〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

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第32話

 唐突にホタルニクスから告げられた内容に、ここにいる彼以外の誰もが目を点にした。 余りに突拍子のない話に皆が皆言葉を失うも、ホタルニクスは構わずに話を続ける。

 

「儂はな、この衛星を単なる兵器として利用される事も勿論じゃが、何より悪党共が乗っ取りを仕掛けてくる事を最も恐れていた。 その懸念がどうしても拭えなかった儂は、独断で衛星にある細工を施す事にした。 既存のネットワークのいずれにも該当しない独自回線を用いて逆探知を防ぎ、直接制御系統にアクセスが可能となる……不埒な輩がいくらクラッキングを試みようと、即座に衛星の主導権を奪還できる手段を用意したのじゃ」

 

 話に呑まれるエックス達を前にホタルニクスは目を見開き……遂に一番言いたかったであろう部分をキッパリと告げた。

 

「そうじゃ、儂は作ったんじゃよ。 衛星『きんた〇』の緊急制御装置をな!」

 

 語気を強めたホタルニクスから明示された、見た事も聞いた事も無い制御装置の存在。 それはエックスとアクセル、そして何故か科学者達までもどよめかせた。

 彼らも一緒になって驚いているのを見るに、どうやらホタルニクスは独断の文字通り本当に一切打ち明けていなかったのだろう。 彼らにしてみれば同じ部署で開発に携わっていたに関わらず、全くそのような装置の存在に気が付いてなかった事もあって、色々な意味でショックを受けているようだった。

 そんな彼らの様子を察したホタルニクスは、何かを言われる前に科学者達に深々と頭を下げる。

 

「黙っていて済まない、だがお前達を信じていなかった訳ではなかったんじゃ。 衛星が出来て間もない頃に制御装置の存在を明るみにしては、ゴタゴタの内に宜しくない連中に狙われる危険性があったからでな……ほとぼりが冷めた頃に、お前達や信頼のできる管理者達にだけは打ち明けるつもりだったのじゃ」

「! せ、せめて一言でも言っていただければ……いえ、捕まって協力させられてた今となっては、かえって良かったのかもしれませんね――――」

「それよりもだよ! 制御装置なんてこっそり作ってたんなら、今からでもそいつ引っ張り出せば何とかなるんじゃないの!? 場所はどこ!? 言ってくれれば他のハンターに――――」

 

 会話に割って入るなり捲し立てるアクセルだったが、不意に何かに気付いたように口を止めた。 

 発信源を悟られず、あらゆる指示よりも優先的に命令する事が出来る……それは半年前にハンターベースへの誤射の原因となった、謎のアクセス履歴と非常によく似ていないか?

 つまりそうだとすれば、あの命令が出された原因は……。

 

「半年前、衛星兵器がハンターベースに誤射されてすぐ後じゃったかの……出所の分からない命令だと突き止めた儂は、当然例の制御装置の故障を疑った。 ともかく別荘に保管してあったそれを確認しに行こうと、研究所に籠りきりで疲れた体を引きずって戻ったのを覚えておる」

 

 その答えは、重々しい口調のホタルニクスが教えてくれた。 どうやらアクセルの考えは当たっていたようだが……陰のかかったホタルニクスの表情を読み取る事はできない。 うつむき気味に話す声は重く、所々震えていた。

 そんな彼から続けて出てきた情報は、エックス達を更なる驚愕に追い込んだ。

 

「儂の目の前に広がっていたのは……テープの張られた上から無残に割られ、閉めきっていた筈のカーテンごと開けっ放しにされたガラスの引き戸。 中に見えるリビングの絨毯は2人分の土足で踏みにじられ、こじ開けられた形跡のある戸棚の上にあったショーケース。 ……探偵じゃない儂にも瞬時に分かったわい、空き巣に入られたとな!!」

 

 先程手元にあれば解決できると彼は言ったが、それを行わない理由はとても単純だった。

 ホタルニクス自身が悪用を恐れて念入りに秘匿していたという制御装置。 敵の手に渡れば恐るべき事態を引き起こしかねず、現にハンターベースへの誤射までも引き起こしたその代物が、何と未だホタルニクスの手元に戻ってはきていないとの事。

 余りに簡単で、しかし極めて重大な問題にエックス達は絶句する。

 

「当然儂は慌ててのう……衛星の誤射の件で儂の後を追い、既に家を取り囲んでいたマスコミ連中を半狂乱のまま掻き分けてすっ飛んでいったのじゃ」

「ちょ、ちょっと待って……そんな大事な機械をケースに飾ってた!? ってか空き巣に狙われるような大層なガワだったのソレ!?」

 

