〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

31 / 34
チャプター7:仇花(デスフラワー)
第31話


「マック、この野郎!!」

 

 死の間際に観念したかと思いきや、最後の悪あがきにでたマックにゼロはセイバーの切っ先を向ける。

 

「ククク……悪党は悪党らしく盛大に散らなければな……」

「今すぐ自爆を止めさせろ!!」

「それは無理な相談だ。 このコードは一度入力した後は決して停止出来ん……しかも基地の自爆だけではないぞ」

「何!?」

 

 出された命令は1つだけではない。 驚き焦るゼロに対し、マックは言葉を続けた。

 

「『きんた〇』の発射命令だよ! 我々があの衛星の制御に成功したのは知っているだろう? 場所はもう言うまでもなかろう――――」

 

<警告! 『きんた〇』のレーザー兵器のエネルギーを感知しました! 当基地は『きんた〇』によって補足されています! 全職員は直ちに半径5キロ圏外へ脱出して下さい!!>

 

 会話に割って入るように告げられた、基地のアナウンスを通して通達された事実に、ゼロは驚愕を重ね……目を点にする。

 どれほどの規模になるかは知らないが、自爆装置を名乗るからには基地を木っ端みじんにするには十分なのだろうが、その上で衛星兵器まで使うと言うのはいささか理解に苦しんだ。

 

「お前……爆破に飽き足らず衛星兵器まで使うとは、随時手の込んだ自殺だな?」

「ば、馬鹿な!? どうしてこの基地を!?」

 

 ゼロの言葉を遮るマックの様子は非常に驚愕しているようだった。 正に予想外の出来事に遭遇した、そんな口ぶりで。

 

「あのコードはお前らのハンターベースに照準を向けるよう、命令内容を入力していた筈だ!! わざわざ2度も基地を吹き飛ばす必要があるか!!」

「じゃあ今狙ってるのは何なんだ!?」

「し、知らん! あのコードで入力される命令は優先順度が高い権限だ……もしあれよりも優先される命令があるとしたら――――」

 

 マックは何かに気付いたように、はっとした様子で黙り込んだ。

 

「ま、まさか……」

「おいなんだマック! やっぱりお前何か知ってるんじゃねぇのか!?」

「博士のアレか……アレが使われたのか!?」

「訳の分からねぇ事言ってるんじゃねぇ!」

 

 唐突に自問自答を始めるマック。 博士のアレなどと言うこちらには分からない単語で呟くマックに、彼を問い詰めようとゼロは壁に埋まるマックに近寄った。

 

 その時であった。

 

 ゼロがセイバーの一撃と共にマックを叩きつけたアンテナの土台に、マックがめり込んだ辺りからここぞとばかりに亀裂が走り始める。

 コンクリートのひび割れと軋むアンテナの鉄骨が一気に傾き、危険を感じ取ったゼロは飛び退くが、正にその直後だった。

 アンテナは足腰から崩れ去り金属のフルコースが大量に降り注ぎ、身を引いたゼロは間一髪だったが……。

 

「まくどっ!」

 

 身体を真っ二つにされていたマックは勿論逃げる事も出来ず、崩れたアンテナの下敷きになってしまった。

 

「マ、マック! ――――ぬおおッ!!」

 

 瓦礫と鉄骨に埋まるマックの名を呼んだ時、突然ゼロの体に不具合が起き、金縛りにあって身動きが取れなくなってしまった。

 それはクジャッカーに襲われ、エックスにローダーもろとも崖から落とされた時と同じ、例の『大人のおもちゃ』によるエラーだった。

 体の不自由に苦しげに呻き声をあげるゼロ。 全身が痺れて脱力し膝をつく中、ゼロは我が身に起きた事も含め、差し迫った状況を整理するだけで精一杯であった。

 

「(クソッタレ……命令した張本人が分からねぇだと!? それに博士のアレって何だってんだ?)」

 

 結局『きんた〇』が何故『ヤァヌス』の基地に狙いを定めたのか、攻撃命令を出した本人の口から何も問いただす事は出来なかった。

 それどころか気がかりなワードだけを残して謎を深めていったマックに、指先1つ動かせないゼロは心の中で悪態をつく以外なかった。

 

「(……今動けるのはエックスとアクセルぐらいか。 さて、どうするか……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「に、逃げろおおおおおおおお!!!! ボスがやられたぞおおおおおおおおッ!!!!」

