◎月♪日 蒸し暑い曇り
世間的には夏休みな今日この頃。
俺はと言うと、実家にも帰らずアリーナでIS操縦を行っていた。
それもこれも何もかも、夏休み初日に学園長から呼び出されたことの内容が原因だ。
詳細は面倒だから割愛するが、夏休み最終週に織斑とIS戦をすることになってしまった。
面倒臭いことこの上ない。何でこんなことになったんだ、全く。
と、文句タラタラなのだが決まったことだし。
そんで、今のままだと勝てる見込みが殆ど無いからこうして特訓中なのだ。
何せ相手は、ISに触れた時期こそ同じだが、すぐに専用機を得て密度の高い訓練を優先的に行う権利を持ち、つい最近専用機が
対して俺はと言えば、機体制御こそ一角の物だが、肝心の武装の扱いがまるで駄目。その上使用機体は量産機のラファールで、それも学園の訓練機だから
機体性能は完全に劣り、ISの稼働率を高める上で必要な適性値も負け。トドメに稼働率を底上げできる最適化もさせて貰えないとあっては、純粋な経験値……即ち搭乗時間で上回るしかない。
要するに、俺自身の技量で他の全てを補わなければならないのだ。無茶なこと言ってくれる。
機動関連なら負けはしないが、肝心の武装関連がダメダメなのに。
最近思ったのだが、俺は武器の展開だけでなく、武器の扱いそのものが致命的に不得手だ。
ライフルの命中率は2割、撃てば当たるようなマシンガンでも4割。
近接武器はまだマシではあるが、それでも要は素人剣法に過ぎないもの。
いっそ拳の強度を上げ、殴った方がいいのではないかと考える。
それなら展開必要ないし。
機体セッティングの面で、更識に意見を仰いでみた。
彼女の説明は、山田先生並に分かり易くて助かる。
◎月凹日 まーまー曇り
やべえ、独学じゃもうどうにもならん。
武装展開への所要時間が3秒切らない状態が延々続けば、流石にそれぐらい気付く。
しかし教授願おうにも山田先生は居ないし……居たとしても忙しいし。
どうしたもんか。まさかコーチが降って沸く訳も無い。
そんなことを思っていたら、突然後ろから話しかけられた。
振り向けば、そこに居たのは何時ぞやの更識(姉)だった。
どうも学園長辺りから、俺と織斑の試合の話を聞いたらしい。
だが、まさか更識の姉がこの学園の生徒会長だったとは。
これからは紛らわしいので、会長さんと呼ぼう。
会長さんが俺にISの稽古をつけてくれることとなった。
なんでも「お礼」とのことらしいが、俺この人に何かしただろうか?
記憶に無い。
そして訓練だが、2重の意味でヤバイ。
こう、キツさ的な意味でヤバイのと、自主練とは比べ物になんない効率の良さがヤバイ。
流石生徒会長、スパルタだが少なくとも織斑先生より教師に向いている。
ニコニコしながら平気でギリギリできそうなことをピンポイントで要求してくる辺り、Sだけど。
アリーナ使用時間が終わる頃には、疲労の余り肩で息をしていた。
だが少なくとも、実のある1日だった。
それに夏休みの間、時間ができたら訓練を見てくれるとのこと。
とてもありがたい。死ねるけどありがたい。
更識に、会長さんから訓練を見て貰ったと話す。
何故か気まずい空気になって、修正が大変だった。
◎月▽日 レッツ曇り
会長さんから武器の扱いを習う。
機動制御と違ってこっちにはこれっぱかしの才能も無い俺だが、少なくとも多少はマシになった。
山田先生でさえ匙を投げて「藤堂君は飛行技術を磨きましょう! ね、それがいいですって!」と言われた俺の射撃センスを矯正するとは……すごい人だなー。
アレだな、これは。更識が姉のことを敬遠している理由の一部が分かった気がする。
優秀過ぎるんだよこの人。こんなのが身内だったらそりゃあ肩身も狭くなるって。
分かりやすい欠点とか、そういうのがまるで無い万能タイプの天才ってのは、他よりも特に際立って見えるからな。会長さんはまさにそれだ。
更識の場合は、姉って色眼鏡もかかってるから現実よりも更にその格差が大きく見えているのだろう。自分じゃこの人に遠く及ばない、とか何とか。
ちなみに、一応確認はしておいたが。
うん。ISの整備技術とか、そっち方面は更識が上だった。明らかに。
つーかもう、俺からすれば更識だって十分以上な天才なんだけど。
彼女ダウナーだし。自己評価低そうだもんな。