〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

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第33話

 アクセルの一言によって落ち着きを取り戻したエックス一同。

 今彼らはもぬけのがらとなった秘密基地の廊下を駆け抜け、難なく移動できた格納庫の中に残された輸送機を二機拝借し、今まさに飛び立とうとしていた。

 エックス達ハンター組が直接操る手動操縦の一機と、もう一つの輸送機は自動操縦に設定され、そちらにはその他科学者達が乗機していた。

 エンジンは既に起動しており、飛び立つにあたって上部ハッチは開かれたままになっている。 2つの輸送機は垂直離陸を行い、飛び立った先の格納庫を見下ろす様に飛び上がっていく。

 科学者達の乗った方の輸送機は、エックス達を置いて先に受け入れ先である近くのレプリフォース基地に飛び去って行った。 彼らを先に避難させる為であるが、対してエックス達の乗る輸送機は彼らを見送り、爆発前にゼロを回収しに行く段取りとなっていた。

 思いの外時間が経っていたのだろう。 既に日は傾き始めており、青かった空は夕焼け色に染まりつつあった。

 

 激戦を繰り広げた基地の周りを飛んでゼロの居る屋上に向かう。 開けっ放しの乗降ハッチから見下ろす敷地には人っ子一人見当たらない。

 マック達幹部の死と基地の自爆に恐れをなし、皆が皆我先に逃げて行った結果、自爆までのカウントダウンと衛星兵器の照準に補足された警告のアナウンスだけが鳴り響いていた。

 一度放棄された基地が新興勢力『ヤァヌス』の元でその役目を取り戻すも、今度はたった数か月で組織共々跡形さえなくなろうとしている。 正に、(つわもの)どもが夢の跡と言う他ない。

 

 操縦を買って出たのはアクセルだが、遠のく科学者達の乗った輸送機の姿を見届けたと同時に、エイリアに対し状況を報告した。

 

「エイリア、科学者の皆は先にレプリフォース基地に向かったよ……一応先に逃げた敵機と遭遇しないかだけ見張っておいて」

<了解したわ……受け入れ先には無事到着させてあげる。 貴方達は……うん、また後でね>

 

 レプリフォース基地と言うのは、南米に来て一番最初に潜り込んだアマゾン基地の事である。 受け入れについては既にエイリア達が先方に連絡済みである。 アクセルは無事に脱出を果たした科学者達の引き渡しを行うと、一旦無線を打ち切った。

 ひとまずは安心……とはいかず、その表情はとても険しかった。 それはハッチの側の取っ手を握って風景を見下ろすエックスも、そして機内壁際の椅子に腕を組んで腰かけるホタルニクスも同様であった。

 

 科学者であるホタルニクスが何故、帰路につく向こう側の輸送機に乗っていないのか。 それは脱出の最中に耳にしたアクセルの推理の為であった。

 彼の口から聞かされた突飛な内容を最初は鼻で(わら)いそうになるも、しばし間を挟んだ後で否定しきれない気持ちがこみ上げたホタルニクスは、一度自分の目で確かめてみたい気持ちになった。

 その為エックスと同じ側の輸送機に乗り込み、他の科学者達の反対にあうも、開発主任としての責務を理由にこれを突っぱねた。

 同じく話を聞いていたエックスはと言えば……アイツならば可能性はあるとむしろ最初からアクセルの考えに対し、確信めいたものを感じていた。

 

 アクセルの推理を反芻する3人は、形容しがたい心地の悪さに支配されている。 

 

「……もしこれで推理が外れてたら、いよいよもって衛星の発射は食い止められんのう」

「ダメで元々だよ。 ……当たっている事を祈るしかないよ、外れてて欲しくもあるけど」

 

 ホタルニクスの呟きに、アクセルが複雑な気持ちを露にする。

 推理から垣間見えたあんまりな真実に、本音を言えばここにいる誰もが間違いであって欲しいと願っている。

 しかし衛星の発射を食い止める為には、導き出された答えが確かだとむしろ証明しなければならない。 そんな居心地の悪さをこらえながら、遂に本機のレーダーに仲間の反応を見出した。

 

「っ! あそこだ、何か光ってるよ!」

 

