〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

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第21話

 マックが去り際に残していった言葉がアクセルの心に引っかかる。 あの時と同じ……と言うのは言うまでもなく『MEGA MAC』炎上の事だろうが、それだけに5分と言う時間が気になって仕方なかった。

 変に心地の悪い、アクセルは妙な胸騒ぎを覚えながらワイヤーから抜けていくエックス達に尋ねてみた。

 

「ねえエックス、ゼロ。 アイツの言った5分って本当かな?」

 

 アクセルの問いかけに、エックスとゼロは2人して首を傾げた。

 

「どういう事だアクセル?」

「いや、何て言うか。 僕には何となく裏がある感じがして、とにかくもっと急いだほうがいいんじゃないかって思うんだけど」

「そうか? 単に俺達を焦らせる為のハッタリじゃないのか?」

 

 2人は特に気にしていない様子だったが、しかし違和感を拭えないアクセルは小さく唸るばかり。

 

「……ほら例えばさ、マックは『あの時と同じ』って言ってたし例の火災にヒントがあるとか?」

「全く分からん。 じゃあ逆に聞くがアクセル、思い当たる節はあるか?」

「! えーっと……」

「分かってるだろうが俺達が火事に気が付いたのは、クジャッカーを倒して社長室の天井ぶち抜いた後だぜ? 第一そもそも爆弾なんか仕掛けてねえ」

 

 アクセルの感じた疑問をバッサリと切る様に、てきぱきと縄抜けならぬワイヤー抜けを進めるゼロがきっぱりと言い切った。

 マックが逃げる時まるで彼は、自分達が時間の段取りをして放火に及んだような物言いをしていたのは記憶に新しい。

 しかしゼロが言うように、火事が起きたのを知ったのは実際に延焼して手遅れになってからの事で、見計らったように放火を行った訳でもなければ、ましてや証拠隠滅なんて意図もない。 思い当たる節なんてそもそもなかった。

 盛大に彼の城を焼いてしまった責任の有無はさておき。

 

「――――僕の思い込みだったのかな?」

 

 どこか腑に落ちないながらも、アクセルは思考を打ち切った。

 本当は色々と突っ込んで考えたい所であるが、気を取られて爆発に飲み込まれてしまえば本末転倒であった。

 

「そうだぞアクセル。 今はワイヤーを外す事に集中しろ。 本当に逃げ遅れるぞ?」

「フン。 爆発する前にさっさとずらかるぞ?」

「……そうだよね。 時間は実はたった3分でしたとかそんな事ないよね! わかったよ、とっととここから脱出しよう」

 

 エックス達に諭され、アクセルは気を引き締めてワイヤーの拘束からの縄抜けを試みる。

 しかし残された時間は既に半分を切っており、爆弾のタイマーは『02:00』を指し示した所であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――予定調和と言わんばかりに、爆弾は見事に爆発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはキンコーソーダーにとって絶好のチャンスであった。

 

 こちらの存在を忘れて呆気にとられるハンター2人組の視線の先、ハンター3人と『ヤァヌス』幹部の集合場所であった、廃屋が軒を並べる中一際大きいビルから轟く大揺れと崩れ行く光景。

 どうして爆発が? まさか失敗したのか? それさえも考える隙さえ無く、作戦開始まで彼をさんざん悩ませた懸念材料を、文字通り吹き飛ばす程の予想外の出来事。 土台を崩され上階が下階を押し潰していく様子はさながら、裏切りは許さないとエックスの刺した楔が抜け落ちる姿に重なって見えた。

 

 ――――今しかない!

 

 行動は自身でも驚くほど早かった。 降って湧いた好機を前に衝動的に突き動かされるまま、首輪の錠前のカギと武器を腰に持つ右側のハンターに背後からタックル!

 突然の事に対処できず地面に転ぶハンターの上にのしかかり、銃を奪っては慌てた様子で武器を抜こうとする相方の方へすかさず数発!

