〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

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第27話

「こちら西ブロック! 敵の進行が止まらな――――グアッ!!

 

 指令部と連絡を取り合う兵士の一人が、飛んできた弾丸に胴体を貫かれ卒倒する。

 

「仲間がやられた! 一人やられた!!」

「クソッタレ!! 好き勝手やらせてたまるか!!」

 

 仲間をやられ焦りを覚える他の兵士もアサルトライフルを発砲! 実弾とエネルギー弾を織り交ぜながら必死の抵抗を試みる。 最新式の主力戦車の性能をいかんなく発揮し、基地の制圧に乗り出した侵入者(エックス)達に。

 

 エックス達戦車の突入から程なくして、基地内の敷地は激戦区と化していた。 飛び交う銃弾と爆撃、悲鳴と怒号、そして構わず基地の建物に飛び込まんと前進する戦車の姿。

 

「イヤッホォゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」

 そして機銃の反動に肩を震わせ、雄叫びを上げ銃弾の雨を降らせるアクセル。 飛び散る薬莢、激しいマズルブラストの中から放たれるは、熱と回転を帯びて音よりもなお速く飛び出す鉛弾。

 侵入者を撃退せんと抵抗を試みる警備兵に突き刺さり、モグラ叩きのごとく姿が現れては即次々と薙ぎ倒す。 それは正に地獄の一丁目と呼ぶに相応しい様相を呈していた。

 

 一方的な蹂躙劇を繰り広げているようにも見えるが、しかし余裕めいた笑みと裏腹にアクセルの胸中は穏やかでなかった。

 

「(何だかんだ言ってやっぱ敵の抵抗が激しいね……結構イイの貰ってるよ)」

 

 アクセルの操る機関銃には防弾用のシールドが装備されている為、アクセル自身が攻撃を浴びた事は今の所ない。

 しかし装甲の頑丈さで攻撃からカバーする戦車本体は、敵の銃撃に織り交ぜて飛んでくるレーザー兵器やロケット弾による被弾で、装甲の一部に早くもダメージが蓄積しつつあった。

 無論アクセル自身のカバーや、場合によっては敵の陣地をエックスの戦車砲で粉砕して対応はしているも、やはり敵の本拠地においては全ての反撃を退ける事は不可能であった。

 

 そしてまた一発、どこからともなく放り投げられた手榴弾が右キャタピラの後部に巻き込まれ、炸裂する!

 

<警告! 右駆動輪後部に致命的損傷(クリティカル)発生! 出力を発揮できません!>

 

 AIのガイダンスからのアラート音声と共に、機内のモニターに赤いウィンドウが表示される。

 同時に戦車の足回りから嫌な音と不快な振動が発生し、露骨なまでに進行速度が低下した。 致命的な損傷を前にアクセルも余裕ぶる事も出来ず表情が凍り付く。 

 

「やっば! 足回りにダメージが来てる! ……ゼロ、侵入ポイントはまだなの!?」

「もう少し先だ! ……チッ、これは思ってたより激しいぜ!」

 

 運転手を買って出るゼロもたまらずに舌打ちをする。 侵入ポイントと言っても真っ当な入口からではなく、相手の建物のどてっ腹に穴を開けての突入を考えていた。

 戦車はそこで乗り捨てるつもりだったのだが、このままでは壁に穴を開けるより先に、戦車が擱座(かくざ)してしまうのは避けられない。

 

<随分派手に暴れてくれてるわねぇ>

 

 少なからずピンチにさらされている彼ら3人を追いつめるかの如く、突如機内のスピーカーから聞き覚えのある、味方でない誰かの声が聞こえてきた。

 

「っ! この声は……クジャッカーか!?」

<ご名答よエックス。 いけないわねぇ、人様の敷地でこんなおもちゃを振りかざすなんて、礼儀知らずにも程があるわよ>

 

 機内の通信機に割り込んで話しかけてくるのは、あのサイバー・クジャッカーその人であった。

 

<躾のなっていない悪い子にはお仕置きが必要よねぇ……そら、貴方達やっておしまい!>

 

 クジャッカーが無線機越しに『誰か』を呼び掛けた時、傷ついた車体を引きずる戦車の前を割り込むように現れた。

 

 

ライドアーマー『カンガルー』が。

 

 

「「「ライドアーマー!?」」」

 

