〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2 作:Easatoshi
一部の特A級にしかできない三角蹴りどころか、重力を無視するがごとく崖を走っては飛び上がり、隠しカラーと化した消し炭の様なゼロが、姿を目で追って背後を振り返るエックスとアクセル2人の前に着地する。
怒りの余り眉間に皺を寄せ、肩で息をする彼の口からは怒気と煤が入り交じった黒い煙が吹き出している。
禍々しいオーラを放つゼロを前に、エックスはキョトンとした様子で、アクセルに至っては完全に震えあがっていた。
「お前らどういうつもりだ……体が動かねぇのに自分だけさっさと逃げやがって!!」
「ええ!? そんな、俺はてっきりもう飛び降りたのかと思ったぞ!?」
「まさか落とされそうなのに、その、ずっとしがみついたままなんて僕も――――」
「知るかそんなもん!! つまらねぇ言い訳するんじゃねえええええええええッ!!!!」
流石に動揺を隠せず歯切れの悪い2人をゼロは睨みつけながら、最早敵を見るような目で背中のZセイバーを引き抜き、ビームサーベルを展開する。
これにはアクセルも大慌て。 咄嗟の判断で、セイバーを振りかぶりつつダッシュの姿勢を取ろうとしたゼロに駆け寄り、彼の両腕を掴んで取り押さえた。
「この野郎放しやがれぇ!! 俺は絶対許さねぇぞッ!!」
「わあああああああああッ!! 落ち着いてゼロ! エックスはちゃんと合図したんだよ!! はっきり『今だ』って!!」
「だから体が動かなかったって言ってんだル"ウ"ォ"!? とっととどかねぇとお前も斬るぞッ!! コラドケコラ! 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!! どけお前! コラ!」
「とにかく落ち着いて!? ゼロの事気付かなかったの謝るから!!」
怒り狂うと言う表現がしっくりくるだろう。 激情に駆られ意味をなさない言葉の羅列を口にするゼロを、必死で宥めつかせるアクセルを、エックスはただただ呆気にとられたまま静観していた。
「(体が動かせなかった? ゼロに何か不具合でも起きてるのか?)」
一応ビルの崩落によるダメージは、アマゾン川流域への出撃前に軽くメンテを行った際に、ひとまずは問題はないと太鼓判を押されていた。
不具合は考えにくい筈だが、しかしゼロの言い分が正しければ声さえ発する事もできず、落下していくローダーにしがみついたままだったことになる。 これではまるで金縛りだ。
あの敏腕メカニックであるダグラスやパレットが手を抜くとは考えにくいが、まさかチェック漏れでもあったのかとエックスが考えていた時、 混乱する現場の空気に割って入る様に、唐突にエイリアからエックスの無線機に通信が入る。
敵がいなくなったこともあり、エックスは暴れるゼロと動きを押さえようと試みるアクセルにも見えるよう、通信相手のエイリアと互いの状況を確認できる状態に設定した上で、立体映像の投影機能をオンにしてやり取りを2人にも確認できるようにする。
<3人共無事!? 衛星兵器の事だけど――――って>
互いに映像がリンクされ、エックス側の慌ただしい状況を目にするなり言葉を呑み込むエイリア。 一方でかなり慌てた様子で『きんた〇』の衛星兵器を口にした彼女の言葉に、もみ合いになっていたゼロとアクセルも不意に動きを止めた。
<えーっと、貴方達……? 今話して大丈夫な雰囲気?>
「……いや、いい。 それより緊急の連絡なんだろ。 続けてくれ」
場の空気を察して口を噤むエイリアに、気にせず言葉を続けるよう促すエックス。 気を取り直すようにエイリアは一度の咳払いの後に話を続けた。
<――――単刀直入に言うわ。 エネルギーの充填に入っていた衛星兵器が急に攻撃命令を中止したのよ!>
「「「へっ?」」」
ハンター組を慌てさせた『きんた〇』の唐突な発射命令、それが何の前振りもなく中断された事実に、3人は口を揃えて間抜けな声を上げた。
特にゼロとアクセルはもみ合っていた両手を放し、先程の暴れっぷりが嘘のように静まり返る。 アクセルは振り返り、ゼロを背後に立たせたままエックスの無線機に向き合った。