 右腕と脳天を撃ち抜き排除、体の下でもがいて首輪のスイッチを入れようとするハンターの後頭部にも一発。 あっという間に見張りのハンター達を片付けた。

 

 銃を腰に携え首輪のカギをひったくり、死体を転がしたままその場を後にして走るキンコーソーダーの向かう先は……崩落した廃ビルのあった場所だった。

 このまま闇に紛れて逃げ切るのが正しいと分かってはいたが、長きにわたって自信を悩ませてきたアイツの安否を確認せずにはいられない!

 ビルが崩れ去るなど予想外の出来事であったが、ひょっとしたら脱出に成功しているかもしれない。 だがもし確実に死んでいると分かったら……!!

 

 鍵を使って首輪を外しながらも無我夢中で現場に向かうキンコーソーダー。

 距離はそれほど離れてはおらず、走って数分程度の崩落現場に近づく度、巻き上がる土埃の濃さが視界を遮っていく。

 負けじと土埃を掻い潜り、迷路のような廃ビルの路地裏を通り抜け、ついに現場に近づいたその先には――――ッ!!

 

 

 

 長年持ち主になる誰かも現れないまま雨風に姿を晒し続け、ついには朽ち果てる前に爆破されたかつての廃ビルの無残な瓦礫の丘。

 隙間から窺えるは痛々しく凹んだ青と黒の2つのヘルメット。 そして丘の頂には黒の素地に白いブリーフっぽいパーツ、赤色のグリーブを身に着けたレッグパーツが逆さまに突き刺さり、ギャグ漫画よろしく足を曲げてつま先を痙攣させていた。

 言うまでもなく、エックスとゼロ、そしてアクセルとか言うガキンチョハンターのなれの果てであった。

 

「は……はは……」

 

 キンコーソーダーは薄笑いした。

 体が勝手に動いた、と言わんばかりに見張り2人を始末して、誘われるようにやってきた崩落現場で目の当たりにした、目障りなイレギュラーハンター達の無残な姿。

 目の上のタンコブであった彼らの最後に、キンコーソーダーは興奮せずにはいられない。

 

「はははははははははははッ!! ざまぁみやがれぇッ!!!!」

 

 腹の底からこみ上げる歓喜をぶちまけるように、キンコーソーダーは叫びながら瓦礫の丘を駆け登る。

 実にいい気味であった。 自らが頼み込んでアポイントを取った会合が、爆発オチで締めくくられた事など些細でしかない。

 特にエックスが埋まっている辺りで狂喜乱舞し、何度も地団駄を踏みコンクリート片に沈んでいるエックスを蹴りつける。

 特に恨みの強い青いハンターの上に立ち、マウントを取るような行動が一層キンコーソーダーの嗜虐心を煽る。

 

「散々ビビらせやがって! いい気味だ! 一生そこに埋まってやがれバーカ! テツクズ! ブルマンX!!」

 

 一発一発強く踏みつける度、実に気持ちが良く晴れやかになる。 キンコーソーダーは力の続く限り何度も踏みつけた。

 何度も、何度も!

 

「……死ねッ!! ……死んじまえッ!! ……ハァ……ハァ……」

 

 が、逃走直後からのストンピングは流石に体にも堪えたか、息切れと同時に踏みつける足の勢いも衰えていく。

 

「ッハァ……もうこの辺にしといてやるか……ククク……」

 

 遂には踏みつけるのを止め、肩で息をしてひと段落つくキンコーソーダー。 体の疲れが先に来たが、とりあえず鬱憤を晴らす事は出来たようだ。

 

 休憩と共に頭の方も少しずつ冷静さを取り戻していく中、キンコーソーダーは早速思考を巡らせていた。

 ビルごと爆破されて瓦礫の下敷きになったと言う事は、少なくとも彼らは失敗した。 それもネズミとして潜り込むと言う意図を読まれ、待ち伏せされていた可能性がある。

 向こうが最初から気付いていたかどうか、そんな事は関係ない。 問題は彼らの敵対勢力をけしかけると言う裏切りの図式が成り立っていると言う事だ。

 いずれはこの行為が後を引くか、最悪抹殺される危険性がある。 闇の住人である彼らにして、契約違反がどのような結果を招くかは痛い程に良く知っている。

 ここはほとぼりが冷めるまで暫くは身を隠す必要がありそうだが……それでもエックス達と言う最大のリスクが消えてくれた事の方が今は大きかった。

 ひとまず落ち着いたとは言ったが、それでも心の昂ぶりはまだ消えておらず、あと一回、あと一回だけは腹の底から大きく叫びたい気持ちであった。

 

