〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

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第3話

 

 

「それでは今回の新型衛星開発部が主任、『シャイニング・ホタルニクス』博士からのご挨拶となります!」

 

 ゼロが立ち去って数分後……司会の男性が舞台から身を引き、右奥の垂れ幕に引っ込むと同時に、ホタルを模した白い髭を生やした赤い初老のレプリロイドが、司会と入れ替わる形で颯爽と現れた。

 惜しみない来客者の拍手と報道陣のカメラのフラッシュが降り注ぐ中をにこやかに歩き、ホタルニクスと呼ばれた彼はにこやかにマイクの前に立った。

 

 ホタルニクス博士がマイクに数回小さな声をかけて、先程の司会と同じように感度のチェックをすると、場の空気を呼んだであろう来客者達の拍手が鳴りやんだ。

 拍手が完全に収まり、僅かな間をおいてホタルニクス博士は喋り始める。

 

「えー、本日はご来場くださいまして、誠にありがとうございますじゃ。 ここにいる皆様方のご協力あって、無事に衛星は完成となりましたじゃ」

 

 彼自身の口からスポンサーを含む来客者への謝辞が述べられ、ささやかであるが客側から再び拍手が鳴った。

 

「今回の衛星の開発にはMACエンジニアリングの優秀な人材あってこその完成となりましたが、残念ながら多忙の為スケジュールに都合がつかず、本日は欠席となりますじゃ」

 

 観客からは少々の落胆の声が漏れる。 しかしホタルニクス博士はこうなる事は分かっていたのか、動じることなくメモを懐から取り出した。

 

「その代わり、本日はMACエンジニアリングがスタッフ一同から、メッセージを預かっておりますじゃ」

 

 参加できなかったスタッフ一同からの手紙と思わしきメモを読み上げるホタルニクス博士。

 今日参加できなかった事を悔やむ内容ながら、これまでに支援してくれたスポンサーや大手ファンドへの、最大級の賛辞が込められており、当初はがっかりした様子だった一部の人々も、全てを読み終わる頃には自然と笑みが零れ、ここにいないメンバーと読み上げたホタルニクス博士にささやかな拍手を送った。

 拍手が鳴りやみ、続いて博士は軽く咳ばらいをして、次の段取りに移る。

 

「さて皆様方、今日ここに来られた理由……新型衛星ですが、今すぐにでもご覧になりたいと思われる方も居る事でしょう」

 

 ホタルニクス博士が述べると、待っていたと言わんばかりに壇上の照明が落ち、会場を照らすのはテーブルの上の蝋燭の火だけとなった。

 暗がりの中、ホタルニクスが司会の控えている方に歩いて身を寄せ、そっと右肩を上げた。

 

「我々としても同じ考えですじゃ。 早速ご覧になりましょう……これが我々が総力を挙げて完成した、新型衛星ですじゃ!!」

 

 彼の合図と共に、舞台の壁面に掛けられていたスクリーンに、映像が投影された!

 スクリーンに映し出されるや否や、観客から一斉に感嘆の声が上がる。

 

 銀色に輝く長細い胴体に、黄金色のパラボラアンテナが左右に1基ずつ、付け根の部分から延びるように枝分かれするソーラーパネル。

 数多の星々が煌く宇宙空間、青く輝く地球を見下ろす様に、垂直に悠然と佇む新型衛星がそこにあった。

 画面右下には、映像がリアルタイムの生中継である事を示す為『LIVE』の文字が表示されている。

 

「この映像は軌道エレベータ―『ヤコブ』の頂上からの映像ですじゃ。 衛星の大きさはそう……前身に当たる『デスフラワー』と同じぐらいですかな?」

 

 観客が再び声を上げた。 しばしの間をおいて、その中の1人が静かに手を上げると、司会が舞台脇の階段から降りて、手を上げた人にマイクを持って行く。

 マイクを差し出された観客の一人は、少々気恥しそうな様子で尋ねた。

 

「あのデスフラワーの後継と言う事は、場合によっては攻撃衛星にもなりえるのですよね? そうなるとセキュリティ面は……?」

 

 観客からの質問に、ホタルニクス博士は胸を張って答えた。

 

「ご安心くだされ。 セキュリティ面については完璧ですじゃ。 万が一テロリストに狙われた時の事も想定し、何重にもプロテクトがなされて……」

 