「どうしてまた? いや、俺達にとってはありがたい話なんだけど」
<私にもわからない……一応中止命令の出所を見てみたけど、例によって解読不可能。 半年前のアレと同じような状況よ>
「一体どこの誰がそんな命令出したっての? まさか『ヤァヌス』の連中が心変わりしたって訳じゃないよね?」
<それはあり得ないわ。 彼らがもしそんな出所を特定されずに命令を出す方法を知ってるなら、今の攻撃命令だって同じやり方で出していたはずよ?>
「……その言い方だと、さっきの攻撃命令についてはもう発信源を特定したみたいな言い方だね」
<ええ、その通りよ。 場所は間違いなくこの近辺から出ているわ。 それもレプリフォース所有の端末から――>
そこまでエイリアが言いかけた辺りで、思う所のあったエックスが口をはさんだ。 それは彼の辞世の句となってしまった、先程ローダーを運転していた兵士から入手した情報。
「裏付けが取れたな。 エイリア、命令の出所は恐らく奴らの基地だろう。 さっきローダーの運転手から『尋問』して『ヤァヌス』が放棄された旧レプリフォース基地を根城にしていると言う情報を掴んだ」
<――――ドンピシャね。 隠ぺい工作の徹底した彼らのやる事よ、間違いないと見ていいかもしれないわ。 ……でも基地を解体せずにそのまま放置するなんて>
「今となっちゃ変な連中に好きに使って、どうぞ。 って言ってるようなもんだよねぇ」
アクセルは皮肉を言いながら、ふと会話に参加せずに背後に立っているゼロへ何気なく目線を向ける。
その表情はつい先程まで逆上していただけの事はあるのか、変わらず不機嫌そうで苛立ちを感じさせる程に顔をしかめているゼロがいた。
「(ま、話遮ったついでに怒りが収まるワケがないよね――――って、あれ?)」
ゼロの表情を見る中でアクセルはふと違和感を覚える。 ローダーもろとも落とされた怒りを引きずっているなら、まず正面にいるエックスを睨みつけるのが当然。 しかしゼロの目線はずっと下を向いていた。
そんなゼロにつられるままにアクセルも『そこ』を注視した。 当人にとっては変に意識を引っ張られてやまないらしい、黄金色に煌き存在感を誇示するご立派様に。
「(うっひゃぁ、まだおったててるんだソレ――あ、やっと戻った)」
真面目な空気に戻りつつある中でも一際目立つソレにアクセルも色んな意味で圧倒されるが、しかしアクセルが意識をそちらに向けて間もなくして、ゼロの腰回りのテントがようやく収まり、眩い光も消え失せると彼は一息ついた。
「やっと収まりやがったか。 こいつが勝手に反応する時はいっつも不具合が起きやがる」
「へ?」
「うん?」
<えっ? 不具合?>
中々元のサイズに納まらない自前のバスターを、腕を組み憎々しげに呟くゼロに対しエックスとアクセル、そしてエイリアまでもが疑問の声を上げた。
ゼロ本人としてはちょっとした呟きのつもりだったのだろう。 が、話に食いついてきた3人に対しぎょっとしたような表情を見せ、話し始めた。
「ッ! ああ……自前のバスターが勝手にフルチャージ状態になるとな、どう言う訳か体が勝手に止まったりしやがるんだ。 半年前だってそのせいでクジャッカーに襲われかけたりしたしな!」
<ブッ!>
「何だって!? どういう事なんだゼロ!」
「ちょっと待って! それってやっぱり股間のアレに問題あるんじゃないの!?」
聞き捨てならないセリフをゼロから聞かされると、エックスとアクセルは語気を強め、2人して少々たじろき気味なゼロに詰め寄った。
「落ちそうなローダーから離れられなかったのってそれが原因だよね!? ちゃんと全身きちんとメンテした!?」
「いや、俺の大事な分身だからな。 流石にここだけはダグラス達には一度たりとも触らせてないぜ! パレットは嫌がるし、野郎に触らせる気もさらさらねぇ!」
<どう見ても不具合の原因になってるわよね!? 体がおかしくなってるなら、せめて代替品にでも換えなきゃダメじゃない!>
「フッ、今の俺の自前のバスターに代えなんて利かないんでな。 そのせいで不具合と言う名の
「カッコなんかつけずに直せッ!!!! また問題が起きたらどうするんだッ!?」