 キンコーソーダーは自分の気持ちに最後の区切りをつける為、両手を握り締め腕を曲げてガッツポーズを取り、もう一度だけ廃墟の静寂を裂くような歓喜の叫び声を上げた。

 

 

「俺は自由だあああああああああああああああッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――それはキンコーソーダーにとっては一瞬の油断だった。

 興奮に燃え上がる彼の心に冷や水をぶっかけるがごとく、むしろ液体窒素を浴びせかけるような、冷たい何かが彼の足首を掴んだ。

 突然の違和感にキンコーソーダーは首を下に向けようとした。 しかしそれは叶わない。

 

「 俺 の 名 前 は ロ ッ ク マ ン X だ 」

 

 瓦礫の底から響く凍てつく程に冷たい声が、キンコーソーダーの全身を硬直させる。

 天を仰ぐようなガッツポーズのまま身動きが取れず、遅れてやってきた背筋が凍るような悪寒が彼の体を震わせた。

 

「ち、違う……俺は『ヤァヌス』に告げ口なんかしてない……アンタらが爆発に巻き込まれたのは俺のせいじゃねぇ……!!」

 

 全身の震えの中声を絞り出し、何とか必死で弁明をしようとするキンコーソーダー。 最早勝利に酔いしれていた彼の姿はそこにはなく、非情な宣告だけが無慈悲に突き付けられる。

 

「見張りを振り切り錠前まで外して一人で逃げた…… 十 分 俺 達 を 裏 切 っ て い る 

 

 マック達と口裏を合わせたかどうか、そんな事は最早関係なかった。

 ……折角逃げ出すチャンスができたのに、何故崩落現場に行こうと思ったのか。

 日頃リスク管理を徹底する彼が、何故今回に限って死体をわざわざ確認に行ったのか。 瓦礫の下敷きになった彼らを見て何故その場で満足しなかったのか。

 ひょっとしたら崩れ去るビルの姿は、少なくともキンコーソーダー自身にとっては、欲深な者を財宝で誘い込んで陥れる為の罠でしかなかったか。

 後悔は先に立たずと言う言葉があるが、それを思い出すには全てが遅すぎた。

 

 天を仰ぐガッツポーズで固まる中、今となってはキンコーソーダーに出来る事は覚悟を決める以外ない。 何故なら、これから先彼に確実に訪れる未来は――――

 

 

「『シ ョ ッ ト ガ ン ア イ ス』 ッ ! !」

 

 

――――――――絶望しかないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っしゃあああああああああああああああッ!!!!」

 

 奇声とも取れる叫び声を上げながら、辛うじて生き永らえたアクセルは瓦礫の中から身を起こした。

 

「何がたっぷり5分だよ!! やっぱり裏があったじゃないかもおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

 怒号と共に。 こちらを罠にはめる狡猾なマックが、まともに爆弾のタイマーを教えてくれる筈がない。

 残り時間5分と言う言葉を疑う自分は間違ってなかったのに、結局周りに言いくるめられてビルの爆発に巻き込まれてしまった。

 正直一歩間違えれば死んでいた――――というよりは、実際に河原の向こうで髭面の科学者が、厚着をした金髪娘と一緒にコサックダンスを踊りながら、こちらへ手招きしている光景がおぼろげに見えていた程である。

 不機嫌極まりなく体についた土埃を払っている中、アクセルの元に声がかかった。 

 

「生きていたんだねアクセル! よかった、皆仲良く爆死するかと思ったよ!」

 

 いつものアーマーやヘルメット姿だが、全身黒焦げでメットの上からアフロヘア―になっている明るい笑顔のエックスだった。

 

「全くだよッ!! やっぱり僕間違ってなかったじゃない――――」

 

