4月○日 晴れてるけど曇り その2
休み時間になったので、織斑にでも話しかけようかと思ったら、クラスメイトの目付きがキツいポニテ少女に連行されてしまっていた。
お陰で女子の視線が俺に。おまけに休み時間なもんだから、他クラスからまでも。
最高に居心地の悪い10分間だった。
始業ベルが鳴ったことをあんなにも嬉しく思ったのなど、恐らく3代分前世まで遡っても初だ。
そして、授業。
これがむずい。超むずい。
正直、ついて行くのがやっとなんですけど。
しかもそれだって、あの鈍器レベルの参考書を25回読み直すと言う地獄の苦行に数えてもいいような行いのがあったからだ。
事前学習してなければ、とてもじゃないが全く理解できん。
な・の・に。
織斑ときたら、なんと参考書を古い電話帳と間違えて捨ててしまったと。
んなもんそりゃ、授業内容理解できないのも自明の理だって。
や、気持ちは分かるよ。
俺だって、何度アレを谷底に放り捨てようと思ったことか。
しかしまーそれを本気で実行に移すとは、彼も中々に侮れない。
そして担任のお言葉は、強烈な出席簿アタックからの「再発行するから1週間で覚えろ」とのこと。
優し過ぎて涙が出る。あの量をたった7日間でどうにかしろとか、いくら織斑の自業自得とは言え無茶振りにも程がある。俺だって調査日の都合で事前学習に充てられた時間は大分短かったが、それでも1ヶ月はあったし。けどまだ参考書の6割程度しか理解してないぞ。なのに7日でどうしろと。
同じ男子ってことで俺が見てやれとも振られたが、生憎俺だって一杯一杯なのである。他人の面倒まで見られる余裕は無いのである。
だから素直に辞退させて貰った。織斑の方は、見捨てられたーみたいな顔してたけど。
最初の授業後半は、そんな織斑に端を発した織斑先生からのお説教的なことで終わった。
10分の休み時間がとても有難い。授業内容が難し過ぎて、休憩しないと頭がパンクしそうだ。
ついでに織斑に今度こそ話しかけようか、とか考えていたら、今度は彼さっきとは別の女子に絡まれてた。
こう、金髪巻き毛で、オーホホホとか笑いそうな感じの女子。最初のサムライガール的な子とはタイプが全く違う。
あれか、やはりモテる男は違うのか。俺も高望みはしないが、在学中に彼女くらい欲しいもんだ。
そんなことを思っていた訳だが、どうにも雲行きがおかしかった。織斑に話しかけたパツキン女子……名前分かんないから、お蝶夫人(仮)とでも呼んでおくことにする。
聞き耳を立てるまでもない大声で、織斑に色々と捲くし立てるお蝶夫人(仮)――名前の辺りよく聞こえなかった――の姿は、何と言うか『今時の女子』だった。
女尊男卑。ISが世に台頭して以来、瞬く間に広がった風潮である。
ISは最強の兵器で。
ISは女性にしか操れなくて。
なので女性は偉い。
そんな連想ゲームみたいなノリで、この10年女性の権力は増大化の一途を辿っているのだ。
政治家だの会社の重役だのは9割方が女性。芸能人なんかだって、圧倒的に女性の方が多くなった。
それだけじゃない。町を歩いていれば、ただ女だと言うだけで見知らぬ男をパシリにする女性もよく見かける。
俺としてはそれも時代の流れだと思っているが、それだけに向こうとしては織斑……ああ俺も含むのか、男性のIS適性者が気に食わないらしい。
前で行われている会話を聞くに、織斑は『代表候補生』って単語も知らないほど素人さんみたいだし。
だが奴さんだってなるつもりで男性適性者になった訳じゃないのだから、多少の無知は笑って見逃してもいいと思う。
やがて始業のベルが鳴り、お蝶夫人(仮)――イギリスの代表候補生ってことだけ分かった――は、捨て台詞を残して席に戻って行く。
俺は彼女の肩を怒らせた後姿から、多分またひと悶着あるんだろうなぁ……と、そんなことを半ば他人事のように思っていた。
余り頼りになることのない俺の勘だが、今回ばかりは違ったらしい。
2限目の授業が始まり、織斑先生が授業の前にクラス代表を決定すると言って。
自薦他薦問わずとのことだったので、当然女生徒達は物珍しい男性適性者である織斑と、ついでに俺を推薦して。
それに対してさっきのお蝶夫人(仮)――やっと名前が判明、セシリア・オルコットと言うらしい――が猛抗議。
クラス代表は学級1の実力者、つまり自分がなるべきだとか。
私はこの極東の島国にサーカス見物しに来たわけじゃないとか、男なんぞに代表は任せられないとか。
まあ色々と悪口のオンパレードを立て板に水で語った訳だ。
愛国心や会って間もない奴の罵詈雑言で傷付くプライドなんて胡麻粒ひとつ分も持ち合わせていない俺は、カッカする理由もないしそれをぽへっと聞いていたのだが。
どうにも織斑はその発言が気に食わなかったらしく、言い返した。
そこからはもう売り言葉に買い言葉。終いには『決闘だ!』なんて時代錯誤なことまで言い出して。
最終的には織斑先生の取り成しで、一週間後にIS戦でカタをつけることになったのだ。
織斑と、オルコットと。
……何故か俺も。