〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

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第2話

 

 あれから1か月後の今日……エックス達は、エイリアをはじめとするハンターベースの同僚達と、衛星の完成披露会に来ていた。

 それも日頃ハンター業務で着ているアーマーやヘルメット姿でなく、晴れ舞台にふさわしい正装をした上でこの場所に立っていた。

 夜空をまばゆいサーチライトで照らす、5つ星ホテルの敷地内にある宴会場を用いた、控えめな照明によって照らされる会場はとても広く、赤々と咲く綺麗な花の生けられた花瓶と、火の灯されたキャンドルが置かれる白いテーブル席が規則正しい間隔で置かれている。 

 辺りにはパーティーの客と思わしきスーツやドレス姿の人々が、グラスに注がれたワインを手に談笑しながらも、皆一様に何かを待ちわびるかのように、マイクの置かれたひときわ明るい檀上に気をやっていた。

 衛星製造のプロジェクトを立ち上げた、発案者と開発陣が勤める主催者側をはじめ、このパーティーの参加者は基本的に、各界の権力者や大口の出資者等、錚々たる身内で固められている。

 その中には、我らがイレギュラーハンターの総監である『シグナス』も混じって、彼らの輪に加わって楽しげに会話をしていた。

 一方でお披露目の瞬間を取材及び生中継すべく舞台の前には、多数のカメラマンやタブレットを携えた記者、およびマイクを持ったリポーターをはじめとする報道陣の姿もおり、一部は会場への来客者にインタビューを行っていた。

 エックス達とて、幾度となく活躍を重ねてきた立役者には違いないが、身も蓋も無い言い方をすれば、重役のシグナスとは違い一公務員。 周りにいるやんごとなき人々を考えれば、弁えてはいるとは言え浮いているような感はあった。

 実際、特にメディアに露出した事のある訳でない、着飾ってはいるが雰囲気や立ち振る舞いから、一般層と思わしき人々はまばらでほとんど見受けられない。

 ではどうして、そんな華やかな会場に彼らがいるか、理由は勿論警備の仕事と言う訳ではない。 

 

「しかし驚いたわ、まさかエックスが新型衛星の名称に応募していたなんて……お陰でこんな華やかなパーティーに招待されるなんて、貴方には感謝しているわよ?」

「うーん、俺には身に覚えのない事なんだけどなぁ……」

 

 エックスが世間のちょっとした話題に乗っかっていた事を、肩回りを露出させた桃色のドレス姿のエイリアが驚いた様子で口元に手を当てて、青いヘルメットをつけたままの、しかし首から下は普段のボディ色に合わせた青いタキシードを身に着けるエックスが、困った様子で頭を掻いていた。

 彼らがこのパーティにいる理由。 エイリアが言うように『エックスが』この度完成した新型衛星の、名称の一般公募に見事入選を果たしたから。

 このパーティーにおけるエックス達一般客が少ないのも、完全招待制と言う形態をとっているからで、一般人が参加するには名称に応募し、入賞を果たさなければ招待券が届かない。

 つまり、エックス達を含むここにいる彼らは、幾重の選考を突破した幸運な方々なのだ。 このホテルに1泊2日で宿泊する権利も与えられた今回の招待客、皆が皆興奮に色めき立っているようだった。

 

「まだそんな事言ってるのかエックス? あんま謙遜すると嫌味になっちまうぜ?」

「そうですよぅ。 技術職の私達を差し置いて、しっかり入賞してるんですもん。 正直ちょっと悔しいぐらいですよ」

 

 あくまで記憶にないと憚らないエックスを見て、笑顔だが窘めるような態度で接するはハンターベースが技術屋2人、緑のメットに赤いグラスのついた専門家の『ダグラス』と、時にオペレータ業務も兼任する少女型レプリロイドの『パレット』である。

 2人して役柄も相まって、以前から告知されていた新型衛星の件については、並々ならぬ興味を抱いていたらしく、建設と共に応募の締め切りも早まったと言うニュースが流れる以前から、実際に名称の一般公募にもいち早く応募していたと公言する程であった。

 それを知っている程度で特にそこまで関心がありそうに見えないエックスが、入賞をかっさらった事を羨望の目で見ており、特にパレットの方は頬を膨らませて若干むくれているようだった。

 

「……本当に知らない事なんだけどなぁ」

 

 状況を今だ把握できていないような様子で首を傾げるエックス。 そんな彼らの元に、先程からしきりに来客者へのインタビューを行っていた報道陣が一斉にやってきた。

 