「もう『ヤァヌス』もおしまいだぁ!!」

「お前ら待てよ!! ホタルニクス博士は捕まえないのか!? 逃げるなよ!!」

「お前だって一緒に逃げてるじゃねぇか!!」

「馬鹿野郎! 俺だって死にたくねぇよッ!!」

「格納庫の輸送機使って脱出するぞ!! こっちだ!!」

 

 曲がり角の壁を背に慌てて逃げていく敵兵達をやり過すアクセルと、先の独房フロアにて無事に合流を果たしたエックス。

 自爆を通告する基地内の物々しいアナウンスと警報音、緊急事態を示す赤いランプが点灯する廊下を駆け抜ける兵士達の足音と悲鳴が、組織共々この基地の終わりが近づいている様子を2人揃って感じていた。

 

「……あいつら、第2コントロールルームの方から逃げて来たね。 ホタルニクスの爺さんの事言ってたよ」

「格納庫に輸送機がある事も言ってたな。 なんてタイムリーな情報なんだ……エイリア」

<分かってる――――基地内に収められてる輸送機の数は全然問題ないわね。 残った敵兵達に先を越されても、博士達を乗せて逃げるには十分足りているわ。 急いで!>

「「了解!」」

 

 エックスがエイリアから脱出経路を確認してもらうと、2人して逃げた兵士達とは逆方向……ホタルニクス博士の占拠した第2コントロールルームに向かった。

 道中散々焼かれた尻の痛みに身をよじりそうになるが、頑として痛みを堪えるアクセルを見かねたのか、エックスが心配そうに声をかけてくる。

 

「アクセル大丈夫か? やっぱりまだ痛むんじゃ」

「へ、平気だよ! むしろ感覚戻ってきただけマシな方だって」

「そ、そうか……本当だな?」

「変に心配しないで!? 気持ちだけでも十分だから! あんまり気にされると逆につらいよ! 色々と!」

 

 ありがた迷惑だと頑なに気配りを拒むアクセルに、エックスは何も言えなくなってしまう。 身を案じるエックスの気配りを突っぱねるのは心苦しいが、しかしアクセルとしても尻を執拗に焼かれた記憶をあまり思い出したくないと言う事情もあり、むしろ心配をされたくないと言うのが本音であった。

 今は気持ちを切り替えホタルニクス博士の救出に専念しようと、逃げる敵兵の目を盗んだり、あるいは目が合っても逃げるのに必死で、こちらに構わず走り去っていく兵士を見送ったりなどしながら、2人は程なくして目的地の扉にたどり着いた。

 

 扉は両開き式の大きな自動ドアだった。 施錠中を意味する赤いチェックランプが頭上に輝いているが、閉じ切ったドアの合わせ面が黒く焦げ、特に中央部分は融解し完全に溶接されてしまっていた。

 中からはホタルニクスとその他大勢の科学者達が、扉の外からでも聞こえるぐらい大きな声で話し合っていた。 と、言うよりは言い争っている様子だった。

 

「博士、脱出しましょう!! この基地はもう危険です!」

「何を言うか! 基地の自爆だけならまだしも『きんた〇』まで発射されたらこのジャングルはどうなる!? 大規模な環境破壊に繋がりかねんぞ!」

「今は我々が助かるのが最優先です! 入力に手間取って逃げ遅れたら元も子もありません! さあ!」 

「開発者としての責務をなんじゃと思っとる! そんなに逃げたければお前達だけで逃げろ!!」

「意地を張っている場合じゃないでしょう!! 私だって発射を阻止できる見込みがあるならそうしています!」

「そもそも締め切ったドアが焼き付いて開かないんです! レーザーを持ってる博士以外にドアを破れませんよ!」

 

 どうやらホタルニクスがギリギリまで衛星の発射を食い止めようと奮闘しているが、成果は芳(かんば)しくなく諦めて逃げるかどうかを巡っているらしい。

 

「それでも嫌じゃ! 儂の作った発明でまた被害が出るなど――――」

「博士! それと皆さん聞こえますか! イレギュラーハンターのエックスです!」

 

 まるで埒のあかない言い合いを打ち切らせるべく、エックスは中にいるであろうホタルニクスに扉の外から声をかけた。

 すると中の騒がしい様子が途端に静まり返る。 中の科学者達がこちらの存在に気付いたのだろう、確認するとエックスは救助に来た旨を伝えようとする。

 

 