 あまりに衝撃的な内容に、たどたどしい口ぶりで言葉をひねり出したアクセルが尋ねると、俯いたままのホタルニクスの肩がわずかに震える。

 

「……取り扱いに注意を要する精密機械じゃからの。 粗雑な扱いを必然的に避けられるようにするのと、何よりそれが制御装置であると初見で分からんようにする為、儂はこの機械をある模型の中に組み込む形で完成させた……それがまさか裏目に出てしまうとは思わなんだが」

 

 話を続ける度に肩の震えと語気が強くなっていくが、よく見ればレプリロイドである筈のホタルニクスの頭部には、血管の様なものが浮かび上がっており、目に見えて怒りを覚えている様子が切実に伝わって来る。

 込み上げる鬱憤で身が震えるホタルニクスだが、遂にその感情が爆発する時が来た。

 

「世界でたった1000個の限定生産……No.000~999までの内、儂に割り振られたシリアルナンバーは『007』! そうじゃ、この『きんた〇』の前身と言える『デスフラワー』の模型じゃよッ!!

「「ええええええええええええええええええええええええッ!?」」

 

 俯いた姿勢から顔を上げるホタルニクス。 同時に見開かれたその血走った目つきは、睨みつけた相手を射殺しかねない鋭い眼差し!

 ここにいる全ての人物が、博士のカミングアウトに今までで一番衝撃を受ける事となった。

 

「どうしてそんな大事なものイレギュラーハンターに届け出なかったの!? 僕達今の今まで模型の盗難届の存在すら知らなかったんだよ!?」

「盗難届なんぞ真っ先に出しとるわい!! じゃが直後に起こった『MEGA MAC』の火災のゴタゴタが、儂の届け出をうやむやにしてしまったようじゃがな!」

「「はあッ!?」」

「儂にも落ち度がないとは言わん! 後回しにされるリスクを分かっていながら、制御装置である事を伏せてただの模型として提出したんじゃからな! じゃが儂としても、1週間前に『あんな事』やらかした連中に迂闊に打ち明ける訳にもいかんと思ってな!」

「「あ……」」

 

 盗難から1週間前と言えば、勿論衛星に『きんた〇』と名付ける事となった忌々しい完成披露会の件である。 ゼロの悪戯と、制裁に向かったエックスの全玉全摘波動拳、極めつけに狂気の沙汰と化したホタルニクスのきんた〇が生中継されたおぞましい記憶。

 制御装置の存在を前に考えが回らないでいたが、そもそもホタルニクスにしてみれば、全てをぶち壊しにしたイレギュラーハンターを疑うのも当然であった。

 それでも正直に話さなかったホタルニクスも大人気ないと言えるが、問題はその後訪れた『MEGA MAC』全焼事件。 表向きは事故であるが、実際はこれもイレギュラーハンター絡みの案件である。 

 ホタルニクスに不信を抱かせた上、エックス達の与り知らない所で届け出をうやむやにしてしまった2つの原因において、正に当事者であったエックスとアクセルに反論など出来る訳がなく、これには思わぬ所でツケが回って来たと痛感させられる羽目になった。

 ここにいるハンター2人にしてみれば眩暈がする思いであるが、しかしその制御装置が盗まれたせいでこうした危機が起きているのだとしたら、見つからなかったで済まされる問題ではない。

 

「マックに捕まるこの半年間、所有者を尋ねる事はおろか闇市(ブラックマーケット)にまで足を踏み入れて行方を追ったわい! 盗品はいずれもシリアルナンバーが刻印されたネームプレートを剥がされておったが、それでも儂だけが知っている見分け方を行使して虱潰しに探し回った」

「そ、それは……?」

「音声での識別機能じゃよ! 緊急制御装置として用いるには安全装置を外さなならんでな! 儂が声をかけてロックを解除すれば、送信用のアンテナに該当する主砲部分が伸び、砲身の先端が金色に輝く事で初めて使用可能になる! ……結局現物は見つからず仕舞いじゃから、知った所で意味はないがな!」

 

 期待を込めたエックスからの質問を、結果と共にバッサリと切り捨てるホタルニクス。 アクセルはげんなりし、エックスは額を抑え天を仰ぎ見た。

 イレギュラーハンターの手を借りるまでも無く、独自で調査に乗り出していたホタルニクスをして見つけ出せなかった、むしろ足を引っ張る要因と化した緊急制御装置の存在が恨めしい。

 万事休す。 そう思った時……ホタルニクスは突如つい先ほどまで腰かけていた椅子を掴み、高々と頭上に振り上げたではないか!