 ホタルニクス博士が喋りながら画面を指さすと、一般に開示できる範囲ではあるが、衛星の詳細な仕様がポップアップされる。

 それらをなぞる様に手を動かしながら、来客者の1人の質問に丁寧に答えていく。

 やがて回答が終わると質問者は満足し、一礼して質問を終えると、今度は我も我もと他の観客も手を上げる。 その中にはもちろんダグラスとパレットの姿もあった。 質疑応答の時間ではない筈だが、皆自分達が期待を寄せ……あるいは出資までしたと言うだけあって興味津々であった。

 ホタルニクス博士自身も質問攻めを見越して用意していたのであろう、一人一人の質問に対してウィンドウに情報を開示しつつ、はっきりと自信にあふれる声で丁寧に一つ一つ質問に答えていく。

 

 一方で、こっそり抜け出してすっぽかしたゼロに代わり、今度はアクセルは楽しげに進行する披露会を浮かない目で眺めていた。

 未だアクセルの懸念する、一般公募の名称の発表には至っておらず、時間が過ぎる程に彼の胸中は不安で満たされていった。

 自分自身が下手人と言う訳で無し、何故心配しなくてはならないのか。 エックスがブちぎれると分かっていながら、レイヤーとのひと時の為にバックレたゼロを理不尽に思いながらも、このまま何事もなく穏やかに時間が過ぎ去ってほしい。 アクセルは切に願っていた。

 

「(このまま何も起こらずに終わればいいんだけどなぁ……)」

 

 未だ腑に落ちない様子で首を傾げるエックス達を除く、ハンターベースの仲間達も含める皆が、壇上のホタルニクス博士に釘付けになっている。

 この間、アクセルはホタルニクス博士のスピーチの詳細な内容など耳に入る筈もなく、浮かない表情で皆の人陰に隠れるように塞ぎ込み、胸元で手を組みながらただひたすら無事を祈っていた。

 

 ――――そして、運命の時が訪れる。

 

 ひと段落ついた辺りでホタルニクス博士が会話を打ち切ると、観客にマイクを差し出していた司会が一礼して舞台に戻る。

 

「ホタルニクス博士、ありがとうございました」

 

 一歩身を引いたホタルニクス博士にも軽く頭を下げ、彼と入れ替わる様にマイクの前に立ち、披露会の進行を引き継いだ。

 

「……さて、それでは皆さん。 今日ここにおいでの一部の方々にとっては『これ』がお目当てでしょう……そろそろ名付けると致しましょうか」

 

 今度は司会が画面に手をかざす。 衛星の中継と公開されている資料のポップアップ画面が切り替わり、白地に黒の大きな文字が表示される。

 スクリーンに映し出された文字を見た途端、アクセルは息を呑んだ。

 

「それでは本日の目玉……幾多の応募の中から選ばれた、新型衛星の名称の発表を行います!」

 

 恐るべき時がやってきた。

 拍手喝采をもって迎えられた、衛星そのもののお披露目に次ぐもう一つの目玉……一般公募されていた名称の発表が始まった。

 

 ……司会が発表会の概要を説明する。 名称は応募されたものの中から、更に大多数の人員が投票によって特に優れた名称を選別したとの事。

 10位から1位の順番に読み上げられ、トップ10にノミネートされた応募者の名前は、1位が判明して初めて開示される。

 つまり、ギリギリになるまでここにいる誰が何を応募したのかは、応募した本人にしか分からないと言う事になる。

 期待を煽るやり方に、普通なら自分の名前が採用されるかもしれないと、否応なく胸を膨らませるニクイ演出を感じされるが……残念ながら今のアクセルにとっては、とても歓迎できるやり方には思えない。

 

「(一思いにラクにしてよもう……!!)」

 

 嫌な汗が出てきて止まらないアクセル。

 彼にしてみれば、恐らくブチ切れるであろうエックスによる、大荒れ待ったなしなゼロの死刑執行までの時間を、いたずらに引き延ばされる事に他ならない。

 いくらゼロ自身が撒いた種にしても、彼が断罪される事でパーティーが葬式会場に早変わりする事は避けられない。

 

「それではまずは10位から……『ラグナロク』!」

 

 アクセルの懸念をよそに、司会は名称の発表を開始した。

 司会はどこからともなく取り出した紙束を一枚めくり、読み上げると同時に背後のスクリーンにも名称が掲示される。

 

「ははは、我々はまだ黄昏れませんじゃ! しいて言うならあと1世紀は早いですかな?」

 