 同時にバリアに包まれた屋上の敷地を確認する。 崩落したアンテナの瓦礫の山とその土台だったと思わしき段差、潰れた反射器とライドアーマーと思わしき残骸、そして突き刺さった鉄骨のすぐ側に僅かに輝く金色の光。

 その光の出所は、身を屈めながらこちらを見上げる赤い同僚……ゼロの下腹部のあたりから放たれている事が見て取れた。

 

 機体のセンサーには電磁バリアの発生装置の反応を検知していた。 幸い機体に装備された武器の火力なら簡単に壊せそうなので、アクセルは武器の中から光子バルカンを選択、それをバリアの発生源であるフェンスめがけて発射しこれを破壊! 立ち昇るコンクリートの粉塵と共にバリアはあっさりと解除された。

 して、露になった地面は荒れているが特に着地に当たって差支えがあるほどではない。 アクセルは瓦礫の山でない比較的平坦な部分に機体を軟着陸させる。

 エンジンの出力は弱めるが、しかしいつでも飛び立てるようにかけっぱなしにした後、エックスとホタルニクスと揃って機体から降り立った。

 ゼロは基地の自爆の間際にやってきた3人を見るなり、特に一緒に降り立ったホタルニクスの姿に驚きの表情を見せる。

 が、すぐに平然を装うように振舞いながら、エックスに目線を向け話し始めた。

 

「お、遅かったな。 マックの奴は下敷きになったぜ……」

 

 ゼロは苦し気ながらも不敵に笑いながら、マックが潰されたと言う背後の瓦礫の山に親指を立てる。

 ……しかし3人の目はゼロが指差すマックの墓標ではなく、片膝を立ててうずくまりながらもしっかり自己主張をする股間の輝きにあった。

 アクセルは隣のホタルニクスに目をやった。 息を呑むような表情に、大きな目は何かを確信したように見開かれており……一言も言葉を発する事無くゼロに歩み寄る。

 一緒に並ぶだけでなく、一歩も二歩も前に出てゼロのすぐ側に立つホタルニクスに対し、ゼロは目に見えて動揺した。

 

「ホタルニクス博士……その、例の『きんた〇』の命名の件は流石にやり過ぎちまった……」

 

 本人なりに思う所はあったのだろう、やはりと言うか騒動の渦中にある『きんた〇』について話を切り出してきた。

 しかし衛星の名前で自分のきんた〇で開示したホタルニクスは……意に介していない、と言うよりはゼロの股間に意識が向けられていた。

 この間ゼロ以外は誰一人として言葉を発せずにいたが……ついにホタルニクスがその重い口を開き、沈黙を破る。

 

「のうゼロよ……」

  

 ただならぬ雰囲気を漂わせながら問いかけるホタルニクスに、ゼロは顔を強張らせる。

 

「 パ ン ツ を 脱 げ 」

 

「――――は?

 

 が、ホタルニクスから飛び出した突飛な指示に、言ってる意味を理解しかねたのか、一転して気の抜けた表情をとるゼロ。

 

「……爺さん、ゼロは不具合のせいで今は体が不自由なんだよ?」

「おおそうか。 じゃあアクセル手伝ってくれんかのう」

「OK」

「ちょっとまて、誰のパーツがパンツだ……えっ、えっ?」

 

 ホタルニクスのお手伝いとして、アクセルはゼロの背後に回って彼の両脇に腕を通し、力の抜けきったゼロの体を立たせてやる。

 腕を回してゼロの胴体を背後から担ぐアクセルからは、普段の飄々とした雰囲気は全く感じられず、神妙な面持ちであった。

 その間、いきなり脱げと言われ無理矢理仲間に起立させられるゼロは、情報の整理が出来ていないらしく酷く困惑していた。

 

「さてと――――」

「お、おいおいおい! 何のつもりだお前ら!」

「済まないゼロ、君の『大人のおもちゃ』に用があるんだ」

「ファッ!?」

 

 聞かれた質問に素直に答えるエックスに、ゼロは噴き出した。

 その間にホタルニクスは立たされたゼロの前で屈み、未だ輝きを失わぬ黄金の頂が主張する腰の白いパーツに手を掛けた。

 脱がしてもいいと一言も了承を出して無いに関わらず、唐突に着る物をずらそうとするホタルニクスにゼロは慌てふためいた。

 

「放せアクセル! ホタルニクス博士、俺にそんな趣味はねぇぞ!!