「すみません、お時間をいただいてもいいですか?」

「イレギュラーハンターのエックスさんですね? 今日ここにいらっしゃったのは、件の一般公募に入選したからと――――」

 

 集まるなり、撮影用の大小さまざまなカメラを向けられ、フラッシュをたかれ、リポーターから一斉にマイクを向けられる。

 

「な、何ですか? ちょっと待ってください! 俺……いや私はそんな事実は」

「答えてやんなよエックス。 堂々としなきゃ17部隊隊長の名が廃るってもんだぜ?」

 

 有無を言わさず取材を敢行してくる彼らを前にエックスも慌てるが、ダグラスは文字通りそんなエックスの背中を前に押してやる。

 エックスは困惑を隠し切れない様子で目線を仲間たちに向けるが、彼らはそんな青いハンターの様子を生温かな目で見つめるばかり。

 

 

 一方でゼロは一歩も二歩も離れた位置から、一方的にインタビューを受けるエックスを中心に、和気藹々と話に花を咲かせる同僚達を眺めていた。

 特に視線の中央には、しきりに困ったような様子で取材を受けるエックスが映る。

 

「……まさかこんな事になるとはな」

 

 進んで着るつもりもなかった、しかしエイリアに最低限の礼儀として半ば無理矢理着せられた、エックスと同じようないで立ちの赤いメットと真紅のスーツが、今は冷たく湿っていて気持ちが悪い。

 エックスが今回完成披露会に招かれたきっかけに、全く心当たりがないと困惑している様子を見る度、ゼロは心中穏やかでいられなかった。

 当然だ、エックスの応募メールを出したのは他でもない自分なのだから。

 

「(エックスが本当に応募した記憶がねぇなら、アイツの名義で名前出したの俺ってことなんだよなぁ……必然的に!!)」

 

 1か月前のあの時……エックスと口論の後にたまたま見かけたニュースを見て、彼へのちょっとした当てつけのつもりで、つい勢いで応募してしまった事を少なからず後悔していた。

 しかもご丁寧に、青い相方の名前まで使ってロクでもない名前を送り付けると言う、完全に時間差で喧嘩を売るような行為。

 

「(やべぇよ……やべぇよ……。 もし……『あんな名前』が壇上で読み上げられたら、今度こそエックスに殺される)」

 

 ゼロは己の迂闊さを呪っていた。 まさか自分自身一般公募に受かるなど、微塵も考えていなかったからだ。

 エックスの名義で変な名前を送り付け、精々応募内容を選別する連中の笑い話になればいいと、冗談半分で特に深く考えていなかった彼に、冷や水をぶっかけるがごとく選考突破と言う事実を突き付けられ、このパーティーに招待される事態となったのが今回のいきさつであった。

 発表の後に確実に訪れるであろう惨劇に、ゼロは身が震えるような思いをした。

 

「ねぇゼロ、本当にいいの?」

「おぅふ!!」

 

 このままでは制裁待ったなしの状況を恐れる中、不意に背後から少年らしき存在に声をかけられた。 つい吹き出してしまったゼロには聞き覚えのある声だった。

 慌てて後ろを振り向いてみると、エックスとゼロとは違いヘルメットは身に着けていない、癖のある跳ねた茶髪と眉間に×文字の傷をつけた、着慣れないスーツを窮屈そうに襟を揺するアクセルがそこに立っていた。

 

「お、脅かしてくれるなアクセル」

「別にそんなつもりはないよ……しっかしいつものアーマーじゃないと落ち着かないね」

 

 アクセルもまた、エイリアに無頓着を咎められる形で正装させられたらしく、着心地の悪そうな様子を隠そうともしない。

 いつものアクセルらしい様子に、ゼロは胸を撫で下ろす。 しかし、置かれた状況に後ろめたさを覚えるゼロを見透かしたように、アクセルは冷めた視線を送りながら、しかし周りの耳に入らないように声の音量を下げて話を切り出してきた。

 

「ま、そんな事はどうでもいいや……エックスの名義で送ったのアンタでしょ?」

 

 図星である。 心臓を鷲掴みにされるような感覚に支配され、ゼロは何も答えられなかった。

 驚愕に総毛立ってからの束の間を空け、ただでさえスーツの下を水浸しにしていた冷や汗が、額を滝のように流れる程に出しながら目線を泳がせる。

 動揺を隠せないゼロの仕草を見て、無言の肯定と受け取ったアクセルはため息をついて話を続けた。

 

