♪月_日 キング・クリムゾン! 『晴れ』という過程を消し去り、『曇り』という結果を残す!
やって来ましたキャノンボール・ファスト。
アリーナは超満員の大盛況だ。各国のIS関係者や政府関係者も、当然集まっている。
ロシアの役人さんも来てた。1年の部と専用機部門での優勝はロシアがいただきだと、悪役笑いしてむせてた。
慣れないことやったんだと思う。
あとついでに。
実はこのレース、本来は2、3年だけで学年別に行われるものだったらしい。
けれど今年はやたらと学生に専用機持ちが多いことから専用機部門が急遽作られ、俺やテスタロッサなど一部の1年に頭ひとつもふたつも抜き出た者が散在していたことから、同じく1年の部も設立。
例年よりも規模のでかい、一大イベントになったという訳だ。
さて、最初のプログラムは1年の部。
つまり初っ端から出番だった。
ラファールに『アフターバーナー』を装着、待機する俺の元に、会長さんや簪、山田先生に織斑達が集まって、激励を飛ばしてくれる。
ま、仲間内でこれに出るのは俺だけだし。織斑先生まで来てくれたのは正直意外だったが。
そしてレース開始。
感想としては、そうだな……上位陣が結託して、まず俺とテスタロッサを総掛りで潰しに来やがった!
古武道の達人である四楓院は、巧みな高機動制御で絶え間なく拳と脚を飛ばしてきて。
機動特化でこそないが、オールマイティに技能の高いヴィルヘルミナ――こいつの場合逆に苗字を知らん――が、何を考えているのか10本のワイヤーブレードで全方位から攻撃を仕掛け。
やはり睨んだ通り頭角を現した鷹月とハミルトンが、中々のテクで援護射撃をかます。
特にワイヤーブレードは死ぬかと思った。機動技術が如何に高かろうと、それが回避に直結するってわけでもないのだ。
お陰で開始早々エアリアル・ワルツを使う羽目になり、エネルギーを大分無駄に消耗した。
だがしかし! 四楓院の格闘技術はまだ会長さんには及ばず! 拳に蹴りを当てて弾き返し、隙ができた所を吹き飛ばす。
うん。実は俺、銃も近接武器も苦手だけど蹴りは結構得意だったりする。生身でも回し蹴りとか超得意、密かなあだ名が『IS学園のジャン=クロード・ヴァン・ダム』だ。
続いてアフターバーナーの超加速を利用し、アサルトライフルを構える鷹月を撃破。同時にテスタロッサが、ハミルトンを撃破。
ヴィルヘルミナは厄介なので放っておく。あいつのワイヤー操作はホントに一般生徒かと思えるほどの練度だが、特化型の俺やテスタロッサに追いつけるほどの機動技術はない。
更に装備パッケージの差もある。アフターバーナーで一気に引き離し、ワイヤーの射程圏外に出た。
残る敵はテスタロッサのみ。奴の装備パッケージは機動特化仕様の『サウンド・レイト』、流石にすぐには引き剥がせない。
ついでにこいつには、俺と違い戦闘技能もある。奴は主武装の実体大鎌、『ノワール・サイズ』でこちらに幾度も斬りかかった。
…………ええい、仕方ない。こうなったら奥の手だ!
横薙ぎの回し蹴りで鎌の側面を弾き、巧みな連撃に決定的な空白を生ませる。
1秒邪魔が入らなければ……――!!
成功するかどうかは少々賭けだったが、上手く行った。
今まで感じたことが無いほどのGを帯びた、急激な加速。
設計想定外の圧がかかっているからか、ラファールが悲鳴を上げる。
だが……それももう終わりだ。
ゴールイン。俺の前には誰も居ない。
湧き上がる歓声。アリーナの空間ディスプレイに、俺の姿とタイムレコードが表示される。
数秒遅れて到着するテスタロッサ、続いてゴールするヴィルヘルミナ。
手強いライバル達を押し退け、俺は見事に勝利を手にしたのだ。
セッティングを手伝ってくれてありがとう、簪。
パッケージ装備時の操縦指導をありがとう、会長さんに山田先生。
そして……テスタロッサにも礼を言っておこう。
速さで俺に並ぶ者の存在で、俺はまたひとつ自由に飛べる翼を得た。
これでロシアの役人さんにも面目が立つってもんだ。
また悪人笑いしてむせてる。やり慣れないならやらなきゃいいのに。
……まあ、ここまでは良かったんだが。
俺と簪が無茶な加速でぐずったラファールの修理をしている最中、専用機部門のレース中に例のなんちゃらタスクの襲撃があったらしく。
せっかくのレースは、中断になってしまった。
トロフィーは貰ったけど、少し気まずいんだが。
なんか浮かれてるみたいで。いやいや実際浮かれてたけど。
けど会長さんが笑顔で褒めてくれたので、そんなもんどうでも良くなった。
次回より原作7巻に。
簪、真耶同様に楯無の心情は、7巻部分後半で書かせて頂きます。