 ……彼らの言うライドアーマーとは元々は重作業用に開発された、切り取られた頭部が運転席となっている胴体に、人間と同じような四肢のついた乗り物である。

 エックス達の前に立ちはだかったこの『カンガルー』は戦闘用に発展されたモデルであり、赤い強化装甲と両腕をモーターを埋め込まれ回転機能のついた3本の棘に換装された、超が付く程の攻撃的な機体である。

 そして驚くべきは本来有人式である筈のライドアーマーであるが、エックス達が目の当たりにした機体にはパイロットの姿は見当たらない。

 

「チクショウ! さては遠隔操作で操ってやがるな!?」

<ホホホホホッ! 足腰の砕けた戦車で『カンガルー』の攻撃を回避できるかしら!?>

 恐らくはクジャッカーが遠隔操作をしているのだろう。 キャタピラを破損して機動力の鈍った戦車に対し、カンガルーはエックス達自身の機動力に勝るとも劣らぬ瞬発力で一気に距離を詰める!

 両腕は高速回転し、その鋭く頑丈な棘が不気味なまでに存在感を見せつける!

 

「まずい!! あんなの直撃したら――――」

 

 エックス達が慄くよりも前に、至近距離まで迫ったカンガルーの両の手が戦車に突き出された!!

 

 ――――カンガルーの両爪が戦車の装甲を深々と抉る!

 

「うわあああああああああああああああッ!!」

 

 ライドアーマーからの重たい一撃に、ハッチから身を乗り出していたアクセルが戦車から転がり落ちた!

 地面に叩きつけられ、数回転がった後にうつ伏せになっては、危機から逃れようと苦しそうに身を起こすアクセル。

 

「ア、アクセル!」

<ほら! これでどう!?>

 

 エックスが慌てて落下したアクセルの身を案ずるも、クジャッカーは間髪入れずに突き刺した棘を再び回転させる。

 相当頑丈に作られている筈の複合装甲も、深々と棘を突き刺された上に、カンガルーの両腕の強力なモーターの前にあっさりと陥落!

 傷口を引っ掻き回すがごとく、瞬く間に装甲を抉られる戦車! 機械内部にまでダメージが及び、エックスとゼロは抵抗もままならない。

 

<警告! エネルギー循環経路に致命的損傷(クリティカル)が発生しています! 爆発の危険性あり! 直ちに脱出して下さい!>

 

 戦車のAIも運命を悟ったのだろうか、エックスとゼロに対し緊急避難を促した。

 

「クソッタレ!! ここまでされたら何も出来ねぇ! ――この戦車は捨てるぞ!」

「やむを得ない! ……だがその前に」

 

 先に運転席のハッチを開けて脱出を試みるゼロに対し、エックスは戦車に残された最後の力を振り絞る様に砲塔を回転させる!

 カンガルーに車体を引き裂かれる中、鳴り響くアラート音と共に炎上を始めた戦車の主砲を、アクセルが投げ落とされた方向に向ける。

 

 エックスが狙いを定めた先は、既に横側に見えていた基地の施設の一部であった。

 

 トリガーを引き、最後の主砲を発射! 放たれたエネルギー弾は施設の壁に突き刺さり破壊! 目指していた侵入ポイントではないが、強引に道を切り開くには辛うじて成功する。 

 軍用車両の意地を見届けたエックスは名残惜しくも戦車を脱出! 自ら地面を転がるように上部ハッチから飛び出し、アクセルに肩を貸すゼロと合流した――――。

 

<死になさぁい!!>

 

 ――――その時だった! クジャッカー操るカンガルーの一撃が遂に戦車のどうりょくろを破壊!!

 既に煙を吹いていた戦車は装甲を剥がされた部分から出火……間髪入れず運転席と主砲のハッチを吹き飛ばし、内部から破裂するように爆散した!!

 

「せ、戦車が――わああああああああああああ!!!!

