〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

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第23話

「遅れてごめんね!」

 

 防爆構造の格納庫内にあるコンテナの陰に隠れていたエックスとゼロの背後から、少しの間をおいてやってきたアクセルの小声がかかる。

 

「首尾はどう?」

「整備に時間がかかってるようだ……だがもうすぐ終わる」

 

 物陰から様子を窺うエックスの目線の先には、目標と思わしきローダーの側で、片方はタブレットをもって点検項目を逐一確認し、もう片方が工具を片手に膝をついて作業をする整備兵2人の姿がある。

 ローダーの運転席のすぐ後ろにある荷台には最新鋭の戦車が鎮座しており、物々しい大柄な主砲や歩兵撃退用の軽機関銃がハッチ周りに備えられたモスグリーンの車両が存在感を醸し出す。

 戦車は荷台に物理的にも電子的にも固定されており、運転席に備え付けられている電子ロックのパスワード入力によって初めて解除及び荷下ろしが可能となっている。

 

「どうだ? 作業は終わりそうか?」

 

 ローダーの整備作業をする2人の元に、先程『ヤァヌス』らしき相手に電話をかけているのをアクセルが確認した兵士が、彼らに声をかけながら歩み寄ってきた。

 

「あともう少し……ここのボルトを締めれば……よしOK!」

「これで全部の点検項目が――うん、問題なし。 いつでも行けるぞ」

「よくやってくれた。 これで先方も喜んでくれるよ」

 

兵士は整備兵2人の報告に顔を綻ばせる。 責務を果たせる事に安堵しているようだが、果たして『先方』とは誰の事やら。

 

「しかし最近資材の配送が多いな。 そりゃうちの基地は軍の車両や資材の中継ポイントも兼ねてるとは言え、たった1台で輸送する案件ちょくちょく見かけるぞ?」

「衛星『きんた〇』のアップデートにゃレプリフォースも一枚噛んでるからな。 結構なリソース割いてるから大口の輸送の合間を見て少しずつでも送らないと資材が足りないんだ」

「ふーん、この最新鋭の戦車もそうなのか? ……ま、兵器の置き換えも進んでるし、車両も合間見て送らなきゃならんのかもね」

「……そういう事だ。 そんじゃまあ、無理を言って悪かったな。 これで今日の夜にでも美味い酒飲んでくれ」

「お、悪いな」

「いつもスマンな。 そんじゃ、いい結果期待してんぜ」

「あいよ」

 

 整備兵2人は車両に乗り込もうとする兵士に対し、互いに大手を振りながら上機嫌にその場を離れていった。

 

「貰っといて言うのも何だけど、アイツこんなに俺達に奢って金あんのかねぇ?」

「確かに最近羽振りがいいよな。 副業でもこっそりやってんのか?」

「まぁ知らねーけど、まさか最近噂になってる資材の横流しとか――」

「滅多な事言うな。 こんな白昼堂々と資材や車両を盗んで売りつける奴がいるかよ」

「それもそうか、悪かったな」

 

 今しがた車両に乗り込んだ同僚の財布の紐の緩さに首を傾げながらも、特に気にすることなく去っていく整備士2名。

 会話の流れから何も知らないであろう彼らの直感は実は正しく、たった今ローダーに乗り込んだ兵士は正にその横流しを堂々と行おうとしている。

 恐らくは先程アクセルがオフィスにて鉢合わせになった、少尉もとい『共犯者』の協力あって。 

 

「まじめにやった仕事が犯罪の片棒担いでたなんて……あの兵士許せないな」

 

 不満げにごちるエックス達の存在をかき消す様に、ローダーのエンジン音と格納庫のシャッターがゆっくりと開く音が格納庫内に反響する。

 

「今はいいんじゃない? 僕達を便乗させてくれることなんだし、後で身をもってお礼参りさせてもらうだけだよ」

「……ローダーが出発するぞ。 車の下に潜り込もうぜ」

 

 シャッターの開いた外にいる別の兵士の誘導を受けながら発進するローダーへと、3人は誰かの視界に映らぬよう素早く身を屈めてダッシュ! ローダーの底へと潜り込んでは速度が落ちる前に素早く身をよじって仰向けになり、車体の底に張り巡らされた配管や、アンダーパネルのわずかな出っ張りを指先で器用に掴まえた。

 背中ではローダーの全身によってアスファルトの流れる音が聞こえ、狭苦しい空間と相まって3人に得も知らぬ緊張感を与える。 

 しばし走った後に止まっては検問にて目視とセンサーによるチェックが入ったが、まさかイレギュラーハンターが潜り込んでいると思わない、運転手の兵士や詰め所の警備兵は当然のようにスルー。

 

 恙無(つつがな)く検査を終えたローダーは、アスファルトから土を固めて舗装された地道に乗り出し『別の基地』に向けての輸送が始まった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方マック達『ヤァヌス』の秘密基地においては、今現在1階に当たるフロアのさる一室にて、囚われの身となったホタルニクスに対し取り調べが行われていた。

 

「ぬわあああああああああああああああああああッ!!!! や、やめるのじゃああああああああああああッ!!!!」

「ほらほら! おじいちゃんも早く喋ってよ! 早くしなきゃ取り返しのつかない事になっちゃうよ?」

 

 椅子に縛り付けられながらも必死で抵抗を試みるホタルニクス。 苦悶の叫び声を上げる彼の目線の先には、机の上に乗せられた箱に対し、口から湯気の立ち昇るヤカンを傾けて熱湯らしき液体を一滴ずつ垂らすマシュラームの姿が!