 

 首を動かして抵抗を試みるゼロだが、肝心のそこから下は全く動かせていない。

 いきなり有無を言わさず腰に手を掛けるホタルニクスに青ざめるが、この場にいる誰もが博士の行動を止めないばかりか、後押ししようとしている。

 ホタルニクスは嫌がるゼロに構わず、情け容赦なしに腰の白いパーツをずり下げた!

 

 

 

 

 ――――白いベールに包まれようとも自己主張してやまぬ黄金の光、それがホタルニクスの手によって視界を覆わんばかりの眩い輝きを解き放つ!

 

 

 

 

 ここにいる誰もが目元を庇い、眩むほどの強い輝きから目線を逸らす。 しかしその光は露になるや否やたちどころに弱まっていき、先程の被せ物があった時とほぼ変わらぬ弱さまでに落ち着いた。

 直視できる程に光が落ち着いたのを感じ取ると、3人はこぞってゼロの股間を確認した。

 

 黒い下地の上に生けられる、燃え上がるように赤々と開かれた8枚の花弁、中央から突き出したその頂を黄金色に輝かせる、長々と伸びる砲身。

 

 ……まごう事無くデスフラワーの模型だった。

 

 ゼロの股座の間から自己主張する立派な作りの模型に、ゼロはバツの悪そうな顔を、エックス達3人は唖然としたような表情を向ける。

 特にホタルニクスに至っては、模型の主砲の横側に張り付けられた、銀色に光るヘアライン仕上げのネームプレートを凝視しては肩を震わせている。

 

「――――シリアルナンバー『007』……」

 

 ネームプレートに刻まれるはシリアルナンバー、その番号を読み上げるホタルニクスに、エックスとアクセルは互いに顔を見合わせてはっとしたように口を開ける。

 それはもう「やっぱりか!」とでも言いたげな、疑惑が確信に変わったような反応であった。 ……最早答えは出たようなものだが、それでもエックスとアクセルはあえてゼロに聞いてみた。

 

「まだ聞いていなかったな……ゼロ、これ誰から押収したんだ? まさか二人組の空き巣とかじゃないよな?」

「あ、ああ……ホーガンマーとクラッグマンだ。 誰かの家の破ったガラス戸から出てきて空き家に逃げ込んだから、そこで取り上げた」

「僕『大人のおもちゃ』なんて勿体ぶった言い方するから、てっきりいかがわしいものとばかり思ってたよ?」

「人の話を最後まで聞かねぇからだろ! ガキに買える値段じゃねぇから嘘は言ってねぇぜ!」

「んな事はどうでもええわいッ!! 何故よりにもよって『これ』なんじゃッ!!!!」

 

 エックスらの問答に耳を傾ける内にこみ上げるものがあったのだろう、ホタルニクスが顔を上げて会話をぶった切る。

 眉間に皺を寄せて激怒するホタルニクスに、ゼロは彼の怒りを理解できずにいた……が、理由は直ぐにホタルニクス自身の口によって告げられた。 

 

「これは儂のデスフラワー模型じゃあああああああああああああああああああ!!!!」

「――――は?」

「あったぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 緊急制御装置ィィィィィィィッ!!!!

「やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

「チクショウ!! 嫌な予感はしてたんだよッ!!!!」 

 

 この場にいるゼロを除く全てのレプリロイドが、色々な感情の元で大いに叫び合った。 何の事はない、最初から衛星を止める手段はゼロ自身が持っていたのだ。

 クラッグマンとホーガンマーの2人組が盗みに入ったのはホタルニクスの別荘だった。 それを股間を潰されて妖怪と化したゼロが『押収』し、失われし自前のバスターの代わりとしていたのだ! ……まさか衛星の制御に関わる大事な機械だとは知らずに。

 ホタルニクスから特徴を聞き、そしてアクセルが断片的な情報から推理して前後の流れを組み上げた事で、彼ら3人はこの嫌な真相に薄々気付いていた。 そして今、それが正しかったとこの目で確かめた事になる。

 

「お前ら、俺の自慢のバスター目の前にして何言ってやがる!?」

 

