◎月?日 曇り( ・´ー・`)
今日は会長さん忙しいらしく、居ないので1人訓練中。
あの人に課せられたメニューはこなしてるから、特に問題は無い。
銃火器を展開し、移動する標的に動きながら的当てする。
命中率は……3割前後か。動きながらじゃやはりこんなもんだ。
だが、3割。5発撃てば1発か2発は確実に当たる数字。
それなら十分な牽制になり、相手方もおいそれと直線的に間合いを詰めては来られない。
これが他の相手だったらもっと近接寄りの間合い調整が必要だが、遠距離用の武器が燃費の悪い荷電粒子砲ひとつなうえ、2回か3回斬られれば確実にシールドエネルギーが尽きる必殺の剣を持っている織斑相手なら、中距離を保つのが最も安全。
そうやってチマチマシールドを削れば、奴の戦闘ログから考えられる行動パターンとして絶対に強引な接近をしてくる。
そして、その接近こそが俺の狙い。
強引に間合いを詰めることは、確かに相手方に動揺を与え近接戦における絶対的な隙を作る。
が、予め予測さえしておけばなんてこと無い。無理矢理な接近は攻撃への初動が遅れ、カウンターを当てる絶好の機会となる。
機動技術に比べ余りにも戦闘技術がおざなりな俺は、そうでもしなければ確実には当てられない。
『コレ』だって決して乱発できる武器じゃないし、外せば隙が出来るのはこっちだ。
とにかく、必要なのは試合運びの組み立て。
相手をどう動かし、自分がどう動き、如何に思い通りの状況を作るか。
機体性能と戦闘技術、適性数値で劣る俺が勝つ為には、そうするしかない。
勝率は……恐らく4:6。
俺と奴じゃあマシンポテンシャルが違い過ぎる。これ以上差を詰めるのは、当日までにはほぼ不可能だった。
◎月☆日 雲量9
明後日だ。
思えば夏休み初日からこの1ヶ月近く、柄にも無く頑張ったと思う。
その努力が報われるか無駄に終わるかは、全て2日後にかかっている。
更識や会長さんには感謝だ。
2人の協力が無ければ、俺の勝率は今よりずっと低かったことだろう。
技術的な面では、会長さんに。
機体整備やセッティングの面では、更識に。
本当にありがたい助っ人だった。
彼女等には、今度お礼をしなければ。
何がいいだろうか。女性に対して何かするのは初めてだから、よく分からない。
……ああ、そうだ。あの2人が仲直りできるよう、協力するのも悪くないかも知れない。
余り他人の家の事情に干渉するのはよろしくないが、どちらも俺の数少ない友人だ。
友人同士の仲違いを解すのに、遠慮するのも却っておかしいだろう。
考えて、おこう。
◎月○日 雨の降りそうな曇り
明日に備え、今日は軽いウォームアップだけに留めておく。
コンディションは悪くない、寧ろ良い。機体の方も、当日使うラファールの整備は更識印のお墨付きだ。
やることも特に無くなったから、織斑の所にでも挨拶に行こうかと思う。
戦う前に探りを入れる。それによって、明日の戦いに際する最終的な試合構成の調整をしておこう。
学生寮の1025号室前。
そこで誰かが話をしていた。
片方は、織斑。
そしてもう片方は……会長さん?
…………。
2人の会話の内容は、聞かなかったことにしておく。
ただ、ひとつだけ……――
――少し、傷付いた。
◎月*日 雨
負けた。
勝てなかった。
想定外なスラスターの破損とか、武装の故障とか。
理由を並べ立てれば幾らか挙げられるが。
とにかく、勝てなかった。
手伝ってくれた更識には、悪いことをした。
折角自分の専用機を組み立てる時間を削ってまで、助力してくれたと言うのに。
会長さんにも、申し訳ない。
あの人はあの人なりに、俺を助けようとしてくれたんだろう。
知ってしまったんだろう。俺と織斑が、どうして試合などすることになったのか。
何時知ったのかは憶測だが、多分試合の前日。
だから織斑に、あんなことを言っていたんだと思う。
ともあれ、これでお仕舞い。
ベストを尽くした結果だ、悔いは無い……と言えば嘘になるが、仕方ない。
日記をつけるのも、これで最後になる。
俺はもう、