〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2 作:Easatoshi
エックスは土壇場でやらかした。 マックだけでも倒せるかもしれない最後のチャンスを、盛大な武器選択ミスでフイにしてしまった。
「しまったああああああああああああっ!! 俺とした事がこんな所でミスるなんてえええええええええええッ!!」
「何やってんだエックス!! 俺が折角外してやったのに!!」
「ってか前の変装に使った道具残ってたの!? さっさと処分しないからこんな事になるんじゃない!!」
「うわあああああああああああああ!!!! やらかしたあああああああああああああああ!!!!」
発狂するエックス達を冷めた視線で見つめながら、マックはへばりついた手形はそのまま、先に射撃を遮る為扉を閉じるようクジャッカーに指示する。
「……おい、扉を閉じろ」
<……了解よ>
扉は収納されるタラップと共につつがなく閉じられる。 この無人機は軍用の物を流用しているだけに、ちょっとやそっとの一撃では穴をあける事は出来ない。
何よりこちらには人質がいる。 彼が一緒に乗っている以上、おいそれと機を撃墜する事もできないだろう。
マックは背後にて反抗的な目つきで睨みつけるホタルニクスに、ほんの少しだけ視線をやっては直ぐに扉の方に向き直す。
そして壁にかけてあった有線式の通信機を手に取ると、出力先を拡声器に繋ぎながら――――
「聞こえるかバカ共、今爆弾のスイッチを入れてやったぞ」
マックは扉の窓越しに、拘束されながらも取っ組み合いが始まりそうな騒がしい3人を眺めながら、死刑宣告のボタンを押した事を告げる。
すると3人はこちらの声と共に動きを止め、ゆっくりと残して置いた爆弾のタイマーに目線をやった。
カウンターをまじまじと見つめている彼らに対し、マックは嗜虐的な笑みを浮かべとどめの一言を告げる。
「時間は『あの時と同じように5分』に設定しといたぜ! 精々あがいてみせるんだな! ……クジャッカー、出せ」
<了解。 それじゃあ3バカ達、生きてたらまた会いましょうね、 生 き て た ら >
クジャッカーの高笑いと共にジェットエンジンの出力が上がり、本機はゆっくりと穴の開いた壁から離れ、エックス達を取り残した廃ビルは見る見る内に遠のいていった。
マックの心は実に晴れやかであった。 不法侵入の上に証拠の隠滅から放火され、おまけに天井に穴をあけると言う侵入方法のせいでスプリンクラーが作動せず、夢と希望とかつての仲間達の情熱が詰まった自分の城を丸焼けにされた恨みを、半年かけてようやく晴らす事が出来たのだから。
高度を増し地上から離れていく風景をマックはただ眺めながら、胸元に張り付いた手形を引っ張っていたが――――
「……面倒だ、基地についてから剥離剤で剥がすか」
何度か引っ張ってみたが、粘りが強く引きはがせる様子もない手形。
どうせバスターを撃つつもりでやらかしただけの代物だ、せいぜい奴らのバカな行動の末路と見なして放っておこう。 マックはそのように思って手形から手を離した。
<奴らも終わりねボス。 ……で、話を持ち掛けてきたキンコーソーダーはどうするのかしら?>
「俺も分かった上で話に乗ったが、それでも奴がエックス達をけしかけた事実に変わりはない。 無論始末をつけるつもりだが、奴の持っているコネも中々のもの。 今は捨ておいて衛星を奪った後にじっくりと料理してやろう」
<フフフ、生かさず殺さずしゃぶりつくすって訳ね>
「その通りだ。 だがお前がしゃぶるなんて言葉を使うと違う意味合いに聞こえるな」
<何よ、失礼しちゃうわねぇ>
陰謀をほのめかすマック達に、キンコーソーダーの裏切り行為を見逃すつもりはなかった。
エックスに捕まった事のある彼の身の上から、件のハンター3人をけしかけてくる事に気づいた上で、あえて知らない振りをしていたが、それでも彼が嘘をついた事に変わりはない。
この件で相手の弱みを握ったも同然であるマックは、既にキンコーソーダーからどのように搾取するか算段を立てていた。
「……マックよ、お前さんも堕ちたもんじゃな」
不意に、後ろで縛られたままのホタルニクスが口を開く。
「あれだけビジネスに熱心だったお前さんが、よもや犯罪組織を率いて衛星を奪おうとするとはな……何があったかは敢えて問うまいが、誠実だった頃のお前さんを知っている身としては儂は悲しいぞ」
