〇ゴールデンボール〇 ロックマンZAX2   作:Easatoshi

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第8話

 

 

「で、死体の状態は?」

「これです。 ……一体何件目なんでしょうかね?」

 

 照明はあるが気持ち仄暗い室内に、黒い身長大の袋が軒を並べているハンターベースが死体安置場(モルグ)において、エックスとアクセルは一般隊員の案内でレプリロイドの残骸を検めていた。

 

 彼らを一般の機械として定義するならスクラップ置き場と言うべきなのだろうが、台の上に並べられた残骸が規則正しく並べられるここは、レプリロイド間の心情も考慮した上で、やはり部屋の案内通りとするのが正しいのだろう。

 

 して、エックス達が眺める開かれた袋は2つ、姿を覗かせるレプリロイドはクラッグマンとホーガンマーの2体だった。 袋には発見場所と日付のタグが付いており、今朝方にさる高級住宅街にある空き家の玄関にて発見されたと書かれている。

 彼らが腰ほどの高さの台の上に寝かせられ、なるだけ発見当初の状態が維持されている。

 元々表情のないレプリロイドだが、死体は物語ると言った比喩がある通り、見るだけでも苦しみぬいた末に機能を停止したであろう光景が、脳裏に自然と浮かび上がってくる。

 

「あんまり気持ちのいいもんじゃないですがね、見て下さい……またなんですよ」

 

 一般隊員が顔をしかめながら、クラッグマンとホーガンマーを指さした。 ……股間に。

 

「……また出たの? 妖怪タマヨコセってのが」

 

 エックスが腕を組んで気難しそうにする中、アクセルはため息をついて呟いた。

 彼らが見下ろすクラッグマンとホーガンマーには、2人して同様に股間に穴が開いていた。 縁は焦げている。

 

 今世間を騒がせている妖怪タマヨコセ。 それはたとえ軽犯罪だろうとイレギュラーが、夜な夜な股間を狩られ無残な死体を晒すと、世間においてまことしやかに囁かれている噂話。

 ……実は彼らハンターからすれば噂でもなんでもなく、実際に股間を貫かれて昇天している事件が相次いで届けられており、厄介な事に犯人は未だに捕まっていない。

 

「頭部は無事なんだ。 メモリから直前の映像を再生できないのか?」

 

 エックスの問いかけに隊員が首を横に振る。

 

「それが出来ないんです。 物理的な損傷は見られませんが、データが全て破損してて空っぽになってるんです。 いじくった形跡も見られないのに、余程強いショックでも受けたんでしょうかね……?」

「タマを潰されただけに?」

 

 気落ちしている隊員に、乾いた笑いを浮かべてアクセルは冷やかしを入れる。 エックスはそんなアクセルを窘めた。

 

「こんな時に冗談を言うな。 大体股間を潰されて悶絶するのはゼロだけだろ?」

「そのゼロも潰れるタマはもうないんだけどね」

 

 アクセルはげんなりした表情で、ここにいない赤い『アイツ』の事を思い出す。

 

 あの後……ゼロがエックスに悪戯の報復を受け、ホタルニクス博士がきんた〇を開示した、思い返すだけでもおぞましい発表会。

 エックスの放った波動拳はゼロの股間をもぎ取り、その威力を前についには再生が利かなくなってしまったらしい。

 現にゼロは見るからに気落ちし、ふてぶてしいとさえ評される神経の図太ささえなりを潜め、全く自信を感じさせず呂律さえ回らない腑抜けた状態が続いている。

 

 言うなればゾンビと紙一重の状態になってしまうも、開発チームのダグラスとパレットはそんな彼の股間の修理を拒んでいるとの事。

 曰く、新型衛星の一件が逆鱗に触れたらしく、誠意をもって謝罪する……のは現状では望めそうにないので、最悪少し頭を冷やすまでは修理はお預けにするらしい。

 

 とは言え……。

 

「エックス、ちょっと」

 

 アクセルは悩むエックスの了承を得る事無く、肘を絡めて一緒に部屋の外に連れ出そうとする。

 一瞬抵抗しようとするエックスだったが、無言のアクセルの眼差しを前に何も言えず、渋々と部屋の外に連れ出されてしまう。

 