「貴方達を救出しに来ました! あまり時間がありません! 急いでここから離れましょう!」

「ああ、救助が来てくれた! 博士!」

「!! 行きたければさっさと行くがいい――――」

「頑固者! ……しかし助かった! 敵の侵入を防ぐ為に、電子ロックと即席のバリケードを作ったんですが、あいつらドアを破ろうとレーザーで焼いた直後に逃げ出してしまったんです!」

「おかげでドアが焼き付いて開かなくなった上に、唯一武器を持ってるホタルニクス博士も意固地になって部屋から出たがらないせいで――――」

「自分達も閉じ込められたままって訳ね? 分かった、ちょっと扉から離れてて?」

 

 全てを言い終わる前に状況を察したアクセルが会話に割り込むと、唐突にウェポンラックから武器を展開した。 取り出された武器の物々しいシルエットに、エックスが見開いた眼を向ける。

 

「おいアクセル、それは――――」

合鍵(マスターキー)にしちゃ大きいのは分かってるよ? でも一番手っ取り早い方法だから、ね!」

 

 Gランチャー……高威力のエネルギー弾を撃ち出す、アクセルバレット以外に持ち込んだランチャー系の重火器。

 トリガーとストックのついたアサルトライフルのような外観ながら、武骨な機関部(レシーバー)から物々しい砲身のついたその兵器を、アクセルは融解して開かなくなった自動扉へ向け……即発射!

 

「砕け散っちゃえッ!!」

 

 直後に科学者達の脱出を妨げていた両開きの扉は、膨大な熱量と共にいとも簡単にブチ抜かれ、溶けた扉の破片と共に爆風が舞い上がる!

 

「ヒエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!」

「な、なんじゃあああああああ!?」

 

 これには中にいた科学者達も大慌てであった。 作業に没頭していたらしいホタルニクスも驚愕を隠せないようだ。 

 

「こら!! 中の科学者が巻き添えを食ったらどうする!?」

<ちょっと! アクセル今何したの!? 爆音が聞こえたわよ!!>

 

 全身を巻き込んだ黒い熱風から身を守りながら、強引極まりない方法で扉を破ったアクセルを叱るエックス。

 そして当然と言えば当然だが、無線機越しにもしっかり爆破音が聞こえたのだろう。 平行作業の中様子を伺うだけだったエイリアまでもが食いついてきた。

 

「ああエイリア! 扉が焼き付いて開きそうにも無かったから、吹っ飛ばしちゃった!」

<乱暴な真似はやめなさい! ……中の科学者達に怪我は無いわよね?>

「大丈夫だって! ちゃんと扉から離れる様には言ったから!」

<もう、今すぐに安否を確認して頂戴! 一旦切るわよ!>

「りょーかい! ――あースッキリした!」

「……全く」

 

 エイリアが声を荒げるも、アクセル本人は全く気にするようなそぶりを見せなかった。 

 それどころか本人にとってはちょっとしたストレス解消に繋がり、少しは気が晴れたような飄々とした態度を見せつけ、エックスとエイリアを大いに呆れさせた。

 

 して、やり方はさておき科学者を困らせていた扉を読んで字の如く粉砕したエックス達は、中にいる科学者達の安否を確認すべくコントロールルーム内に足を踏み入れる。

 そこには頭を抱えたまま地面に伏せたり、壁際で震えている十数名の科学者達と、椅子に座ってコンピューターと向かい合っていたが――――扉の破壊に驚きこちらを向いて硬直するホタルニクスがいた。

 扉だった場所の周りには焦げた跡と破砕したドアの破片が散らばるのみで、幸い巻き添えを食った人はいなかったようだ。

 人的な被害を出さずに済んだ事にエックスは安堵すると、怯えて地面に屈み込んでいる科学者に声をかけた。

 

「大丈夫でしたか皆さん! でももう安心です! 脱出用の輸送機には余裕がありますから、早くこの場を離れましょう!」

「な、何が大丈夫なんだ……爆破するならそれも言ってくれぇ!」

 

 介抱された科学者の震え声で不満を口にする様子に、エックスは呆れ顔でアクセルに目線を送る。

 まるでそれ見た事かと言わんばかりの白い眼差しだったが、アクセル本人は口笛を吹いて白を切った。 一応は科学者に離れるように指示したのだ、身の安全には気を遣ったのだから咎められる謂れはない。

 こちらの悪びれない態度に、エックスもこれ以上は叱るだけ無駄だと判断したのだろう、深くため息をついた。

 ひどい救出劇だが、エックスは改めて真正面を向き直し、目を丸くしてこちらを眺めているホタルニクスと対面した。

 

