い小箱の塊へ指し示す。

 

「タイマー付きのプラスチック爆弾だ。 今からこいつをドローンに運ばせて各フロアの脆弱な箇所に設置させる」

「何……ッ!?」

「うちのドローンは高性能でな、1分もあれば全ての爆弾を仕掛けられるんだ――行け!」

 

 エックスがはっとした表情になるのも気にせず、マックが再度指を鳴らしてドローンに命令する。

 すると部屋の端に散った複数機のドローンが集結し、積み上げていた黄色いプラスチック爆弾のパッケージを手分けして回収、全てを拾い上げると部屋の外へ退散する。

 爆弾が積み上げられていた後には、正面に『00:00』と書かれた赤一色に塗られている長方形の箱が置かれていた。

 

「エックス、ワイヤーで縛りつけて放置した程度では到底釣り合わん。 お前達も瓦礫の下敷きになる恐怖を味わいながら死んで行け!」

 

 ドローンが爆弾を設置しに行ったのを見届けると、マックは憎きエックス達を始末できる期待から高笑いする。

 

「クッ!! マック……俺達が憎ければ俺達だけを殺せば済む筈……」

 

 エックスは苦虫を噛み潰したような顔つきでマックに問いかけた。

 

「なのに何故!? 人工衛星の設計に関わった科学者を誘拐するんだ!? 俺達を始末するだけじゃ飽き足らないって言うのか――――」

 

 疑問を投げかけたと同時だった。

 

 

 

 ――――突如マックの立っている後ろ側の、かつてはホワイトボードが掛けられていたであろう壁が突如爆破されたのは。

 

「今度は何だ!?」

「おっと……もうそんな時間か」

 

 前触れなく壁を破壊され、土埃と破片が部屋中に散らされイレギュラ―ハンター3人の驚く様子とは正反対に、マックは至って冷静に笑みを浮かべていた。 まるでこうなる事を想定したようにさえ見える。

 

<社長……おっと失礼ボス、無線が使えないってのは不便ったらありゃしないわ!>

「ジャミングを使う必要があったからな。 だが概ね段取り通り動けているんだ、何も問題はない」

 

 マックは身を翻し、土埃の向こうから聞こえてきた『声』に答える。

 

「ッ!! おいこの声は……」

 

 背中に悪寒でも走ったかのように総毛立つゼロ。 女口調ながらも野太い男のこの声は耳に覚えがあった。 ゼロにとってはトラウマとも呼べるあの声。

 やがて土埃が晴れ、壁をぶち破った何かの正体が顕になる。

 

 

<あら、久しぶりねぇゼロ。 あの時は随分熱い一時だったわ……全身丸焦げになる程に!> 

 

 幾ばくかの間隔をあけ、複数枚に跨る破壊された壁。 その向こうに広がる夜空に浮かぶは、レプリフォースで用いられるタイプの無人輸送機だった。

 艶消しの濃い灰色に塗られた塗装は、夜間における飛行においては迷彩効果を発揮する。 壊れた壁越しに機体の側面が伺えるが、乗降口に描かれている筈のレプリフォースのマークは見当たらない。

 しかしそんな事よりもゼロにとっては、機体のスピーカーから聞こえてくる声の方が気になって仕方がない。

 

「お前、クジャッカーか!?」

<ええそうよ。 今はこんな飾りっ気も何もない無人機の操縦を任されてるけどねぇ>

 

 クジャッカーの言葉に一瞬疑問符が浮かびかけるが、すぐに納得した。

 無人機を『操縦』すると言ったが元々彼は電子プログラム、機体の制御系統は全て彼の意志をもって制御しているのだろう。 むしろ以前のように外で活動する為の、同一デザインの体を持っていた事の方が意外なのだ。

 

「クックック……エックス、お前達を殺すだけじゃ足りないのかと言っていたな。 ご名答だ」

 

 その傍ら、マックはクジャッカーの操る無人機に足を進め、クジャッカーもまた壊れた壁を跨ぎながら機体に近づくマックの為に、側面の乗降口を開けてやる。

 横開きに扉が開き足掛けのタラップが数段降りてくるが……開いた乗り口の中に、エックス達はさる何者かの姿を見た。

 

「マック!! いい加減に儂を放すのじゃッ!!」

 

 

 

「「「ホタルニクス博士!?」」」

 

 蛍を模した赤い身体に老人を思わせる立派な髭、イレギュラーハンターが総力をかけて捜索している科学者達の中でも特に主要な人物、シャイニング・ホタルニクスその人がエックス達のようにワイヤーで拘束されていた!!