「どうしたアクセル、まだ話は終わってなかったんだぞ?」

 

 部屋の扉から出て、廊下を少し歩いた所で立ち止まり、アクセルに問いかけるエックス。

 不満げな顔をするエックスに、アクセルは振り返っては目を閉じ話を切り出した。

 

「もういいでしょエックス、ゼロの股間そろそろ直してあげようよ」

「駄目だ」

 

 バッサリと切り捨てる。

 

「アクセル、これはケジメなんだ。 大御所集まる中でパーティーぶち壊しにした上に、俺の事をブルマなんて言うから……!!」

 

 肩と握り拳を震わせながら歯ぎしりするエックス。 彼にしてみれば公衆の面前で辱めを受けた事に加え、一番気にしてる事を言われたのだから至極当然の怒りではあるのだが……。

 アクセルはまたもため息をつき、エックスの説得を試みる。

 

「ゼロってさ、最近『たま』って言葉を聞くと同じように呟くんだよね」

「潰されたから欲しがってるだろうしな!」

「夜な夜な出かけるんだってね」

「余計なものがなくなって仕事に精を出してるんだろうな!」

「それどころか情緒が不安定になってるみたいだけど?」

「あったものが無くなったんだから。 ま、多少はね!」

「……この間なんか何の罪も無いカップル襲撃しかけたけど? 僕必死になって止めたけど、何か言う事は!?」

「お疲れ様!!」

 

 

「っだああああああああああああああああああああッ!!!! そんなに意固地にならないでよもうッ!!」

 

 取り付く島もないエックスに、ついにアクセルの方がしびれを切らした。

 

「そりゃ散々馬鹿にされて腹立つのは分かるけど!! もうあれから何日経ったと思ってるの!? 第一ゼロが馬鹿なのはエックスが一番よく知ってるでしょ!?」

「でも嫌だ! アクセルもどうしてそこまでゼロのきん……もとい股間を直そうとするんだ!? まるで直さない事の方が困るって言ってるみたいじゃ――――」

「実際問題起きてるんだよ! まだ分かんない!?」

 

 一瞬特定のワードで言い淀みかけたエックスに、アクセルが詰め寄っては畳みかける。

 

「世間騒がせてる妖怪タマヨコセってゼロの事だよッ!! 実際止めに入ったの僕だから知ってるんだよ!?」

「むっ……それは、何の事だか分からない――」

「しらばっくれないで! わざわざネタばらしする程の事でもないでしょ!?」

 

 鼻息の荒いアクセルに問い詰められ、明らかに目を泳がせてしどろもどろになるエックス。

 

 アクセルが言う妖怪タマヨコセがゼロ……エックスはその言葉の意味が、実はしっかりと理解できていた。

 

 ゼロは気落ちの余り、ゾンビみたいになったと先程述べたが……もっと具体的に言うなら、土気色した生気のない表情でうわの空だが、文脈に『た』と『ま』が繋がればお構いなしに『たま』と返し、突発的に何らかのタガが外れると、たとえ同僚が相手でもゼットセイバーで股間を一突きにしようとする。

 加えて元々徹夜癖があったのが更に悪化しては文字通りの昼夜逆転生活を送り、イレギュラーだけならまだしも、些細な軽犯罪者や酷い場合には一般人にまで襲い掛かった事すらある。

 あまりに同じような死因が相次ぐので不審に思ったアクセルが後をつけ、夜間にいちゃついていたカップルの男性を襲撃した瞬間に出くわした時は、流石に肝を冷やしたのをアクセル自身ははっきりと記憶していた。

 あんな事を繰り返されたのでは、ゼロどころかイレギュラーハンター全体がお灸を据えられてしまう。

 

「……お願いだよ! あんなの見ちゃったからには無視する訳にもいかないんだよ!」

「う~む……」

 

 自身に落ち度はないにも拘らず、仲間の事情を知ったがばかりに振り回される事実に、アクセルはただ切実な思いをエックスにぶつけた。

 エックス自身も、タマを落としたゼロが結果的に余計問題を招いてると知っているだけに、気難しそうな顔をする。

 