 ……盗品を『預かって』いたゼロだけが状況を把握しかねているが。

 

「どうしたもこうしたもあるかッ!! 貴様が股間に取り付けた模型は、儂が作った『きんた〇』の緊急制御装置なんじゃッ!!」

何ぃッ!? ……そうだったのか、道理で取り付けた途端に自信が湧いてくると思ったら、まさか衛星兵器(ファイナルウェポン)の制御装置だったとはな……礼を言うぜ博士!」

「お前のモノじゃないわタマしゃぶり野郎がッ!!」

 

 事態を揺るがす真相を知ってもなお、自分のナニと結び付けて呑気に褒めちぎるゼロに、ホタルニクスは品性も何もかもを投げ捨てる様に暴言を吐きまくる!

 

「しっかも何じゃあ!! こんなにビンビンにおっ立ておってからに!! これ儂の音声を入力せねばアンテナが伸びん仕組みなんじゃぞ!?」

「フッ、俺は何時だって体力だけが取り柄だからな! これだけ立派な主砲だったら簡単におっ立てられるぜ!!」

立てんでええわ!! これは精密機械なんじゃ!! もしお前が体の一部なんぞにした事の不具合じゃったらどうする!? この上で命令の誤発信なんてやらかそうもんなら――――」

 

 捲し立てる程にヒートアップを続ける博士が、制御装置への悪影響について口にした時、不意に会話がストップした。

 その瞬間、怒りの熱気に包まれていた周辺の空気が、一気に絶対零度にまで落ちる。 気づきたくない真相に触れてしまったが為に、もう一歩深淵へと足を進めてしまったかのように。

 ホタルニクスは勿論の事、話を聞いていたエックスとアクセルも冷めるを通り越して表情が凍り付いてしまった。

 

「……つまりその、博士……やっぱりそう言う事なんですね?」

「ゼロが不具合起きて身動き取れなくなる時って、大体あの衛星に異変が起きてたりする時なんだよね……これって偶然かなぁ?」

 

 2人は思い出していた。 衛星がハンターベースへ誤射された時、あるいは基地への突入前に攻撃命令が中断された時、制御装置を抱えていたゼロはどうであったろうか。

 大体の場合には自前のバスターもとい模型をビンビンにしたまま、同時に体の不具合と言う理由で全身が不自由になっていなかっただろうか。

 唯一の例外は最初のハンターベースへの誤射が起きた時であろうが、あの時も股間にテントを作って黄金色に輝かせていたであろうし、何よりも彼が誇らしげに言い放った言葉は――――。

 

「……まあ、詳しい話は全てが終わった後にでも調べるとしよう。 今はこれ以上の兵器の発射を食い止める事が先決じゃ」 

「……おっしゃる通りです」

 

 先にやるべき事があるとホタルニクスが股間の模型の話を打ち切ると、エックスは唐突に腕をかざし、全身が光に包まれる。 これはエックスが強化パーツであるアーマーの類を展開する際の合図だ。

 衛星の発射と言う差し迫った状況なのは分かるも、ホタルニクスの言葉を受けて唐突に強化パーツを展開するエックスにゼロは怪訝な眼差しを送る。

 

「ねえホタルニクスの爺さん。 輸送機乗る前に言ってた、手っ取り早く衛星止める方法って何だっけ?」

 

 その間にアクセルが、輸送機に乗ってやってくるまでにホタルニクスから教えられた方法について言及する。

 それは忘れたからと言うよりは、まるで確認作業のようなアクセルの問いかけに対し、ホタルニクスは目を細めてゼロに視線を送る。

 今にもレーザーが発射されそうなだけに、傍らで話を聞くゼロは興味津々であったが、何も知らないのは彼一人。

 

 衛星を止める方法について期待を寄せるゼロに突き付けられたのは、彼にとっては余りにえげつない残酷な手段であった。

 

「 ぶ っ 壊 せ 」

 

 ――――たった一言、壊せと言われ一瞬ゼロは首を傾げそうになった。

 しかし一言告げたホタルニクスの視線はゼロの顔ではなく、特に股間のデスフラワー模型に注がれているようだった。

 同時にエックスの全身を包んでいた光が収まると、中から姿を現すは鋭角的な造形で歴代のアーマー中最も攻撃に特化した『セカンドアーマー』に身を包むエックスの姿だった。

 彼もまた、黙々と両手を組んで指を鳴らし、首を左右に傾けて音を立てながらゼロの股間を注視した。 さながら獲物を狙う野獣の眼光を宿しながら。

 