 

 吹き飛ばされた戦車の破片は離れていたエックス達にも襲い掛かり、3人は爆風の衝撃で散り散りになってしまった。

 エックスとゼロはそれぞれ反対方向のコンテナの陰に転がり込み、アクセルは先程エックスが主砲で開けた壁の穴の方に吹き飛ばされる。

 

「くっ……くそっ! まさかカンガルーまで出てくるなんて……」

「やってくれるじゃねぇか……」

 

 一方で戦車を叩き壊し爆風を直に受けたカンガルーは、赤い装甲に少しの傷と凹みと、幾ばくかの焦げ目がついた程度で大したダメージを受けておらず、次なる目標をアクセルに定めた。

 

<あら? よく見ると中々カワイイ坊やね……遊んであげたくなっちゃうわ>

「んな!?」

 

 横に吹き飛んだエックスとゼロを素通りし、棘を回転させながら歩み寄るカンガルー。 地面に倒れ込み腰砕けのアクセルは迫る重機に圧倒されていた。

 戦車を一瞬でテツクズにしたあの火力と瞬発力を前にしては、襲われたら最期ひとたまりもない事は想像に難くなかった。

 カンガルーの影がアクセルの全身を覆い、今度ばかりはダメかと死を覚悟した時だった。

 

「やらせるかよ!!」

 

 ゼットセイバーを携えたゼロが背後から飛び掛かり、下向きにかつ逆手で構えたその緑の光を放つ刃をカンガルーの運転席に突き立てた!

 運転席から火花が散り、遠隔操作とは言えども機体の操作を司る箇所を攻撃されたカンガルーは狂ったように暴れ出す。

 

「ゼロ!?」

「こいつは俺がやる!! アクセル! お前は早くホタルニクスの爺さんを助けに行け!」

 

 両手を振り回して縦横無尽に駆け回ろうとするカンガルーにしがみつきながら、ゼロはアクセルに先に行くよう指示する。

 突然の事態に思わずアクセルはもがくカンガルーを眺めているが、呆然とするアクセルにゼロは檄を飛ばす。

 

「早くいけ!! 俺達も後で合流する!!」

「ッ! わかった! 先に行ってるよ!!」

 

 一瞬躊躇しかけたがここは歴戦の戦士たる仲間を信じ、ホタルニクス達科学者の救出と言う自分の役割を優先しよう。

 アクセルはゼロの与えてくれたチャンスに感謝しながら、エックスの空けた壁の穴から施設内部へと入り込もうとした。

 

「侵入者が中に入ろうとしてるぞ!!」

「この野郎!! アイツを食い止めろッ!!」

 

 そこに戦車の制圧力にただ圧倒されていた『ヤァヌス』の警備兵達も態勢を立て直したのか、暴れるカンガルーとは距離を置きながらも、施設に侵入しようとするアクセルに一斉射撃する。

 

「お前達の相手は俺だッ!!」

 

 仲間への攻撃を弾幕を張って抵抗するはエックスだった。 襲い来る雨霰(あめあられ)の様な銃撃に、勝るとも劣らぬ勢いでバスターを乱射し足止めを試みる。

 

 

 結果としてアクセルは辛くも施設内へ潜入。 しかしカンガルーと揉み合いになるゼロと、大多数の敵に対して射撃の応酬をするエックス。 基地の敷地内はいよいよもって混沌の沙汰と化してきた。

 

 

<ザザッ……ホホホ……いい具合に戦力を切り離せたわねぇザザッ後はエックスとゼロさえ孤立させたら、あの坊やと……ザザザ>

 

 施設を壊し設置されていた銃座さえ壊し、自軍の味方さえ薙ぎ倒すカンガルーの壊れかけた無線から、クジャッカーが不穏な言葉を発していた事など、誰も知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仲間2人の援護を受け、先んじて慌ただしい基地の施設内に潜入したアクセルの状況は芳しくなかった。

 

「クッソ! また殺られてやがる!」

「おい! 敵はいたか!?」

「こっちに逃げた! 恐らくは近くに隠れてる筈だ、探し出せ!」

 

「(ああもう! 敵が多すぎてたまんないよ!!)」

 

 足元には相手取った警備兵の死体が転がり、コンクリートの曲がり角を背に、加熱した銃身のアクセルバレットを両手に一丁ずつ構えるアクセル。 執拗に自分を追う戦闘員達の言葉を角越しに耳にしては顔をしかめていた。

 施設に侵入して程なくして、戦闘を繰り広げながらも建物の見取り図を発見したアクセルは、誘拐されて間もないホタルニクスをはじめ、協力を拒んだ科学者達が囚われているだろうと目星をつけた独房フロアへとやってきた。

 幸いエックスが開けてくれた穴の位置からそれ程遠くなく、敵の抵抗が激しい以外は比較的楽に目的地にたどり着く事が出来たのだが……。

 

「……ここかな?」

 