 

「貴様らを始末したとしても、今度は残りの連中が我々を執拗につけ狙うだろう。 そこで肝になるのが例の衛星だが、これを掌握さえできてしまえば後はどうとでもなる……その為には外堀から埋めていく必要があるからな」

「まさか!」

 

 言葉に出かかった所で、3人は気づいてしまう。 マックの言う外堀を埋めると言うのは、つまり――――。

 

「衛星を気づかれずに乗っ取ろうって魂胆なの!? 攫った科学者を無理矢理働かせて!!」

「血迷ったかマック! そんな事をさせても、衛星を乗っ取る前に俺達ハンターやレプリフォースに阻止されるだけだ!!」

「フン! そもそも他の連中は知らんが、少なくともそこのじいさんが貴様に協力するとは思えんがな」

 

 アクセルとゼロがマックに疑問を投げかける。 しかしマックはタラップに足をかけ、乗降口の側にある取っ手を掴んで振り返る。

 

「ほざけ、どの道ここで死ぬんだ。 わざわざお前らに教えてやる義理などない」

 

 問い詰めるハンター達をマックは鼻にもかけず一蹴する。

 機内のホタルニクスに向き直し、余裕綽々の態度で今にも去りそうなマックを前に、ワイヤーで拘束される中で必死でもがくエックス。

 

「くそっ!! せめて拘束の甘い左手さえ抜ければバスターが使えるのに……!!」

「……左手だな?」

 

 悔しがるエックスの呟きにゼロが反応した。 するとゼロは彼から見て右側にいるエックスの方に転がると、拘束されて不自由な状態から何かを取り出そうと身をよじる。

 ――しばしの後に何かを取り出し、それをエックスの左手を縛るワイヤーにあてる。

 

「……ゼロ?」

「変装に使った工具を念の為持ってきておいた。 これくらいなら直ぐ外せるぜ」

 

 エックスが振り返って見たゼロの手元にあったのは、マイナスドライバーとワイヤーカッターだった。

 ドライバーでワイヤーをこじり、浮いた隙間をカッターで器用に切断していく。 その鮮やかで見事な手つきにより、エックスの左手の拘束が見る見るうちに解けていった。

 エックス達が拘束から逃れる内に、外の機体の周りに先程マックが放ったドローンが戻ってきた。

 

「ふむ、所要時間は52秒か。 まあ許容範囲だな」

 

 ドローンが無人機の底部にある格納スペースに飛んでは収納されていくと、次にマックは懐から頂点に赤いスイッチのついたペンライトの様なものを取り出した。

 

「このスイッチを押せば仕掛けた爆弾のタイマーが作動する。 カウンターはお前達の目の前に置いてある『例の時計』だ」

 

 脱出を悟られぬようマックを睨みつけながらも、しかしエックスとゼロは左手の拘束を解く事に夢中だ。 空いたアクセルがマックの言う、先程爆弾を設置しに行った際に取り残された時計を見る。

 ……うろ覚えではあったが、アクセルは確かにその時計に見覚えがあった。 正確にはストップウォッチだが、レトロなその造形は『MEGA MAC』においてマックの持っていたラーメンタイマーだった。

 当時のものであるとは考えにくいが、わざわざ同型の物を選ぶ辺りはマックの意趣返しなのだろう。

 

「じゃあなマヌケ面共! せいぜい残り少ない余生を楽しむがいい!!」

 

 当てつけに加え、余裕の態度で捨て台詞まで残し爆弾のスイッチに指をかける。

 恐らく拘束から逃れようとなかろうと、この機を逃せば最早マックに迫るチャンスは2度と訪れないだろう。 この上ない正に最悪の幕切れを迎えようと、アクセルが目が眩むような思いをしている中――――

 

 

「待てマック!! このままお前を行かせはしないッ!!」

 

 

 ――――ゼロの助力もあって左手の拘束を外したエックスが、既にフルチャージを終えたバスターをマックの乗る無人機に突き付けた。

 

「何ッ!?」

 

 不意を突く青白く光り輝くバスターのエネルギーに、マックも驚きを隠せなかった。

 

「マック!! せめてお前だけでも倒す!! 食らえッ!!」

 

 

――――チャージショットだ!!――――

 

 エックスバスターから放たれた渾身の一撃が、不意打ちにたじろくマックの体に迫る!!

 

「しまった――――」

 

 時間にしてほんの一瞬、マックの反応できるスピードを超える勢いで飛来するバスターは胴体に見事命中ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

べちょっ!☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ゼリーが潰れるような柔らかい……言うなればアーケード版初代ストリートファイターの、転倒した時の効果音のような音と共に、怯むマックの胴体にエックスの左手の手形が張り付いていた。

 マックの胸元に張り付いた手形は腹立たしいまでにプルプルと震え、すぐに動きを止める。

 

「「「――は?」」」

 射手であるエックスを含む3人の口から一拍子おいて出た言葉は、唖然とするその表情にふさわしい気の抜けた一声だった。

 

<……ボスぅ?>

「……む?」

 

 マックもまた呆気に取られていたが、クジャッカーの呼びかけにしばしの間を置いて正気を取り戻すと、くっついた左手の平を引っぺがそうとする。

 

「な、なんだこれは……クソッ! 全然取れんぞ……!?」

 

 しかし粘着性が強いのか、マックが力を込めて引っ張れども手形は全く剥がれる様子はない。

 この予想外な状況に一瞬意識が飛んでいたエックスだったが、やがて間を置いて状況を理解すると額から滝のように汗を流し、ここ一番で最も悲痛な叫び声を上げた!

 

 

 

「これスモーチャンプの変装用の『ハリテ・バスター』だったああああああああああああああああああああッ!!!!」

「「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」」

 

 




 新年早々武器チェンジミスってなんだよ……w



 あ、因みに来週は個人的な用事がありますので、毎週ご愛読いただいている方には恐れ入りますがしばしお休みさせていただきますので、ご理解の程よろしくお願いいたします。


 でわ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。