$月▲日 無礼者。
織斑が俺に連絡してきた。
なんでも4メートル50まで距離が縮んだらしい。奴さんの声には、達成感が溢れていた。
だから誤差だって。会長さんの目論見、絶対上手く行かないって。
さて、武装の扱いにもだいぶ慣れた。てか、やっぱり通常の武器への適性が低い俺だと、寧ろ特殊兵装の方が上手く扱える気がする。
つっても良し悪しだけど。並列思考苦手だから、お蝶夫人のビットとか絶対使えないだろうし。
ビット……アレはヤバかった……今ならかわせるだろうが、初戦でアレは本当に無理ゲーだった。
……全包囲攻撃ってフレーズが引き金になって、ヴィルヘルミナの10本同時ワイヤーブレード攻撃のことまで思い出してしまった。
あれこそ悪夢だ。逃げ道全部塞いでくるんだもん、俺に蹴りが無かったら雁字搦めにされてたよ。
近距離の的を『纏った』回し蹴りで薙ぎ倒し、離れた位置には『飛ばして』対応する。
んむ、飛ばす際にも殆ど散らなくなった。ここ数日の成果だな。
狙いは少し甘いが……俺にしてみりゃ上出来か。
テストとデータ取りも今日でほぼ終了。あと2、3日したら、学園に帰る手筈だ。
何だかんだと2週間近くはこっちに居たからな……授業内容は山田先生に連絡して教えて貰ってはいるが、やはり不安だ。
少し予定を詰めて、専用機持ちタッグマッチの当日に帰ることにしよう。
もしかすれば、イベント終了後にエキシビジョンで誰かと試合させて貰えるかもだし。
そうだな。個人的には負けっ放しなお蝶夫人か、オスカルと戦らせて欲しいもんだ。
戦闘で勝てるかどうかは正直自信ないが、
どうにも俺、戦うの得意じゃないからなー。
聞いた話によると、アミエーラお嬢さんも来年からIS学園に通うらしい。
つか、俺の1コ下だったのか。大変立派な物をお持ちだったから、てっきり同い年か年上かと。
流石世界に轟く巨乳大国。15でコレとは恐れ入る。
別に巨乳が特別好きって訳でもないけどね、俺。
$月~日 藤堂隆景が命じる……曇れ!
明日帰る。
そう簪に連絡したら、電話の向こうで泣かれた。
最近は禁断症状が進行して、手の震えが全く止まらなかったらしい。
……ずっとスルーしてたんだが、禁断症状って何?
織斑とのことも聞こうとしたんだけど、名前を出した瞬間声が1オクターブ低くなったので、それで全てを理解し聞くことを断念。
会長さんの『簪ちゃんに友達を作って貰おう』計画は、そもそものターゲット選択が悪過ぎた為に失敗に終わりそうだ。
こればかりは簪の自由意志でもあるし、俺からは何も言えません。
アミエーラ氏は俺が発つことを惜しんでくれた。
だから何でこの人、俺のことやたら気に入ってるんだろう。
『完全個別稼動スラスター』に、例の武装。
専用機には虎の子の最新鋭技術を2つも導入して貰って、データが欲しいにしても随分な大盤振る舞いだ。
貰えるもんは、貰っとくけどさ……。
あとついでだから、アミエーラお嬢さんに聞いてみた。
その服寒くないのかって。
屋内着だから平気とのこと。そう言えば外出時は、普通に厚着してたな。
……え、じゃあ何で室内だと
女の服装センスは良く分からん……。
にしても、兄貴もいい加減しつこい奴だな。
すっかり俺の後ろに隠れるのが常套手段と化してしまった。
簪を思い出す。
電話連絡すると、会長さんが凹んでた。
ま、こうなることは薄々感じてたが。
だってこの人、妹のことになると大概やること裏目に出るんだもの。
そーゆートコが、凄く可愛い。
$月※日 曇りで、いいよ……曇りらしいやり方で、話を聞いて貰うから……。
学園に帰る当日。
親父とお袋、見送りに来いや!
空港で見送ってくれたのは、アミエーラ氏とお嬢さん、あと兄貴に甘ボイス担当官。
……兄貴は絶対に、お嬢さんが来てなかったら来なかったな。
そんで、甘ボイスな担当官さんだが……名前、なんだったっけ。
確かこう……篠ノ之束も吹けば飛ぶような、超極悪ラスボスキャラみたいな名前だった気が……。
ええと……せ、せっしょ……あ、殺生院!
そうだ思い出した、殺生院キアラ特殊兵装開発技術部長だ。
何でこの人、技術官やってるんだろう。
彼女のさじ加減ひとつで世界終わりそうな気がするのって、俺だけ?
え、「苦も楽も同じこと、命の色でございます」?
説法は間に合ってます。この人とは3歩ほど退いた距離で付き合うべきだと思う。
のめり込んだら骨まで
兄貴は大丈夫なのか? いいよ、
アミエーラお嬢さんからは、また来てくださいとのひと言。
たぶん次は冬休みになると思うが。
ともあれ、無事日本へ帰還。
途中でハイジャックされかけたが、部分展開すればエネルギーシールドが発生するから銃など効かん。
空港からタクシー呼んで、学園近くのモノレール駅まで行こうとして。
突然。携帯に連絡があった。
山田先生が慌てた声で、俺の現在位置を聞いてくる。
そして、学園の状況を告げられた。
謎のISから、襲撃を受けていると――