 アクセルは自身を追う敵の目を掻い潜っては、目についた独房の扉を開く……中はレプリロイド用の簡素なベッドが置かれているだけで、今は誰もいないようだ。

 と言うのも、ベッドに敷かれているシーツは乱れたままになっており、ついさっきまで使われていたような、言うなれば慌てて出ていったような痕跡が残されていた。

 

『ここも』!? 皆何処に行っちゃったの!?」

 

 アクセルは小声で毒づいた。 今の部屋で独房フロアにあるほとんどの部屋を調べ尽くしてしまった。

 このフロアに到着してからと言うもの、アクセルは虱潰しに独房の扉を開いているが、いずれも今見た光景のように、既に中にいた誰かが出て行ってしまったような空室ばかりであった。

 自分達が突入した混乱に乗じて逃げ出してしまったのであろうか? 探索している間にも次々とやって来る追っ手と遭遇しては倒す、を繰り返している内にアクセルは疲弊しきっていた。

 

「どこ探してもハズレなんてありえないよ! ……じゃあ、後はもうこの取調室ぐらいしかないか」

 

 うんざりする気持ちを押さえながら、壁から壁に移動して極力戦闘を回避しながらやってきた先は取調室だった。

 そこで彼は目にする。 取調室の扉が既に開きっぱなしのまま放置されているのを。 

 アクセルはドアの前で一旦立ち止まり、足音を立てぬよう開いたドアを背に恐る恐る中を覗き込むように首を傾け……銃を構えて一気に室内に入り込んだ!

 

「……! こ、これは……?」

 

 アクセルが目の当たりにした部屋の中。 そこには大きなキノコをかたどったレプリロイドが、体に焦げ目のついた風穴を開けうつ伏せで倒れていた。 側には透明のケースが開いたままに放り出されている。

 既に機能を停止していると思われるが、だまし討ちを警戒して銃を構えたまま近づき、膝をついて倒れたレプリロイドを仰向けにひっくり返す。 反応はない、どうやら見たまま完全に機能を停止しているようであった。

 

「あれ? こいつ見た事がある」

 

 倒れていたレプリロイドの姿にアクセルは見覚えがあった。 それはハンターベース内において、過去のイレギュラーとのVR訓練で相手取ったレプリロイド。

 確か名前は『スプリット・マシュラーム』だったか、素早い動きとエネルギーで形成した分身で翻弄する戦法を得意とする敵だった。

 その本人と思わしきレプリロイドがどう言う訳か、体を貫かれて絶命してこの場に倒れていた事にアクセルは首を傾げた。

 

 ゆくえふめい者のリストにも名前が無く、秘密基地のような場所にいたと言う事は彼も構成員の可能性が高い。 だとすれば一体誰が倒したのか、いきなり現れた謎のレプリロイドに対し疑問は尽きない……が。

 

「おい、取調室が開いてるぞ! 侵入者か!?」

 

 どうやらいつの間にかやって来た次の追っ手が、アクセルのいる取調室に目をつけたらしい。 アクセルは頭を横に振って思考を切り替えた。

 

「(どこの誰だろうと今はそれどころじゃないや、折角だしこいつのデータ頂いておさらばしよう!)」

 

 アクセルは間もなくやって来るであろう敵を警戒し、開きっぱなしの扉に銃を向けた。 その片手間にマシュラームの体をまさぐり、コピー能力に必要なコアをついでに回収する。

 緊迫感に表情が強張る。 複数の足音が迫り、いよいよ敵が部屋に乗り込んでくるか、そう思った時だった。

 

「え、何ですって!? ……おい、侵入者を追うのは後回しだ! クジャッカー隊長からの緊急命令だ!」

「はぁ!? 何言ってんだこんな時に!? 正気か!?」

「それどころじゃねぇよ! ホタルニクス博士が他の科学者と一緒に、第2コントロールルームを占拠したぞ!?」

「(え!?)」

「ファッ!?」

 

 追っ手の一人が周りを止めるなり口にしたその内容に、他の兵士は勿論の事、部屋越しに耳にしたアクセルも声は押し殺せても内心激しく動揺する。

 フロアのどの独房にも人っ子一人居ない理由がこれで分かった。 やはりアクセルの予想通り、突入の騒乱を利用して逃亡を図っていたのだ。 恐らくここに倒れているマシュラームは、その過程において何らかの方法で倒されたのだろう。

 