 この瞬間、ゼロは全てを理解した。

 

 何を壊せとホタルニクスが告げたのか、どうしてエックスがアーマーに身を包んだか……そのチョイスも含めて、今からどうやって叩き壊すと言うのか。

 周囲に漂う剣呑な空気の意味合いにゼロが気付いた時、彼は青ざめて冷や汗を流しながら、引き攣った笑顔を浮かべた。

 

「なにせ非常時にだけ用いるつもりで作った物じゃからな。 壊れたら即座に衛星が感知して、全ての命令を打ち切った上で自爆を決行するよう設計しておいた。 悪党共の手に渡った時の最後の手段じゃが、まさかバカタレな味方のせいで使う事になるとはのう……」

「爺さん。 本当にいいんだね? 一応アンタが願いを込めて作った衛星なんでしょ?」

 

 衛星を止める為の最後の手段を述べるホタルニクスに対し、一応アクセルが最後の確認をする。 しかしゼロを目の前にわざわざ物騒な方法を口にするホタルニクスの答えなど、当の昔に決まっていたも同然であった。

 ホタルニクスは目を見開いて、エックスに手段を行使するよう求めた。

 

「もうイカ臭い手垢に塗れた衛星なんぞに未練はない!! 儂が許可する……やってしまえエックスッ!!

「 了 解 」

 

 叫ぶホタルニクスに対し、エックスは不気味なまでに淡々と返事をした。

 ……ゼロのよく知る青いハンターは、本気で怒っている時ほど静まり返る。 わざわざセカンドアーマーを着込んで実力行使に出るあたりに、エックスの容赦のなさが窺える。

 身の危険をひしひしと感じ、無駄だと分かっていても身をよじって逃れようとするが、やはり不具合からの体の不自由と背後から脇に腕を回すアクセルのせいで、ゼロは最早まな板の上の鯉に過ぎなかった。

 

「アクセル……一応配慮はするが、君も巻き込まれないように注意するんだぞ」

「分かってるよ。 ……さてゼロ。 覚悟を決めなよ、まさかアンタに限って命乞いなんてみっともない真似しないよね?」

 

 腰を落とし、体をねじり左腕を引いて身構えるエックスと、何をするか分かった上でゼロを離さないアクセルの呟き。

 完全に逃げ場を塞がれたゼロはしばし目線を泳がせるが……その後青ざめていた顔の血色が元に戻り、滝のように流れていた汗も止むと、うって変わって驚くほどに平常心を取り戻した。

 

「……俺を見損なうなよアクセル。 長年のハンターやってきた身として、物事の引き際は弁えているつもりだ」

 

 そして何かを悟ったかのように目を閉じて微笑むゼロ。 どうやら置かれた状況に対し彼なりに吹っ切れたようだ。

 引き際を悟ったゼロの次の行動は……!

 

ぬうおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!! 

「え、ちょ……ちょっと何!? うわっ!」

 

 不具合が起きて微動だにしなかった筈の首から下が、息を吹き返したかのように動き出し、背後から拘束していたアクセルを弾き飛ばした。

 これにはアクセルも尻餅をつき、火傷の痛みにこれでもかと顔をしかめ、動けないと聞いていたホタルニクスも驚愕する。

 潔さを見せつけたと思えば急に抵抗を試みたゼロに、一方でエックスは腰を落とした姿勢のまま、動ずる事無くゼロの行動を眺めていた。

 長い付き合いのエックスには分かっていた。 状況が詰んだ時、ゼロは生き意地の汚い真似を見せるようなダメ男ではないと。

 

「安心しろ、俺は逃げも隠れもしない。 ただ、自分の納得いく形で幕を引きたいだけだ……おおおおおおおおおお!!!!

 

 最後の力を振り絞り、体を震わせるようにしてゆっくりとだが確実に、鉛のように重い体を動かしていく。

 

「お前達……最後まで見届けろ……!!」

 

 膝を曲げて足を開き……親指を立てた両腕を開いた股座に突き立てる――――ッ!!!!