「せめて本人の口から、一言でも『ごめん』と言ってくれれば――」

「お、いたいた! おーいエックス! アクセル!」

 

 そんな時であった。 廊下の向こうから聞きなれた同僚の声が2人の耳に入る。

 振り向くと、そこには緑の作業用アーマーに赤いゴーグルを身に着けたダグラスが、こちらに声をかけながら駆け寄ってきた。

 

 言い合いを止め、走ってくるダグラスを見ていると、ほんの1メートル近くまで駆けてくると、急に速度を緩めては両膝に手をついて息を荒げた。

 

「ど、どうしたのダグラス?」

 

 大慌てでやってきたであろう、開発部の主任の彼にしどろもどろに声をかけるアクセル。

 するとダグラスは呼吸を整える間もなくアクセルを見上げると、いきなりアクセルの両肩を掴んで強く揺すり始めたではないか!

 

「お前ら!? ゼロに何かしたか!? アイツがあんな事するなんて信じられねぇぞ!!」

「わぁっ! ちょ、ちょっといきなりなにすんのさ!?」

 

 早口でまくしたてながら、困惑するアクセルを押しては引き、頭を揺さぶられるアクセルが痛そうにしている。

 突然の事で呆気に取られていたエックスも、気を取り直してダグラス達の間に割って止める。

 

「落ち着いてくれダグラス! 一体何があったんだ!?」

 

 エックスの手に退けられたダグラスは、しかし興奮を抑えられないでいる。 どうやらただ事ではなさそうだ。

 

「そりゃこっちのセリフだ! 俺も何が起きてるのか分かんねぇよ!」

「もう……だから一体何が起きたっての!?」

「いきなり問い詰められても俺達には分からない、ちゃんと落ち着いて説明してくれ」

 

 主語さえ全く言わずに一方的に質問攻めに晒されたエックスとアクセルが、ダグラスにきちんとした説明を求めた。

 するとダグラスの口から、こんな話が飛び出した。

 

 

 

「ゼロにこの間のパーティーの件謝られたぞッ!?」

 

 

 

「「……は?」」

 

 エックスとアクセルは気の抜けたような声を上げ、数回瞬きする。

 そして互いに顔を見合わせるようにゆっくりと後ろを振り向き、明後日の方向をまじまじと眺めた後、同じような動きで再びダグラスを見た。

 

 ダグラスもエックス達の反応を見て黙り込んでしまい、しばし場が静まり返るも……アクセルが重い口を開く。

 

「あのさダグラス……ジョークはもうちょっと気を利かせて言うもんだと思うよ、ねぇ?」

 

 アクセルの同意を求める声に無言でうなずくエックス。 ダグラスははっとした様子で我に返ると、再び捲し立てるような態度でエックス達に言葉を投げかける。

 

「冗談で言ってねぇよ! ホントだ、ゼロの奴別人みたいになってるんだよ!」

「……にわかに信じがたいな」

 

 彼の態度から嘘を言っているようには思えない、が……エックス達はダグラスの言い分に素直に聞く気にはなれずにいた。

 特にエックスに至っては、非礼を詫びると見せかけて煽りを入れられる謝罪風挑発を受けているのだから、なおさらの事そう思わずにはいられない。

 

「っああもう!! そこまで疑うんだったら見てみろよ!!」

 

 ついにはダグラスが苛立ちまぎれに、エックス達との問答を強引に打ち切り、2人の後ろに回り込んでは両手でそれぞれの背中を強引に押し始める。

 

「お、おいダグラス!」

「いいから来い! 見れば俺の言いたい事は大体わかる!」

「なんなのもう……?」

 

 論より証拠、と言わんばかりに疑うエックスとアクセルを押して、来た道を戻るダグラス。

 廊下を半ば無理矢理歩かされては死体安置所から遠ざかる。 階段も登り、何階か階層を上がってはガラス張りで外のビル群が見える廊下を押し進められた。

 