「あのじじい! 独房がもぬけのカラと思ったらそんな所に!?」

「奴ら『きんた〇』の奪還が狙いだ! 侵入者よりも最優先でそっちに行けだとさ!」

「ああクソ!! 分かったよ! もう少しだってのに面倒掛けさせやがってクソジジイ!」

 

 突入を見越していたアクセルが引き金を引くまでも無く、悪態だけを残し追っ手の足音が反対に遠ざかっていった。

 これは不幸中の幸いだったのか、一難は去ったとアクセルは銃を握ったままの腕で額を拭い一息つく。 しかし敵の追撃は一旦落ち着いたとは言え、自身を先に行かせようとその場に残って、敵を食い止めてくれたエックスとゼロの安否が気がかりだ。

 アクセルはひとまず状況を報告しようと、腕部をかざして無線を繋ごうとするが――――

 

「……あれ、電波障害!?」

 

 ――――無線機の中からノイズが走り、電波を飛ばせるような状況でなくなっている事に気が付いた。

 ……おかしい。 たった今警備兵達は施設内で連絡を取り合っていたにも関わらず、だ。 何度か無線の周波数をいじったり電波の強弱を変えてみるが、駄目だった。

 妙な胸騒ぎを覚えるが、兎に角連絡をまともに取り合えない以上、同じ部屋で待機している訳もいかない。

 成り行きだがホタルニクス博士の居場所は分かったのだ。 自身も後を追おうと一応周囲を警戒するように、開いたままの扉から顔とアクセルバレットの銃口を出し、廊下に飛び出した。

 

 手早くかつ入念に曲がり角のクリアリングを行いながら、来た道を戻るアクセル。 しかし先程の喧騒が嘘のように廊下は静まり返っており、そこに誰かの気配があるようには感じられなかった。

 それでもひたすら真っすぐフロアの出入り口を目指しているが、道の先は勿論曲がり角にさえ誰も遭遇せず、警戒に当たっているだろう人員の姿は全く見当たらない。 どうやら全員緊急命令とやらの為に引き上げてしまったらしい。

 だが幾ら優先事項があるとは言え、一切の見張りも残さず全ての人員を引き上げさせ、騒動の原因である自分を完全に放置するのは違和感しかない。

 そして何より……敵の存在を確かに確認できなかったにも関わらず、まるで全ての方向から注がれるような、睨め回すかのようなねちっこい視線。

 

 突然無線が繋がらなくなった事もあり、いよいよもって嫌な気持ちが体の奥からこみ上げてきた――――その時だった!

 

 

「一体何が起こって――――熱ッ!!」

 

 

 何の前触れも無く、アクセルの腰の後ろ……具体的には右の尻の辺りに焼き付くような熱が突き刺さった!

 これにはアクセルも思わず驚き飛び跳ね、慌てた様子で焼かれた箇所を銃を握った手で抑えながら背後を振り返った。 細く焦げ臭い黒い筋が立ち上る……奇襲を疑ってみたが後ろには誰も立っていない。

 さっきまでよく倒していた警備兵の様な一般兵クラスの敵ならば、どこから現れようが振り向かずとも、銃口だけを向けて撃ち落とすと言う事も出来なくはなかった。

 しかし今の攻撃はどのあたりから撃って来たか、判別しかねる程に気配を感じさせなかった。 故に幻覚を疑いかけたが、確かに焼かれた自身の尻の刺さるような熱い痛みと黒い煙が、アクセルに対し紛れも無くダメージを与えたのだと実感させる。

 

「フフフ、貴方絶叫(コエ)も可愛らしいのねぇ……益々燃え上がっちゃうわぁ」

 

 怪訝な眼差しで周囲を窺っていた所……今度は真正面からいやらしい男の声と、ハイヒールの様な甲高い足音が聞こえてくる。 アクセルははっと気づいた様子で声の聞こえてきた前方に向き直した――――

 

「あ、アンタは……クジャッカー!?