マックは振り返った。 険しい表情と裏腹にどこか悲し気に口を開くホタルニクス博士に対し、彼もまた言葉を返す。
「結局は闇に身を落とした立場です。 身の上について言い訳をする気はありません」
マックはゆっくりと歩を進め、ホタルニクスと目線の高さを合わせるように片膝をつく。
「が、ホタルニクス博士。 果たして貴方に私を非難出来る資格はありますかな?」
「……何の話じゃ?」
こちらだけの落ち度でないと取れる発言に、僅かながらホタルニクスは眉をひそめた。 しかしマックは口元を吊り上げ言葉を続けた。
「貴方には心当たりがある筈だ。 そう、件の衛星誤射の原因を突き止めようと我々が対応に追われていた時、貴方は紛失した私物を探すのに躍起になっていたそうですな?」
「――――ッ!!」
マックが当時のホタルニクスの行動を引き合いに出すと、彼の表情が凍り付いた。
目を見開き息を詰まらせる博士であったが、少しの間を置いて口を開く。 その声色は震えていたが。
「わ、儂としても不謹慎じゃったと思う……危機的状況にも気づかずに、取るに足らん自分の身の周りを片付ける事ばかり考えていた」
「それはありえない」
状況を無視して私事を優先した事を謝罪されるも、しかし彼の言い分に対するマックの考えは別の所にあった。
「博士……責任感の強い貴方が、開発に深く関わった衛星のトラブルに頓着がないとは思えない。 むしろあの状況でいの一番に動いたからこその行いでは?」
「な……あ……!?」
ホタルニクスの人柄をよく知る身としては、一連の行動を不謹慎と吐き捨てる彼自身の言い訳こそが、下手な言い逃れ以外の何物でもなかった。
目に見えて狼狽える博士の態度にマックは確信する。 彼は原因を既に突き止めているどころか、自分達の知らない何かを知っていると。
「ホタルニクス博士、正直にお答え願いたい」
マックの頭の中で大体の答え合わせは済んでいる。 後は疑惑を確信に変える為に一気に畳みかけるだけだ。 マックは率直に自分の考えを述べた。
反論さえ許さない強い語気で、ホタルニクスに迫るマック。
しばし輸送機のエンジン音だけが機内を支配するが、壁際の椅子に座り込んでいたホタルニクスの腰がずり落ち、蛍たる由縁のご自慢の尾が地面をつく。
どうやら肯定と見て間違いはないようだ。 誘拐されても毅然とした姿勢を崩さなかった彼が、今更尋問に怯えたとは思えない。 どちらかと言えば問い詰めた内容、それが核心を突いていた事によるショックだろうとあたりを付けた。
「博士、我々の間に信頼関係はなかったようですな。 いやはや、まさかそのような隠し事をなさっていたとは残念です」
「ち、違う! 儂はそんなつもりは――――」
「悪用を恐れて我々に打ち明けなかった、とでも言いたいのですかな? まあ、今更そんな事を責めるつもりはありませんよ」
抗弁と言うにはあまりに弱弱しいホタルニクスに、失望したかのようにため息をつくマック。
尤もマックの仕草は『フリ』であり、ホタルニクスへの責任追及には全く興味がない。 今現在博士から欲しいものは、彼が話題をそらそうとしていた『私事』そのものなのだから。
「私が今興味があるのは貴方の無くしたと言う例の物ですから。 で、それはどこにあるのですかな?」
「ッ!! し、知らん! 儂は知らんぞ!?」
マックが尋ねると、気力を失いかけていたホタルニクス博士が突如躍起になった。 これにはマックも少しばかり驚いた。
「ほう、この期に及んでとぼけるとは……伊達に開発主任を務めただけの事はありますな」
「違う! 本当に儂は――」
そこまで博士が言いかけた辺りでマックは右手を上げた。
「中々に気丈な御仁ですね。 ……まあ、慌てて聞く必要もありますまい」
マックは身を翻してホタルニクスに背を向けると、何やら機内の片隅にある、腰のあたり程の高さに掛けられている生地をつまむ。
「貴方の身柄を押さえ、奴らハンターが我々に繋がる手掛かりを失った。 当面の障害がなくなった今、基地に戻ってからじっくりと話を聞く時間はありますからな……貴方の可愛がっている『彼女達』と共に」
「何ッ!?」
動揺を隠せないホタルニクスの声を背に、マックは邪悪な笑みを浮かべ一気に生地をめくり上げた。
機内を舞う生地の中から現れたのは――――
敵の親玉を目の前で取り逃がし、遠のいていく姿をむざむざと見せつけられ、お通夜の様な静まり返った雰囲気の中、アクセルはただ失意の内に爆弾のタイマーを眺めていた。
