〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

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第4話

 

 

 司会の掛け声と共にでかでかとスクリーンに表示される『きんた〇』の文字。

 ご丁寧に先に表示された『第1位』と同じく、黄金色に輝く破壊力抜群のご立派な名称(ゴールデンボンバー)が、会場のムードを一瞬で破壊しつくした。

 

「えっ?」

「えっ?」

「「「「「「えっ?」」」」」」」

 

 会場にいる全員が異口同音に、たった一言疑問符を浮かべ……目先で起こった出来事を正確に受け止めきれずにいた。 場の空気は瞬く間に数度は下がり、もとい凍り付く。

 

「ええ……」

「何だこれは……たまげたなぁ……」

「完成度高ぇなオイ」

「これは ひどい」

 

 VIPをはじめとする観客達のどよめきの声。 皆困惑の余り平常を保ってはいられないのか、近くにいた人間同士でスクリーンの文字に目をやりながらも耳打ちを始めたりする。 我らがイレギュラーハンター総監のシグナスもまた、極めて冷静に努めようとはしていたが、見開いた眼を閉じる事は叶わず動揺を隠し切れないでいた。

 

「な、なんじゃ……ジョークにしてはちときついんじゃあないか?」

「まずいですよ! ……ちょっ、こんな場を弁えない様な名前、冗談にしても……え、冗談じゃない?」

 

 ホタルニクス博士はおろか、名前を読み上げた司会も何が起きたかを測りかねているようで、壇上と言う人目に晒されている場所にも拘らず慌てふためいていた。

 

「(そんな……まさか……ッ!!)」

 

 油断していた。 騒然となる会場の中、アクセルもまた周囲の人々のように唖然とするも、会場内の応募者と思わしき人々に視線をやる。

 皆が皆凍り付いており、状況を全く把握できずにいた。 エックスも含めて。

 困惑する同僚の姿を目に入れた瞬間、アクセルは全てを理解した。

 

「(――そうか! 分かったぞ!)」

 

 これまでに名前が読み上げられていく中で、他の応募者達は自分達が提出した名称が読み上げられる度、自身の名前まで読み上げられていないにも拘らず、必ず何かしらのリアクションをとっていた。 気恥ずかしそうにしたり、笑ったり。

 しかし応募した記憶が無いと言い張るエックスは、場の雰囲気を壊さぬ気遣いからか終始愛想笑いに徹していた。

 そしてたった今、衝撃の第1位が読み上げられた時において『他の応募者と同じように状況を把握できずにいる』と言う事は……。

 

「(ゼ、ゼロ……アンタなんて事してくれたの!?)」

 

 何故ゼロがあれだけ焦っていたのか、アクセルもようやく把握できた。

 ……どうしてこんなのが1位はおろか、入賞を果たしたのか? 選考した人々の顔を見てみたくもなったが、今はそれどころではない。

 運営をして混乱を隠し切れずにいるも、それでもどよめく会場の雰囲気を立て直すべく、司会が引き攣った笑いを浮かべながら懸命に発表会を進行させる。

 あくまで次の予定を段取り通りに始めると言うのなら……この次は確か――――。

 

「そ、それでは気を取り直して……トップ10の名称に選ばれた人々達をご紹介いたします!」

「(やっば……この流れは)」

 

 司会の掛け声と共に10名のスタッフが会場内に散り、困惑する観客をよそに応募者10名に一声をかけ、彼らの胸に赤いバラの花を模したマイクを取り付け、全員を舞台に案内する。

 そうだ、名称の順位を決定したら……次は応募者が誰で、どの名前を投稿したかを紹介する時間だった!

 つまり、エックスが冤罪を吹っ掛けられる瞬間である事を意味する。 係員に連れられ、訳も分からぬままスクリーンの方を向く10名の応募者達。

 良かれと思い、ただひたすら場を収めようと軌道修正を図る司会者に、アクセルは力づくで止める訳もいかず、鷲掴みにされる胸中において悲痛な叫びを上げた。

 

「(もういいよ!! やめて! お願いだからやめてええええええええええ!!!!)」

「トップ10に選ばれた各応募者は……この方々です!」

 

 

 

 ――――しかし現実は無慈悲であった。 いたいけな少年の願いも空しく、更なる衝撃を伴って応募者の名がスクリーン上に開示された。

 

 

          #第1位『きんた〇』……投稿者:『ロックマンX』#

 

 

「はああああああああああああああああああああああああッ!?」

「(やっぱりィィィィィィィィッ!!)」

 

 観客がどよめくよりも先に、スクリーン上の自身の名前に面喰らったエックスの絶叫。 スイッチの入ったマイクが胸についていた事もあって、彼の叫びはハウリングを伴って会場内にこだました。 

 咄嗟に耳を塞ぎながらも、薄々気づいてはいながら嫌な予感が的中した事にショックを受けるアクセル。

 変な名前にエックスの名前。 ゼロ自身がエックスの名前で投稿していると、少なくともアクセルだけには発覚している以上、もはや彼のやらかしだと確定したも同然だった。

 それはさておき、余りの音量に会場内は文字通り衝撃に包まれ、耳を塞ぐタイミングの遅れた人々は昏倒しそうになった。 驚愕に打ち震え瞬きもせず目を見張り、青い伝説のB級ハンターはその場で膝をつく。 しばしの間、場は沈黙に包まれた。