 

「ふざけるな……どいつもこいつも儂の発明に汚い手垢をつけおってッ!!

 

 ――――からの地面に叩きつけ、椅子は背もたれと座面をつなぐシャフトが捻じ曲がる! 科学者達の間に悲鳴が上がるが、ホタルニクスは激情に駆られ曲がった椅子をやたらめったらに振り回す!

 

「何が写真映えじゃ!! マニアしか知らんような品薄の模型が、どうして一般層にまで注目されるんじゃあッ!! 価値の分からんにわか連中までもが欲しがるから、値段吊り上がって盗難まで起きるんじゃろうがッ!!」

「は、博士!! 落ち着いて下さい!!」

「爺さん気持ちはわかるけど! 今更暴れたってしょうがないじゃない!! とにかく落ち着いて!」

 

 盗難の遠因となった価格の高騰への怒りに、何度も何度も椅子を叩きつけるホタルニクス。

 飛び散る破片に巻き添えを恐れて慄く科学者達。 エックスは暴れ始めたホタルニクスの背後に回り、彼を羽交い絞めにする。 動きを封じる一方でアクセルが宥めつかせるように声掛けを試みるも、対してホタルニクスは手足をばたつかせ抵抗する。

 基地の自爆が迫っているのもあって最早泥沼の状況であるが、鼻息を荒げるホタルニクスの興奮はここに来て危険な領域へと突入する。

 

「価値も分からんと写真を撮りたがる連中はな――――儂のきんた〇でも写してりゃいいんじゃあああああああああッ!!!!

 

 羽交い絞めにされた姿勢のまま、ホタルニクスは股の間から突き出した尾の部分を展開! モザイクがかった男のシンボルを部屋一杯に輝かせた!

 

「うおっまぶし!」

 

 間近で向かい合っていたアクセルも、凄まじい眩しさに目を腕で庇う。 怯えていた科学者達の悲鳴も、ここに来て絶叫に変わった。

 

「やめて下さいホタルニクス博士! お気を確かに!」

「どうじゃ! あんな模型なんぞよりよっぽど写し甲斐があるじゃろ! ホタルじゃが写真バエー! ほれほれ^~」

 

 激怒を通り越して発狂したホタルニクス、彼は既に精神的にも限界だったのだろう。 あの時と同じように、恍惚とした笑顔でヤケクソ同然に股間を露出する! エックスが一生懸命取り押さえようと努力はしているが、予想以上に活発に動き回るホタルニクスの小柄な体に手こずっていた。

 エックスがホタルニクスを必死で落ち着かせる傍ら、眩い閃光に身動きできずにいたアクセルの元にエイリアから通信が入る。

 

「うう……こ、こちらアクセル――――」

<貴方達何してるの!? さっきからコントロールルームで立ち往生して! 早く脱出しなきゃ自爆までのカウントダウンが始まるわ!?>

 

 無線を切っていたが故に事情を知らないエイリアが、一向に脱出を行わない事に痺れを切らしたようだった。 しかし事態は時間切れが迫っているだけに留まらないのはここにいる誰もが知っている。 アクセルは起きている状況を端的に説明した。

 

「ま、まずい事になったよエイリア! ホタルニクスの爺さんが股間を露出してる!」

<――は?>

 

 アクセルは戻りかけた視力を頼りに無線の映像入力モードをONにすると、エックスの抑え込みももろともせず乱痴気騒ぎを起こすホタルニクスの現状を送りつける。

 直後、無線越しに何かを噴き出すエイリアの声が伝わった。

 

<な、何て映像送り付けるのよ!! 貴方も見てないで早く博士を落ち着かせて!!>

「あの爺さんも大概厄介ごと起こすなぁ! 露出狂の気でもあるんじゃないの――――」

「クカカカカカカカッ!! あないな『大人のおもちゃ』のせいで『きんた〇』がいつ暴発するか怯えて暮らさにゃならんのじゃ!! 狂わなやってられるかい!!」

 

 そして彼はデスフラワーの模型をして『大人のおもちゃ』呼ばわりをする。 その言い回しはひどくアクセルの耳に引っかかった。

 

「ああもう!! いい加減にしてよ爺さん! アンタまでゼロみたいな事言ってちゃ笑い話にもなんないよ!」

 

 散々ゼロの口から聞かされた、股間に埋め込んだと言う『大人のおもちゃ』の存在がチラついて仕方がない。

 耳障りなまでに卑猥な発言と行動を起こす彼を、これ以上発狂させたままにしてはおけなかった。 脱出の妨げになるのは避けられそうにないし、最悪気絶させて引きずっていく羽目になっても落ち着かせようと考えた――――その時である。