「誤魔化さなくったっていいよ……あの時僕も隣にいたんだし。 その慌てようを見るに、どうせロクでもない名前送ったんじゃないの?」

 

 本当に何から何までお見通しなアクセルに、ゼロは圧倒されるしかない。 いつになく弱気になりそうになるが、しかしアクセルはお構いなしに話を続けた。

 

「別に呼ばれてやってきたパーティー、皆して即追い出される訳でもないだろうし。 エックスが知らない内にさっさと運営に話付けて、取り下げてもらった方がダメージ少ないんじゃない?」

「お、俺は「ゼロさん……?」

 

 アクセルに見透かされてしどろもどろになる中、今度は落ち着きのある女性の声がゼロを呼んだ。 話の途中だが再び背後を振り向いた。

 ゼロの目にまず飛び込んできたのは、小さく揺れる横に白い帯の入った褐色の2つのメロンだった。 飛び込んできた見事なものに視線を奪われるが、声の主を確かめようと目線をゆっくりと上げる。

 

 普段は長い紫の髪の毛を頭の後ろでまとめ上げ、前髪で隠れている瞳が顕となった褐色の美女。 エイリアやパレット達のそれよりも露出の多い、胸の下と長いスカートに太ももまでスリットの入った白い煽情的なドレスを身にまとう。

 近くに寄った男性の視線を釘づけにしてやまない彼女は、普段はエイリア達と同様オペレーター業務で主にゼロのサポートを買って出る。

 

「レ、レイヤー……!!」

「と、特に用事があった訳じゃないんです……ただ、先程から気難しい顔をしていたので……」

 

 ゼロが目を見開いて呟く彼女『レイヤー』が、赤らめた頬に手を当てて気恥ずかしそうに立っていた。

 どうやら彼女はエックスにイタズラがばれて、制裁と言う名の恐ろしい報復を受けるかもしれないと言う、この上ない自業自得に身が震えるゼロを心配して声をかけてきたようだ。

 それにしても余り自己主張をしない普段の彼女と比べ、うってかわって魅惑的ないで立ちでやってきた事を受け、ゼロはレイヤーの胸元を文字通りガン見していた。

 今のゼロにとって、エックスにやましい事がばれる事よりも、目の前にぶら下がる見事な両果実の存在しか頭にない。

 

「もう、そんなに見られたら恥ずかしいです……」

 

 身をよじりながら両腕を組んで胸元を隠すレイヤー。 自己主張するドレスと裏腹に、恥じらいがあるような仕草をする彼女。

 ――――見事だ。 ゼロはレイヤーに対し、頭の中で最大級の賛辞と共に拍手喝采していた。 普段なら控室での着替えを覗きに行くぐらいの気概はあったが、必ず訪れる恐るべき結末に気を取られ、貫くべきエロをおろそかにしていた。

 それを彼女は身をもって、ゼロにあるべき下心を取り戻させてくれたのだ。 自らの身を案じ、おっきなメロンを揺らしてやってきた献身的なレイヤーにゼロは感激する。

 

「…………ありがとう、そして……ありがとう!」

 

 目頭が熱くなり、流せるはずのない涙と鼻汁がゼロの両目と鼻の穴から滝のように流れ、満面の笑顔で親指をおったてた。

 賞賛の言葉を口にしながら感涙するゼロのリアクションに、レイヤーは照れを隠しながらも、無言で両拳を握り締めガッツポーズを取る。 どうやら彼女なりに手ごたえを感じたらしい。

 

 しばし眼福の一時を堪能したゼロは、目に溜まった涙と滝のように流れ出る鼻汁をぬぐい、うって変わって真剣な表情になるとレイヤーの手を取った。

 

「レイヤー」

「……はい」

 

 彼女の名を口にする。 レイヤーも神妙な面持ちでゼロの次の言葉を待つ。

 

「チョメチョメしよう」

「喜んで!」

 

 レイヤーの服装を『お誘い』と受け止めたゼロは、彼女の求めに応える事とした。 振り絞ったであろう勇気が伝わったと確信したレイヤーは、無論2つ返事でOKをだす。 燃え上がる2人にこれから暑い夜が……。

 

「何言ってんのゼロ!? 今はそれ所じゃないでしょッ!!」

 

 始まりそうになったのを、間を割って入ってきたアクセルが強引に制止した。 身を寄せ合おうとしたゼロとレイヤーを両腕を開いて引きはがしにかかり、ゼロは野暮な乱入者に対し眉をひそめるも、すぐに気を取り直し余裕の笑みを浮かべた。

