IS 彼の日記帳   作:カーテンコール

34 / 59
小話集

 

 

 

 

 

 

 

 

『藤堂隆景の1日』

 

 

 

 

 

 朝。6時頃に大体起きる。

 

 

「…………」

 

 

 割と寝起きがよろしくないので、30分ぐらいは半身を起こしたままじっとしている。

 目が覚める前後くらいに、簪起床。

 

 

「ふわ……おはよう、隆景……」

「…………(コクッ)」

 

 

 そして恒例の朝の握手(?)。

 最近は慣れたもので、隆景の方からそっと手を差し出している。

 

 

「……ふふ」

 

 

 差し出された左手を両の手できゅっと握る彼女の表情は、柔らかく笑んでいて。

 まさに、愛しい男へ向けるそれであった。

 

 

 

 

 

 午前の授業。

 教鞭を執る真耶の授業を聞く隆景の態度は、真剣そのもの。

 

 

「なので、この文の接続詞は――」

 

 

 ガリガリガリガリ。

 存外筆圧の強い彼がノートを取ると、ペンの音が荒々しい。

 外見は全くの無表情であるギャップから、周囲の生徒も最初こそ何か不機嫌なのかとびくびくしていたが、今ではもう慣れっこになっている。

 

 

 

 

 

 昼休み。

 自炊スキルゼロ(実は掃除も洗濯もできない)な彼は弁当など当然作れないので、学食が主であるが。

 

 

「……うまい」

「あ、ありがとう……良かった……」

 

 

 最近は簪や楯無が作ってくれたりすることもしばしばあったりする。

 極度の偏食家である隆景に食事を作るのは困難だが、お陰で楯無は元より簪の料理スキルも飛躍的に上昇していた。

 

 ちなみに味付けだが、隆景は楯無の濃くも薄くもない絶妙なバランスのそれより、若干薄味な簪の方が好きだったりする。

 惚れた相手の作る料理を、必ずしも1番好む訳ではないのである。

 まあたとえ全く口に合わなくとも、楯無の作る料理を残しはしないが。

 

 

 

 

 

 午後の授業。

 基本的に実技が主となる午後は、ここのところは専用機持ちと一般生徒で分かれてメニューをこなすことが多くなっている。

 しかしながら、ロシアの代表候補生である隆景は、グループとしては専用機持ち側に分けられていて。

 

 

「てやぁっ! せっ! はぁっ!!」

「…………」

 

 

 実体剣状態の雪片で、ラファールを纏う隆景へと斬り込む一夏。

 だがそのほぼ全てを身体の制動だけでかわされ、偶に芯を捉えた攻撃はシールドで防御される。

 

 

「……アレが……こう、傾いて」

「へ? いや、ちょっと分からねーんだけど!? 指をちょいちょいされても、何のことだ!?」

 

 

 擬音で説明する為、さっぱり意味が分からない箒。

 『ノリで』とか『感覚よ』とか、そも説明になっていない鈴。

 説明が具体的過ぎて、感覚派の一夏とはギアの噛み合わないセシリア。

 

 そして、言葉足らずで何が言いたいのか理解できない隆景。

 自分の周囲にしっかりレクチャーできる者が教師以外ではシャルロット、ラウラ、楯無しかいない彼だが、それでも『ある条件』の下では隆景の説明は結構分かりやすい。

 その条件とは。

 

 

「織斑君、つまり藤堂君は「剣を振る際に身体の芯が徐々に傾いて、追撃が出し難くなる傾向がある。PICとスラスターを併用した姿勢制御を戦いの時でも心がけるようにしろ」と言ってますよ」

「何で分かるんですか山田先生!?」

 

 

 彼としっかりコミュニケーションの取れる者が間に立てば、である。

 

 

 

 

 

 放課後。

 簪の専用機『打鉄弐式』が武装以外最終調整段階に入り、大して手伝えることの無い彼は、真耶の指導や楯無含む一夏達との合同訓練をしたりしている。

 武装は正直門外漢で、こうした実戦データを持っていく位しか出来ないのだ。

 

 

「…………(スッ、ちょいちょい)」

「だから手振りじゃ分かんねえって!?」

 