 皮肉たっぷりに悪態をついてやろうと思ったが、エックスの後ろの瓦礫の丘の頂上にいる何かを目の当たりにし、不満を忘れて一気に意識を奪われた。

 逆さまに突き刺さり足をばたつかせる下半身姿のゼロと、ガッツポーズのまま氷漬けになり、冷凍庫を開けたばかりの様な冷気を漂わせる前科者(キンコーソーダー)がそこにいたのだから無理もない。

 アクセルが呆気にとられたまま丘の上を眺めていると、埋もれた上半身を何とか引き抜いたブラックゼロが綺麗に足から着地。 咳込みつつも体を横に振り、こびりついた煤を落としては元の赤いゼロに戻っていく。

 

「ああクソ、とんでもねぇ目にあっちまったぜ……マックの野郎――――うおっ!?

 

 身を起こすなりアクセルと同じように愚痴るゼロだったが、やはりというか隣で氷漬けになっているキンコーソーダーに驚かされる。

 

「な、なんでこんな所にキンコーソーダーが居やがる?」

「僕も分かんないよ……もう何が何だか」

「ああ、彼はどさくさ紛れに逃げ出して、俺の事わざわざ馬鹿にする為にやってきたんだ……意味は分かるね?」

 

 疑問符を浮かべるゼロとアクセルに、笑顔の裏に威圧感を漂わせるエックスの言葉。

 

「ああ……」

「成程ね……そういう話か」

 

 2人が状況をある程度察するにはそれで十分だった。

 

<……ザザッ……んな……皆聞こえる!? ああ、やっと繋がった!!>

 

 皆して生暖かい目を氷像に注ぐ中、長らく途絶えていたエイリアからの通信が届いた。

 もう通信を秘匿する意味もない、エックスは受信側の設定をスピーカーに切り替え、エイリアの声がゼロとアクセルにも聞こえるようにした。

 

「こちらエックス」

<一体何が起こったの!? 通信は途切れるわビルは崩れるわ……おまけにキンコーソーダーが見張りのハンター倒して逃走――――>

「キンコーソーダーなら確保した。 自分からこっちにやってきたから俺が捕まえた」

<ええッ!? 貴方『ヤァヌス』の幹部と話をしていたんじゃ――――それに廃ビルが崩落したのって、まさか!?>

「ああ、それについては――――」

 

 次々と起こったトラブルに驚愕の色を隠せない色だったが、対してエックスは淡々と状況を説明する。

 この間ゼロとアクセルは、氷漬けのキンコーソーダーに視線を戻し、呟くように話していた。

 

「わざわざ確認なんかしに来ないで、さっさと逃げてりゃいいものを……まあおかげで手間は省けたがな」

「だね。 しっかし見事に凍ってるね……これ溶けるのかな? 溶かす気なんかないけど」

 

 危険だと分かっていて何故戻ってきたのか……ガッツポーズのまま凍らされたキンコーソーダーの心中を2人は測りかねていた。

 そうしている内にエックスは、エイリアへの状況説明を簡潔に終わらせつつあった。

 

「――――まあ、ビーコンを追っていけばマックの位置を特定する事は可能だ。 十分挽回のチャンスはある」

<……色々ツッコミどころあるけど、不幸中の幸いと言う事にしておくわ。 襲われた隊員達には既に応援が向かっているから、次はキンコーソーダーを回収に――>

「いや、それには及ばない。 むしろ俺達に必要なのは……」

 

 背後を向けて応対するエックスが、キンコーソーダーの氷像へ振り返って一瞥。 

 

 

 

 

「クール便だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、冷凍庫のついたトラックにて適切に、かつしかるべき場所にキンコーソーダーは『護送』され、以後暫くはアブハチトラズ刑務所の広場の中央にて飾られることとなる。

 日の光や雨風に晒されてなお、ガッツポーズのまま中々に解凍されない彼の姿は、刑務所のルールとして君臨したかつての彼の役割に相応しく、檻の中の悪党を震え上がらせるには十分すぎる貢献を果たしたそうな。

 

 

 

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