 

「男の嫉妬はみっともないぜアクセル」

「関係ないよッ!! ってかエックスはどうなんの!? アンタ『例の名前』が壇上で読み上げられたら、色々と終わるかもしんないんだよ!?」

 

 ムードをぶち壊しにした事よりも、あくまでそれ以上の危機を払うべく努力しろと訴えるアクセル。 落ち着いていられない様子のアクセルの両肩に、ゼロは手を乗せた。

 

「いいかアクセル、よく聞け」

 

 アクセルを諭す様に、ゼロは落ち着いた様子で口を開いた。

 

「今日この場で衆人環視に晒すのを覚悟で、レイヤーはそう言うドレスを着て俺の元へやってきた。 これが意味する事は一つだ」

「……それで?」

「分からんのか? レイヤーは『勝負』しに来たんだ。 ならばそれを全身全霊をもって受け止めるのが男と言うもんだ」

「受け止めなきゃいけないのは現実でしょ!? 何度も同じ事言わせないで――――」

 

 今のゼロには何を言っても無駄である。 何故なら彼の今の電子回路はエックスの逆襲より、夢がたっぷり詰まったレイヤーの両胸で満たされているのだから。

 恥じらいながらも出るとこ出てきた彼女と合体する事で頭が一杯なゼロは、全くもってアクセルの切実な訴えを意に返さない。 と、言うよりは返していられないと言った方が正しい。 

 エックスが一度怒れば、何らかの形で自らもとばっちりを食らうと心配しているのだろう。 そんな必死なアクセルの言葉を無慈悲にも叩き切る様に、控えめな明るさだった会場の照明が消え、照らされているのは壇上のみとなる。

 アクセルたちを含む会場にいる全員が壇上へ振り向くと、スーツ姿のレプリロイドの男が垂れ幕で隠れた舞台裏から姿を現し、あらかじめ舞台の中心に備え付けられていたマイクの元へ颯爽と歩いてきた。

 男性はマイクの前に立つと、数回マイクの音量テストに短く声を出し……しばしの間をおいて舞台挨拶を始めた。

 

「紳士淑女の皆様、お待たせいたしました。 本日は新型衛星の披露会にご来場いただぎ、誠にありがとうございます」

 

 ……どうやら遂に披露会が始まってしまったようだ。

 穏やかに、しかしマイクの力もあって強い男性の声が会場内に響き渡り、報道陣を含む全員が舞台を注視する。 説得虚しく発表差し止めと至らず唖然とするアクセルをよそに、ゼロは構わず小声でレイヤーに目線を送り、彼女の肩に手を置く。

 

「……レイヤー、今の内に抜け出そう」

 

 レイヤーは少し困惑した視線をゼロに返した。

 

「いいんですか? 仲間の披露会なのに……」

「フッ、あいつも男と女の情事に口出しするほど野暮じゃないさ」

「口じゃなくてバスターが飛び出るかもしれないけどね」

 

 レイヤーとのめくるめくひと時が大事だと憚らないゼロに、すっかり脱力したアクセルが皮肉を言うも、やはりと言うか意に介さずむしろヒねた言い回しで応酬する。

 

「あいつのより俺の自前のバスターのがご立派だぜ。 さて、行くぜレイヤー……折角入賞のプレゼントにホテルの宿泊権ついてるんだ、ありがたく使わせてもらおう」

「もう……エックスさんごめんなさいね?」

「今夜はオールナイトだ、明日まで寝かせないぜ……チョメチョメ~♪」

 

 まさに危機感ゼロ! エックスと言う迫り来る影を放置して、何も知らずただゼロの気を引きたい一心で誘惑してきた、レイヤー(据え膳)とのホットな時間を過ごす事を優先したゼロは披露会そのものをすっぽかす事に決める。

 レイヤーをエスコートしながら、力なくこちらを見つめるアクセルを置いて、皆が進行する披露会に目を向ける中を縫うように、2人して出て行ってしまう。

 

 そんな2人に、アクセルの呟きなど聞こえる筈もなかった。

 

「……明日が来るとは思えないけどね」

 

 アクセルが不安を募らせると同時に、ゼロのいたずらを断罪する欠席裁判の時は刻一刻と迫る。

 

 

 




黄金銃(意味深)を持つ男。 レイヤーを撃ち抜く為に会場から抜け出す。
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