 訪れた招待客達に立て続けに突きつけられる衝撃の事実、もといエックスにとっては無実を前に、沈黙と言う名の重々しい空気に包まれる中……口を開く事は誰一人として出来ずにいた。

 しかし、ハンターベースの親愛なる仲間、エイリアが引きつった笑顔で壇上で硬直するエックスへ辛うじて声をかける。

 

「エ、エックス……貴方疲れてるのよ……?」

「ッ!?」

 

 ……恐らく彼女としては精いっぱいのフォローだったのだろう。 しかし身に覚えのない濡れ衣に打ち震えるエックスに、それは全くの逆効果であった。

 

「ふざけるなぁ!! ……違う!! 俺は断じてこんなの書いてないッ!!」

 

 同僚にまで品性を疑われたと思ったのだろう。 人目を憚らず錯乱するエックス。 これには思わずエイリアもしまったと言った様子で咄嗟に口を塞ぐ。

 頭を抱えて膝をつき、天井を仰ぐエックスは慟哭する。 これは何かの間違いだと。 周りにいた他の応募者も取り乱すエックスにたじろき、一歩身を引いて困惑の表情を浮かべていた。

 そんな中、舞台の下からエックスを眺めていた仲間達から、ふと疑問の声が上がった。

 

「エイリア……本当にエックスがこんな名前つけるのか?」

 

 ダグラスが苦虫を噛み潰したような表情で、気まずそうにするエイリアに尋ねてみる。

 

「何か変だぜ? そもそもエックス自身、応募の事自体知らなさそうな感じだったし」

「ッ!! ……そう、ね。 やっぱりおかしいわ……だとしたら、誰かが勝手にエックスの名前使ったって事?」

「大体こんな名前つけるなんて、いっつもエッチな話してるゼロさんじゃないですし――――」

 

 パレットがゼロの名を口にした途端、会話をしていた3人の同僚と壇上で嘆くエックスの動きが瞬時に止まった。

 

「そう言えば、さっきからゼロの姿見かけないわねぇ」

「……レイヤーもいませんよ?」

「まさかこうなると分かっててフケこんだんじゃ……?」

 

 正解。 厳密には、単純に目先の見事なメロンにつられて、問題を潰さず先送りにしたいわばツケが回っただけであるが。

 エイリア達やエックスは真顔で、緊迫した空気に震える会場内を無言で見渡した。 

 変な名前が読み上げられた現場にゼロがいない、と言う状況証拠だけにもかかわらず、ゼロを犯人と断定する4人の同僚。 彼が今回の仕掛人である事を理解しているアクセルにとっては、エイリア達の一連の動きを身が震えるような思いで見ていた。

 急に冷静になる仲間達が、アクセルには怪物が獲物を探し求めているようにも見え、恐ろしい事この上ない光景にしか思えない。

 

「(いくら付き合い長いからって、何で状況証拠だけでここまで分かんの!? エスパーみたいで怖いよ!!)」

「アクセル」

 

 そんなアクセルの考えを見透かしたように、壇上にいるエックスの声が……アクセルは振り向くと、静かに怒りを湛えるエックスと目が合った。

 

「……俺の名誉を殺った赤いイレギュラーはどこだ?」

「ヒェッ……」

 

 足がすくむアクセル。 かつての上司でもあったケツアゴ隊長のような口上で、まるでやましい事がばれた様に身を縮めるアクセルを、エックスは問い詰める。

 冷え切ったはずの会場の空気が一転し、怒りのあまり蜃気楼のように揺らいでいた。 話し合っていた3人の同僚と、特にエックスは。

 あまりの恐怖に一歩後ずさりしたが、背中に誰かが当たる感触を覚える。 硬い動きで背後を振り向くと、さっきまで話し合っていたはずの3人が背後に立っていたではないか!

 

「アクセル……お前は知ってるんだな? 悪い事は言わない、ゼロの居場所を言うんだ」

「アクセルがゼロさんの味方じゃないって事、私信じてるからね?」

「ゼロをかばう理由なんてないわ? 隠すと為にならないわよ?」

 

 皆笑顔だが、目は笑っていない。 今にも爆発寸前なのは明らかだ。 特にエイリア、指を動かして関節を鳴らしているではないか。

 そして舞台から降り、真顔でにじり寄ってくるのはエックス。 彼自身は何も悪い事はしていないし、隠し事をするつもりも毛頭ない。 にも拘らず……この針の筵に立たされたような錯覚、アクセルは救いの手を求めようと、もう一人の仲間であり頼れる上官のシグナスに目線をやる。

 だがここにきてからと言うもの……彼は他の観客同様モブのような存在感、我関せずとでも言わんばかりに会場の壁の方を向き、アクセル達とは目も合わせようとしなかった。

 逃げ場を探している内にエックスは目前まで迫り、立ち止まる。 恐るべき絶対強者と対峙したアクセルは奥歯がかみ合わず、震え声で必至で抗弁する。

 