「お騒がせしてすみません博士。 さあ、急いでこの基地を脱出しましょう! 敵兵は逃げていくばかりで道中はほぼ安全です!」

「――――そうか」

 

 何やかんやあってもここから逃げ出す事が出来る。 拉致からの恐怖と圧迫感から解放されると他の科学者達は、両腕と共に歓声を上げたり、互いに手を叩き近くの誰かと抱擁したりと大喜びであった。

 歓喜に包まれるムードであっても、ホタルニクス博士その人だけは無関心であり、エックス達の言葉も聞かずに再びコンピューターの画面とにらみ合った。

 これにはエックスも困惑するが、今しがた身を起こした科学者の一人が状況を説明する。

 

「ずっときん……じゃなかった、衛星の発射命令を阻止するのに躍起になっているんです。 そりゃ、貴重な熱帯雨林にレーザー兵器を撃ち込まれれば大変な事になりますが、だからと言ってこのままここに留まり続けるのも――――」

「え? 開発グループのメンバーなんでしょ? 科学の何かを知ってるって訳じゃないけど、手こずる要素なんて思いつかないけど?」

 

 さりげなく『きんた〇』呼びを拒否した科学者からの、衛星の制御が困難であると言う情報にアクセルは首を傾げた。

 開発者に関わった存在ならかつてマックがそうだったように、管理者として直接衛星を操作できる権限をもってアクセス可能である筈だが――――

 そこまで考えた辺りでアクセルはふとある事を思い出した。

 

「……まさか、例の謎のアクセス履歴――」

「その『まさか』です。 ホタルニクス博士はそれを承知で、せめてレーザーの着弾点だけでも変えようと、偏光鏡の操作を試みていますが……」

 

 エックスとアクセルは、遠目からホタルニクスの向き合うモニターに目をやった。 説明によると『きんた〇』に搭載されているレーザー兵器は、衛星の位置と目標が離れていようとも、地球の反対側までなら軌道上に浮かべている鏡を使い、レーザーを屈折させて着弾させる事が可能である。

 が、科学者の言葉が途切れたのと、ホタルニクスのキーボードを乱雑に叩く音が、それら偏光鏡の向きを変え、直撃を避ける試みが上手くいっていない状況を物語っていた。

 食らいつくように懸命にキーボードと格闘を繰り広げていたホタルニクスであったが、やがてその動作もゆっくりと鈍くなり、しまいには握りしめた両手をデスクに叩きつけて終わりを迎えた。

 

「クソッ!! あのポンコツ衛星め!! 屈折鏡の制御からも締め出しおったッ!!」

 

 ホタルニクスは頭を抱えて項垂れた。 どうやら『きんた〇』のAIは実に素晴らしい性能を持ち合わせているらしい。

 開発を主導したホタルニクスをもってしても手の打ちようがなかった事実に、部屋にいる誰もが彼に対してかける言葉を見出す事は出来ない。

 解放の喜びから一転、室内には重々しい雰囲気が立ち込める……が、そんな中でホタルニクスは意味ありげな事を小声で呟いた。

 

「こんな時にアレさえ手元にあれば、こんな事態一発で解決できたと言うのに……」

「――え?」

 

 今、彼は何と言っただろうか。 沈黙が場を支配する中で呟かれたホタルニクスの言葉に、皆が一斉に反応する。

 

「……それは、どういう意味ですか?」

「直ぐに解決できるって、他に方法でもあるの?」

 

 衛星の発射を食い止めたいと言うのはここにいる誰もが同じ気持であった。 その中で事態を一気に引っくり返せるといったホタルニクスの発言には、皆して食いつかずにはいられなかった。

 ここにいる全員分の視線を一斉に注がれるホタルニクスだが、エックスとアクセルの問いかけに対しゆっくり振り返る。

 

「……エックスと、そしてアクセルじゃったかな? それと皆……これはもしもの話ではない、れっきとした事実じゃ」

 

 神妙な面持ちのまま、皆の知りたがっている『アレ』についてゆっくりと語り掛ける。 前置きから始まる彼の告白に、ここにいる誰もが固唾を呑んで耳を傾けた。

 

「アクセス履歴にも残らず、かつ全ての命令よりも優先的に衛星を制御できる手段があると言ったらどうする?」




 次回32話ですが、諸事情により明日日曜日の同時刻に投稿させていただきます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。