$月#日 シェンローン! 今日曇りにしてくれー!
キャノンボール・ファストでの優勝からしばし。
中断されたとは言え、専用機部門以外のプログラムは消化されていた訳で。
1年の部で優勝した俺の活躍は、新聞やテレビなどでも報道され、今まで以上に顔と名が知られてしまった。
ここのところは織斑以上に騒がれている気がする。
休日に街を歩くのも難しくなってきた。アイドルでもあるまいに、何故変装なんてしなきゃならないのだ。
ついでに日本政府は今更のように、俺が日本人ってことで帰属の権利をロシアに主張しだしたらしいが……本当に今更だな。
だが残念なことに、俺は既にロシア国籍なのだ。それと会長さんが色々根回ししてくれたらしく、バラバラになってた家族も今はロシアで一緒に暮らしている。
住み慣れた土地を離れさせて申し訳ないと思ったが、両親はロシア料理が気に入ったらしく永住すると言い張り、兄貴に至ってはロシアの美女を口説いて回る日々に忙しいとのこと。
親はともかく、兄貴は殴っとこう。前に会長さんを紹介してくれとうるさかったし。
それに知ってるんだぞ俺。俺の研究所送りで加盟国から採決取った時、
つーか、反対したのはロシアとスペインとアメリカの3国だけだったよ。
人道ってもんがねーのかオイ。
ちなみにロシアが俺をすんなり代表候補にできたのは、その採決で反対してたのが大きかったらしい。
そうだ、ロシアと言えばそろそろなのだ。
いよいよ俺の専用機である『
当初の予想よりかなり早いっちゃ早いけど。確実に来年以降だと思ってたもん、俺。
ついては機体の最終テストと受領の為、しばしロシアまで行かなければならない。
向こうでの滞在期間とか考えると……専用機持ちタッグマッチにはギリで間に合わん。
中々イベントに参加できないぜ。間に合ったら間に合ったで、専用機での訓練準備期間無くて困るんだが。
武装が特殊過ぎて、使用に相当の慣れが要りそうなんだよな……それに俺、イメージ・インターフェースの使用訓練1回もしてないんだよ。
本国の方でそれを短期集中コースメニュー組んで貰ったとして……あー、マジでギリ間に合わん。
タッグマッチは無理だな。今回からは、せっかく簪も参加できそうだってのに。
『打鉄弐式』だが、遂に武装含め完成したのだ。
マルチロックオン・ミサイルは単一ロックシステムを代用せざるを得ないのだが、それ以外はパーフェクト。
特にスラスターの出来は神だ。前作である打鉄とはまるで違った機体性能に皆も驚くことだろう。
……ん? でも俺が間に合わなくて丁度いいのか?
確か専用機持ちは3年に1人の2年に2人、1年に俺含めると8人で11人。
タッグマッチだと1人余る。俺が欠けてるのはある意味好都合か。
会長さんと組みたかったんだが。ほら、ロシアコンビで。
そもそも戦闘型じゃねーからな俺。誰と組んでも大して変わらん。
しかし俺が出られないとなると、やっぱ簪と組むのは会長さんか?
織斑なんかは苦労しそうだよな……誰と組んでも地獄なんだからよ。
$月%日 曇ればどうということはない
…………さて、どうなってるんだ一体。
専用機持ちタッグマッチのタッグ申請が出揃ったと聞いたから、どんな組み合わせになったのかなーと興味本位で織斑先生に聞いてみれば。
まずダリル・ケイシーとフォルテ・サファイア。
……誰?
次にお蝶夫人とミニ子。
妥当と言えば妥当だと思う。
オスカルは、柳生ちゃんことボーデヴィッヒと。
こいつらもまあ、相性はいいし。
だから俺はてっきり、織斑はサムライガールと組んだのかーと思ってたんだが。
最後の2組が、予想外にも程がある。
『織斑一夏&更識簪』
『篠ノ之箒&更識楯無』
何が起きればこんなシャッフルユニットが発生するんだ。
サムライガールに会長さんはともかく……織斑と簪って、俺には上手く行く様子が見えないんだが。
なんにせよ事情を聴くべく、会長さんの所に。
ひと仕事やってやったぜって顔をしてたこの人に、仔細を尋ねた。
なんでも、簪の織斑に対する恨みを解そうとした試みらしい。
あと友達作りのきっかけ。
簪はかなり渋ったらしいが、姉のお願い攻撃をかわしきれずこれを承諾。
今も渋々合同訓練しているのだとか。
彼女としても、自分の恨みが逆恨みだと分かっているからだろう。
俺としても自分が原因で簪に人を恨んで欲しくは無かったし、これを機にせめて普通の会話ぐらいはできる仲になってくれればと思う。
……部屋に戻ったら、すっごく不機嫌そうにキーボード叩いてたけど。
$月*日 俺が曇り? 俺がcloudy!?
ストレスの溜まってるらしい簪がヤバい。
目が据わってたのでほっぺをコネコネしておく。
柔らかいなオイ。
できることなら織斑と簪が友達ぐらいにはなれるようフォローして回りたかったんだが、生憎と俺は明日からロシアに行かなければならない。
機体の受領とか起動テストとかその他諸々の都合で。
……いや、寧ろ俺が居ない方がいいかも知れん。
俺の後ろに隠れて織斑に呪詛の視線を送る簪を見ながら、そう思った。