「ぼ、僕は止めようとしたんだ! こうなる事は分かってたから、皆が知る前に応募を取り下げてって――――」

「君が悪くない事ぐらいは知っているよ…… ゼ ロ は ど こ だ ?」

 

 が、極度の緊張故に聞かれてもいない弁明に走るアクセル。 もちろんエックスは一言で切り捨て、赤い下手人の居場所を問い詰めてくる。 マイクの効果で彼の声は本人の口からのみならず、会場中のスピーカーからも伝わって来る為、アクセルは背後に立つ3人の同僚の怒りのオーラにもあてられ、複数に増えたエックスに取り囲まれているような錯覚を覚える。

 正直耐え難い。 最早完全にとばっちりだが、有無を言わせぬ迫力に慄くあまり思うように言葉をひねり出す事が出来ず、しどろもどろになるアクセルに業を煮やしたのか、遂にエックスは最後通告をする。

 陰のある笑顔で、アクセルに詰め寄り一言。

 

「ゼロの居場所を言わないのなら…… 君 で も 殺 す よ ?」

「ゼロならレイヤーと一緒にチョメチョメするって客室に行ったよおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

 今にも泣きだしそうな勢いだったが、すんでの所でエックスの知りたがっている情報をひねり出したアクセル。

 

「ありがとう、協力してくれると信じていたよ」

 

 間近でアクセルの叫びを聞いていたエックスは満足したのか、お面を付け替えるが如く満面の笑顔を浮かべると――――。

 

「皆さんお騒がせしました。 たった今からイレギュラーを排除しに行きますので、私達に構わずパーティーを楽しんでください」

 

 今更何を言っても手遅れな気もするが、とりあえず披露会の進行を妨げた事を謝罪する。 口出ししてはいけないと言うムードに当てられたのか、来客者とマスコミ関係者は皆一様に首を縦に振った。

 エックスはそれを見届けると猛烈な勢いで駆けだし、速度を殺す事なく会場の出入り口の扉をタックルで破壊。 両開きのドアの破片と共に文字通り飛び出し、ホテルのロビーへと続く廊下を走り去っていった。 

 呆気にとられた様子で怒れる伝説のB級ハンターを見送ったアクセルは、しばしの間を開けると大きく息を吸い込み、思い切り吸い込んだ空気を吐き出した。

 

「っはぁぁぁぁぁぁ……。 も、もう少しで僕までとばっちり受ける所だった……」

 

 深呼吸と共に全くもって心臓に……もといどうりょくろに悪い。 寿命が縮むような思いをしたが、とりあえずは緊張から解放されて脱力するアクセル。 

 エックス同様爆発寸前だった同僚3人も、波が引くように感情を引っ込めアクセルの背後に取り囲むのを止めると、何事も無かったかのように3人で会話を始めた。

 

「辛く当たってごめんなさいねアクセル。 ……さ、後はエックスに任せておきましょう?」

「全くアイツもいたずらにしちゃ度が過ぎるよなぁ」

「そうですよ。 何の恨みがあってエックスさんの名前で応募するんですか?」

「(もう……皆して調子いいんだから)」

 

 何食わぬ様子で会話を始める3人に、会場をバックれたゼロ同様理不尽な感情を覚えるアクセル。 が、素直な気持ちを口にしてもいたずらに事を蒸し返すだけだと思い、少々不服だがその件についてはひとまず後回しにする事にした。

 どうせ今から直接の原因であるゼロが、一応は空気を読んで会場から飛び出していったエックスに、お騒がせの代償を全力で支払わされるだろうから。

 事を荒立てぬよう取り計らったのを無碍にされた上、自身も結局巻き添えを食った事を考えれば、ゼロの事は少々気の毒だが自業自得だろう。 ほんの少し溜飲が下がる思いをする。

 

 さて、イレギュラーハンター組が普段通りに会話を始めるのを、何も言わずに平常に戻るべき合図だと受け取ったのか、舞台で硬直していたホタルニクス博士と司会、そして他の応募者達もそそくさと定位置に戻り、進行がストップしていた発表の段取りを再開する。

 

「えー、色々とその……ハプニングもありましたが、気を取り直して進行に移りましょう」

「んんっ、1位のエックスさん……もといゼロさん? は現在会場内におられませんので、順番を繰り上げて2位の方から表彰を行いたいと思いますじゃ」

 

 皆して先程の出来事を無かった事にしたいのか、どことなく動作がぎこちない様子である。 しかし折角のパーティーを楽しみたい願いからか、何とかして場を盛り上げようと奮闘するホタルニクス博士率いる運営。

 平常運転に戻そうとする周囲を見て、今度こそ頭を痛めるような要素はないだろうと、安堵の思いから額を拭う。 紆余曲折あったが、これからはつつがなく披露会をやっていけるとアクセルは思った。

 

 

 

 

 

 ――――そして、唐突に致命的な見落としに気付いてしまう。

 

「……エックスってマイクのスイッチ切ったっけ?」

 

 

 

 

 

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