既に彼はコピーチップの機能を解除して元の姿に戻るも、依然として拘束が外れた訳ではなく、無慈悲に減っていくカウントは現在『04:32』を表示しており、既に貴重な30秒近くを無為に過ごしていた。
「……やってらんないよ。 折角のチャンス全てフイにしちゃうなんて……」
アクセルはため息をついた。 ただでさえ出だしから訳の分からない変装で大ゴケして、気を取り直して中に入ってみたと思えば、全ての行動が筒抜けであった。
そしてまさかのエックスの武器チェンジミス。 これで気落ちするなと言う方が無理があった。
「まあ気を落とすなアクセル。 おかげで上手くいった」
「そうさ、悲観している暇はない。 むしろこれからが本番だ」
「ファッ!?」
一方で当のエックスとゼロの二人は先程のパニックもどこ吹く風か、あっけらかんとした様子で不貞腐れるアクセルを窘めた。 2人の態度にアクセルは不満の声を上げる。
「あれが上手くいっただって!? 本番どころか完璧に終わっちゃってるじゃない!!」
激高するアクセルを前に、エックスとゼロは動じない様子で顔を見合わせた。
「落ち着けアクセル。 果報は寝て待てって言うだろ……」
「ビーコンに不備さえなければ、後はエイリアが信号を拾ってくれる筈だね」
「問題ない、俺が入念に仕込んでおいた発信機だ。 信頼性と精度は保証する。 マックもあの様子じゃ気づいていないだろう」
「――――え?」
してやったりといったような余裕のある口ぶりの2人に、アクセルは呆気にとられ間抜けな声を上げた。
発信機とは何ぞや? 2人の言っている意味を理解しかねているアクセルにエックスが告げる。
「さっきマックに撃ち込んだ『ハリテ・バスター』さ。 あの中にはマックの動きを追跡できるように発信機が埋め込んであるんだ」
「もし正体がバレて逃げられそうになった時を考えてな。 俺が最初のミニスカサンタとスモトリの変装をする時に用意しておいた」
「えええええええええええええええええええッ!?」
突如告げられた衝撃のカミングアウトにアクセルも驚きを隠せなかった。
ただの間抜けな変装とそれを原因とする痛恨のミスだとばかり思っていたのに、加えてこっそり発信機を用意していたと知らされていなかった事にショックを受けていた。
「ひ、人が悪いよ2人共!! どうして僕1人だけ大事な事教えてくれなかったのさ!!」
「悪かったなアクセル。 マックを騙そうと思ったら素の反応が必要だと思って、あえてお前1人だけ何も言わないでおいた」
「演技を見抜かれて、折角くっつけた発信機を装甲ごと強引に剥がされる可能性もあったからなんだ。 隠していて済まない」
「な、なんだよそれ……心配して損した」
どうやら全て計算尽くの行動だったらしい。 たった1人余計な心配をさせられて、一気に気が抜けて首を垂れるアクセル。
まあ落ち着いて考えれば、経験豊富なエックスならあれが仮に本当のミスだったとしても、焦らずに通常のバスターに切り替え再度射撃を試みていた筈だろうし、何より本当にマックを倒せていた所で組織そのものが無くなる訳でもない。
脱力しながらもアクセルは頭の中で一人納得した。
……それだけに解せないのは、何故よりによってミニスカサンタとスモトリみたいなガバガバのザルな変装をチョイスしたのか。 2人して口裏を合わせ隠し事をされた事など、それに比べれば些細な事であった。
「……って、のんびりしてる場合じゃないや!! 爆弾のタイマーは!?」
不意に気を取り直したアクセルが、変わらずに動きつつけている爆弾のタイマーに目をやった。 カウントは丁度残り3分を切った所であった。
「やばっ!! 早くワイヤー外さなきゃ!!」
「まあ残り時間3分なら何とか脱出できるか」
「マックの野郎、5分なんて微妙な時間設定しやがって!」
刻々と減っていく残り時間に文句を言いながら、3人は各々体の拘束を解こうと身を捩った。
「ゼロ、ワイヤーカッターは使えるか?」
「ダメだ。 さっきお前のワイヤー切った時に刃こぼれしちまった。 細工用のニッパーみたいなモンだから軍用のワイヤー切るようにはできてねぇ」
「じゃあ仕方ない。 普通に縄抜けするしかないか」
依然として体を締め付ける拘束用のワイヤーに面倒臭さを感じるエックスとゼロ。
そんな中、アクセルもまた束縛から逃れようとワイヤーと格闘している中、ふと違和感が脳裏をよぎった。
エックス痛恨の武器選択ミス(ミスとは言っていない)
そう言えばもう今回で20話目ですね……洋画のDVDよろしくチャプター毎に話分けてもいい頃かなとか考えてたり。