 ――するとどうだろうか、行く道の先にあるオフィスルームの辺りから何やら喧騒が伝わってきた。

 ある程度近づいた辺りで、ダグラスは2人の背中から手を放す。

 

「よし、この辺でいいだろ……あとは自分達の目で確かめてくれ」

 

 ダグラスは身を翻し、エックス達に背を向けた。

 

「おいダグラス、どこへ行くんだ?」

「休憩してくる。 ……少し毒気にあてられた」

 

 エックス達が止める間も無く、ダグラスは振り返る事なく軽く手を上げると、来た廊下の反対側を疲れたような鈍い足取りで歩いて行った。 恐らくはこの先にある休憩スペースを目指すのだろう。

 取り残されたエックスとアクセルは少し不満げに首を傾げる。 呼びつけた本人が、自分達をおいてさっさと行ってしまうとはどういう了見かとも思ったが、近くのオフィス室から伝わって来る騒ぎのようなものも気がかりではあった。

 ダグラスはしきりにゼロの様子が変だと言っていたが、具体的にどのように変なのかは何も聞いていない。

 

「……一応確認はしておくか」

「だね」

 

 2人はオフィス室へと向かった。

 直ぐ近くと言うだけあって、歩いて1分もかからない。 扉は開かれており、中から何やら驚嘆の声が上がっているのが分かる。 ……同時に気になる点もあった。

 

「凄い、こんなにある仕事をもう終わらせちゃった!」

「やっぱりゼロさんはデスクワークも特A級なんですね! 素敵!」

「俺正直ゼロさん見くびってたかもしれねぇや!」

 

 ……聞こえてくる他の隊員達の声が、こぞって称賛の内容ばかりだと言う事だ。

 

「ゼロが、デスクワーク?」

「いつもバックレてるゼロが、しかも仕事が早い……そんなバカな」

 

 日頃の……特にここしばらくは死に体同然だったゼロが真面目にデスクワークに取り組むなど考えられない。

 本当にダグラスが言った通り、ゼロに何らかの異変が起きているのではないか? そう思わずにいられなかった2人は意を決してオフィス室に駆け込んだ。

 

 

 

 

 ――――そして驚愕する。

 

 

 

 

「その仕事まだ終わっていないんだろう? どれ、その書類を渡したまへ」

「え、ゼロさんでも……」

「いいんだ。 今まで仕事を押し付けてきたツケだ。 そのくらいの量ならわたしなら1分で片付く。 貸してくれ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 エックスとアクセルが目撃した光景、それは……爽やかな表情で優雅にキーボードを打っては書類を片付け、それどころか部下の書類まで率先して片付ける勤勉なゼロがいた。

 口調は恐ろしく丁寧で、彼らの知る普段のガサツな一面は全く見当たらない。

 

「ゼロさんカッコいい……」

「やっぱりイケメンはこうでなくっちゃ!」

「私アタックしちゃおうかしら!」 

 

 部屋の壁際でゼロに熱い眼差しを送る女性隊員達、皆一様に顔を赤らめては目を潤ませていた。

 

「……ゼロさん、コーヒーをお持ちしました」

 

 そんな彼女達をはじめ、部下からの尊敬と羨望の目線を一身に受けるゼロの元に、レイヤーが気恥ずかしそうにコーヒーを載せたトレイを持ってきた。

 おずおずと差し出だすと、ゼロははにかみながらそれを受け取った。

 

「ありがとう、君の一杯のコーヒーがわたしの励みになる」

 

 レイヤーは沸騰し、顔を真っ赤にしたままにやけ顔で、おぼつかない足取りでその場を立ち去った。

 

「フッ……さぁて、まだやり残した仕事がある。 ボクも遅れを取り返さなければ……!!」

 

 ゼロはコーヒーのマグカップを優しくに口に含み、側においては猛烈な勢いで仕事を再開した。

 

 

 

 

 エックスとアクセルはこの間、何かを言いたげにするも……ただ茫然と目の前の光景を眺めていた。

 

 2人の理解を超えた状況に、唇を震わせながら溜めに溜め込んだ感情が爆発する――――。

 

 

 

「「誰だお前(アンタ)はあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!????」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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