 読み上げられた名称へのホタルニクス博士のコメントに、会場が軽い笑いに包まれる。

 観客の内1人の男性が、笑顔だが少し気恥しそうに頭をかいていた。 リアクションから察するに、どうやら彼が応募したらしい。

 そんな彼を仲間らしき周囲の人々が、軽くからかったり小突いたりしながら……それでいて仲睦まじげにしていた。

 アクセルは離れた所から、生暖かい目で仲間の輪を見ていた。 背筋は冷たいが。

 

「(こんな楽し気なパーティーがお通夜になったら目も当てられないよなぁ……)」

「9位の名前は……こちら!」

 

 1人胃の疼くような思いを堪えながら、無情にも発表は進む。 

 

「『ゴールデンアイ』です!」

「ははは、映画の見過ぎですぞ! 我々の衛星はテロリストなどに奪われたりはしませんじゃ!」

 

 特にひねりの無い名前だが、場の雰囲気か再び会場に笑い声が響き渡る。

 同僚達も楽しげに笑みを浮かべながら発表を見守り……いよいよもってアクセルは居た堪れなくなる。

 採用されるされないに関わらず、10位以内にノミネートされてる以上、結局はエックスの名前が開示されるのだ。

 

「(……もういいや、僕も逃げちゃえ!!)」

 

 壇上で発表が続く度に胃が痛くなる。 傍観者の自分が割を食ってる事に我慢ならず、アクセルはゼロ同様バックレる事を選択した。

 こっそり身を引くように後ずさりし、ある程度離れた辺りで出口を振り向くと、足音を立てないように忍び足で会場の出入り口を目指し――――

 

「どこ行くのアクセル?」

 

 会場を後にしようとするアクセルの上腕を、誰かが背後から掴んだ。

 思わず軽く悲鳴を上げそうになったが、目立つ訳にもいかず喉から出かかった声を飲み込み、ゆっくりと首を後ろに向ける。

 

「ダメよ? エックスさんの大事な発表会なのに」

 

 むすっとした表情のパレットがそこにいた。 アクセルは心臓を鷲掴みにされたような思いで彼女を見る。

 どうやらこちらの胸中が何であれ、嫌気が差して会場を抜け出そうとした事を見咎めた様だった。

 これにはアクセルも内心大慌てだった。 居ても立っても居られないのには理由があるのに、それを口にしようものならエックスとゼロの一面を知るものなら、確実にただ事では済まなくなる。

 咄嗟の判断で、アクセルはしらを切ることにした。

 

「ちょ、ちょっとトイレに行きたくなっちゃったんだ……緊張して催しちゃって」

「レプリロイドがトイレに行く訳ないってば! ウソついちゃダメ!」

「(緊張してるのは本当なんだよなぁ!!)」

 

 しかし、本当にピンチを迎えているアクセルの口からは、もっともらしい言い訳など出る筈もなく、あっさりとパレットに看過されてしまった。

 良きムードに包まれる会場の空気を壊さぬよう、小声でアクセルを窘める彼女に、いよいよもって発汗が止まらなくなるアクセル。

 傍から見て体調を崩しているようにしか見えない彼を、しかしパレットが心配そうに見つめていた。

 

「でも調子自体はあんまり良く無さそう……大丈夫?」

「う……あ……うん……。 本当の所気分は確かに良くないよ? 具体的にはその、胃もたれ?」

「胃って……人間じゃないんだから……あ、でもこの間エイリアさんもストレスから胃薬飲んでたっけ」

「(飲むんだ!! ……テキトーに言ったつもりだったのに)」

 

 ……恐らくは純粋に気にかけてくれているのだろう。 不安げに尋ねるパレットに、アクセルは内心を悟られぬよう、腹を抑えて気分の良くない素振りを装おうとする。

 胃痛などレプリロイドにあるまじき言い訳だが、実際青ざめる程気分が悪いのは事実であるため、パレットに対し妙な説得力を与える事になった。

 一応は会話は成立している、アクセルはこのまま押し切る事にした。

 

「んー、心配だけど折角のエックスさんの発表会だし、私も会場から離れたくないし……」

「い、いいよ介抱とか! 歩けない訳じゃないから適当に医務室から薬でも貰って――」

「あ! そうだ!」

 

 なおも尤もらしい言い分を並べるアクセルに、パレットは何かを思い出したように両手を軽く叩いた。

 するとパレットはアクセルにしばし待つよう言って、エイリア達の元に静かに駆け寄ると、彼女に声をかけて話を始めた。

 