 

 怒鳴ったり怒ったり逆ギレしたりしない分、箒達よりはやり易かったが。

 それでも伝えようとしていることは、2割も分からないのであった。

 

 

 更に。

 

 

「あー、うんうん。そうよね、私もそう思ってたのよ」

「ええ……それと……(くいっ)」

「いいわね。じゃあそれでやってみましょうか!」

「わざとやってます? ねえ、藤堂も楯無さんもわざとやってます!?」

 

 

 楯無の場合だと、内輪話に発展することが大半なので、結局分からないままだったりする。

 

 

 

 

 

 夜。

 就寝前のひと時は、予習復習に資料閲覧と中々やることが多い。

 そして今日は。

 

 

「……作画が、いいな」

「うん……戦闘シーンも迫力がある……」

 

 

 2人して、ロボットアニメを見ていた。

 簪は勿論のこと、隆景も何気に影響されたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『機動技術研究 スペイン代表ミー』

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

『ハーイ! ブエナス・タルデス! こんにちは!』

 

 

 たゆんっ

 

 

「……凄い専用機だな」

 

 

 スペイン代表IS操縦者、ミー。

 専用機の名は、『ダンスマカブル』。

 爪のような手甲と金属のブーツ、三角帽子の形をした頭部装甲。

 その他胸部と腰部を僅かに覆う以外装甲を持たない、軽量の機体。

 更にスラスターは小型が2機のみと機動力も低く、一見か弱そうに見える。

 

 しかし、それは誤り。

 この専用機は容量の大半をエネルギーに注がれており、凄まじいパワーを誇る第3世代機。

 主武装として扱う巨斧の威力は、近接武器でも最強クラス。

 

 瞬く間に削られる、対戦相手のシールドエネルギー。

 それに彼女は先程から、間合いを一切離していない。

 相手側も当然近接攻撃で対応してくるのに、それらを全て身体のこなしだけで回避していた。

 

 

『昂ぶるわぁ……壊れちゃダメよ?』

 

 

 たゆんっ

 

 

「……ッ」(巨大な武器を扱っているにも拘らず、全く崩れない姿勢制御と近接回避技術に見入っている)

 

 

 思わず隆景が、ディスプレイに食い付くと。

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

 

 

 何故か冷たい視線を感じ、振り向けば。

 ジト目の簪と楯無が、そこに居た。

 

 

「また……スペインの人の、見てる……やっぱり、胸……?」

「責めちゃ駄目よ、簪ちゃん。隆景君だって男の子なんだから」

 

 

 何やら誤解を受けていた。

 流石に心外なので、ふるふると首を振って隆景が否定する。

 

 

「……胸は、特に……どちらかと言うと……腰を」

 

 

 『腰フェチ』のレッテルを剥がすのに、殆どひと晩使った隆景であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほとんど出落ち』

 

 

 

 

 

「藤堂隆景さんは居ますか!」

 

 

 キャノンボール・ファストの近付いたある日、1組をある女生徒が訪ねてきた。

 彼女は他の者には目もくれずに、ディスプレイを操作しパッケージのエネルギー分配を思案していた隆景の前に立った。

 

 

「…………?」

 

 

 視界に影が差して、前を見る。

 するとそこには、長い金髪をツインテールに括った、赤い瞳の少女が。

 

 

「こんにちは。私は7組のフェイト・テスタロッサです。今日はどちらが学年最速かを決める、その宣戦布告に来ました」

「…………」

 

 

 それは暗に、速さにおいては他の専用機持ちなど歯牙にもかけないという自信の表れ。

 隆景はしばしの間、じっと彼女の顔を見ていたが。

 

 

「……出落ち」

「え?」

「世界観を崩すな。ミッドチルダに帰れ。何で制服を黒に染めて、しかも秋だと言うのに袖が無いんだ」

 

 

 ぐさ、ぐさ、ぐさ。

 彼にしては珍しい容赦の無い口撃が、テスタロッサの胸を貫く。

 何よりもまず、制服のデザインがいただけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 キャノンボール・ファスト編は出落ちが多くなりそう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。