 

「これが(おとこ)の生き様だああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 燃えるような紅の華をこれ見よがしに突き出した! それは魂のこもったゼロの覚悟完了の合図であり、どこまでもホタルニクスの古傷を抉る見事なM字開脚だった!

 ゼロの漢気(おとこぎ)と言う名の芸人魂をしかと見届けたエックスは、彼が望む介錯の一手――身を屈めゼロの股間に飛び込み、炎を纏いし蒼き拳から解き放つは昇り竜!!

 

 

 

 

「 昇 竜 拳(しょうりゅうけん) ッ ! ! 」

 

 

 

 ――――エックスの拳がゼロを散華させた。

 腰下から飛び上がるエックス共々、遥か上空に体を曲げて突き上げられるゼロの表情は、ほんの僅かな瞬間苦悶に顔をゆがめるも、直ぐに為すべき事を成し遂げたような誇らしげな笑みを浮かべた。

 それはエックスの手から放たれた竜が、ゼロの煩悩の源を食いちぎったからなのか、半年越しに大事な部分を2度も摘み取られたにしては不思議なほどに清々しい表情であった。

 

 やがてエックスの熱い拳に全てが燃え尽きたゼロは地面に大の字で叩きつけられ、エックスもまた一歩遅れて着地を果たす。 華を散らしたその左拳には、輝きを失ったデスフラワーの主砲が握られていた。

 エックスは倒れるゼロに踵を返し、無言のまま倒れている赤いハンターの長い金髪を引っ掴んでは、その体を輸送機のハッチに乱雑に放り投げる。 雑な扱いを受けながらもゼロは腹立たしいまでに満足げな笑みを一切崩さない。

 命を脅かすデスフラワーは散った、今頃は『きんた〇』にも攻撃命令の中断と自爆命令の決行が行われようとしているだろう。

 ……為すべきことは成した。 エックス達3人は互いに頷き合うと輸送機に乗り込み、自爆まで10秒のカウントダウンを告知した基地から飛び去った。

 

 

 

 

 

 遠のいていく秘密基地を背に、振り返る事なく帰路につく輸送機。 バックモニターに映る基地の大きさが、ジャングルの茂みの中に紛れて分からなくなったその時、敷地の辺りから大自然を引き裂くようにキノコ雲が生え上がる。

 去り行くエックス達への送り火であろうか、流し目ではあるが基地の最後を見届けた時、エイリアから無線の連絡が入る。

 

「こちらアクセル、連中の基地からキノコ雲が上がったよ。 例のアレもエックスがきっちりカタをつけてくれたよ」

<……たった今衛星の自爆を確認したわ。 間も無く衛星の破片が降り注ぐけど、大気圏突入時に全て燃え尽きるわ……任務完了よ>

「科学者達は無事についた?」

<ええ、近くのレプリフォース基地で保護されたわ。 お疲れ様……そこは日の入りも早いから、丁度燃え尽きた衛星が流れ星のように見えるかもしれないわ>

「……あ、今見えた」

 

 赤道に近いアマゾン川流域における日没は早く、エックス達を乗せた輸送機は早くも夜の闇に包まれようとしていた。 そんな中で、エックス達の頭上を横切る数多の流れ星。

 エイリアの告げた通り、全て爆砕した『きんた〇』の破片であり、ともすれば多くの命を奪いかねなかった凶星は、今や星々の輝きが姿を現し始めた空を彩る光のシャワーとなったのだ。

 エックス達はただ黙々と、それでいて戦いを終えた戦士達への労いを感じながら、仲間達の待つハンターベースへと帰っていくのであった。

 

 

 

 

 かくしてゼロの華は種をつけずとも、世界の平和と引き換えに散りゆく仇花(デスフラワー)として役目を全うしたのであった。 美しき流星群として消え去った『きんた〇』の輝きと共に……。

 

 





ゼ ロ の ○ ○(ダブルオー) は 二 度 死 ぬ




 と、言う訳で……約8か月近くかけてようやく書きたかったオチに持っていけました(白目)

 次はお待ちかねのエピローグ(事後処理)……明日同時刻の投稿をもってシーズン2は終わりを迎えます! ぜひお楽しみに!
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