 

「この縄を外せッ!! その子達は関係ないッ!! 熱湯をかけたければ儂にかけろぉ!!」

「ダメだよ! 悪者を懲らしめるならまず悪の戦闘員からやっつけるのが、ヒーローものの鉄則なんだからね!」

「どの面下げてそんな事をッ!! 儂の作った衛星の為に人攫いまでする貴様らに言われる筋合いはないわッ!!」

「こんなに僕がお願いしても教えてくれないおじいちゃんの方が悪者だよ! 正義の味方の悪口言う奴は……こうだよ!!」

 

 マシュラームは無慈悲に熱湯を注ぎこむと、箱の中から湯気が吹き出し何やら内側から箱を叩く小さな音が無数に聞こえ、僅かに箱そのものを揺らしていた。

 ヤカンを注ぐマシュラームの表情は無邪気な笑顔を浮かべ、それが一層幼さ故の残忍な一面を際立たせていた。

 

「おあああああああああああああああッ!! げ、外道共めえええええええええええええッ!!!!」

 

 透明なケースの『地獄絵図のような中身』に目を見開き、身を左右によじり足をばたつかせてもがくホタルニクス。 暴れる余り椅子もろとも地面に倒れるが、お構いなしに地面をのたうち回る。

 彼も護身にとレーザー兵器を尻尾と両の手に仕込んではいるが、兵装にロックをかける拘束具を腕にかけられている為、一切の抵抗は許されない。

 取り調べと言うには余りに惨たらしい仕打ちに何度も心が折れそうになるが、しかし彼の使命感が屈服を許さず、それが余計にマシュラームの嗜虐心を煽ってはホタルニクス自身を苦しめた。

 拷問が始まって既に1時間……彼にとっては永遠に等しい責め苦を味わい続ける中、不意にマシュラームの背後にある取調室の出入り口の扉が開く。

 

「マシュラーム、まだ博士は喋りそうにないか?」

「あ、ボス! 全然ダメだよ! このおじいちゃん強情でちっとも喋ってくれない!」

 

 ホタルニクスをして今となっては憎たらしいマックが姿を現した。 悪に堕ちた男の声にホタルニクスは鋭い目線をマックに向ける。

 ……が、今の彼の表情と言えば自分を基地に連れてきた時の自信に満ちた笑みではなく、口元を結び下唇を突き出して……不機嫌な様子を隠しもしていない。

 よく見れば胸元に張り付いていた手形は剥がれ、それと思わしきものを右手に握りしめていた。 マックの震える口元から、にわかに信じがたい言葉が飛び出した。

 

「そうか、意地でも口を割らないのなら実力行使だ……見せしめにハンターベースに『きんた〇』のレーザー兵器を発射する!」

「な、何じゃとぉ!?」

 

 椅子に縛り付けられたままのホタルニクスが、余りに衝撃的な一言に地面を飛び跳ねた。

 

「遂に気が狂ったかマック!!」

「ええ!? ボス! あのレーザー兵器を今使っちゃったら僕達の居場所バレたりしない!?」

 

 マシュラームも同様に驚きおののいていた様子だった。 マックの衛星兵器発射の指示はマシュラームにとっても寝耳に水のようだ、が……。

 

「同じ事だ……アイツら、腐っても特A級ハンターだったらしい。 してやられた気分だよ!!」

 

 マックは最早怒りを隠そうともせず、握りしめていた手形を机の上に叩きつけた。 粘着シールのすぐ内側で赤く点滅する『ハリテ・バスター』の手形を――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エックス、僕たち今どの辺にいるのかな?」

「基地から出た時の分を除けば、さっきの検問で2か所目だ」

「この先は確か道が2つに枝分かれしていたな」

 

 出発から約1時間、多少の道の陥没もあって大きく車体を揺らされる事もあり、ついでに水たまりの濁った飛沫を浴びたりしたが、特に振り落とされそうになることもなく順調に進んでいた。

 全身泥まみれで絶えず揺すられる実に『快適な』車の旅を満喫している中、エックスの無線機に連絡が入る。

 