 

「(……ん? ゼロみたい?)」

 

 突如飛び出した『大人のおもちゃ』なるワードからゼロを連想したアクセルの脳裏に突如、ある閃きが浮かび上がる。 

 

「――ねえエイリア、ゼロはどうしたの?」

<! ゼロの事!? 無線にはかすれ声で応じるけど、屋上から身動きが取れないって言ってたわ! また例の不具合が出たらしいのよ!!>

 

 思いつきに誘われるようにゼロの事を聞いてみると、秘密基地突入前に打ち明けた悩ましいトラブルが発生したと、エイリアは不機嫌そうに言い放った。

 エイリアからゼロの置かれた状況を確認するや否や、アクセルはコントロールルーム内の騒ぎをよそに再び思考を巡らせた。

 

「(大人のおもちゃ……大人の……おもちゃ……)」

 

 ヤケっぱちのホタルニクスが発したその言葉を、何度も脳裏で繰り返すアクセル。 それは頭の中で点と点を結びつけるような思考の連続だった。

 

「(ホタルニクスの爺さんの言ったアレって間違いなく模型だよね。 ま、子供の買える代物じゃないからあながち間違いじゃないけど……)」

 

 一体何がこうもアクセルの感情に訴えかけるのだろう。 アクセルはホタルニクスのみならず、ゼロの言う『大人のおもちゃ』なる単語も改めて反芻する。

 くどい程に同じ単語を思考の中で繰り返し連呼するあまり、一瞬ゲシュタルト崩壊を起こしそうにもなるが、めげずにゼロの過去の発言から『大人のおもちゃ』にまつわる話を思い返していた。

 

 

 

「(――――あっ)」

 

 

 

 そして見つけた。 ホタルニクスとゼロが口にした同じ言葉、それが何故アクセルの関心を引いたのか。

 

「(あれれぇ……)」

 

 アクセルは気づいてしまった。 この事件の裏側と言うべき嫌な真相が見えた時、全身が悪寒に包まれ嫌な汗が滝のように噴き出した。 

 勿論現時点では想像の範疇でしかなく、ただの思い付きで根拠などある訳もないのだが、それでも自身が立てた仮説が正しければ全て辻褄が合う。

 そんな自分自身で導き出した発想を前に、余程思いついた本人をして外れていて欲しいのか、何度も否定して粗を探したり子供っぽいわざとらしい声で誤魔化そうとするが、一度成立させてしまったロジックを突き崩すには至らなかった。

 

<じっとしていないでアクセル!! もう時間がないわ! こうなったら無理矢理にでも博士を連れて脱出して!>

「クッ……やむを得ない、アクセル! 少々乱暴でも連れて行くしかない、手を貸してくれ!」

 

 頭の中で結論が出たその瞬間、脱出を促すエイリアと暴れるホタルニクスに対して助力を求めるエックスの声が、アクセルを現実に引き戻す。

 見るに騒然となっているエックス達だが、込み上げる嫌悪感と恐ろしさが、皮肉にもアクセルに冷静さを保たせる要因となった。

 

「何をしてるんだ! 早く博士を抑えてくれ!!」

「嫌じゃああああああああああ!!!! おめおめと帰って生き恥を晒したくはないんじゃ!! 放してくれェッ!!」

「――――落ち着いて爺さん」

 

 自分でも驚くほどにドスの効いた声をひねり出し、暴れるホタルニクスを一瞬で硬直させた。

 エックスの制止を振り払いかねない程にもがいていた彼の動きを止めたその声は、エックスのみならず同じ部屋の科学者達や、無線機越しのエイリアでさえも沈黙した。

 

「やっぱりさ、ヤケを起こしたまま死ぬ方がカッコ悪いって僕思うんだ」 

 

 有無を言わせぬ謎の迫力を醸し出し、皆が静まり返るのを確認してからアクセルはあらためて言葉を続けた。

 

「とりあえずさ、脱出しながらでも僕の話を聞いてよ」

 

 

 

 

 

――――僕、分かっちゃったかもしれないから。

 

 

 

 




 ここでカミングアウト、と言うほどではないですが……アクセルが立てた推理ですが、そのヒントは過去に投稿した話の中で既に大部分が開示されています。

 勘の良い読者ならとっくに気付いているかもしれませんが、もしそうでしたら……次の投稿まで知らんぷりでもしていただければ助かりますw

 さて今シーズンですが、来週ゴールデンウィーク期間中に最終回を迎えたいと思います。 どうか終幕を見届けていただけるよう、よろしくお願い申し上げます。
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