クジャッカーの時にも不具合を起こし、全身がマヒする原因となった例のアレだが……ここにきてゼロ自身の口から、不具合など些細な問題と切り捨てる物言いにツッコミを禁じ得ない。
ただでさえゼロの言う『大人のおもちゃ』に対して勘ぐる所があっただけに、実際に落ちるローダーと運命を共にしかけたのを見せられては、エックス達にしてみれば見逃す訳には行かなかった。
「ゼロ、どう考えてもやっぱり変だ! 君の『大人のおもちゃ』が何かは知らないけど、取り付けただけで不具合が出るなんて怪しい代物に違いない! どこの業者のだソレ!?」
「フツーに大手企業の製品だ! 限定モデルだから数は限られているがな!」
「限定だからなにさ!? フツーとか言って本当はヤバイ奴じゃないの!? それこそどっかの盗品とか!」
「ギクッ!!」
アクセルの『盗品』のワードを耳にした途端、ゼロは唐突に押し黙った。 露骨に目線を横に逸らすゼロを前に、押し問答を繰り広げていた皆が口を噤んだ。
「――――何でそこで黙り込むの? まさか」
ゼロの沈黙に対するアクセルの問いかけと共に周囲の温度が下がり、冷たくなった雰囲気の中ゼロは目線を泳がせた。
これ見よがしな仕草こそがこの上ない答え合わせであるが、語るに落ちると言う彼の性がそうさせるのか、続けてゼロは聞かれてもいない事まで次々と喋り始める。
「……先に言わせてもらうが、俺は物が手に入らないからって盗みに入るほどチンケじゃねぇ! これはただ空き巣から押収した品を大切に保管していただけだ!」
「僕勘ぐっただけでまだそこまで聞いてないよね……?」
「……それって結局盗品じゃないのか?」
「バカを言うな! これは俺が責任をもって保管している『預かり品』だ!!」
<半年も自分の物にしてたら同じよ!! もう、結局ロクでもない代物だったんじゃない!>
会話の流れで発したアクセルの一言から、弁明のつもりで流れるように『大人のおもちゃ』の出所を暴露するゼロに、無線越しでも分かるほどに疲れ果てた声を出すエイリア。
本人曰く預かり品と言い張るが、結局は彼女の言う通り自分の体の一部にして、自前のバスターと主張していたのだから同じ事であった。
完璧に会話の流れが悪い方向に向かっているが、疑惑の白いまなざしを送り付けるエックスとアクセルに対し、ゼロは目を閉じ軽く咳払いをする。
「――それよりもだ。 衛星からの攻撃命令がキャンセルされた今がチャンスだ。 さっさと『ヤァヌス』の連中を叩き潰しちまおうぜ!」
文字通り話題をぶった切る様にエックス達に背を向け、ゼロは誤魔化すような無駄に口笛を吹きながら、堂々とした足取りで我先に戦車へと足を進める。
「ちょっとゼロ、まだ話終わってないよ!」
「スマンが今は『ヤァヌス』が先だ。 俺ごとローダー落とした事は水に流してやるからその話はナシだ、さっさと行くぜ!」
「むっ、そんなんで筋を通したつもり――――」
<……いえ、ゼロの言う通りにしましょ。 いつまた攻撃命令が出てくるか分からないのだから、先に『ヤァヌス』の秘密基地を見つけるべきなのは正しいわ……何よりあんまりこの話引っ張りたくないし>
「……しょうがないな、後できっちり説明してもらうよ?」
尤もらしい理由を引き合いに出され、エイリアも話を続けたくないからか最後の方は小声になりながら、今はとにかく『ヤァヌス』優先で割り切る事にした。
聞きたかった事をはぐらかされ呆れた様にため息をつくエックスと、アクセルに至ってはむくれた表情で「ちぇっ」と一言ごちながらも、ほぼ話題を逸らす事が目的でもあろうゼロの正論を前に渋々追及を後回しにする事にした。
無線連絡を終えると、車両の前方に専用のハッチがある戦車の運転席に乗り込むゼロに続き、エックスとアクセルは主砲のハッチに飛び乗り、内部へと入る。
して、先に乗り込んだゼロが戦車そのものの操縦を、エックスは砲台の操作及び主砲の発射を担当し、アクセルは中に入るなり内側から閉じたハッチ近くに陣取って、いざと言う時の機銃のガンナーを担当する。
「全員乗ったか?」
「問題なし」
「こっちもOKだよ」
3人全員が乗り込むのを車内の内線を通して確認すると、ゼロは戦車のエンジンに火をつける。 街中を走る車とは一線を画す重低音が車両を揺るがし、鉄の獣と呼ぶに相応しい咆哮を上げては、崖下で燃え盛るジャングルを尻目に先を進んだ。