「(ちょっと!? 僕はただ会場離れたいだけなんだよ!)」

「続いては第6位――」

 

 今にも逃げたい衝動に駆られながらも待ったをかけられ、焦燥するアクセル。 気づけば司会の読み上げる名称の順位は第6位まで進んでいた。

 現状場を凍り付かせるような名称を読み上げられてはいないが、それでもアクセルにとっては予断を許さない状況だった。

 変わらず発表会が進行する中、パレットはエイリアから何かを受け取るとこちらに戻ってきた。

 そして受け取ったものを笑顔でこちらに突き出す。

 

「おまたせアクセル! エイリアさんから水の要らない胃薬貰ってきたよ!」

「(アカン)」

 

 アクセルは額を抑えて項垂れた。 胃痛を理由に会場から逃げ出そうとしたのに、他ならぬパレットの善意で外に出る口実を潰された。

 退路を断たれたアクセルは、しかし良かれと思って行動したパレットの気持ちを無碍にできず、苦笑いを浮かべながら取り繕う以外になかった。

 

「ははは……ありがとパレット、大事に使わせてもらうよ」

「発表が終わってまだ体調が悪かったら、医務室に付き添ってあげるから……じゃ!」

 

 茫然とするアクセルを置いて、パレットは満面の笑みで皆の元に踵を返した。 発表に聞き入る同僚たちの輪に入っていき、再びエイリアと軽く話をする。

 アクセルに軽く目線を送りながら小声で話し合う仲間達を見て、こっそりと抜け出す事は叶わなくなったと悟る。

 恐らくは自身の体調が宜しくない事を気遣って、時折でもこちらの様子を窺うように根回しをしているのだろう。 大きなお世話だ、仲間の優しさに心の中で涙した。

 こうなっては最早アクセルにできる事と言えば、貰った胃薬を大人しく服用するしかない。 薬の四角いケースの蓋を引き出し、軽く振って手の平にタブレットを2粒取り出し、口に含む。

 

「(……胃薬だけ飲んだってどうにもならないよなぁ)」

 

 気落ちしながら錠剤をかみ砕く。 口内から喉の奥へ広がる、気軽に飲み込めるよう味付けされたミントの爽やかさが、ほんの少しだけアクセルを慰めてくれるようだった。

 

 

 それから時間は流れ、第5位、4位、3位と次いで……壇上で次々と読み上げられる、新型衛星の名前の候補。

 1位のみが正式な名前として登録される中、惜しくも敗れて行った名前ではあるが、皆が皆期待を寄せて応募しただけとあって、時々悪ふざけを含みつつも、それでいて愛嬌のある名前ばかりだった。 

 

「第2位は……『はやぶさ(無言)』!」

「決して喋ったりはしませんぞ!」

 

 ホタルニクス博士の話題の拾い方もあり、やはり会場に笑い声が満ち溢れる。 ここに至るまで、ゼロが懸念した『変な名前』と言うものは……少々ありはしたが、いずれも笑って許せるレベルの物であり、少なくともゼロが命の危険を感じる程ではなかった。

 予想外のノミネートと言う事実に過敏になっているだけでは? 読み上げられる名前と会場の雰囲気に流され、正常化バイアスの働くアクセルは徐々に平常心を取り戻しつつあった。

 

 さて……ここまで2位までの名前を読み上げ、残す所第1位のみとなり、司会が気持ちを改める様に咳払いをする。

 

「それでは皆様……お待たせいたしました」

 

 スクリーンの文字が切り替わり、黒で縁取られた金色の派手なロゴであしらわれた『第1位』の一文が先に表示される。

 

「これからの人とレプリロイドの、安全でより豊かな生活が約束された未来を担う、衛星の名前を決定する時がやって参りました」

 

 会場のスピーカーを通して小刻みにドラムを叩く音が鳴り、皆が発表を固唾を呑んで見守る中、司会が最後のメモを用意する。

 この1枚をめくれば、栄えある第1位に選ばれた名称が読み上げられる。 しばしの間を置いて緊張と期待をあおる中、ついにドラムの音が止む。

 

「……栄誉ある第1位の名前は……!!」

 

 沈黙が会場を支配する中、ついに司会がメモをめくり上げ、その名を読み上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               「『きんた〇』です!!」

 

 

 




とってもおおきな きんのたま 無事公開!
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