<エックス、状況は?>

「今ローダーの底に潜り込んでいる。 こいつらのやり取りが正しければ、恐らく途中でルートから外れてマック達の元へ向かうはずだ」

<了解、気を付けてね。 こっちは引き続き衛星の稼働状況をチェックしておくわ……何か動きがあったら連絡するわね――――ってこれは!?>

「どうしたエイリア!?」

 

 現状ジャミングによって基地の細かい位置取りが把握できないエイリア達には、衛星『きんた〇』の動きを逐一チェックしてもらっているが、そんな彼女の声色が驚愕に染まった。

 

<きん……じゃなくって衛星に何者かが不正アクセスしているわ!!>

「何だって!?」

<ひょっとしたら『ヤァヌス』の仕業かもしれない! 発信機に気付いて報復に乗り出したのかも!>

 

 あくまで『きんた〇』と呼ばないエイリアの焦りの声と共に、エックスにも危機的な状況が伝えられ、眉をひそめる。

 

<でも以前の衛星誤射の件で、再発防止の為に私達イレギュラーハンターにも衛星へのアクセス権限が与えられているわ! 何とか命令を中断できないか試してみる!>

「了解! 俺達もできる限り急ぐ!」

 

 エックスは険しい表情のままエイリアからの通信を一旦打ち切った。 彼女の言う通り、半年前の件で一部衛星にアクセスする事は出来るようにはなっているが、相手側の『ヤァヌス』には攫われた者達を含む、開発チームだった科学者達が囲い込まれている。

 恐らくはエイリア達優秀なオペレーターの技能をもってしても、彼らの技術力には太刀打ちできず、せいぜい攻撃命令を妨害して時間稼ぎをする事しかできないだろう。

 

「くそっ! 予想以上に早く気付かれたか!」

「そんな! まだ僕達秘密基地の場所分かってないのに!」

 

 元々が潜入が上手くいかなかった時の保険ではあるのだが、ゼロ共々発信機をくっつけるアイデアをひねり出したエックスにとって、追跡がバレるリスクを考えていない訳ではなかった。

 だからすぐにでもマックの足取りを追ってここまでやってきたのだが、正確な位置を把握する前に見つかってしまったのは残念でならない。

 

 ――――追い打ちをかけるがごとく、トラブルはそれで終わらない。

 

「……はいもしもし、どうしましたかボス? え?」

 

 ローダーの上部……つまりは運転席から兵士の声が聞こえてきた。 窓を開けっぱなしにしているのだろう、煩いエンジン音だがかろうじてマックと連絡を取り合っている様子が聞こえた。

 その内容と言えば、今エックス達にとっては最も都合の悪いものであったが。

 

「何ですって? 今すぐ引き返せ!? な、何故!?」

「「ッ!!」」

「黙って言う通りにしろ!? ムチャですよ! 今ここから戻ったら、それこそ横流しが完全にバレてしまいますよ!!」

 

 エックス達は、兵士がマックらしき相手に直接引き返すよう求められたやり取りをはっきりと耳にした。 どうやらこちらの『保険』の存在に気付かれた事が確定したらしい。

 

「まずいよエックス! このままじゃこのローダー秘密基地行くまでに引き返しちゃうかも!」

「――――」

 

 焦りを隠せないアクセルに対し、エックスはこの状況で必死に頭を捻っていた。

 相手がローダーに乗ってくるのを拒んだと言う事は既にこちらの存在を悟られ、このまま気付かれずに基地に運び込んで貰い、内側から基地を制圧する奇襲作戦は成り立たない事を意味している。 やはりと言うか思い通りには簡単に上手く事が運ばないらしい。

 ローダーを運転する兵士がまともに基地まで輸送してくれないのなら、せめて基地の位置だけでも把握しておきたい。

 そう考えたエックスは逆さまに張り付いたままながらも辺りを見渡し、今現在この車両がジャングルを抜け、それほど道の広くない崖っぷちを走っている事を確認。 周囲の地形を把握した上で計画を変更する決意をした。

 

「やむを得ない。 隠密作戦は断念しよう……基地の場所を尋問してこの戦車を奪う」

「えっ!? ど、どうやってそんな事するの? 戦車って鹵獲防止にローダーに電子ロックされてるんじゃ」

 

 エックスの唐突な提案にアクセルは疑問を含んだ驚きの声を上げる。 積載されている戦車は2重で固定されている上に、ローダー自身も相当な耐久力を持っている。

 中のドライバーを引きずり下ろす事は、運転席のドアでも無理矢理引っぺがさない事には引きこもられては対処できない。 軍用故防弾性能も完璧だからだ。

 しかしアクセルの問いかけに対し、エックスの中では既にその疑問に対する答えは出ていた。

 

「昔台湾に派遣された時にやった事がある方法を使う。 合図をしたら手を放して降りてくれ」

 




 まだ割とフツーの描写……次からはようやく念願のギャグ描写入れられそう。

2018/3/18 追記
 描写ミスが発覚したので一部修正しました。
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