先程の兵士のやり取りから、既に『ヤァヌス』は自分達ハンター3人が攻め込んでくるのを察している事は確定している。 その上でローダーではなく直接戦車だけで乗り継げば、基地に到着するなり激しい戦闘は避けられまい。
しかしそれこそが彼らの真骨頂とも言えるだろう。 幾度となくシグマの反乱に立ち向かってきた彼らにすれば、正面切って対峙するのは望む所であった。
轟音鳴り響く戦車の中で、間もなく訪れるロックンロールタイムに対しての、ゼロの気合のこもった一言。
「は、発射命令が止まっちゃった……」
全館に鳴り響く攻撃のアナウンスとアラート音が何事も無く止まり、マックの発した攻撃命令が不発したと言う事をマシュラームは悟る。
取調室内の3人は無言で、マシュラームと縛られたまま倒れているホタルニクスは目を見開いたまま硬直していた。 マシュラームだけは何が起きたのかさっぱりと分からなかったが、しかしマックとホタルニクスには攻撃命令のキャンセルの原因を知っていた。
「……お分かりですかな、ホタルニクス博士」
マックは真顔で、それでいて不気味なまでに落ち着き払った態度で足元のホタルニクス博士に向き合い、屈み込んだ。
「我々は既に独自のルートで衛星を操る事が出来るのですよ。 先にこの基地にやって来た素敵な協力者達の『尽力』もあって」
さながら善意による協力を得られたとでも言わんばかりのマックだが、実際それはごく一部に限られ、身内の人質は言うに及ばず、過去に行った横領や研究結果の改竄等不正を突きつけ弱みを握る、または協力無くしてはこの基地から帰さないといった至極単純な手を取るなど、ほとんどは言葉と裏腹に様々な手で脅す形で無理矢理協力させているのが実情だった。
元々の『きんた〇』の設計段階から関わった科学者を抑えるだけでも、周囲の国々にとって十分な脅威と『きんた〇』の掌握において多大なアドバンテージをもたらすが、しかしマックにとってそれだけでは不十分であった。
「ですがそれさえも絶対ではなかった。 貴方が隠した例のアレのせいで、我々は先手を打って下した攻撃命令をいとも簡単にキャンセルされてしまった」
マックはため息をつきながら、未だ望む答えを口にしないホタルニクスを睨みつけていた。 その視線にホタルニクスもまた、憎々しげにこちらを睨み返す。
「……いい加減はっきりさせてくれはしませんかね? あるんでしょう!? あらゆる命令よりも最優先で衛星にアクセスできる、独自の遠隔装置らしき何かが!! 一体どこに隠したのですかな!?」
「しつこいぞマック!! そこなキノコにも言っとるが儂は知らん!!」
「強情ですな貴方も! 今現にハンターベースへの攻撃を中断したのですぞ! 無くしたと見せかけて、本当はとっくに彼ら側に協力する何者かに譲渡しているのではないですかな!?」
「本当に知らん!! 第一知ってたとしても貴様らに話す訳がなかろうがッ!!」
「ッ!! 強情な御仁だ」
何度詰め寄っても口を割らないホタルニクスに業を煮やすマック。 口元を尖らせ舌打ちをすると、マックは立ち上がっては踵を返し取調室の扉に手を掛けた。 マックは背中越しに呆気にとられるマシュラームに語りかける。
「マシュラーム。 もっと激しくやれ」
「! 了解だよボス!」
マックは振り返る事なく扉を開け、後ろ手で開いた扉を閉じるとさっさと廊下を歩いてその場を後にした。 閉じた扉を通し、ホタルニクスの悲鳴が再び聞こえてくるが、意固地な老人の相手をしている暇も今は無い。
何故なら攻撃に失敗した以上、あの忌々しいハンター共がこの基地を目指してやってくるのは確実だからだ。 奴らの攻撃力を考慮すれば、まともにやりあってはタダで済まない事は分かっていた。
マックは無線を入れ、敵の基地の接近に対して備えるようしかるべき相手に連絡する。
「俺だ。 クジャッカー、防衛の準備を整えておけ。 奴らが来るぞ、間違いなく」
<抜かりはないわよ。 ……奴らにはカリがあるからねぇ、派手に出迎えてあげるわ>
「それは頼もしい話だ。 期待しているぞ」
一言いい残し通信を打ち切るマックは、殺風景なコンクリートの壁に古めかしい電灯が間隔をあけて並ぶ、廊下の天井を仰ぎ見た。