 紫を基調とした細い身体に、孔雀鳥をモチーフとした頭部と9本の緑の尻尾。 そして何より基地への突入を妨げた忌々しいこの声。

 腰をくねらせるような歩き方で、声の主であるサイバー・クイジャッカーのその姿を、アクセルは二つの眼で捉えていた。 彼もまたマシュラーム同様、姿についてはVR訓練でのみ知っていた存在だったが、実際の姿を見るのはこれが初めてとなった。

 会ってみて抱いた印象だが、そのねちっこい視線を送る目元はドギついマスカラで彩られ、アクセルを可愛いと言って舌なめずりするそのクチバシは、紛れも無くオネエだ。

 

「初めて会った時は何の飾りっ気も無い軍用の輸送機だったわねぇ。 お初にお目にかかる……って言った所かしら?」

「……どうでもいいよ。 そんな事」

 

 ぶっきらぼうに答えるアクセル。 なるだけ冷静に努めようと努力はしているが、アクセルの全身をジロジロ見てくるクジャッカーの視線が大変心地が悪く、正直言って不気味でしかなかった。

 

「部下を全員ホタルニクスの爺さんとこに向かわせたのはアンタの差し金?」

「ええそうよ。 だって邪魔だったもの……これで二人っきりねぇ坊や」

「へぇ、何人かでも部下を残しておいた方が、アンタにとっちゃいいハンデになってたと思うけどね」

「ホホホッ……消耗してたとは言え、今の一撃も躱せなかった貴方が『いいハンデ』ですって? 随分見くびられたものねぇ」

 

 小ばかにするようなクジャッカーの言い回しに、アクセルは眉をひそめた。 確かにここに来るまでに結構な数の敵を撃退し消耗してきた。 そして何より今の一撃は全ての方向から送られてくる視線のような感覚に囚われ、直感が鈍ったと言う事も大きかった。

 そしてその目線とは……今クジャッカーから送られてくる、獲物を捉えて離さない様なその視線と全く同じものである。

 

「でもそう言う生意気な子供も可愛げがあって好きよぉ? さて、ワタシは一旦火がつくと押さえが利かないのよ……さっさと始めさせてもらうわよ」

「……こっちはアンタを相手にしている時間はないんだよ。 悪いけどとっとと終わりに――――!?」

 

 アクセルがバレットを構えようとしたその時である。 相対するクジャッカーが両手をアクセルに突き出すように前へかざすと、彼の開いた手の先からは照準と思わしきウィンドウが投影される。

 その動作には覚えがあった。 狙いをつけたターゲットをマーキングし、追跡性のあるレーザー兵器『エイミングレーザー』で執拗に攻撃する前動作であり、実際に投影された照準がアクセルの体に飛来し纏わりついた。

 

 ……主に股間と尻に。

 

「……は?」

 

 胴体や頭部でなく、当然のように腰元を狙うクジャッカーにアクセルは間抜けな声を上げた。

 

「ホホホ、ワタシの『エイミングレーザー』で突っつき回してアゲルわ。 半年前のゼロには逃げられたけど、今度は逃がさないわよ?」

 

 ……アクセルはクジャッカーの行動を理解しかねていた。 否、理解はしても受け入れられないと言った方が正しいだろう。

 アクセルはゼロに対するからかいの意味で、クジャッカーに『開発』されかけた事を度々ネタにしていた。 そのからかいの大本と言えるクジャッカー自身の口から飛び出した『ゼロと同じ目に合わせてやる』と言う言葉。

 真っ先に尻を狙った挨拶代わりのレーザーと、執拗に送られてくる目線から薄々嫌な予感はしていたが、いよいよもってその感情はクジャッカーに対する『恐怖』へと変化しつつあった。

 

 背筋が凍る程のおぞましいこの先の展開に身が震え、突きつけた銃口の狙いが定まらなくなるアクセル。

 

「銃口が震えているわよ? そんなガバガバエイムでワタシの『自慢のレーザー』の精度にかなうと思ってるのかしら?」

「アンタ……一体何考えてんの? 何で『そんな所』わざわざ狙ってるの……?」

 

 クジャッカーが何をするかはおおよその検討が『ついてしまっている』が、聞きたくもない筈なのに聞かずにはいられない。

 震え声で紡ぎ出したアクセルの質問に、クジャッカーは嗜虐的な笑みを浮かべ答えた。

 

「躾のなってない子を見るとね、ワタシは燃え上がっちゃうのよ♂」

 

 ねちっこい視線は何時しか野獣の眼光と化し、それは全てアクセルの目ではなく腰元ばかりを見つめていた。

 今にも取って食っちまいそうな視線を送られ、いよいよもってアクセルの嫌悪感がはちきれんばかりになりそうになった時――――

 

 

 

 

「人の敷地で暴れる悪い子には、お仕置きの時間よ! イクわよ♂♂

 

 

 

 

――――クジャッカーの両手から飛び出したレーザーをもって、戦闘開始のゴングが鳴り響いた。

 

 

 

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